拒絶の意味〜追う者と逃げる者〜
【前編】
それは、彼とて百も承知の上の筈だ・・・―――――
「待ちやがれ かごめ――――――っっ!!」
――自分の無理強いは、彼女に愛想を尽かされる元だ、という事は―――。
「・・・・っ連いて来ないでよぉ おすわりっ!!」
ずしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!
――それでも、追いかけてしまうのは・・・好きだからこそ生まれる不安から逃れる為なのかもしれない・・・――。
「ほう。・・・・・・此れは、また・・・・・・・」
完全に沈黙した彼を見下ろして先に口をついたのは、法師であった。
「随分とど派手に倒れたもんだねぇ・・・」
呆れとも、同情とも取れる口調で、法師の台詞を続ける珊瑚。
「ま、どちらにしろ・・・・・・何時まで続けるつもりなんじゃ?犬夜叉」
彼の意識が沈んでいるからといって、七宝はその辺に落ちている棒切れで少年を突付いた。
「これ、七宝」
と、法師は苦笑して七宝の行動を窘めるよう、云って・・・
「こう云う場合は相手の意識が戻った時に誤魔化せる程度の悪戯をするもんです。例えば」
「ええいっ!!んな悪知恵七宝に憶えさせるなっ!!」
止めるどころか助言を与えようとする法師を軽く叩いて珊瑚が止めに入った。
「ま、それはそうと・・・」
珊瑚は、木の陰に隠れて少し申し訳無さそうにこっちを見ている少女に向き直った。
「コイツ、もう暫く動けないだろうからもう安全だよ、かごめちゃん」
彼女の台詞で安心したらしく、ようやくかごめはひょこっと木の陰から出て、皆の元に寄って来た。
「ね、かごめちゃん。犬夜叉と何があったか知らないけどこれじゃぁ埒があかないよ。
まさかずっとこんな事続ける気じゃないんだろう?」
「そりゃ、そうだけど・・・」
妙に口ごもるかごめ。
「そもそも、何が原因でこんな事になったんです?」
法師が、興味津々と云った具合で、少女に尋ねる。
「それは・・・・・・・・・・・・・・・」
躊躇いつつも、訳を言おうと、かごめが口を開いた、時。
「・・かぁーごぉーめぇーっ・・・・」
まるで、地の底から響くような、明らかに怒気を含んだ声が、彼女の後ろ下の方から聞こえた。
かごめの肩が一瞬、びくっと跳ねる。
「てめっ・・・何なんだよ毎日毎日!俺が何したってい・・・」
「おすわり おすわり おすわり。」
復活ついでに文句を言いつつ起き上がろうとした犬夜叉に追い討ちをかけるようにかごめの言霊が飛び・・・彼は再び地に沈んでいった・・・。
「あ゛―っもう訳判んねぇ かごめのヤツっ!!」
おすわり3連発を喰らって再起不能になった暫く後。
犬夜叉は何時にも増して不機嫌な顔で愚痴っていた。
――因みに此処は、例の法師の得意分野である、彼曰く『正当な交渉』で、低価格で確保した、城下町の中でも明らかに一番裕福な宿屋。少し早いが行き過ぎて野宿になるよりマシという事で、あれから少し歩いた所であるこの城下町に立ち寄ったのだ。
つい先程、夕餉も済み、部屋を二つ取ったという事で、女性陣と男性陣に別れた所だった。
・・・余談ではあるが、そう為るに至っての経緯に、例の如く法師が「じゃぁ、男女二部屋で別れますか」などと公言し、二分と経たぬ内にその整った顔に紅葉型の跡がくっきりと残っていたのは最早云うまでも無い。
まあ、今回何だかぎくしゃくしている二人を眼の前に、それをいうのはかなり無神経とも取れるから、という事もあるが。だが法師だって単に珊瑚をからかいたいだけであって、本気でそんな部屋別けする筈もないのだが。・・・やはりこれもまぁ一種のスキンシップのようなものなのだろう。
ともあれ、そんな微笑ましいちょっとした事の後、不平を零したのはやはり少年であった。
「そりゃぁ、お前の気持ちも解からんでもない。」
食後に出された白湯をすすり、弥勒は云う。
