第四話 過去の想い人と桔梗花【前編】






何時か、話してくれればそれでいい。

そう思っていたけれど、その日が来るのは以外にも早かった・・・。




「ただいま〜・・・・って、誰も居ないか。」
自分の独り言に、半ば本気で呆れつつ、かごめは両手いっぱいの買い物袋をどさっとその場に置いた。

かごめが、犬夜叉の所に居候を始めて早十日。
来た当初は、記憶喪失の所為かはたまた本当に箱入り娘状態で暮らしてきていたのか、とにかく今まで人間社会で生活していたのかさえ疑わしい程の世間知らずっぷりを発揮していたかごめも、犬夜叉に教わり、大抵は直ぐに憶えた。

・・・と、そんな感じの彼女ではあるが、一般知識が無い割に、家事だの勉強等は全く優秀で、妙なアンバランス性を持っている。

それはともかく。
かごめは、買い物に行った時、顔馴染になった花屋からサービスにと貰った小さな、3輪の花束をテーブルに出した。
桃色の、控えめに咲く紫苑の花と、青紫と白の桔梗の花。

かごめは、わざわざ買った小さめの花瓶に花を生けると、買ってきたものを仕舞い始めた。










「ただいま。」
時計の秒を刻む音にもいい加減飽きてきた頃になり、ようやく犬夜叉が帰ってきた。
船を漕ぎ始めていたかごめの頭が、彼の声に反応してぱっと起き上がる。・・・次いで、玄関まで迎えに行く。
「犬夜叉っお帰りっ」

毎回の事ではあるが、嬉々として出迎えてくれるかごめの健気さに内心和みながらも、犬夜叉はおう、と答えるだけでとどめた。
「今日、遅かったね。どーしたの?」
「バイトの方が長引いただけだ。俺の後に入るヤツが今日休みとかで・・・」

他愛もないような話だというのに、かごめはいちいち嬉しそうに聞き入る。
彼とゆっくり話が出来るのなんて、こういう時間しか無いのだから、無理も無いと云えば無理も無い。

「あのね、今日商店街で花貰ったんだっ」
「ふーん。なんのだよ・・・・・・・!」
不意に、犬夜叉の動きが止まる。かごめも何事かと彼の視線を追ってみた・・・先には。

生けられた花があった。

―――・・桔梗・・・・・」

(・・・・・?)

花の名を呼んだだけの筈の犬夜叉の声が、憂いを含んでいる事に、かごめは気付いた。
それと同時に、以前、何故哀しんでいたかと問うた時と同じ感情が、かごめに流れ込んでくる。

重く、切ない、今にも泣き出してしまいそうな感情・・・・。

(そ・・・・っか。)

かごめは次第に悟った。此れは、彼の云う『桔梗』は、花ではなくて、人の名前なのだ、と。
それも、とても大切な・・・でも今はもう失くした人の・・・・。

(貰わなきゃ、良かった、かな・・・?)

犬夜叉の、思いつめた顔を見て、かごめは内心、嫌な事を思い出させてしまったんだろうと後悔した。
そして、それと同時に自分も辛くなって・・・思わず顔が歪みそうになるのを抑えた。

その事にでも気付いたのだろうか?

はっと、犬夜叉が顔を上げた。
そして、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませたかごめが何か云いたげに自分を見上げているのに驚いた。
「ばっ・・・何お前まで悲しそうな顔してんだよっ・・・」
「〜っそんなんじゃ・・・・・・。・・・・・・・・・ごめん、なさい」
「・・・?」
突然の謝罪に、何を謝る事があるのかと、犬夜叉は首を傾げた。
かごめは彼のリアクションに気付き、「だって・・・」と続けた。
「犬夜叉・・・この花見て嫌な事、思い出しちゃったんでしょ?だから・・・」
「な゛っ・・・別にそんなのかごめの所為じゃねぇだろっ?!いーから泣くなっ!!」
「泣いてないもんっ・・・」

泣いていない、と主張するも、いつの間にかその瞳からは大粒の涙が零れていた。

「泣いて・・・なんか・・・」
「〜っ・・・わぁーったから!かごめは泣いてねぇ!これでいいだろっ?!」
言い張るかごめを強引に言い聞かせて、犬夜叉は彼女の顔をタオルで拭った。
少しだけ、謝罪の意味も込めて。

もう、犬夜叉の悲しい感情が消えていると悟ると、かごめのまだ少し涙の痕が残る顔のも、笑顔が戻った。
犬夜叉は・・・つられて笑ったあと、「現金なやつ・・・」と、そっちについての失笑も禁じ得なかった。
「なっ何よぅ〜っ!!」
彼の笑いの意味に気付いてか気付かずにか、かごめは頬を膨らませた。
ただでさえ短躯だというのに猫耳付きの何処から見ても可愛らしい少女に凄まれても怖い、どころか余計に可愛らしくて笑えてくるのに本人が気付く事は無い。鈍感、と云うか自覚が無い、と云うか・・・。


彼女は、きっと知らない。
犬夜叉が、こんなにも笑っているの所を見た人なんて、右の指で数えられる程しか居ないのを。

否。

知っていても、ずっと笑っていて欲しいと願うのに、変わりはないだろう。




――――そして。

彼女の持つ特異能力が、彼女にとって要らないと思いだすのに、そう時間は掛からなかった・・・。


                                                           【続】

ふいー・・・疲れたからちょっと切り上げ・・・(殴)
いやだってずっと書いてたらそれこそバーがミリ単位になるし!!!後から訂正大変だし何よりネタに詰ま・・・
・・・いえ。何でもないですよv
それにしても名前しか出てこない筈だったのに桔梗さん・・・ヤバイ。下手したら出すかも(蹴)。
また尻切れトンボになってますねぇ 文章(泣)。だって思いついた事直打ちしてるんですもの!!!(←計画性無い)
あと、この話始まって間もないのですが、二人のどちらかが、相手を異性として見だすまで暗いです。
ちなみ、『短躯(たんく)』・・・背が低い体の意の漢語的表現デス。