第十四話 思い遣る気持ち、
ぱたんっ
犬夜叉を送り出してすぐ・・・かごめは、クリーム色の耐水性のフードの入った紙袋だけを片手に出かけた。
多分、持っているのはそれと、ほんの一つの駅を越えられるかどうか程度の電車賃だけ。
(勝手に持ってきちゃった・・・返す当ても無いくせに・・・・)
存外、呑気な事を考える自分に、かごめは自然と笑いが込み上げた。
だがそれから先は成るべく上を向き、駅に向かって歩き出した。笑いと同時に込み上げそうになったものに、自身さえ気付かない振りをして。
だが、そう云うときに限って、中々上手くいかないものだ。
「かごめちゃーん!何処か行くのー?」
目敏く自分を見つけてしまったらしい珊瑚は、通り越しに手を振って挨拶してきた。
「うん!ちょっと用事があってさぁっ」
自分のいつもらしくを努めて、かごめは明るく手を振りかえした。
少し不自然さがあったかとかごめは不安に思ったが、距離も結構ある場所に居たお陰で、幸い怪しまれなかったようだ。
いってらっしゃい!と明るく云うと、後ろに居たらしい『誰か』に『何か』されて、いきなり口喧嘩を始めた。
かごめはそんな様子を微笑を浮かべ、遠くながらも傍観していたが、ふっと、思い出したように歩を進め始めた。
まだその時は誰も知らなかった。
かごめの思いつめていた気持ち。決意。その想いを・・・・・
「かごめ、知らねぇか?」
そう、珊瑚の家を訪ねた犬夜叉が来た時、時計は既に十一時をとっくに過ぎて、もう少しで日付が変わる頃だった。
「・・・・・・・・・は?」
一瞬間を置いて、彼女は自身でも思う程間の抜けた声を上げてしまった。
別に眠っていたわけでもないから眠りを妨げられた訳でもないのに、珊瑚は聞き違いかと、彼の言葉を疑った。
対する彼の方は見当違いだったかと軽く歯噛みして「知らねぇなら別にいい」と、踵を返そうとして・・・寸でで彼女に服の裾を引っ張られ、
また元の位置に戻ってしまった。面倒くさそうに溜息を吐き、額を抑えると犬夜叉は
「悪ぃけど、こっちは急いでんだよ。放せ」
少々機嫌悪そうに云った。だが珊瑚だってそんな場合ではない。
「・・・・・何で?」
「急いでるっつってるだろ」
「かごめちゃんに何したのさ。」
尚も問い詰めを止めない珊瑚に軽く舌打ちして、犬夜叉は無理に彼女を引き離した。
だが根が律儀な所為か、そのまま其処に留まると関係ねぇだろ、と返した。
「関係・・・無くない・・・。かごめちゃんは、あたしの親友でもあるんだからっ・・・・・」
怒りとも知れない震えを堪えながら、珊瑚は下を向いたまま云った。そして続ける。
「今日・・・・昼前頃、かごめちゃん、特に何も持たずに駅の方に行ってた・・・・」
「!」
「手提げ袋に服か何かが入ってたみたいだったから、あんたの忘れ物でも届けに行ったのかと思ってた・・・・」
ぐっ・・・と拳から血の気が薄れる程握り、苦しそうに一言一言搾り出した。
「何処に行ったかまでは解らないけどさ・・・それよりもどうしてこんな真夜中までかごめちゃんが居ない事、気付けなかったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙り込む犬夜叉に、珊瑚は嘲笑うように彼を鼻で笑い飛ばした。
「『気付けなかった』・・・・。かごめちゃんが、あんたが自分の為に遅くまで無理してるって思ってる。
それは・・・・知らなかっただろうね。知ってたらバイト止めてでもあの子の傍に居そうだもんね。あんたは」
言い返す言葉も無く、犬夜叉は唇を噛んだ。
「あんたなりにも考えあっての事だろうけどさ。もうちょっとかごめちゃんを『飼い猫』扱いするのはやめてあげなよ。
あの子だって人間。ご飯さえあげてればずっと傍に居てくれるなんて事ない。特にかごめちゃんはそう。
誰よりもアンタの事心配して、力になろうとして、重荷にならないように気をつけて・・・・・・・」
「態度にだけ注意をおいても人の心なんて完璧には掴めない。あんたにとって、かごめちゃんは何?」
珊瑚の一言に、犬夜叉は唇を噛み締めた。そして返す言葉も見付からないまま、適当な言葉を彼女に返す。
「・・・・・何、弥勒みてぇな事云って・・・・」
「・・・・行かせないから」
誤魔化す犬夜叉に、ぽつりと、彼女は返した。
そして不審げな彼をきっと睨み上げると再び口を開いた。
「かごめちゃんは、あんたの所持物じゃない。そんな中途半端な気持ちのあんたを、あの子の所へは行かせない」
それが合図だったように、空からは無数の雫が零れ始めた。
それぞれの想いとは裏腹に冷えてゆく空気は、彼等の運命を分岐する暗示だったのかも知れない・・・・
【続】
あわぁー・・・・とうとう家出しちゃったかごめちゃん・・・・・。
うちは結構かごめちゃんに対して過保護な子、多いからねぇ・・・・・・・。
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