第九話 キスの代償 【中編】








「じゃぁ、いってらっしゃい。」

「おう。今日は九時までには帰れると思うからよ。」

「うん。気を付けてね」

そんな、毎日恒例のやりとりを終えて、犬夜叉は少し早歩きにマンションを出て行った。
その様子を陰でこっそり見られていたのに気付いていただろうが・・・気付いてないフリをして。


彼が部屋を出て行って直ぐ。
隣の部屋の住人である珊瑚が、ひょこっと顔を出した。
「あっ珊瑚ちゃん、おはよー」
「おはよ、かごめちゃん。あのさ、今日昼過ぎにお茶しに来ない?休み取れたから、ね?」
「あっうん!行く!!」
「じゃ、一時にね。待ってるから」

暗に、『待ってるから、何処かに行かないでね?』と釘を刺すと、珊瑚はまた部屋に戻っていった。
一方、ぽつんとその場に取り残されたかごめ、は・・・・

「・・じゃぁ、お茶用にお菓子でも作ろうか、な・・・・」

そんな呑気な独り言を呟き、部屋に入った。


「会話が夫婦だよね、既に。」
珊瑚が苦笑して、ドア越しにぽつりと呟いた言葉を、かごめは知らない・・・
――――

























「かっごっめ♪」

「あっ七宝ちゃん、今日は早いわねー」

珊瑚とのお茶会のすぐ後。
買い物に出掛けていたかごめに真っ先に声を掛けたのは七宝だった。
小さくポニーテールにした髪を軽やかに振って、かごめの真横に着くと、重そうにしていた一方の買い物袋をかごめの手から取った。
「有難う。でもそれ重いわよ?」
「・・平気じゃっ!おっとうも『女子供には男は優しくするもの』じゃと云っておった!」
「・・・そっ!じゃあ、頼りにしてるわよ、七宝ちゃんっ♪」
「おうっ!」
微妙に震えている手を必死に悟られないように一生懸命運んでくれている仕草が微笑ましくて、かごめはあえて気付かないふりをしたがどうやらそれが気分良かったらしく、七宝は得意げに満面の笑みを零した。

途中、強い風が吹いて七宝の幼稚園の帽子がさらわれそうになったが、ゴムのお陰で流されずに済んだ。

「なぁ、かごめ。最近、楓お婆が腰を悪くしたみたいなんじゃ。」
「楓お婆ちゃんが?・・大変だね・・・お手伝い、行こうか?」
「じゃぁおやつにケーキ焼いてくれるかっ!?」

行く・・・と云った瞬間、七宝は目を輝かせて訊く。
かごめはくすっと微笑んで、頷いた。
どうやら自分の祖母の心配もあるが、自分がかごめに来て欲しいという理由もある、というのが態度でモロバレだった。

大人ぶっている彼もやはり子供っぽいのは無理もない。
微笑ましく思い、かごめはやんわりと注意した。

「いいよ。でも食べ過ぎたら太っちゃうから、時々だけ、ね」

云われ、少しだけ顔をしかめた七宝だったが、そこは(自称)大人の彼。
渋々、そうじゃな。と納得して、でもちゃっかりと「じゃぁ、たまには絶対焼いてくれ」と約束をして割り切った。









「法師様・・・何、する気?」



それまで、ベランダ越しにかごめと七宝の様子を覗いていた途端、後ろから声を掛けられ、青年はぱっと振り返った。
・・・とはいえ、彼をこんな呼び方するのは、この辺にはたった一人しか居ないから誰かなんて判っていてのことだろうが。

彼は、お得意の作り笑いで声の主に応対した。

「珊瑚・・『此処』では、私は一応医者をやっている一般人なんですよ?法師様はやめて下さいって云ったでしょう?」
「ふざけないで」

ぴしゃりと言い返す。
「・・・それより・・・まさか『あの事』・・・云うつもりじゃないだろうね?」
「その『まさか』です。・・・・・・・・・・・・と、云ったら?」
「!
――――止めるさ。かごめちゃんが苦しむだけじゃない・・そんなの」

