<3> 「っ!!」 殺される。と、思ったから目を閉じて、奈落へ堕ちる瞬間を覚悟していた。 が、目の前に起こったのはなんだろうか・・・。 「何だぁ、こいつ?」 エドワードを庇うように現れた“彼”は手から焔を出現させ、下っ端に一撃を浴びせた。 アルフォンスも救い出し、ついでとばかりに、兄弟たちの周りに屯っていた下っ端どもにも勿論、騒ぎにならない程度の焔を浴びさせた。 終始、“彼”は無言かつ口元に楽しそうな笑みを浮かべて。 「ぐえ・・・っ」 「くそっ、こいつ強い」 それはまるで、ダンスでも踊っているかのように身軽で器用に・・・でも、その“彼”が纏う気は人間のソレとは違う。 兄弟は唖然と、その一部始終を見つめることしか出来なかった。 「大丈夫かい?」 “彼”はいつの間にか腰を抜かしていたエドワードに手を差し伸べてきた。 エドワードはその手を掴み立ち上がろうとした。 ――あれ?この感じ何処かで・・・ “彼”がまるで闇を貫く、一陣の光のように思えた。 昔、同じことを体験した気がする。 ただ、そんな気がした・・・。 「・・さん?兄さん。ねぇ、どうかしたの?さっきの奴ら、この人がコテンパンにしてくれたよ?」 「え?あ、うん」 気付けば、エドワードは立ち上がっていた。 辺りを見ると、キュッーっと伸びている下っ端の山が出来ていた。 「これ全部あんたが?」 「ああ」 新たな危機感が芽生え始めたエドワードは敵意を剥き出しにし、人外と決定された“彼”を睨み付ける。 「君が呼んだから、助けに来ただけなんだが」 別にそうに警戒しなくても、と後に続ける。“彼”は肩を竦め、満更でもない顔をする。 「兄さん、一応この人僕たちの命を助けてくれたんだから、ね」 「でも、こいつ・・・」 エドワードは改めて“彼”の姿を見つめる。 全身黒の衣服を身に纏い、しかも、瞳は何の迷いもない黒真珠で、髪は黒く艶やかでいて、かつオールバックに纏め上げられている。 「あんまりじろじろ見ないでくれないかな、さすがに至近距離だし照れるんだが」 「あ、ごめん・・・」 「兄さん、この人って、吸血鬼って言うんだよね」 「ああ、何か偉そう。それより、アルは怪我ないか?」 「うん。特に」 “彼”の存在をあえて無視し、アルフォンスの元へ駆け寄る。 何事もなく、いつものようににこやかで、愛しい弟が生きている。 そして、自分も・・・。 生きている。ただ、そのことが何よりも嬉しくてしょうがなかった。 「兄さん。顔、ナイフが掠めたのかな・・・?」 「え?」 アルフォンスに言われ、エドワードは自分の頬に手を当て傷口を確認しようとする。 が、 “彼”の方が近付くのが早く、驚いた時には傷口を舐められていたのだ。 「ちょ、今、あんた何した!!」 「ん?いや、血が出ていたし・・・何よりも、ね?」 「「ね?」」 「さすがにこの真っ昼間に現れて、焔を出すんじゃなかったなって」 「はい?」 「いや、さすがにスタミナが切れた」 「はい???」 「ってことは、今ほんの一瞬で生気吸い取っちゃったってことですよね?」 「ああ。弟君は頭がいいね。さて、そろそろ戻らないと怒る人がいるんじゃないのか」 「そうですね。そろそろ戻ろっか、兄さん」 「舐め・・・舐められたぁ!!」 エドワードは舐められた頬を押さえながら路地裏で絶叫したのだった。 BACK NEXT |