サラマンダー(焔の精霊)?×ウンディーネ(水の精霊)?のロイエド?女体エド?(疑問形だらけですね)
DEAR PRINCESS
「触れるな」
ぴしゃりと言い放つと“それ”は冷たい眼差しを湖の外へ向けた。
金の双眸はきつく焔【ほむら】の動きを制する。焔は肩をすくめると、まるで不可解だとばかりの表情で湖の端へ座り込む。
「いつまで経ってもつれないね、君は」
「焔の身で水に触れようとするからだ。そんなに消滅したければ無理に俺をつき合わせるな、寝覚めの悪い」
「おや、私の心配をしてくれているのかい?ウンディーネ」
「耳は飾りか?俺の寝覚めを悪くさせるなと言っているだけだ」
ぷいと背を向けるとそのまま“それ”は金糸を揺らして湖の中央にまで戻っていこうとする。
「ああ、悪かったよ、エドワード。・・・・戻っておいで」
黒い双眸を柔らかにしながら焔は云う。
あまり慌てたような風はない。もう帰ってしまうならそれでよし、また明日に来ればいいとでも思っているのだろう。不本意ながら、『彼』が今、何を考えているのかが手に取るように理解り、“エドワード”と呼ばれたそれは渋々足を止めた。
金の容貌。
水の精霊は本来、蒼い髪と眼を持つ筈だが、父に総ての創造主を持つエドワードの髪と眼は、見事なまでの金だった。総てを慈しむようで、またその美しい色彩は総てを拒むようにも見えたが、幼い容貌がその(いい意味でも悪い意味でも)イメージを半減させていた。
近くから見ればよく分かることだが、遠めでは、少年にも見える“少女”。
云えば憤慨してしまうのは間違いないので言うことはないが、焔はその小柄な、華奢に見えて隙のない体も、純粋を湛える瞳も、打てば即座に響く性格も好きで、平たく言えばこの少女にとても好意を持っていた。
でなければ、恐れ多い身である少女に話しかけることなどあるものか。
そして、対する彼女をいざなうこの焔を纏う男は、奇しくも少女と同じく、『焔』の名を持っているにも関わらず、本来のものの筈の、紅の髪と眼ではなく、漆黒の容貌を持っていた。ただし、瞳の奥には焔が揺らいでいるのが、彼が焔の属性であることをはっきりと知らせていた。
格は、同じ属性の中では一番上だが、それでも少女の格には敵わない。本来ならば、このように親しく口を利くことも、会うことも赦されない身だ。しかし、お互いに異端の身であり、恐れ敬われていた身でもあり、引いては同類でもあった。
良かれ悪かれ、他と違う力を持つ者は他者に一線引かれる。
エドワードにとって、数少ない自分を普通に扱ってくれる者なのだ、自分は。『彼女』が自分を無碍に出来ないことは知っていた。卑怯だ、とは思ったけれど。『彼』にしてみれば、彼女も、数少ない自分を普通に扱ってくれる者なのだから、失いたくないし、少しでも傍にいたいと思うのだ。
「どうしてあんたはそう、調子がいいんだよ」
「・・・・あんた、ねえ?」
言葉に含みがある風に笑ってみせると、金の瞳は不服そうに歪む。『彼』が、何を要求しているのかが分かりすぎるくらいに分かり、少しだけ嫌になる。
「とにかく、湖の中には入るなよ、勿論俺にも触れるな、・・・・・・ろい」
「肝に銘じておこう、エドワード」
わざとらしく、さらりと名を呼ばれてエドワードは顔を赤くした。
「〜名は言霊でもあるんだからそう軽々しく口にするな!」
「おや、君の父君以外に君を言霊で拘束できる者などいないだろう?私も、そうするつもりはないし。ただ、愛しの姫君の名を何度でも呟きたいと思うのは駄目だろうか?」
「愛しのとか云うな莫迦!確かに俺を言霊で拘束できるのは親父だけだけど、あんた違うだろ!」
「まあ、ねえ。さすがに、君に言霊を使われれば私に抵抗の術はないわけだが」
「分かってるなら俺に名前言わせようとするなよ!」
「ああ、もう・・・いい加減その言葉遣いは改めなさい。折角の母君譲りの美人さんが台無しだ」
「余計なお世話だ!母さんの世辞言われたって俺は絆されない!ていうか、ごまかすな!」
初めて出会って随分経つが、いまだにこの男に口で勝ったことは一度もない。
人間と違い、精霊の年の取り方は比較できないほどに長い。青年の風貌をしている彼も、実は相当の年月を生きているのだろう。人の身で15程の自分がそうであるように。
人間と話をするときに、血気盛んな性格をしているとはいえ、経験豊富なこちらが言い負かされるようなことはないが、そのエドワードですら勝てないのだから、どれだけのことを悟っているのか、想像に難くない。
「分かっているけれどね」
すうっと、ロイの声のトーンが落ちる。怒っているという風ではない。誘いの意味合いを含ませている。
この声に弱いことを彼女が弱いのを見越してしているのだろう、この性質の悪い男は。わざと顔をエドワードの耳傍へ近付けたのがいい証拠だ。
「それでも、呼んで欲しいんだよ。君にだからこそ」
それまで、大人しく制約を守っていたロイは、囁いたあとにそっと、エドワードの頬に触れる。
反射的にびくりと体を痙攣させると、弾かれたようにエドワードは後ずさった。痛み、というほどではないが、過ぎる温かさに露骨に眉を顰めた。
「ッの、莫迦!焔が水に触れるなと何度言えばいい!!」