怒りの入り混じった声で、珊瑚は云う。
しかし、弥勒の方は、小さく溜息をすると、またかごめ達の方を見て、嘲笑にも似た笑みを零した。

「だがな、珊瑚。苦しまなきゃ得られない物ってのもあるんだぞ?・・・・彼女の場合、それが必要なんだ。・・・たとえ」









『彼女自身が、それを拒もうと・・・・な』




























「大切にしていたものは、壊れるのが早いもんだ。・・・・犬夜叉?」
玄関前で、犬夜叉が呼び止められたのは既に彼の腕時計の針が10を指して暫くしての事だった。
呼び止めた青年の方は、普段の仮面を捨てて、真剣な面持ちで壁に凭れ掛かり、腕組していた。
彼は胡散臭そうに、弥勒を睨んで面倒くさそうに頭を掻いた。

「・・・用件さっさと云わねぇんなら俺はもう帰るぜ?」

そう訊いても、全く反応を示さない弥勒。
犬夜叉は、怪訝そうに眉根を寄せると、マンションの玄関に一歩、足を踏み入れた。・・・が。

「かごめ様が・・・・・」

その一言に、ぴくりと反応して、その場に留まる。
「かごめ様が・・・色恋に疎い事を、単なる世間知らずで片付けて放っておくのは、些か問題だと私は思うが?」
「・・どういう、意味だよ?」

既に喧嘩腰な犬夜叉の態度に、弥勒は肩を竦めてみせた。
「そのまま、ですよ。色恋に対する知識なんて、彼女は今時の幼稚園児より無いんですから。
  ・・・・だから・・・何をされても理解出来ないで済ませてしまうんです。お前にとって、かごめ様はただの『飼い猫』か?」

「訳、判んねぇよ・・・・」

「ただの居候だと、かごめ様をそう思っているのならば別に問題ありませんよ?ただ・・・」
「ちょっと 法師様っっ!!!!」
二の句を続けようとする弥勒の言葉を遮り、珊瑚が慌てて駆けて来た。

いきなり乱入してきた珊瑚に、些かポカーンとしながら、彼女と弥勒とのやりとりを見つめる犬夜叉。
しかし珊瑚はそれどころではない。
「そーやって余計な事ばっか云って人間関係に波風立てるのやめなよ 大人気ないっ!」
少々大声になり気味になったが構わず云って、弥勒を引きずる形でその場を離れさせようとした。
弥勒も、抵抗の色は見せなかった、が。
最後の最後になって、ようやく口を開いた。
「『ただ』お前とかごめ様は簡単な理由で一緒に居る。だから他人がかごめ様の全てを受け入れて、それでもかごめ様が欲しいと
・・・かごめ様もその相手を愛していると云えば、お前は否応なしにかごめ様を手放さなければならない。
その時、お前は何の未練もなくかごめ様を手放す事が出来るか・・・?」

「っ・・・・・・・・・・・・・・・」



弥勒に云われた言葉が、犬夜叉の頭の中で反芻された。
(俺にとって・・・・かごめの存在は・・・?)
自分でも判断出来ない気持ちに、早く決着を付けろと言われたようで、厭だった。
そして、かごめに何があったか・・・気になった。

(蚊帳の外かよっ・・・・・)
苛々する気持ちを抑えたまま、犬夜叉もその場に居ただけでは埒があかないと判断して、マンションに入っていった・・・。

                                                        【続】

何が書きたいのか判んなくなってきました(爆死)。
なんだか弥勒様と珊瑚ちゃんの親密度が何時の間にか怪しいくらい(おい)濃くなってます。
・・や、額にチューでも私は嫌なのですが。それって考え方古いでしょーか?でもやっぱ消毒は必要だよ。うん(1人納得)。
弥勒様・・・うちのは(漫画で)ギャグ書いたら必ず苛められキャラになるんですよねぇ・・・何故か。
かごめちゃんも犬夜叉もお互い、何か感情はあるんです。でも
かごめちゃんはそれが理解出来ないし犬夜叉は『恋愛感情』なのか普通の『家族愛』みたいなのか判んない微妙なトコにあるし・・・
決断早めたら自爆する可能性高いからそーゆーのは迫るべきではないと思うのだが(悩)。
ホラ・・・原作18巻の犬夜叉のよーに・・・(根に持つなぁ お前)うふふ・・・(危)。
なんか私・・・なんで急いでんだろう・・・展開唐突だし・・・もうちょっと時間掛かる筈だったのになぁ・・・。
両想い?になるの・・・・・。まあ、そんなこんなで一桁の話終了〜・・・・・・