第二話 騒がしい毎日
此処は、とあるマンションの一室・・・。
「犬夜叉ぁ・・・もう行っちゃうの・・・?」
無理矢理寝かされたベッドの上で、かごめは上気した瞳で上目遣いに訴えた。
「っ・・・当たり前ぇだろ。・・・お前はまだ寝てろよ。風邪が治るまで。」
半ば、少女の瞳に罪悪感を覚えながらも、犬夜叉は参考書の入ったリュックを手に、彼女に釘を刺した。
・・・そう。
彼も云うよう、かごめは風邪を引いていた。
無理も無い。山奥にほぼ半月、飲まず喰わずで、しかも雨にも打たれたのだ。
寧ろ、今こうやって生きているのさえ驚きなくらいだ。体力の落ちた身体にトドメをさされたのだから。
「いーか?俺が帰って来るまで絶対外うろつくんじゃねぇぞ?」
「・・・判ってるわよ」
かごめが小さくそう答えると、彼はようやく出掛けて行った。
ぱたん。 ・・・がちゃっ
玄関から、ドアを閉める音と、鍵を掛けた音がして、犬夜叉の足音が遠ざかった。
・・・むくっ。
かごめは起き上がり、自分の額に手を当てた。
(・・・・もう、微熱程度・・・・・か。)
心配してくれる彼には悪いがかごめに一日中寝て、彼の帰宅を退屈に過ごす気は微塵も無い。
第一、此処に来て既に二日も寝たきりなのだ。要するに、居候始めて二日間、ずっと寝ているだけ。
・・・と、云う名目になっている。
(身体鈍っちゃいそうだし。どーしよっかなー・・・)
かごめは、リビングの中を覗いて少し考え込む。
・・・・犬夜叉の部屋は、男の独り暮らし、と云う割には部屋は割と綺麗なのだ。彼が出来ないのなんて料理と洗濯くらい。
かごめは、灰色のソファに座った。スプリングがぎしりと軋む。
・・・余談ではあるが、今のかごめの格好は犬夜叉のシャツを羽織っているだけで、下は履いていない。
誤解しそうではあるが、当然下着は着けている。
ただ如何せん、かごめには彼と逢った時に着ていた服以外、無いのだ。
何せ帰ってくるなりいきなり倒れたのだから・・・。
ともかく、彼女が暇を持て余しているのは事実である――――が。
何を思ったか、不意にかごめはベランダの窓を勢いよく開け、軽い身のこなしで隣の部屋に移った。
コンコン。
ノックを二回して、暫くすると、中でばたばたと少し慌ただしい音が聞こえ、やがてシャッとカーテンが開けられた。
そして、ノックしたのがかごめと気付くや否や、出てきた少女は急いで窓を開けた。
「かごめちゃんっ!おはよう!」
「おはよ。珊瑚ちゃん。・・・ごめんね、こんな朝早く」
笑顔で自分を迎えてくれた珊瑚に、申し訳無さそうに謝りつつも笑顔で挨拶した。
さり気なく、家の中に入るよう促され、かごめはひょこっと彼女の部屋に入った。
珊瑚が後ろ手で、ベランダの鍵を締める。
「犬夜叉・・・は、もう学校行ったんだ。」
「うん。だからする事なくって・・・」
珊瑚、と呼ばれた少女。
年の頃は18〜19位。
薄っすらと施された薄化粧や雰囲気は既に成人の女性顔負けである。
腰より伸びた黒髪は、高い所でポニーテールにされていて、それが、彼女の職・・・デザイナーであるが・・・を思わせないような、
どちらかというと活発に動いてそうなイメージを与えさせる。だが服装はそこはそれ、ちゃんとデザイナーというだけあってロングタートルシャツとミニスカートを違和感なく着こなしている。間違いなく、美人の部類の人物である。
それはともかく。
「・・・・かごめちゃん。」
「?なぁに?珊瑚ちゃ・・・・ひゃっ・・・」
それまでコタツの中でぬくぬくと眠っていた愛猫の雲母を抱えると、珊瑚は今しがたまでいじっていたらしい帽子を持ってきて振り向きざまのかごめに被せた。
兎耳で、猫耳も人間の耳がある場所もきっちり隠れて尚且つ紐なしでも強風にさえ飛ばされないタイプの帽子である。
明らかにかごめ専用に作ったものと判る。
「あっ・・・良かったぁっ!似合う似合う!ちょっと子供っぽいかなって心配だったんだぁっ」
「珊瑚ちゃん・・・これ、貰ってもいいの?」
遠慮がちにかごめが問う。
「そんなんでもいいならあげるよ。外に出るとき、困るでしょ?」
