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「っ!!」



殺される。と、思ったから目を閉じて、奈落へ堕ちる瞬間を覚悟していた。

が、目の前に起こったのはなんだろうか・・・。



「何だぁ、こいつ?」



エドワードを庇うように現れた“彼”は手から焔を出現させ、下っ端に一撃を浴びせた。

アルフォンスも救い出し、ついでとばかりに、兄弟たちの周りに屯っていた下っ端どもにも勿論、騒ぎにならない程度の焔を浴びさせた。

終始、“彼”は無言かつ口元に楽しそうな笑みを浮かべて。




「ぐえ・・・っ」

「くそっ、こいつ強い」




それはまるで、ダンスでも踊っているかのように身軽で器用に・・・でも、その“彼”が纏う気は人間のソレとは違う。

兄弟は唖然と、その一部始終を見つめることしか出来なかった。






「大丈夫かい?」


“彼”はいつの間にか腰を抜かしていたエドワードに手を差し伸べてきた。

エドワードはその手を掴み立ち上がろうとした。




――あれ?この感じ何処かで・・・




“彼”がまるで闇を貫く、一陣の光のように思えた。

昔、同じことを体験した気がする。


ただ、そんな気がした・・・。



「・・さん?兄さん。ねぇ、どうかしたの?さっきの奴ら、この人がコテンパンにしてくれたよ?」

「え?あ、うん」



気付けば、エドワードは立ち上がっていた。

辺りを見ると、キュッーっと伸びている下っ端の山が出来ていた。



「これ全部あんたが?」

「ああ」



新たな危機感が芽生え始めたエドワードは敵意を剥き出しにし、人外と決定された“彼”を睨み付ける。



「君が呼んだから、助けに来ただけなんだが」


別にそうに警戒しなくても、と後に続ける。“彼”は肩を竦め、満更でもない顔をする。


「兄さん、一応この人僕たちの命を助けてくれたんだから、ね」

「でも、こいつ・・・」



エドワードは改めて“彼”の姿を見つめる。

全身黒の衣服を身に纏い、しかも、瞳は何の迷いもない黒真珠で、髪は黒く艶やかでいて、かつオールバックに纏め上げられている。



「あんまりじろじろ見ないでくれないかな、さすがに至近距離だし照れるんだが」

「あ、ごめん・・・」


「兄さん、この人って、吸血鬼って言うんだよね」

「ああ、何か偉そう。それより、アルは怪我ないか?」

「うん。特に」



“彼”の存在をあえて無視し、アルフォンスの元へ駆け寄る。

何事もなく、いつものようににこやかで、愛しい弟が生きている。

そして、自分も・・・。


生きている。ただ、そのことが何よりも嬉しくてしょうがなかった。



「兄さん。顔、ナイフが掠めたのかな・・・?」

「え?」


アルフォンスに言われ、エドワードは自分の頬に手を当て傷口を確認しようとする。

が、

“彼”の方が近付くのが早く、驚いた時には傷口を舐められていたのだ。


「ちょ、今、あんた何した!!」

「ん?いや、血が出ていたし・・・何よりも、ね?」

「「ね?」」


「さすがにこの真っ昼間に現れて、焔を出すんじゃなかったなって」

「はい?」




「いや、さすがにスタミナが切れた」




「はい???」

「ってことは、今ほんの一瞬で生気吸い取っちゃったってことですよね?」

「ああ。弟君は頭がいいね。さて、そろそろ戻らないと怒る人がいるんじゃないのか」

「そうですね。そろそろ戻ろっか、兄さん」


「舐め・・・舐められたぁ!!」



エドワードは舐められた頬を押さえながら路地裏で絶叫したのだった。











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