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エドワードには住む家もなく、両親もいない――いや家族はいる。たった一人の愛しい弟が。

物心ついた時には、もうすでに小さな孤児院に他の身寄りのない子供たちと一緒に暮らしていた。

だが、明らかに幼いであろう二人を孤児院に預けた大人がいるはずだ。

そう疑問に思い、ここ最近からずっと院長に尋ねてみても・・・こう一言。




――お前はただ忘れているだけなんだ。いつも傍に・・・いや“陰”に潜んでいるさ――





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「まったく、院長も素直じゃねぇ・・・」

「何言ってんの兄さん。ツッコミどころが違うよ。それに、しつこ過ぎにも程があるよ?」




本日は孤児院の皆で社会勉強をしようと院長の奥さんに言われ、院長に連れられ町へと出てきていた。

場所が変われば教えてくれると、勘違いをしたエドワードはいつものように見事に玉砕したのだった。



そんな可愛らしい間違いをする兄を微笑ましく思った弟のアルフォンスは、言うとクスクスと笑い出した。



「何だよ、アル。笑うなよ」

「いやだって兄さんってば、どういう風に考えたら外で重要なことを聞けるのかな?って思っただけで」


「何だよ、さり気なく馬鹿にされてる気がするんだけど?」

「えーそんなことないと思うけどぉ?」

「ゲッ。またされた・・・」






この兄弟は他の子供らしからず知識、興味、集中力がずば抜けて秀でており、このように町へと出かけることがあれば、すぐに一行から逸れるのだった。


で、いつも一行から逸れようとするのは兄の方で。弟は滅多なことで自ら進んで逸れようとはしない。

興味本位で色々な所を探索したい。ただそれだけの為で。


で、兄は色々無茶なことを仕出かすので、誰に頼まれたわけでもなく、いつの間にか弟も一緒に着いて行く様になった。



話を元に戻すが、弟は滅多なことで自ら逸れはしないのだ――そう、滅多なことで――。





「アルー?また猫か?」

「うんvvほら見てよ、この毛色。絶対白だと思う」




弟はそう言うと、しゃがみ白猫を抱き上げる。

だが、アルの腕に中には他にも黒、ブチ、ミケ・・・と溢れんばかりに抱えていた。

今回の脱走はアルが原因だ。こういう、栄えた町には表向き綺麗なイメージがあるようだが、実際、裏通りなどはゴミや捨てられたペットで溢れている。




「あー、そうじゃねぇ?」

「だってさぁ、絶対洗ってやると、綺麗な白色だしー」




弟の猫好きは、今に始まったことじゃないで、エドワードも呆れて、曖昧にしか返事をしないでいた。

エドワードはと言うと、先ほど、立ち寄った本屋でコツコツと貯蓄していたお金で“近代科学とは・・・?”と言う本を買っており、それを片手に読みながら弟の相手をしていた。




「アル?また拾いすぎるとグレイシアさんに困った顔されるぜ?・・・ってアル?」




そう言えば、先程から静かだった。いつもなら長々と猫トークが繰り広げられるのに、急に居なくなったかのように消えていた。



「アル?・・・ったくどこいきやがったんだよ、あいつ。無茶するなってあいつのためにある言葉じゃねーか」



エドワードは手に持っていた本を閉じ、裏路地に目をやりながら、通り過ぎていた道を戻っていた。



――俺が本なんか読んでたから・・・?――


チッと舌打ちをし、アル、どこだ?と言いながら、暗い路地を通り過ぎていた。



その様子を陰ながら、こっそりと姿を消して様子を見ていた“全身黒ずくめの男”もいた。





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「僕が何したって言うんですか?!」


アルフォンスは二人の男によって雁字搦めにされていた。腕に抱えていた猫たちはすでに逃げ去っている。

一生懸命逃げようともがくが、大人のしかも男二人だと、分が悪い。簡単に逃げようもない。



「お前が俺たちの取引をじっと見てたからじゃねーかよ?あ゛?」

「そうだよ。俺たちはガキにこんな所を見られて、ボスに合わせる顔がねぇよ」



攫われた理由・・・つまり裏取引がちょうどされていた所にアルフォンスが現れ、口封じされているといった所であろう。


「だったら、僕が黙っていればいいんでしょう?」

「そうだなって・・・そういう訳にはいかねぇんだよ?なぁ?」



もう一人の下っ端は頷くと、(実はもう一人いた)下っ端に早速と言わんばかりにナイフで、切りかかれそうになった。



「!!」


殺される!アルフォンスはそう思い、目を瞑った。目を瞑る瞬間に、大好きな兄の笑顔が眼を過ぎった。





**




「こんのぉ悪党ども、うちの大事な弟に何しやがる!」


エドワードは裏路地を通り、どうやら弟のピンチを救うことが出来た。

ついでとばかり、走った勢いで弟を雁字搦めにしている下っ端二人を、持っていた本で殴りつけた。



「兄さん!なんで?」

「勘!」


ニヤリと笑い、弟を助けた。

他の下っ端にも下蹴りをかまし、腕を掴んですぐさま、この場を逃げようとした。



「なんだこのチビぃ」



起き上がった下っ端にエドワードにって暴言を吐かれ、ギッと睨み付ける前に体が反応してしまった。

その隙を見て、他の下っ端に逆に今度はエドワードが雁字搦めに合った。



「だれがぁ豆粒ドチビかぁーー!!」

「兄さん!」


アルフォンスもエドワードを助けたいが、スッと兄の首筋にナイフを置かれ、人質として囚われてしまった。

その隙にアルフォンスも囚われてしまった。



「くそっ!」

「兄さん!」



もう、後がない・・・。こんな所で死ぬわけにはいかない。俺たちにはまだやるべきことがある。

事故で死んだ父親や母親のためにも・・・。




―だれか、助けてくれ。誰でもいい。もう誰も神も信じてなかったのに。誰でいいから、助けてくれ!!―







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