第六話 不在の住人
何となく、気になってた事があるの・・・。
「へ?奥の部屋?」
かごめの突飛な質問に、珊瑚はティーカップを置き、おうむ返しに尋ねた。
「うん。私が此処に来てもう一ヶ月経つけど、一番奥の部屋、誰か居るんだろうけど見た事ないから・・・誰か居るの?」
「あー・・うん。居る、って云えば居るけど・・・基本的にこのマンション、1人暮らしばっかなんだよね。あたしと管理人さん除いて。」
妙に歯切れの悪い返答をする珊瑚。
実際、彼女の云う通り、このマンション、小規模な上、管理が行き届いているのと、1人暮らしの者には最適と、有名なのだ。
その代わり、家賃が凄いらしいのだが・・・とにかく、そんなので、珊瑚は、弟の琥珀と。
・・・と云っても、琥珀は疫病神にでも憑かれているのか、よく事故にあって入院するので(今も)1人暮らしとほぼ変わらないという説もあるのだが・・・とにかく。管理人である楓は孫の七宝と。と言った感じで、最高でも二人住んでいればいい方なのだ。
勿論、二人暮しとかいう意味では犬夜叉の所もかごめが居候しているのだから当てはまるのだろう。
ちなみに余談になるが、表向き、犬夜叉とかごめの関係は『従兄弟』と云う事になっている。
「アイツ・・・犬夜叉より良くない噂あるしねぇ・・・・・。」
珊瑚は暫し考え込み、話し始めた。
「あそこの住人は『風来 鋼牙』って云うんだ。大分前はちゃんと毎日帰って来てたらしいけど、今は殆どの日、居ないらしいよ。
ちょっとでも目が合ったら直ぐ喧嘩でも始めそうな人で、犬夜叉が此処に越してきた時も相当仲悪そうだったんだ。
・・・一応、喧嘩にはならなかったみたいだけど。」
「へぇー・・・」
そう返して、かごめは紅茶を一口啜った。
「ま、かごめちゃんならアイツと鉢合わせしても大丈夫だろうけど。女には手を挙げない主義とか何とか・・・・」
そんな雑談を交わしながらも、珊瑚は少し考えていた。
―出来れば、かごめから何でもいいから聞ける事は聞いてくれねぇか?
そう、確かに頼まれはしたが・・・よりによって、彼の『大切な』かごめが自分の嫌いな輩に興味を持ったなんて・・・報告すべきか?
こればっかりは考え物である。下手をすれば一つ屋根の下で毎日のように騒音が聞こえるのが日常になるかも知れないのだ。
自己利益か良心か・・・。いや、どちらにしろ遅かれ早かれそう云う展開になるのは目に見えた。
「珊瑚ちゃん・・・・?」
「へっ?あっごめん!何?かごめちゃん?」
考え込んでいたのが辛そうにでも見えたのか、かごめが自分の顔を覗き込んでいるのに気付き、珊瑚は慌てて云い繕った。
―と、その時・・・。
ポーン・・・。
ブザーが鳴って、勝手に入ってくる音・・・間違いない。
珊瑚はティーポット(熱湯入り)を構え、かごめは不思議そうにそれを見入っている。
「や、こんにちわ、珊瑚。かごめ様。」
ひゅっ・・・!!
ひょこっと、さも当たり前のように来た弥勒は、入りざまに投げられたポットを慣れた動作でかわし、やはり笑みを絶やさない。
「おやおや、危ないじゃないですか。珊瑚」
「あっらぁ〜?ごめんなさいねーっ!不法侵入なんかしてくるからてっきり強盗かと思ったわー」
「確か一昨日も同じ理由で鋏投げてきませんでしたかー?」
「あら、そんな事もあったかしらね〜?」
・・・・・台詞が棒読み状態のまま、そんなやりとりをかわす二人を尻目に、かごめは(へー、一昨日もこんな事やってたんだー。)と、ある意味感心して聴いていた が。
不意に立ち上がり、ティーカップを仕舞い始めた。
「あっいいよかごめちゃん!あたしがやるから!」
「そう?有難う、珊瑚ちゃん。私そろそろ帰るね。」
「えっ・・・・・・うん、じゃぁね・・・」
ぱたんっ・・・・・・
「ったく・・・オートロックの扉普通に開けないでね。通報するよ?」
かごめが去ったその後。
珊瑚は呆れたように、目の前の人物を睨み付けた。
「それは勘弁。・・・・貴女に本当に通報する気があるのなら、ね」
「・・・調子乗ってると本当にするからね」
顔を赤くして再度咎める珊瑚に、弥勒は首を竦めて見せた。
「はいはい。でも本当に珊瑚の顔見に来たかったって事もあるんですから」
「・・・莫迦っ」
犬夜叉が、親の仕事を手伝いに行って、二日目の今日。
何となく行っていた珊瑚の所も、何だかいい雰囲気になりそうだったので出て来たものの・・・・・。
急にする事がなくなって、かごめは近くの公園のブランコで、ボーっと暇を持て余していた。
これが午後なんかだと、七宝等、小さい子供達が幼稚園から帰って来て遊んでいるのを見ているという事も出来ようが、生憎午後までにはまだ何時間と空いた時間がある。
楓は何かの講演会の講師として呼ばれたとかで留守。
本気で暇な時が、久々に出来たものだとかごめは無意識に、する度にカウントしていた欠伸の回数を、心の中で笑った。
ボーっとしていると、厭でも犬夜叉と最後に会った朝を思い出して厭だった。
あの時・・・・
「じゃ、一週間宜しく頼むな」
何時も出て行く時より多い荷物を持って、犬夜叉は何時ものように云った。
昨晩の事を、為るべく自分に思い出させないようにとの配慮に気付いていたが、かごめは俯いたまま少し頷いただけだった。
犬夜叉はやりにくそうに、軽くかごめの頭を撫でると、
「昨日のは気にすんな。・・・土曜には帰ってくるから、な?」
そう云って、出て行った。
その間、かごめが彼に云えたのは、「ごめんなさい」と、「有難う」だけだった。
(もっと云いたい事、いっぱいあったのにな・・・)
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。本当にそうなんだと実感するよりない状態になってしまっている。
公園の、今時珍しい天然の土の地面を、足で蹴って暫くして、ようやくかごめは家に戻る事にした。
「・・ん・・・?」
ぴたっ、とかごめの足が、マンションの非常階段の所で止まる。
誰か倒れている・・・・?
