第十三話 脆いこころ








「・・・『邪魔な従妹が居て、最近疲れてばっかだ』ってさ」













(そう・・・・かもしれない・・・・)

彼女の言葉に半ば、唇を噛み締めたまま、かごめは思った。

彼だって、感情ある人の子なのだ。居候で、特に何も何も出来ない自分を自ら請け負ってしまった事に後悔を憶えていても可笑しくは無い。むしろ今まで追い出されなかっただけ、彼の優しさに保護されていたのだろう。


真柚は間を置き、もう一度口を開く。

「あんた・・・どんな境遇か知れないけどさ。可哀想な自分を餌に先輩に同情買いたいだけじゃない?」


ずきんっ・・・・


「よく居るんだよねー。あんたみたく自分の不幸な境遇盾にして。
んでそれを指摘されたらそうやって傷付いた顔して。そんなんで済む程、人生甘くは無いのよ?『お譲ちゃん』?」


ずき・・・・ずき・・・・


そんな事していない、そう否定するくらい出来る筈だ。

だが、全てが違うと、本当に言い切れるのだろうか・・・・?
自分自身では気付かないうちに、そう思わせるようなことをしていて、犬夜叉に負担をかけているのだろうか・・・・?


突然、言い知れない不安に襲われ、かごめはフードの耳をきゅっと掴んだ。
そして・・・言い切れない自分に、腹立ちを感じた。

真柚はその様子を見、もう一言・・・・それこそもう一度云われれば確実に壊れるであろう程、かごめが動揺していたのに気付いていながら・・・・否、気付いていたからこそ、云おうと口を開いた。

それこそ、トドメを刺す為に・・・・

しかし・・・。

がらっ


用件を済まし、犬夜叉が戻ってきてしまい、真柚はまたさっきのような愛くるしい笑みを向けた。

だが犬夜叉が真っ先に気付いたのは、そんな彼女の笑みではなく、酷く不安げなかごめの表情だった。

犬夜叉は一度、かごめのそんな表情を見た事がある。
それは彼女に初めて出逢った時の、放っておけばそのまま動かなくなってしまいそうな、酷く覇気の無い表情。

何もかも奪われたような、自分自身を見ているという錯覚に陥りそうな程に脆く危なっかしい・・・・・


「先輩?」

当の原因である本人は、悪びれる様子も無く、きょとんと首をかしげた。

「真柚・・・お前、もう今日は帰れ。用事は済んだだろ?」

普段と変わらぬ、冷静な云い様で促すと、まだ渋る彼女を半ば引きずって帰した。


そして二人だけになった所で、犬夜叉は足早にリビングに戻り、かごめの顔を覗き込んだ。

「真柚に・・・・・何か云われたか・・・・?」

びくっ・・・・

かごめの肩が痙攣し、暫くすると押し殺した様な嗚咽と共に、かごめは首を横に振った。

その様子に犬夜叉は、ともあればかっとなってそんな様子で何処が違うと問い質したくなるのを押さえ、ただ黙ってかごめの華奢な身体を抱いた。







「やめて・・・・優しくされる資格なんて無い・・・」

途中、ぽつりと呟いたが、それでも犬夜叉は黙ってただ抱きしめているだけだった。






「ごめん、な・・・」

「・・・・・・?」


かごめの嗚咽が止んだ頃に掛けられた犬夜叉の言葉に、かごめはきょとんと首をかしげた。

「あいつ・・・・どうしても貸して欲しいモンがあるって聞かなかったから・・・・お前が泣く様な事云うなんて思わなかった」


―――っ!



どくん・・・・・・・・



『よく居るんだよねー。あんたみたく自分の不幸な境遇盾にして。んでそれを指摘されたらそうやって傷付いた顔して。』





私が、傷付いた顔をするから、犬夜叉は心配するの・・・?犬夜叉は優しいから・・・だから・・・私も可哀想だから・・・?

かごめの頭に、さっきの真柚の言葉が過ぎって反芻された。

鼓動が早まり、もう止まってしまいそうになりそうななる。
反面、自分への心配で心を一杯にしている犬夜叉に、微かな優越感を感じる自分に気分が悪くなった。


そしてやおら、犬夜叉の胸板を押し返し、彼の腕から解放されるとかごめは自室の扉を開き

「違うわ。ただ真柚さんが話してくれた話にすごく感動しちゃっただけよ。あと、犬夜叉の事すごーく尊敬してるってのも」

云って、今の彼女にしてみれば精一杯の笑顔を向けて、
「昨日、あんまり寝てないから寝かせて」と付け足し、ぱたんと扉を閉めた。


・・・このマンションは変に部屋の機能が良くて、この部屋も含め、全体に一応の防音効果がある。

それが幸いだと、かごめは少し、管理人である楓に感謝した。



部屋のたった一つだけである扉に鍵をかけるとベッドに突っ伏して、さっきまで噛み殺していた感情をどっと吐き出した。










  ねぇ、犬夜叉・・・・・



  私、犬夜叉にとって、邪魔・・・?



  時々、私を見て疲れてるよね・・・?知りたくも無いのに、判っちゃうんだ・・・・



   こんなチカラ、無ければよかった・・・・こんな耳、無ければよかった・・・・・




  そんな事云ったら 犬夜叉は何て云う・・・・・・?



  ・・・・・・・ううん。もう関係無いよね。



  有難う・・・犬夜叉・・・・・



                                     【続】

うふふ・・・・うふふふふ・・・・・・・・

やっぱり私あの女許せないわ 自分で書いておいて何ですが。
そしてかごめちゃんはかごめちゃんで何根性悪女の恋路の肩持ちしてるのよっしなくていいわよあんな女っ!(怒)
強い人って、壊れると普段弱い人よりもずっと弱いんですよ・・・・本当。
っていうより正確には強がって全然弱く無さそうな人かな。人の心配はするくせに自分の心配しない人が多いタイプ。