あるところのあるとき。
真っ黒な毛並みが美しいと言われていた兎の女の子がいました。
名前は“かごめ”といいます。
女の子の兎は、本当なら年頃になれば“誰か”の兎にならなければいけません。
でも、かごめという女の子は、“誰か”のものになることに全く興味がありません。
友達の兎たちに、『“誰か”の兎になればとてもしあわせなのに』と言われましたが、
それでもかごめはかえって首をかしげながら、『無理やり探す方がきっと大変で辛いから、いいわ』と答えます。
かごめだって、別に“誰か”の兎になるのが嫌な訳ではありません。
友達たちも言うように、彼女たちの“誰か”と一緒にいるときに、幸せそうにしている姿をいいなと思うこともあります。
けれど、だからといって、無理やり見つけることはしません。
無理やり見つけた“誰か”と、ずっと一緒にいるなんて苦痛だと思うからです。
そのときの“誰か”は一人だけだけど、何人いてもいいのよ。
そう言われましたが、かごめにはますます意味が分かりません。
ずうっと一緒にいたい人が、かごめにとっての“誰か”なのです。
それ以外では意味がないのです。
かごめには友達がたくさんいました。
男の子の友達も、女の子の友達もたくさんいました。
ときには、種族も超えて、猫の友達、リスの友達、内緒だけど、風の友達、水の友達もいます。
その中には、かごめの“誰か”になりたいという友達もたくさんいました。
けれどかごめは首を横に振って、ごめんなさいとしか返したことがありません。
“誰か”がいることを羨ましいと感じないことはないけれど、でも今すぐ必要なものだとも思っていないし、かごめには友達がたくさんいるせいで、友達と“誰か”の区別というものがよく分からないのです。
かごめはおかあさんに一度、相談してみました。するとおかあさんは
「みんなのことを同じように好きなことは、悪いことではないけれど、それだけでは“誰か”を見つけるのは難しいわね」
と言いました。
それでもかごめにはよく分かりません。
“誰か”と一緒にいる友達はいつでも楽しそうにしています。
それなのに、みんなに同じことを聞くと、みんな別々のことを言うのです。
結局、かごめはいつもたくさんの友達たちと過ごして毎日にこにこしている生活を続けていました。
そんなある日のことでした。
リスの友達がもう少しで誕生日なので、木苺のケーキを作ろうと、かごめは一人で森へ木苺狩りへ行きました。
本当は、おかあさんに「誰かについていってもらいなさい」と言われましたが、危ない植物も、
昼間は狼たちもいない場所だったので、「大丈夫よ」と答えて出てきました。
それに、もし危なくなったら、助けてくれると言う風のお友達もいるのでかごめには全然怖くありません。
ずんずん奥へ歩いていくと、とても赤くて美味しそうな木苺がいっぱいなっている場所を見つけました。かごめはすっかり夢中になって木苺を摘んでいきました。
そして、持ってきたかごがいっぱいになった頃、かごめはようやくのどが乾いていることに気がつきました。
摘んだ木苺のひとつを口の中に放り込むと、甘酸っぱくて甘い味がのどを少しだけ潤してくれましたが、それだけでは足りませんでした。
仕方なく、水のにおいがする方へ行くことにしました。
川につくと、かごめはかごを横へ置いて、水の中を覗き込んで言いました。
「水のお友達、少しだけお水をちょうだいね」
すると、大きな泡がぷくりと出たあと、かごめが手を伸ばした場所が、少しだけ光って見えました。
手にすくって飲んでみると、その水はいつもよりもとても甘いのです。
とても美味しい水をご馳走になったかごめは笑顔でありがとうと水のお友達に言いました。
もう一度大きな泡がぷくりと出て、返事をしました。
さあ、甘いお水で元気になったので、今度は急いで帰らなければなりません。
お日様が少しだけ橙色になっていたのです。
歩いて帰っても十分間に合いそうですが、暗くなってしまうとおかあさんが心配してしまいます。
かごを手に持ち、かごめは少し早めに歩き出しました。
それから、元来た道につけていた目印を頼りにかごめはどんどん歩きました。
そしてしばらく行ったところで、ふと、目印の道の脇の方に白いものが落ちていることに気がつきました。
何だろうと思って近付いてみたら、血のにおいがしています。
どうやら、誰かが怪我をして倒れているようなのです。
かごめは慌てて白いものに駆け寄りました。
そして、白いものを見てとてもびっくりしました。
何とそれは、犬の男の子だったのです。
犬は、狼の仲間で、兎で女の子のかごめは、近付いては駄目よ、とおかあさんにも注意されていました。そのことが一瞬頭をよぎり、どうしようと考えているうちに、犬の男の子が少しうめきました。
そうだ、考えてる場合じゃない、と思って、かごめは思い切って男の子に声をかけました。
「大丈夫?」
すると、目を開けた男の子はとても驚いたような顔でかごめを見ました。
「お前・・・・」
「どこか、怪我したの?」
狼の仲間だからと避けられている種族が近付いてきたのがとても珍しかったのでしょう。
男の子はぼんやりとかごめを見つめていました。
「どこを怪我したの?」
かごめは重ねてたずねました。
すると、男の子はぼんやりとした顔のまま、押さえていた右腕を見せてくれました。
そこにはとても痛そうな傷口があり、かごめは可哀想になりました。
とても深そうな傷です。早く治してあげなければ大変なことになるでしょう。
かごめは男の子の近くにかごを置くと、男の子に言いました。
「少しだけ、このかごを見てて。傷に効くお薬探してくる」
返事はありませんでしたが、かごめはそのまま走り出しました。