「あ゛?」
「惚れた女子が、しかも国から帰ってられる極限られた、仲を進展させる筈の時に、ちょっと傍にいなけりゃすぐ捜しに行くような性格の男がもう四日もその女子に拒絶されていれば・・・さぞ苛立ちも募ろう」
大袈裟に芝居がかった手振りで、いかにも哀れむように言う弥勒。
「・・・っうっせぇ!」
本当は面白がってるくせに、と云う少年に対して、おや、バレましたか?と、法師はそれをあっさりと認めた。
「もう今日で四日目じゃな。犬夜叉、何も覚えはないのか?」
何時もはかごめの布団で一緒になっている七宝も、今夜はこちらの部屋に残っていた。
茶々を入れる為にか本気で心配してかは定かではないが。
「ねぇよ!んなもん!」
とうとう不貞た犬夜叉に、まぁまぁと弥勒が仲裁に入った。
「ともあれ・・・このままという訳にもいかないでしょう。
旅の方にも差し支えが出ますし、何よりお前が一番納得いかぬ筈。」
「じゃぁ、どうしろっていうんでぃ!」
慣れていない者がされれば、眼を飛ばされたと勘違いされても無理ない表情で犬夜叉は問う。
「いいか?まず、お前は最近、かごめ様の逆鱗に触れるような事はしていない。
・・・・・此れは断言出来るな?」
「おう・・・・」
気迫さえ感じられる態度で少年に一歩、歩み寄る弥勒。
「宜しい。では次に・・・・・」
「桔梗とも会っとらんのじゃな?」
ぴしっ・・・・・・・・
子狐の悪意は無い一言で、部屋全体に重苦しい空気が漂った。
男二人は硬直し―――先に硬直を脱した法師は訝しげな目で少年を見た。
「・・・まさか、お前・・・・・」
青年に此処まで言われ、ようやく犬夜叉も我に帰った。
「ちっ違!最近桔梗には・・・・・・・」
「――でしょうね。その様子じゃさっきまで桔梗様の『桔』の字も思い出さなかったようですし」
「やっぱりかごめがそれ程気になるんじゃなぁっ」
「〜っ・・・て・め・え・らぁ―――・・・・」
にやにやと面白そうににやける二人を見て、ようやく犬夜叉はからかわれている事に気付く。――が、もう少しで犬夜叉が彼らに殴りかかるという時、弥勒が待ったをかけた。
「早まるな。
それと・・・・犬夜叉、お前最近かごめ様の顔を見るなり自分を避けようとする理由を問おうとはしていないか?」
云われ、う゛、と小さくうめき、犬夜叉の動作が止まる。
「女子と云うものは、他人に知られたくない秘密というものを一つや二つ持っています。特にそれが好いた者に対してというのならば尚更。それにな、かごめ様とて、ずっとこの状態を続けるという気など無いのです。・・・此処は時期を見なさい。お前には特に大切な事です。」
妙に説得力のある、静かな、でも重みのある口調でそう云い、法師は微かに笑んだ。
「・・・分かってる・・・・・」
そう、小さく呟くよう言った少年の横で、実は七宝が
(じゃが、『待つ』なんて気長な事、犬夜叉に出来るんかのう・・・?)
と、彼に殴られる事を恐れ、あえて口に出さなかった台詞を心の中で呟いたのは七宝本人しか知らない・・・――――。
【続】
何だか今回ギャグ風味☆
今回はちょっぴし笑える要素の入った犬かご(珍しい)。しかも何時も苛められキャラに収まっている弥勒様が出張ってる(驚)。
突然かごめちゃんに拒絶された犬夜叉!勿論真っ先に思う事はただ一つ・・・。「犬夜叉、あんたまた何かやったの!?」(笑)。
文句があるんならかごめちゃん一筋になってから言え。
・・・てか、原作桔梗さんもう居ないじゃん・・・。
因みに部屋は隣同士で取れなかったから犬夜叉の愚痴はかごめちゃんには聞こえてません。
ま、まあとにかく後半を待て!(厭だって返事は聞き流す!/笑)
因みに後半はシリアス、犬かごオンリー!
(H15.1.4)
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