第八話 キスの代償 【前編】
『かごめちゃん、鋼牙に気に入られたみたいだよ?・・・どうする?』
―――そう、告げられたのは、久し振りに帰ったマンションの玄関先だった・・・・。
「お帰りっ!犬夜叉。」
何事も無いような、屈託ない笑顔で、かごめは犬夜叉を迎えた。
彼は一瞬、呆気に取られながらも、軽く返事をして、ロクに目も合わせずにリビングに向かった。
「?」
かごめが不思議そうな眼をしたまま、自分の後について来ているのには気付いていたが、あえて無視を決め込んだ。
今、かごめの顔を見ていると、先程珊瑚に聞いた事を思い出して、かごめに当たりそうだと思ったからだ。
だが、生憎と、・・・彼は知らない訳だが・・・彼女は犬夜叉の怒りの感情だけを感じ取ってしまったらしい。
「犬夜叉・・・?私・・・何か変な事した・・・?」
「・・・そんなじゃねぇよ」
思わずぶっきらぼうに返してしまい、口元を押えたがきっちり聞こえてしまったようだ。
思わず振り返った犬夜叉の目に、かごめの獣耳がぴくん、と上下に揺れるのが映る。
「かご・・・・」
「やっぱり、一週間前の・・・まだ怒ってる・・・?」
かごめが上目遣いに問うた。犬夜叉は「違う!」と急いで弁解したが、かごめの瞳は今だ不安そうに揺れている。
―・・云うべきか、云わざるべきか・・・
二者択一を迫られて、犬夜叉は途惑った。
(何に?)
こんな事云ったって、別に構わないじゃないかと思う。・・のに、何処か別の思考では、云うのが気恥ずかしいと云って来る。
何故・・・――――――?
「それよりかごめ、お前、痩せ・・・・鋼牙に会ったのか?」
犬夜叉は、わざわざ自分から問いだす事にした。
「え?うん。・・犬夜叉、鋼牙君と仲、悪いの?」
犬夜叉は、かごめが鋼牙を『君』付けで呼んだのを、多少こめかみを引きつらせたが、かごめに悟られる事無く一つ頷いた。
―純粋なのは、時として残酷な物だとはよく云ったものだ。
穢れを知らないから・・・たとえ己の首を絞める結果になり得る言葉でも、『知らぬ』の一言で、云ってしまえる。
またそれを他人が否定する事は出来ない。何しろ『純粋』さ故に、何も穢れを知らないのだから―――
「どうして?鋼牙君、話せばいい人よ?」
(ああ、まただ・・・)
またそんな事を云って、自分の首を絞めようとする・・・。
行き所の無い、ぶつけようの無い怒りに、犬夜叉は僅かに顔を顰めた。
と、ほぼ同時にかごめの顔も曇った。
「何、怒ってるの・・・?」
「・・怒ってねぇ」
「嘘。怒ってるよ。鋼牙君の事話してから・・・ううん。帰って来てずっと私だけに・・・。私何かした・・」
「怒ってねぇっつってんだろっ!!」
かっ、となって思わず大声で怒鳴り、犬夜叉がまた泣かせたか?とぱっと顔を上げた――――ら。
・・・・・泣いてはいない。
泣いてはいないが代わりに不機嫌そうなかごめの顔があった。今まで見た中で一番、機嫌の悪そうな顔。
犬夜叉はギクリと、彼女に声をかけるのを一瞬躊躇った。すると・・・
「あのねぇっ・・・・何に対して機嫌悪いのかは知んないけど!!!私が悪いんだったら直接云えばいいじゃないっ!
何理由も話さないで1人でキレてんのよ!!キレたいのはこっちよ!何なのよ一体・・久し振りに帰って来てくれて嬉しかったから
成るべく笑顔でいようって思ってたのに何で喧嘩売るのよあんたは!!」
立ち上がって一気に捲くし立てて一息で云うと、かごめは糸が切れたように床にへたり込んだ。
彼女の迫力に圧倒されてか、犬夜叉は少し逃げ腰になっていた。が・・・
暫くして、我慢の限界が来たように「もうやだぁ・・・」と小さく呟いて両手で顔を覆って嗚咽を洩らし始めたかごめの頭を軽く撫でた。
しゅんと垂れていた耳を微かに反応させて、かごめは涙を瞳に溜めたまま、のろのろと顔を上げた。
「〜・・悪かった。かごめは悪くねぇよ。・・・・俺が・・鋼牙のヤツなんぞにお前が気に入られたって聞いて、気分悪かった。
・・・・・それだけだ。悪いのは俺だ」
顔を赤くして、羞恥と必死に戦いながらも云ってくれた犬夜叉の台詞に、かごめは自然と微笑んだ。
「有難う。犬夜叉・・・じゃあ、鋼牙君の話はもうあんまりしないね?」
「・・・じゃあ、会いはするのかよ?」
「そりゃぁねぇ?『友達』だもん。」
少しの間を置いて、同時に笑った。
ね、犬夜叉・・・1人で抱え込んで怒らないでね?ちゃんと云ってね?
・・・わぁーったよ。『勝手に逆ギレした』らかごめがおっかねえからな。
もうっ何よそれっ。
【続】
やっぱかごめちゃんって、従順に従ってばっかじゃなくて自分の納得いかない事あったらこうやって怒るタイプだと思うんですよね。
んで、人には黙って溜め込んで欲しくないのに自分は溜め込んじゃうっていう矛盾抱えてるタイプ・・・(苦笑)
で、此処で終わらせればいいものを・・・・・題名、『キスの代償』じゃないですか?しかも【前編】とか書いてるじゃないですか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(無言で逃っ←おいっ!)
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