第五話 過去の想い人と桔梗花【後編】






私ね、人の心・・・までは無理だけど、感情が分かる力を持ってるの。



・・・でも、彼には云わない。


ううん。いつか、あの人なら自力で気付いてくれる気がするから・・・・


待ってる。













「ん?」

かごめが、『それ』を見つけたのは、平日の、犬夜叉が居ない時に気まぐれでしていた掃除中だった。
本棚の整理をしている時、一枚の写真がひらりと床に落ちた。
何気なく、かごめはそれを見て、突然、何だか言い知れない不安に押し潰されそうになった。

「っ・・・・・?!」

涙こそ、出なかったが、その感情にも似たモノ。背筋に一瞬、寒気が走った。
写真には、犬夜叉と、大人びた印象を与える女性が、写っていた。
髪がとても綺麗で、すれ違っただけでも一発で憶えられそうな女(ヒト)。何処となく・・・かごめに似ていた。

そして嫌々撮らされたのだろうか?
犬夜叉は、少し迷惑そうに、でもとても幸せそうに写っていた。

かごめは直感的に、このヒトが、例の「桔梗」というヒトだと悟った。

悟ると同時に、かごめは落ち着きを取り戻した。

「綺麗な人・・・」
ポツリと呟いた。
大分古そうな写真だというのに、込められた『気持ち』は全く衰えていなかった。
「犬夜叉の・・・大切な人・・・だったんだね・・・」
そこまで云って、ううん、と言い直す。
「犬夜叉の・・・『今でも』大切な人・・・」

色恋に疎いかごめだけど、それでも良く判った。・・・否、半分は、かごめの力の所為かも知れない。

(何か・・・見ちゃいけないもの見ちゃったかな・・・?)

急に罪悪感が走り、かごめは本棚を片付けると、頭に巻いていたスカーフを外して、ベランダに出た。
















「犬夜叉様。・・・粋希様・・・御父様からの伝言を預かっております。」

そう、恭しく青年に身を折ったのは、スーツ姿の中年程の男性であった。
青年は、彼に面識があるらしく、少し面倒くさそうに頭を掻くと、「で?」と、促した。

ちなみに今、彼は珍しくバイトが無くて、講義も終わって、即行で帰ろうとしていた途中の道々である。

男はもう一度、浅く礼をして、一枚の封筒を、犬夜叉に手渡した。
犬夜叉がそれを無言で受け取ると、男は再び深く礼をして、何処かへと去って行った。

残された犬夜叉は、その封筒を見つめ、疲れにも似た溜息を吐いた。
「『また』・・・・何か面倒な事やらされんのかよ・・・・」






「犬夜叉っお帰りっ!!」
「お・・・おう。ただいま・・・」
今日は珍しく、かごめに先手を取られ、犬夜叉はたじろいだような返事を返し、靴を脱ぎ捨てた。

「あのねっ!今日はご飯簡単にカレー作ったんだっ!で、後サラダもねっ・・・」
(・・・・・・?)
かごめが不自然に明るいのを、犬夜叉は不審に思った。
いくら前々から、自分が帰ってくるのが早くても此処まではしゃぐ事なんてなかったのに・・・。
まるで、何か悟られたくない感情を隠しているみたいな・・・・・
「・・かごめ、今日何かあったのか?」

――――・・・。

微かに、かごめの肩が動揺で揺れる。
「やっ・・・・・やだなぁっ・・・何も無いわよ。犬夜叉が早く帰ってきてくれて嬉しいだけ」

(嘘・・・・だな)

直ぐ、判った。
俯いて、自分の顔を見ようとしない態度も、何時もは思っていても決して口にしない筈の「帰って来て嬉しい」という言葉も、
明らかに可笑しい。

だけど・・・・
「そっか。」
あえて、それには触れない事にした。
かごめの態度が、触れられたくない話題を隠している時の自分と同じだったから、触れない方がいいと判断したのだ。
くしゃ、っとかごめの前髪を掻き揚げて撫でると、犬夜叉も何事もなかったかのように振舞った。







「俺・・・来週いっぱいは、帰れねぇんだ」

そう、彼が切り出してきたのは夕餉も終り、一息ついていた頃。
食器洗いをしていたかごめの後ろ姿に、まるで独り言のように打ち明けた。
「え・・・・?」
ぴたりと、かごめの手が止まる。
「何か・・・今日親父から連絡来たんだよ。来週いっぱい、仕事手伝えって。かごめ・・・一人でも平気か?」