風の友達が、よした方がいいと、かごめの向かい風になって止めようとしましたが、かごめは聞きませんでした。
それどころか、
「ここからなら道が分かるから先に帰っていいわ。今日はありがとう」
とまで言うのです。
今のかごめに何を言っても無駄だということが分かり、風の友達は止めるのをやめました。
そして、風の向きを変えて、かごめが薬の葉を見つけやすいようにしました。
そのお陰でかごめはとても早くお薬を見つけることが出来ました。
かごめが「ありがとう」と言うと、風の友達は少しだけ風でかごめの頬をなでて、そっと消えました。
そしてかごめは元来た道を戻りました。
血のにおいがする方へ急いで戻ると、さっきから1ミリも動いた様子のない男の子がこちらを見てまたびっくりしました。
「戻って・・・・来たのか?」
「当たり前じゃない。さっき言ったでしょ。かごもあるし」
かごめはもう一度見せて、と男の子の腕を取って、お薬が効きやすいように葉を潰して傷に塗りました。
とても痛いはずなのに、男の子は眉を顰めて少し呻いただけで何も言いません。
「我慢してね」
と言いながら、かごめは気をつけてお薬を塗りました。
そうして傷口全部にお薬を塗ると、持ってきていたハンカチを千切って、包帯のように巻き付けました。
「帰ってからもっとちゃんと治してね」
とかごめが言うと、男の子は小さく頷きました。
それを見て、にっこりと笑ったあと、かごめは「あ!」と大きな声を出しました。
男の子が首を傾げていると、かごめは「暗くなってる!」といいました。
さっきまで、夢中で走っていたせいで、すっかり日が暮れてしまったことに気付かなかったのです。
暗くなったら、狼たちが獲物を探して動き始めます。
どうしようと困っていると、男の子が言いました。
「・・・・家、どっちだ?」
かごめはどういう意味か分からないまま、素直に指を指しました。
すると男の子は立ち上がりました。
そして、ひょいと怪我をしていない片手でかごめを抱き上げると、かごめにかごを持たせました。
「ちょっ・・・・・怪我が」
「さっきよりマシになったし、こっちは痛くない」
そう言って走り出しました。
とても早くて、かごめも足には自慢がありましたが、きっと男の子には勝てません。
振り落とされないようにぎゅっと男の子の首にしがみつくと、男の子はスピードを上げました。
そうして少ししたときに。
「ほら、ここか?」
と男の子に言われてかごめは顔を上げました。
すると、もう目の前に村が見ていてかごめは驚きましたが、ありがとうと言うのも忘れませんでした。
ゆっくりと降ろしてもらって、怪我がひどくなっていないか聞くと、大丈夫だと言ったので
かごめはもう一度ありがとうと言って笑いました。
男の子が照れたように、
「怪我のお返しだ」
と言うので、きっと男の子はお礼がしたかったのでしょう。
それが分かったので、かごめはもう一度笑いました。
男の子は照れたように、ぷい、と顔を背けると、もう一度森の中へ帰って行こうとしていました。
かごめは慌てて呼び止めます。
「ねえ、私かごめって言うの。あなた、お名前は?」
男の子は驚いたように振り向きました。
兎たちには狼は勿論、犬も嫌われています。そんなことを聞かれるとは思わなかったのでしょう。
それでも、少ししてから男の子はちゃんと答えてくれました。
「・・・・・犬夜叉」
「そっか。犬夜叉か・・・・・今日はありがとね、犬夜叉!」
「・・・それ、お前が言う言葉じゃねぇだろ」
「そっかな?でも、本当に助かったから。ありがとね」
そう言って、もう一度笑いました。
その数日後、無事にリスのお友達に木苺のケーキを作れたかごめが、犬夜叉にお礼のクッキーを焼いて会いに行って、二人は友達になりました。
かごめの内緒のお友達が、また一人、出来たのでした。
FIN?
小学校のときに書いた紙芝居の話犬かごリメイク(笑)(06.2.3)
挿絵とか入れた方がいいのかなこれ。絵本風だし・・・
余談ですがこれ最初兎じゃなくて猫だったんでちょっと兎が猫になってる場所あるかも(おーい)
BACK
注釈(見たい方反転)
“誰か”→好きな人、恋人。
かごめの友達→一応各キャラどれが誰か決めてます。とりあえず確実分かるのは風=神楽姐、リス=珊瑚ちゃん。
食べ物→もうお約束踏んで、猫は魚、リス、兎は植物、狼、犬は肉。でも犬って雑食だから(遠い目)
で、後日談オリジナル(笑)は↓
あるときある噂が流れました。
あれだけ“誰か”を作る気がなさそうだったかごめに、かごめの“誰か”を見つけられたようだという噂です。
かごめの“誰か”になりたかった男の子たちはとても残念そうにしたり、“誰か”を羨ましく思ったりしていました。
しかし、かごめに“誰か”が出来たのは、かごめの様子を見ていればとてもよく分かるのに、
肝心の“誰か”が誰なのかは、誰も知りません。
興味津々だったかごめの友達の女の子たちはある日、かごめにたずねました。
「かごめにも“誰か”が出来たの?」
するとかごめは少し照れたように、笑顔でこくんと頷きました。
その様子に、友達たちは自分のことのように喜びました。
しかし、
「それは誰?」
とたずねると、かごめは嬉しそうに笑うのに、
「内緒」
としか言いません。
そうして今日も、森の方へ遊びに行ってしまいます。
元々、かごめにはお友達がたくさんいて、誰かは知らないけれど、内緒にしなければいけないお友達もたくさんいることを兎の友達たちは知っていたので、これ以上は黙っておくことにしました。
だから、今日も森の誰もいないところで呼び合う声が聞こえます。
「犬夜叉」
「かごめ」
ほら、また。
バカップルが(笑)
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