序幕
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幼い至宝 |
「やくそくしてくれる?」 「・・・・・ああ、約束だ」 幼い童女の小さな指が少年の指に触れる。 「ぜったいだよ?うそついたらだめなんだからね!」 「つかねえよ、嘘なんて」 「うん、だいすき、――――!」 屈託のない笑顔に、子供だけに嘘のない言葉にどくりと少年の心臓が動く。 暫く忘れていた感覚が、戻った気がした。 「――――?」 童女は不思議そうに少年を見つめて、やがてゆっくりと、撫でられた頭に、くすぐったそうに目を細めた。 「まいったな・・・」 「?」 唐突の少年の言葉に童女はきょとんと首をかしげたが、少年が首を振りなんでもないと答えたのでそれ以上の追求はしなかった。 というよりも、思いつかなかったのだろう。 賢い子供ではあるが、こんなところはまだまだ幼い。 「―――。」 少年が、少女の名を呼ぶ。 「なあに?」 よじよじと、少年の膝の上に上りながら童女は尋ねる。 それを苦笑交じりの笑いで見守りながら、時々手伝いながら少年は言葉を紡ぐ。 「約束してやるから、代わりにひとつだけお前にお願い事、していいか?」 「おねがいごと?」 「そう」 「いいよ。なあに?」 そうしてゆっくり、“誓約”を告げる。 それは再び見【まみ】える為の約束なのか、それとも二度と会わないようにという少年の願いなのか。 「次、俺と会ったときは名前で呼んでくれ。覚えてたら、でいいから」 「わすれないよ!あたし、わすれないもん!次、あったときも――――のこと、なまえでよべるよ!」 むきになったように言う童女の頭を撫でながら少年は笑った。 その笑顔が、どういう意味なのか、少女はまだ知らない。 そして、少年自身もまだ、分かっていない。 「じゃあ、契約成立だな、お姫サマ」 再びの邂逅があるかどうかを、二人はまだ、知らない―――――――。 【終】 短。(序幕ですから・・・・) 戻 |