第七話 傍に居て安心出来るのは・・・
(あ゛あ゛もう 何でこんなに次から次へと湧いてきやがるっ?!)
犬夜叉は何となく、嫌な予感がした。
虫の知らせ、とはこう云う時にでも使うものなのであろうか?
とにかく、良くない知らせが着そうで厭だった。しかも、彼のこの予感とやらは、ほぼ100%なのだから本人、
耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいなのだろう。・・・塞いだって何が変わるという訳でもないのだが。
スピードを全く衰ろわすこと無く見てきた調査書、書類の山の中、親の頼みとはいえいい加減うんざりしてきたが、
やめる訳にもいかず、結局終わるまで帰られない状態にある。
犬夜叉は、家で待っているであろうかごめの事を気にかけながらも、常人には真似出来ないであろうスピードで『仕事』を
こなしていった・・・。
『かごめ・・・俺の女になれ!!!』
「え・・っと・・・・・・・・」
云われた事の意味を理解するのと、どう返すべきかとかごめは思案した。
告白されたのは・・・かごめの記憶の限りでは初めての事なのだ。気があった、とか云う意味ではないが、かごめは顔を赤くした。
「どーして・・私なんか・・・」
包まれた両手をやんわりと解きながら、かごめは困惑顔で目線を彼から逸らす。
「一目惚れ・・・ってヤツだよ。見ず知らずのヤツ助けられる度胸があるし、オマケにいい女だ」
臆面も無く言い切る鋼牙の口説き台詞に、そう云う事に免疫がない上、弱いかごめはいちいち赤くなった。
また、今度は片手だけ・・・彼に捕らえられる。
「・・駄目・・・・か?」
「っ・・・・あの・・・・私は・・・・え・・っと・・・・」
断らなければ。
そう思っていたのに、そんな切なそうな顔をされたらきっぱり断れない・・・・
かといって、付き合う気は、かごめには無い。
「・・・ごめん、なさい。」
決まり悪そうに俯くかごめ。
「っ何でだよっ?!・・・犬っころと、付き合ってんのか?」
「やっ・・・やだ それは無いわよっ!!!」
ブンブン首を横に振って否定するかごめ。
「じゃぁ 他のヤツかっ!?」
「きゃっ」
興奮して問いだそうとする鋼牙に圧されて、かごめはよろけてカーペットの上に尻餅を付いた。―途端・・・
ふわりと、もともとしっかり被っていなかった帽子が 取れてしまった。
大丈夫かと問う鋼牙への返答もそこそこに急いで隠してもみるが、到底遅い行動なのだろう・・・。
「かごめ?」
不審そうに彼が尋ねる。付け耳、とでも思っているのか、それとも・・・
「それ・・・本物か・・・・?」
「っ・・・!!」
人の耳が無い事に気付いたようだ。かごめの顔色がさっと変わった。
暫く、無言の状態が続く・・・。
「かごめ・・・・」
とりあえず、何か話さなくては・・・そう考えていたかごめに先に話し掛けたのは鋼牙の方だった。
彼の顔には今だ、驚愕の表情が浮かんでいた。
やはり・・・・猫の耳なんて持つ女なんて、気味が悪いと云われるのだろうか・・・・?
その答えは・・・・
「お前、その耳が気になって、断ったのか?」
「・・・うん。私、こんなだから付き合ったら絶対厭になるに決まって・・・」
「何で?」
『否』だった・・・。
「でしょ?―――って!!・・・・・・・・は?」
聞き間違いかと、訊き返すも、どうやら間違ってはいないようだ。
「だ・か・ら!何でだよ?お前、それしか気になること無いんだったら問題無ぇじゃん!」
何か問題でもあるのか?と云わんような口ぶりで話す鋼牙に、かごめは思わず吹き出した。
「俺・・・何か変な事云ったか?」
かごめの態度を不審に思い、問う鋼牙に、かごめは口元を押えて、笑いを噛み殺したまま、首を横に振った。
「ごめんっ・・・そんな事云われたの初めてだから つい・・・」
それと同時に、嬉しくもあった。
此処の住人達は、優しくて、あえて耳の事に触れないでいてくれる。
それはとても有り難く、安心出来ることではある。
だが鋼牙は・・・―――あえて触れて来て、それでも拒む気は無いと云う・・・。
根本的な物は一緒でも、かごめにとっては初めてのリアクションだったのだ。
「有難う、鋼牙君。でも、もう少しだけ、考えさせてくれない・・・?」
かごめの言葉に、鋼牙はようやく納得した。
「1人で大丈夫?鋼牙君。」
あの騒ぎがあって数時間後。かごめは、そろそろ帰ると云い出した鋼牙を玄関まで見送った。
「おう!全然・・・って云ったら嘘だけど大体はもう平気だっ!・・・有難な、かごめ・・・」
再び握られた手を見て苦笑したまま、かごめはそれじゃぁ、と告げた。
「じゃ、また・・・かごめ、ちょっと目、瞑ってくれねぇか?」
「?・・・これでいい?」
云われた通り、目を瞑るかごめの額に、鋼牙は軽く、口付けた。
「・・・・・・・?」
今ひとつ、今のが何を意味するのか判らずにきょとんとするかごめ。
鋼牙はにっ、と微笑むと「じゃぁな!」と云って、帰って行った。
その後ろ姿が消えても、かごめはずっと、先程の場所を見つめていた。その様子を見ていた人物が居る事にも気付かず・・・。
(私の大切な人・・・・?)
