第三話 それぞれの距離





「おや、かごめ様。犬夜叉と何処かへ行かれるので?」

そう、出掛けようとする2人の男女に声を掛けたのは、彼等の隣の住人であった。


「うんっ!折角犬夜叉居るんだもんv」
嬉々として応えたのはかごめ『様』などと呼ばれた少女の方。
そのお出掛けが、傍から見ればデートだと思われるなどとは微塵も思っていないであろう。
ともあれ、その横で相手である青年が、素振りだけ興味なさそうに会話の終了を待っている。

「じゃ、行って来るね!弥勒様!」

「はい、お気を付けて・・・・」

にこっと、屈託なく笑む彼からは、知らぬ人から見ればそれこそ仏並の慈悲深そうな笑顔に映るのであろう。

・・・・実際、そうではないのだけれど。



―かごめに、『弥勒様』と呼ばれていた青年のフルネームは『冥宰 弥勒』。
ルックスもセンスも抜群で、頭脳明晰。黙って微笑んでいれば相手の方が勝手にやって来るような人物である、が。
犬夜叉や・・・表面上、珊瑚には嫌われまくっている。

理由は彼の性格にある。

確かに黙って笑ってりゃぁ、文句なしの完璧な美男子であろう。
だが実際の所、不良で酒好き、詐欺師(と、云っても法に触れるような大した事はしないが)で女好きの軟派。
尚且つ、実家が寺をやっているのに長髪、ピアスでこっちでは普通に医者をやっていたりする。

彼曰く、「もし、父が床に伏したら継ぐ」との事。
・・・全くの余談になるが彼は一人っ子。
こんな都会で、家業無視して医者になるなんて事を云った時、彼の父親がどんな顔をしたかは・・・推して知るべし。


まぁ、大幅に反れてしまったが、彼もかごめの事情を知っている人間の一人である。




「・・・で?お前、何か欲しいものでもあるのかよ?」

殆ど無目的と云っても過言ではない。

何が目的で街まで出て来たかと、尋ねてきたのは犬夜叉の方。

かごめは暫し俯いて、あのね・・・と、切り出した。
「服・・・・ね。
珊瑚ちゃんに貰ったのと、アレしかないから・・・・・・・・・・駄目?」
遠慮がちに問うかごめ。
大方、彼が全額持つ事に罪悪感でも感じているのだろう。
そんな気持ちを察し、犬夜叉はわざとどうでも良さそうに何でも買えと返した。

かごめの顔に笑顔が戻る。
「有難う!じゃ、あと夕飯のお買い物もしよっ!」
「いーけどよ。・・・服が先だろ?」
「うん。今日は何がいい?」

会話と、彼の料理の腕を知っていれば、判るとは思うが、料理・・・というか、家事全般はかごめ担当になっている。
ちょっとした雑談の後、二人は目的の店へ向かった・・・。




「か・ご・めっ♪」

・・・・と。
そう、声を掛けられたのは一応の買い物が終了して帰路についた途中だった。
「あ・・・七宝ちゃん!」
声を掛けてきた子供の存在に気付き、かごめは荷物を犬夜叉に預けて、彼の目線に合わすようしゃがんだ。
「遊んでたの?七宝ちゃん。」
「おう!かごめは買い物か?」
「うん!・・・・あ、楓お婆ちゃんにお手伝い何時でもしますよって伝えておいてくれない?」

楓とは、七宝の祖母で、犬夜叉達が住むマンションの管理人である。
・・・と、マンションと云っても大きさはアパート並なのだが。

「おうっ♪また遊んでやっても良いぞっ」
「ふふっ 有難う、七宝ちゃん。じゃぁね」

犬夜叉に預けていた荷物を受け取ると、かごめ達は、七宝と別れた。


暫く、そのまま無言で歩いていたふたりだったが、ふと、犬夜叉の方が話し掛けてきた。
「お前・・・俺が居ない間、結構色んなトコ行ってんだな」
「・・・・うん。迷惑?」

珊瑚に、犬夜叉は人付き合いがあまり良くないという噂があると聞かされた事を思い出し、問う。
が、犬夜叉の方は「いや、」と返すだけで厭そうな素振りを見せない。
かごめは内心、安堵した。その安堵が、彼女にこんな事を聞かせたのだろうか・・・?

「犬夜叉・・・どうして、あの山で私と逢った時、哀しかったの・・・?」

――訊いた瞬間、全ての時が止まったような感覚に陥った。

そして、彼女の心に流れてくるのは、『動揺』と『怒り』。そして『後悔』・・・・。

「なっ・・・・何云ってんだよ、俺が・・何時・・・・・」

明らかに震える 声。

(これ以上・・・・訊いたら駄目だ・・・・)
直感的に、かごめは悟った。これ以上は、自分が踏み込んではいけない域だ、と。

「・・・そう、だね。何でいきなりこんな事訊いてるんだろ、私。気にしないでねっ」
なるべく明るく、笑顔でそう答えた。
犬夜叉の動揺が、少しだけ、減る。

「さて、と。・・・早く帰ろう!ご飯作るの遅くなっちゃう!」
「・・・・・・。あぁ。」

何もなかったよう、笑顔で云って、彼を促した。


――犬夜叉の、その心の『闇』は何・・・――――――

訊きたくても訊けない答えに、かごめは少し、戸惑いを覚えた。

それと同時に、何時か自分から話してくれる日が来る事を望みながら・・・・。



                                               【続】

何だか・・・なぁ?
第三話(予定)と四、五話がなんか縮小できそうだったから縮小してみました。
だから何か三話から既に暗い(汗)。いやでも五話にはそうなる筈だったのよ 遅かれ早かれ!!!(言い訳)
・・・はい。でもコレ自体、割と早く決着付く話なので。気長にお待ち下さい。
ちなみにお出掛けの際、かごめちゃんが例の兎耳フード被っていったのは云うまでもありません。