※朔(=犬夜叉)とデル(=かごめ)出会いから○年後設定
「あーもう朔の分からず屋ッ!」
癇癪を起こしたように、小さな体で一心に悪態をついてデルはふい、と近くの電信柱の影に隠れた。
「ばーか、んなとこ居たらまた猫に食われるぞ」
「ッ・・・・・・・・今度はそんなことないもん!」
その根拠はどこにあるのだろうか。はあ、と凡そ子供らしくない溜息を吐いた朔は、それでもむくれたまま戻ってこようとしないデルにどうしたものかと扱いを考えあぐねていた。
このまま、放っておいてしまおうか、とも一瞬考えたが、変なときに頑固になるデルを放っておいたら、戻ってこなくなるのではないだろうかという一種の寂寥感を感じた。
誰も居ない空間にはもう、自分はいられないのかもしれない。
それもこれも、こんな小さいのがふわふわと、人が寂しいと感じたときに限ってずっと傍にいたりするからいけないのだ。
少なくとも、デルに逢う前までは一人ぼっちでも平気でいられたのに。
思わず昔のことを思い返して一人舌打ちをする。
「ほら、帰るぞ、デル」
割と短気だと自覚のある自分がここまで辛抱強く相手をするのなんて、デルくらいなものだと内心でぶちぶちと文句を言う朔だったが―――無意識で、デルの傍に居たいのは他でもない自分なのだということには目をそらしている辺りが、精神的には同い年の子供たちからは考えられないほど達観した考え方をする彼の、たまに垣間見える子供っぽさだった。
「いや!」
「おれは平気なの」
「うそつき!」
何故、自分が吹っ掛けられた喧嘩でこんなにもデルの方が怒っているのだろうかと朔は頭の隅でぽつりと考えた。
きっかけは、学校の同級生が三人がかりで朔に喧嘩を売ったことで。
朔は何とか勝ったものの、喧嘩を売ってきた三人が教師に告げ口したことが原因で、朔だけが怒られる羽目になった。
「別に、俺だって悪かったんじゃねえの?一応、あいつらにけがさせたし」
と。
一部始終を知ったデルに、フォローするつもりで全く心無いことを言ってからというもの、デルはずっとむくれたままだ。
「デル?」
電柱に隠れたまま何も言わなくなったデルにそっと声をかけて、ふと、彼女が泣いていることに気付いた。
自分の身長では、デルのいる場所まで手すら届かないのがもどかしかったけれど、それでも懸命に伸ばしていると、デルの方がすっと降りてきて、朔の指先に腰をおろした。
嗚咽を繰り返しながら、大きな目からこぼれる涙をぐしぐしと拭う姿にもどかしくなって、膝を拭ったために泥だらけになったハンカチの代わりに服の袖でデルの顔を拭いてやる。
「なん、で」
「?」
「なんで、だい、じょうぶ、とか、言うのッ!?朔、何も、わ、悪いことしてないじゃ、ない!なんで朔が、怒られるの!?なんで平気って、言うの!?」
「デ・・・・」
「平気なわけ、ないじゃない!痛かった、だろうし、怖かっ、ただろうし・・・・痛いって、言えば良いのに、なんで、あたしにも、痛いって、言ってくれ、ないのよ!朔のばか!分からず屋ッ!朔なんて・・・・朔なんて・・・・ッ」
ひとしきり言い終わったあとで、ぐす、と鼻を啜って、ごめんと呟くとデルは俯いた。
「なんで謝るんだよ」
「みんなに心配かけたくないって思ってるから、朔がそういうこと言ったの知ってるのに、ひどいこと言っちゃったから」
「・・・・・・・」
皆、というよりも、デルのためとはさすがに照れ臭くて朔にはどうしても言えなくて、無言で肯定することにした。
朔の“世界”が、自分とデルと、あとは家族と、ほんの少しの人間だけで出来ていて、他はどうでもいいなんて考えているなんて、きっとデルは考えていない。
ふわりと、デルの目元を拭っていた指先を抱きしめて、デルがごめんねと繰り返し言うものだから、今更ながら朔は罪悪感を感じた。
怪我をさせた相手にではなく、デルに。
「優しいから、朔、優しいからそうしたんだよね。でもあたしは嫌だったの。朔がそういう風に傷つくとこ見たくないの・・・」
違う、優しくなんかない。
他の人間に関わるのが面倒だっただけ、という言葉は飲み込んだ。
デルが朔に望んでいるのはそんな言葉じゃない。
デルは、逆にもっと多くの人に朔を判ってもらいたいと、言うはずだから。
「デル」
「う?」
「『朔なんか』のつづき、何?」
「・・・・・・は?」
急に関係のないことを言われてデルも思わずぽかんと口を開ける。
「さっき言ったじゃん。おれなんかきらい?」
「!・・・・えっとあのそれはぁ!」
「別におれ、デルにきらわれても問題ないけど?」
「〜〜朔ぅ!意地悪言わないで!!」
あわあわと弁解しようとするデルに、にやりと笑ってやると、朔はさっさと歩き出した。
「デルがおれのこときらいでもおれはデルのこと好きだから別にいい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
取り残されて、ぽつんとしていたデルはその言葉を聞いて、今度こそ絶句したけれど。数秒の間を置いて、彼を追いかけた後、定位置になった朔の肩に腰を下ろすとあたしもだよ!と笑って返した。
FIN
朔の行動基準=デル(ベタ惚れ!?)
物足りない人は朔を犬夜叉に、デルをかごめに脳内変換してください。ていうか、私が書いてる途中そうしてました(爆)
↓
結構、当初考えてた設定から最近考えた設定は大分変わってきて、一応自我の出来る年齢ぎりぎりまで引き上げてみるかってことで、朔はこの時点で7〜8歳。ちらちらと朔の家庭環境とかを匂わせてみました。なんかもうこの子本当にデル居なかったら狂うんじゃないだろうかと(笑)
最終回だけさっさと書きたい一品。
デルが泣いてくれるから弱くならなくても平気でいられて、デルが代わりに怒ってくれるから、腹も立たずにいられると。
そんなの駄目だなーって思いながらも実はかなりデルに依存してる朔。
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