かごめは、先程鋼牙に云われた事を思い返し、考えた。
今、かごめに大切な・・・付き合っているような人は居ない。・・・否、居たのかもしれないが、少なくとも今は覚えていない。
それ以前に、人と会うのさえ珍しくて仕方が無い気がする。下手をすれば、外での出来事全てが。
安心出来る場所なぞ、存在しなかったという気もする。
(・・・・草太・・・)
きゅっ・・・と、胸が締め付けられる気がした。
かごめが、記憶を失くしてもまだ猶憶えている唯一の人物で、たった一人の心の拠り所。
ある意味、一番大好きで、大切な、たった一人だけの弟・・・
「そう た・・・草・・太・・・・草太ぁっ・・・・!」
無性に悲しくて、何度も何度も、弟の名を呼んだ。――自分の肉親は皆居なくなった事を知っていても、切り捨てられなかった。
嗚咽を隠すように、取り込んだばかりのバスタオルに顔を埋めて、かごめは泣いた。
それしか気持ちを抑える術を知らなかったから・・・
考えれば考える程、記憶が戻っていくのは、かごめも気付いていた。
ただそうしたくないのは、その『過去』が哀しい思い出しか無いから・・・思い出せば心の方が耐えられなくなると判っていたから――
かごめに、大切な人を作る気は全く無かった。
だからこそ、あの山の奥で朽ちるつもりだった。自分だけ、辛い思いを背負って生きるのに耐えられなくて・・・
なのに―――かごめは犬夜叉の手を取った。
(生きる事・・・諦めてないんだ・・私・・・)
(『今』の私が大切な人は・・・・・・犬夜叉・・?)
そう思うとかごめは、草太の時とはまた別の意味で胸が苦しくなった。
だから、犬夜叉の『大切な人』はもう居るって判った時、苦しかったの?
だから、今犬夜叉が居ないのが、こんなにも辛いのかな?
犬夜叉は人間。私は・・・人間じゃない。大切な人なんて、作っちゃいけない のに ――――
昔の私は、人間との接触が無いのが当たり前だったのかも知れない。
だから、人も物も、珍しいんだと思う。だから、こんなに寂しいんだと思う・・・。
今は1人しか居ない家の中―――少女の嗚咽は暫くずっと、響いていた・・・
【続】
何か・・・久々に話書きながら泣きかけました(泣くなよ自分の作品に)。
かごめちゃん・・・(以下少しネタバレトーク)外に出たのが、犬夜叉と初めて出逢った日が最初と云う相当過保護な中で育ってたんですよね。だから、恋愛感情だのキスだのは全っ然知らないんです(箱入り娘・・・・)。
だから、その愛情が代わりに家族愛として草太君1人に注がれていたっていう・・・(だから別に禁断の兄弟愛ではなく。)
で、最後辺りの人間と、人間ではない存在ってのは、キャラ紹介読んでる人なら判るでしょうが、この話自体は、原作の二人の境遇逆バージョンみたくなってる訳です。かごめちゃんならこの差をどうやって埋められるかってのが書きたいのもこの話書くきっかけなのです。・・・あかん。ちょっとちょびッ○入ったかも(汗)←『大切な人』が居る居ないの辺り・・・
余談ですが犬夜叉は『仕事』中は、許可取って大学休んでます。・・・ちょっと職権乱用v(蹴)
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