「っ大変!」
かごめは、急いで倒れている人の傍に寄って、体を揺すった。
「あのっ・・・大丈夫ですかっ?!」
微かにその人・・・どうやら、犬夜叉と同年代位の男らしいが・・・の人が、口を開き、微かに何か言った。
それこそ人の聴覚では絶対聴き取れない程、微かな声だったが、かごめにはちゃんと聞こえていた。
かごめは、苦笑すると、彼に肩を貸して、歩き出した・・・。
(「腹減ったー」だなんて・・・。倒れるまで食べなかったのかしら・・・・?)
部屋の持ち主である犬夜叉には悪いが、かごめは彼を家に入れていた。『困った時はお互い様』の精神のかごめには、いくら見ず知らずでも放って置けなかった訳だが・・・・・。
彼の為にと、残り物の煮物を温め直している鍋の前で、本人には失礼なのだがくすっと笑った。
皿に盛って、トレイに乗せると、かごめは彼を寝かせているソファまで、それを持って行った。
「はい。昨日の残り物なんだけど・・・食べられる?」
所々にある外傷が痛むのか、彼は低く唸ったが、どうやら食べるのに差し支えは無いようだ。
トレイを渡すと、彼は無心に食べ始めた。
「美味い!」
「そう?良かったv」
かごめは、本当に嬉しそうに微笑んだ。その顔に、暫し見惚れる彼。
「何?私の顔に何かついてる?」
「あっ・・・いや、なんにも・・・・」
一旦詰まったが、ところで・・・と、かごめが尋ねる。
「貴方、名前何て云うの?」
「あっそーいや自己紹介してねーか。俺は鋼牙。『風来 鋼牙』だ」
「え?鋼牙・君って、あの一番奥の部屋に住んでる・・・?」
「俺の事、知ってるのか?」
不思議そうに問う鋼牙。
「うん、まぁ・・・。珊瑚ちゃんに聞いたのよ。
私はかごめ。今は犬夜叉のトコにお世話になってるの。・・・『従兄弟』だから・・・」
何かと問いだされる前に、そう云っておくかごめ。鋼牙の方も疑問に思わなかったらしく、納得顔だ。
「・・・なーる程。だからこの部屋、犬っころの匂いがすんのか」
「いっ・・・犬っころって・・・・・(ホントに仲悪いみたいね、二人・・・)」
犬夜叉の犬っころ呼ばわりに何とも複雑な心境で、かごめは愛想笑いだけしておいた。
「処でかごめ・・・」
ぎゅっ・・・と、両手で鋼牙はかごめの手を包み込んだ。
「なぁに?」
「お前、俺の女になれ!!!」
【続】
HAHAHAHAHAHAHA・・・・・(あえてノーコメントで居たいのですが。でも説明したいトコあるし・・・・・)
はい(結局する)。六話。やっと鋼牙君登場。そしていきなり告白。あんた・・・お腹空いて倒れるなんてベタな・・・。
そして年頃の男性部屋に連れて着ちゃ駄目です かごめちゃん・・・(汗)。襲われるよ 貴女・・・・・・。
そして何だかバカップル気味な弥珊・・・。やっぱ弥勒様の職業怪盗にしとけば良かったかななんて思う今日この頃・・・(おい)。
そして珊瑚ちゃん・・・当たったら大怪我確実のものばっか投げてます 危ないです 雲母が(爆)。や・・・弥勒様は死なんと思う・・・この程度じゃ・・・。ってな訳で今度はテーブルとか避けきれないもの投げちゃえー☆(促すな。)
可哀想に・・・住人の皆さん・・・毎日騒音のきっかけがとうとう実現しちゃいましたね・・・(嘘泣)。
そして何気にお金とか鍵とかの管理はかごめちゃんがやってます。二、三話前後くらいからずっと。
これ書いてる今現在深夜3時(寝ろ)・・・。ぶっ続けで二話書いた後です。てな訳でおやすみなさい(むっちゃリアルタイムだし)
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