それとも、そんな基本中の基本すら分からないかと罵声が飛ぶが、当のロイは知らぬとばかりに視線をそらして意地悪く笑った。
「おや、すっかり忘れていたよ。すまないね、エドワード」
「いいから手を出せ!」
苛ついたようにエドワードが促すと、わざとらしく首を傾げる焔。
「どうしたね?いきなり。手よりも私本人を気に入ってくれれば嬉しいんだがね」
「軽口叩いてないでさっさと手を出せ。消滅したらどうする」
途端に痛ましげな表情を作るエドワードに、さすがのロイも笑みを消した。
「・・・心配しなくても、これくらいで消えるほど弱くはないよ。――普通の焔の精霊なら、君に触れた瞬間に消滅するくらい君の水としての力は強いだろうが――言ったろう?混血という同類で、焔の中でも私は最も力が強いから、まだ平気だよ。・・・私は、自分が傷つくよりも君に触れることの方が重要なんだよ」
「・・・・莫迦者」
「すまないね?」
そう言って、さりげなく服の裾で隠していた、エドワードに触れた手を正面に翳す。
人の肌のような形を保っていた腕が、陽炎のようにブレたり戻ったりしている様に、エドワードは益々眉を顰める。
「ああ、そんな顔をするんじゃない。私が好きでした結果なんだ」
「でも」
「・・・・これくらい、すぐに元に戻るしね」
言って大気の気を腕に集中させると、朧げな存在だった腕が瞬時に実体を取り戻した。具合を確かめるように手を握ったり閉じたりしているロイの姿をじっと見つめながら、やがてエドワードは俯く。
「やっぱ、過ぎた願いなんだよ」
「エド?」
「俺の力、異端なんだ。アルはまだ母さんに近いから、仲間にも可愛がられてるけど。俺だけは、仲間が触れてくるだけでも多少の抵抗が生じる。――同属でそれなんだぞ?天敵って言ってもいいくらい相性悪い焔なんて、もっときついじゃないか。俺に近付かない方がいいんだよ、ロイは」
ひとりきり。
周りに仲間はいるのに、この体に流れる情報【血】のせいで、誰とも触れ合うことができない、業。
創造主と呼ばれる神が本来司るものは総てに対する安寧。こんなに力の齟齬が生じるのは、父曰く、感情の揺れが激しいエドワードの年齢までは当然のことだという。けれどそれが彼女にとっては何よりも辛い。
それを理解してくれたのが、愛する母や弟でもなければ父でもない。本来、精霊の属性の中では最も相性の悪いとされる、焔の属性の長だったなんて。
それでも、初めて存在を知ったときの喜びといったらなかった。傷口の舐め合いを求めるような者だったら、きっとエドワードも傍へいたいなどと考えなかっただろう。同じ者だという、共犯めいた境遇を省いたとしても、恐れ多い身と敬われるエドワードに初めから親しく声をかけてくれたロイをどうしたら嫌いになれるだろう。
そして、その彼と離れなければと思うだけで、どうしてこんなにも悲しまずにいられるだろう。
「・・・・・・エドワード」
ゆっくりと、涙を零さないようにきつく閉じていた瞳を開けるように、ロイの声が促す。ゆるゆると不安げに彼の顔を見つめると、ロイは困ったような笑いを浮かべて頬を掻いていた。
「何ていうかね・・・そこまで、好意を持ってくれているのは嬉しいのだがね。あんまり嬉しくさせないでくれ。抱きしめたくなるだろう?」
「・・・・・・・・だめ」
触れただけで“こう”なるというのに、抱きしめるなんてことをしたら一体どうなるのか。
想像しただけで恐ろしくて、エドワードは拗ねたような声で拒否して、両足を抱えて座り込んだ。
「触れられないのがもどかしすぎるんだよ、エドワード」
「・・・・・・・」
甘い声音にかあ、と朱を上らせて、エドワードは目を閉じて膝に顔を埋める。
本当は、仲間のもとへ戻りたい、と感じている自分もいるのだけれど、それでも去らないのはこの焔の存在のせいであって。
「早く、“時期”を終えて君に触れたいな」
そうすれば、こんなにもどかしくはないのだから、と。
そう、切なげに笑うロイに、素直にうんと言ってあげられればいいのだけど。
「・・・あんたエロそうだから、触れるようになったら何されるか」
なんて、可愛げのないことを返すことで精一杯だけれど。
根源にあるものは二人とも同じだということだけは、何十年も前から、当に分かりきっていることで。
FIN
素直に女体エドしたくなかったんだよ・・・(捻くれ者め)
ある意味悲恋。触れられる距離にいても触れられない。もしかしたら最悪、死ぬまで触れられなくて、亡骸が大気に還る瞬間さえも触れられないかもしれないという。ウンディーネは本来、愛する者が出来るまで完全な魂が出来ないといいますがまあここは精神的にロイさんに全て委ねてるっぽいからもうそれでいいじゃんというアバウト判断で(帰れ)。
女体化エドはうちでは全部ひっくるめてエリィだけど、パラレルでエリィ行ったらそれこそ何の作品が元ネタなのか分からなくなるので男名でそのまま。
パラレルって、よほどその作品好きじゃなきゃ出来ないよね。
・・・・・・・・・・とうとうこっち(鋼)でもパラレルしちゃったか・・・・・・・・・・・・・・・しかも続けたいな、これ・・・
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