・・・恐らく、一睡もせずに作り上げたものなのだろう。彼女の顔に疲労の色が薄っすらと見えていた。
「珊瑚ちゃんっ・・・・・!!」
小さく有難うと礼を云うと、かごめは珊瑚に飛びついた。
実は、珊瑚とかごめが初めて会ったのは一昨日。
風邪を引いていたにも関わらず、かごめは今日のようにやはりじっとしていられずにベランダに出ていた。
耳を隠さないまま。
そこへ偶然にもベランダに気分転換で出てきた隣に住む珊瑚と鉢合わせした、という事だ。
最初は耳と、人間関係が芳しくないとの噂のある隣の住人の部屋に居た少女、ということで驚かれたが、もともと動物好きの珊瑚に、殆ど人間ではあるものの、微妙な所が猫っぽいかごめが仲良くなるのには、1時間と掛からなかった。
・・・流石に事情や生い立ちを聞いたときには驚いた珊瑚ではあったが。
で、それから毎日、というには大袈裟な日数しか経っていないが、とにかく、かごめは珊瑚の所に、
仕事の邪魔にならない程度にお邪魔していた。
勿論、その所為で熱がなかなか引かないのはかごめも珊瑚も承知している。
ただ、それを彼女の保護者である犬夜叉が知れば怒られる事請け合いなので秘密ではあるが。
・・・余談ではあるが、犬夜叉宅の逆の方の部屋は、実家が寺だと云うのに軟派で医者をしている「冥宰 弥勒」という青年が居て、
かごめもきっちし彼に口説かれたのは云うまでも無い。
・・・色恋に今時の幼児より鈍いらしく、かごめには通じていなかったが。
それはともかく。
「あとさ、これも着てみてくれない?」
かごめがようやく離れてから、珊瑚は、机に広げていた袋をかごめに手渡した。
「・・・?」
「服。かごめちゃん、一着しか持ってないって云ってたじゃない?流石に作る時間無かったから買ってきたんだけど
・・・サイズ合う?」
「えっ・・・・・・・。うん、合いそう、だけど・・・」
途端に決まり悪そうに俯くかごめ。
「え・・・何かヤバイ事ある・・・?」
珊瑚もかごめの顔に不安を覚え、問うが、かごめの本音はそこではなかった。
「っじゃなくって・・・。何か私、珊瑚ちゃんに世話になってばっかりだから・・・ごめんね」
元々垂れ気味だった耳が、申し訳無さそうに更に垂れるのを見て、珊瑚は単純に可愛いと思った。
くすっと微笑むと、かごめの頭を撫でた。
「いいってそんなの!あたしが勝手にお節介してるだけなんだから!」
「・・・・ごめんね。でも、有難う・・・」
「あのなぁ・・・・・・・」
悪戯をした後の子供のような笑みを浮かべている少女に、青年は呆れきった溜息混じりの科白を吐いた。
今日で三日目・・・。流石に、外・・・珊瑚の部屋に出入りしていたのがバレたのだ。
・・・否、今まで気付かない振りをしていて、今日ようやくあからさまにバレただけ、と云った方が適切らしいが。
「ごめんね、犬夜叉」
「本気で悪いって思ってねぇだろ。」
彼は買い物袋を机の上に粗雑に置いて、彼女の隣・・・ソファに座り込んだ。
双方無言のまま、時計の針だけが部屋に木霊していた。
「いぬ・・・や・・しゃ・・・?」
不安げに、かごめは彼の顔を覗き込んだ。
―――と、次の瞬間、眼が合って、戸惑う。
犬夜叉は、黙ったまま、かごめの額に、外気で冷えた手を当てて、微笑んだ。
「もう、熱は下がったみてぇだな・・・・」
と。
それを聞き、彼が別に怒って黙り込んでいる訳ではないと悟り、かごめも微笑んで返した。
「うん。心配してくれて、有難う・・・・」
【続】
・・・な・・・なんですか この尻切れトンボ・・・・(大泣)。
とりあえず珊瑚ちゃん登場ってことで。だからもう次回出てくるキャラは・・・・今回ちょっと触れてた「あの人」なのは云わずと知れた所でしょう。
犬夜叉を何時ものように(笑)動かしたら駄目なんですからもう色んな意味で大変。
いや でもかごめちゃんに甘い犬夜叉ってのは健在。やっぱ男性がちょこっと優勢だと素敵v
こ・・・更新激遅くても引かないで〜・・・・。
ストックはもう四話まで出来てるのよ〜・・・(ならとっとと更新しろや。)
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