第十一話 こころの行き先
「え?遅くなる・・・?」
電話の相手の言葉に、かごめは思わずオウム返しに応えた。
『あぁ。ちっと・・・な。バイトの後輩の事で色々あってな。
もしかしたら帰り、明日になるかも知れねぇから戸締りと・・・・鋼牙とか弥勒が来ても絶対家に入れるなよ。』
「ん・・・。でも・・・・・・」
云って、かごめはちらっとカレンダーを見た。
『何だ?』
「此処の所、犬夜叉ずっと休んでないんでしょ?・・・・・・無茶して体壊さないでね?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分ぁってる。』
「じゃあ、頑張ってね。」
『おう。・・・・・・・・有難・・・・な』
照れ臭そうに云うと、彼は早々に電話を切ってしまった。
かごめは受話器を置くと、ふぅ、と軽く息を吐いた。
(もう先週から土日連続で帰って来てない・・・・・犬夜叉・・・・・)
仕事があるのも知っている。彼も大学生をやっている事だって知っている。
でもかごめは此処何日かの自分と犬夜叉との会話が殆ど挨拶だけになっているのが少し寂しかった。
それを云えないのは、自分が居候で、彼のお金で暮らしているから。
(あたしが重荷になってるのかなぁ・・・・・?)
以前、それを彼に云ったら酷く叱られ、そのあと優しい顔で「そんな事無いから、気にすんな」と云われたので、
またそれを訊く気にはなれない・・・と、云うかもう答えは返してもらっているのだから訊いても無駄である。
自分はどうせ家で家事をやっているだけなんだから、バイトでも何でもしようか?
と、持ち掛けた事もあったが、耳がバレたら元も子もないと結局却下された。
彼はそれでも構わないとは云ってくれるがかごめは居心地の悪いものを感じていた。
何より―――彼が、自分の所為で体なぞ壊そうものならば自分はやはり出て行くべきかと否応なく思案してしまう。
否、今だって、ずっとそう思い続けているのだ。
自分が淋しいというのもあるだろうが、もし自分の為に無理をしているのならば余計無理はしないで欲しい。
それが、かごめの掛け値なしの本音だった。
(っ・・・駄目駄目っ!明日には犬夜叉も帰ってくるんだから私まで暗くなってどうするのっ)
何度かかぶりを振ると、かごめは戸締りを確かめて、自室に戻った・・・・・
翌日。
結局あのまま寝そびれたかごめは、重い瞼を擦りつつも買い物に出る準備をしていた。
だが動作の割にはしている事は起きている時と変わりなく・・・いや。
折角耳が隠し易いようになっているフードから薄っすらと獣耳が覗いている辺り、やはり相当眠いのだろう。
「よっ」
のろのろと階段を下りだした時、鋼牙が後ろからさりげなくズレを直さなかったらそのまま出掛けていたかもしれない・・・。
「あ・・・鋼牙君・・・・おはよー・・・」
「・・・って大丈夫か かごめ・・・何かフラフラしてっけど・・・・・・・」
「んー・・・昨日ちょっと考え事してたら寝そびれちゃって・・・・・でも大丈夫。」
無理に笑って見せるが、これはこれで(別の意味で)弱々しい。
そんなので放っておいても大丈夫だなんて云い切られても説得力がない。
鋼牙は、頬を掻いて暫く考えていたが・・・・・
「買い物付き合うぜ。途中でぶっ倒れられたら堪んねぇからなっ」
云って、かごめの横に付いた。
「いっいいよっ!鋼牙君だって行く所あったんでしょ?私は平気だか・・・・」
「いいんだ!俺が勝手に決めた事なんだからよ」
嬉しそうに、無邪気に笑う鋼牙。ならば、とかごめも微笑み、返した。
「・・・うん。じゃぁ、お付き合いお願いしますっv」
「有難うね、鋼牙君。荷物まで持ってもらっちゃって・・・・」
「いいって事よっ!そのつもりで一緒に来たんだからよ」
そんな会話をしながら、二人は帰路についていた。
最初は他愛の無い会話ばかりしていた二人だが、ふと、鋼牙がさりげなさを装い、尋ねた。
「しっかしまあ、何だ・・・かごめ、お前犬っころに変な事されてねぇよな?」
「・・・・・変な事?」
きょとん、と首を傾げるかごめの動作にどぎまぎした所為もあり、自分で訊いておきながら
「あ・・・いや、何もされてねぇんなら別にいいんだっ」
と、恥ずかしそうに目を逸らした。
そしてそうこうしている内に、何時の間にかマンションまで着いてしまった。・・・と。
「かごめぇっ!犬夜叉にとうとう愛想尽かして鋼牙にしたんか!?」
ごっ・・・・
入ろうとした直前に、庭に居たらしい七宝にそう云われ、かごめは思いっきり壁に頭をぶつけた。
「っっ〜・・・・」
「だ・・・大丈夫か・・・・?」
頭を抱えてしゃがみ込むかごめに鋼牙は気休め程度の言葉を掛け、七宝の方を向いた。
「なっなんじゃっ・・・・?!」
鋼牙に睨まれ、何か不味い事でも云ってしまったかと七宝は無意識に身構えた。
だが、鋼牙の返事はそうでは無くて・・・・
『いい事云うじゃねぇか!チビ!ま、今は違ぇーけど将来的にはそーゆー予定だかんなっ』
「じゃぁね。鋼牙君。有難うね」
そう云ってかごめが切り出してきたのは、玄関まで来た時。
まだ自分を心配してくれている彼から荷物を受け取ると、満面の笑顔で平気、と答えた。
すると、相変わらず単純な感じに納得し、鋼牙は帰っていった。
かごめも、彼を見送ると、自分も家へ入った。
そして気付くのは、今朝、出て来た時とは違う様子の玄関先。
靴が二足増えていたのだ。
一足は、犬夜叉のものと分かる。だが、もう一足は・・・・?
黒を主調とした、女もののブーツ・・・。
(お客さん・・・・犬夜叉の・・・・・・珍しいなぁ・・・)
そんな事をぼんやりと考えながら、かごめは自分の靴を脱ぎ、並べると、リビングに向かった。
すると気配で気付いたか、犬夜叉がひょこっと出て来た。
「犬夜叉!お帰り・・・と、ただいま」
「おう。・・・買い物行ってたのか」
「うん。・・・えっと・・・お客さん・・・来てるの?」
何となくぎくしゃくした物言いで会話していた所為か、間が持たない。
そこまで云うとイキナリ沈黙してしまう二人。・・・と、そこに・・・・
「先輩ー。どうしたんですか・・・・・あら。もしかして、貴女が『かごめ』さん?」
リビングから出て来た『彼女』と目が合い、かごめは余計に困惑した・・・・・
【続】
何だか夫婦な会話度がUPしちゃってる気がしてなりません。てかどう見ても夫婦です。
そして今度は不倫ですか?(爆死)
もう・・・・この話本当は没だったのになぁ・・・・。何故か採用・・・・・。
とりあえず楽しかったですっ!!かごめちゃんがずっこけて壁に頭ぶつける所書いてる時!!!(笑)
そして(自分で書いてて何だけど)「絶対」を強調する犬夜叉が大好きです。
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