どきっ・・・・

「う・・・うん、平気。・・・犬夜叉のお父さんって、何かの企業の社長さん?」
犬夜叉の顔を見ずに、声だけ平静を保ってかごめた問うた。

「ああ、『粋希カンパニー』とか、たまに宣伝してねぇか?」
「・・あ、そういえばしてるね。まっさか犬夜叉のトコだったなんて・・・」
「粋希自体珍しい名字じゃねぇかよ。・・・あーあ。やっぱおめぇ1人だけ残しといたら危なっかしくてしょうがねぇな」
「なっ何よぉっ!!それどーゆー意味っ?!」
思わずかごめは、さっきまでの気分さえ吹き飛ばして犬夜叉に突っかかる。
「言葉通りだよ。おめー、放っとくと何するか判んねぇもんなー」
「何よっ!アンタだってしつれ・・・・」

『失恋して山登りに行く位、突飛な事するくせに!』

云い掛けて、慌てて両手で口を塞いだ。

「・・・・しつれ・・・何だよ?」
「・・ううん。何でも無いっ」
いきなり笑顔を作る辺りで既に可笑しい。いくらなんでも此処まで露骨にされると・・・

犬夜叉は、黙ったままかごめに近付くと、自分の目をちゃんと見るように、両手で頬を包んで、自分に顔を向けさせた。
「お前、何隠してるんだ?」
無理に訊き出そうとはしない口調で、問いだすが、かごめは顔を捕らえられていても猶、目を逸らす。
「だから別に、何も無いってば・・・」
語尾がだんだん、震える。噛み締めた唇から、血の気が引いていくのが、彼女自身も良く判った。
かごめの様子に気付き、犬夜叉が動揺して力を弱めた
――隙に。
かごめは、思いっきり犬夜叉を突き飛ばし、小さく謝罪の言葉を述べた。

「ごめ・・・ちょっと、今日はもう休むね・・・」
残った食器も放って、かごめは自室用にと貰った部屋に、逃げ込むように入った。

これ以上、追求してもかごめを追い詰めるだけだ・・・。
犬夜叉は、追求する事は諦め、替わりに電話を掛けた。相手は隣の住人・・・

『ハイ。崎ですが』
『・・珊瑚か?』
『なぁーんだ、犬夜叉か。どしたの?アンタから連絡よこすなんてさ』
『・・・来週、俺帰れねぇんだ。』
『・・・ふーん。『例の』お仕事ね。ね?』
『その間、かごめの事、みといてくれねぇか?・・・あと・・・』

―出来れば、かごめから何でもいいから聞ける事は聞いてくれねぇか?

『・・・了解。じゃ、お休み』

かちゃっ・・・・


確かに、彼は人間関係が芳しくないと噂されているし、実際そうだ。
でも、何だかんだ云っても、彼はこのマンションの住人はある程度信頼しているのだ。
・・・あくまで『ある程度』だけれど・・・。


明かりを点けずにベッドに寝ていたかごめは何時の間にか、本当に眠ってしまっていた。
彼女は、自分が何故こんなに辛いのか、気持ちを理解出来ぬ侭・・・夢の淵に入っても、考えていた。

この気持ちの正体を。来週の事を・・・。

                                              【続】

な・・・ななな何かとっても計画的ですね、かごめちゃん(汗)。夢の中でも考えますか普通・・・。
やっと五話。とりあえず中年のおじさんの名前は『冥加』(笑)に決定。てか確定。
そして一応桔梗の話題は『今のトコ』、これで終了。またキャラ増えるしね。犬夜叉って云えばライバルも必要でしょうし(笑)。
恋愛感情って、理解出来なかったら、理解出来ない間は苦しいと思います・・・。
あ、でも今の所、どっちかって云うと拾って貰ったって感があるから愛情っていうより慕情でしょーか。(一緒やん)
ホラ 顔近付けても恥ずかしがってないし!!(力説)
っていうか同居モノ書いてる筈なのに新婚さん書いてるような感じがして、ソレ最後まで抜けませんでした・・・・(苦笑)