「そういえば、遊戯とアテムってどっちが強いの?」 毎度恒例の、城之内VS遊戯で行われる昼休みの決闘の様子を端で見ていた杏子がふと思い出したようにそう問うと、全員の視線が杏子に向かう。当人である遊戯は何を言われたのか分からない風な表情を浮かべたあと、「そりゃあ、アテムでしょ」とあっさりと返して、ブラックマジシャンの攻撃宣言をした。 罠も魔法カードも伏せられていないフィールドに攻撃表示で残ってしまったワイバーンの剣士は、今までの攻防も虚しくあっさりと撃破されてしまった。 「あっ、・・・・・くっそー、また負けかよ・・・・・」 カウンター代わりに使う携帯の画面に残されたライフが、今しがた受けたダメージより大幅に少ないことを確認すると机に突っ伏して悔しがる城之内に、「またお前の負けかよ」と野次が飛び、「うるせー!」と噛み付く様もまたいつも通りの風景だ。机の上に広がるカードを回収して、カードケースにデッキをしまう遊戯の様子を、逐一観察するかのようにじっと見つめているアテムを除けば、だ。 「・・・・・・えーっと、何?アテム」 やはり視線を向けられていた本人が真っ先に耐えられなくなったらしい。 少し控えめに訊ねると、何故だかアテムは非常に不服そうな表情になる。 「相棒は、謙遜しすぎていけない」 「だって、本当のことだろう、決闘王」 「公式の大会に出て優勝することだけが強さの証じゃないんだぜ」 「それでも、決闘王になるくらいの実力がアテムにあることは確かだろ」 非常に押し問答をしている風である。断片的であるものの、互いに互いの方が強いと言い合っているのだろうことは分かった。しかも両者とも、引く気配が全くないので押し問答のように見えるのだ。ああ、納得。 逃避じみた感想を抱きながらも、自らが撒いた種なのだからと杏子は二人の仲裁に入ることにした。 「ってことは、二人の対戦成績って、あんまり大差ないってこと?」 「ああ。相棒は人目に付く場所ではあんまり決闘しようとはしないんだが、実力は俺か、俺より上だぜ」 「ちょっと!またそうやって変に持ち上げようとする。君が言ったら皆が誤解するだろ」 「だが相棒の実力も知らずに相棒を侮辱する決闘者は許せないぜ!」 「君が怒ってくれるから別にボクは全然腹が立たずに済んでるんだ。もういいだろ、そんなこと」 どうやら彼等の間にも色々とあるらしい。 決闘王の名を冠するアテムの口から『強い』などと言われてしまえば、余計に遊戯への注目度が上がってしまうことは何となく予想がつく。もっとも、普段から付き合いのある側から見れば、遊戯に対して神聖視でもしているのではないかと思うほどに彼を大切に思っているアテムの顔を知っているので、いつものごとく「ああ、また始まった」程度の感想しか抱かないのだが、端からしてみればそういうわけにもいかないのだろう。 彼自身が保持する知名度が、アテムの遊戯を自慢したい、庇いたいという気持ちが強ければ強いほど、余計に遊戯の注目を集め、羨望や妬みの対象にさせているのだ。好意が駄々滑りしているのにも程がある。 「しかし・・・・」 「あのねぇ、いつも言ってるでしょ。ボクは皆で楽しくM&Wやれたらそれでいいの。 勝ち負けに拘るのは全部君に任せてるし、君が勝ってくれたらボクも嬉しいから、それでいいの」 「相棒ッ・・・・・」 そうこう思考があちらこちらへとふらふら行き来しているうちにどうやら勝手に大団円で纏まりそうだ。 勝ち負けには拘らない遊戯らしい理屈に加えて、アテムへのフォローも忘れない辺りがなんとも遊戯らしい。 感極まった様子で「俺はこれからも勝ち続けるぜ!相棒の為に!」と高らかに宣言したと思えば、「いや、自分の為だろ。君は気ィ遣いすぎ」とかなり冷静な言葉が返って来ていた。 「・・・・・そこ、姦しいぞ」 「あ、海馬君」 今朝には見掛けなかったクラスメイトの姿に遊戯が呑気に「おはよー」と声を掛けた。 城之内や本田に至っては、「おはよーって時間でもねぇがな」と揶揄していたが、それらには一切頓着せず、呆れとも嘲笑とも取れる息を吐くと、海馬はすぐに、やたら小難しい単語の羅列が見える紙面に目を落とす―――と、思いきや、唐突に席を立つとこちらへと向かって来た。珍しいことだ。 長身の海馬の接近によって、意図せず後退り、道を譲る形になった城之内は怪訝そうに眉を顰め、アテムも何処か警戒した雰囲気を醸し出した。それも無理はないだろう。今でこそ、M&Wで頂点を争う好敵手とも言える間柄とはいえ、過去にはカードをめぐるいざこざを起こしている。 それに他でもない遊戯が巻き込まれ、危険な目に遭ったのだ。 にも関わらず、それ以降も遊戯が変わらず海馬へ、クラスメイトとして普通に接している為、アテムも口を挟んでこようとはしないものの、余計な心配をかけているいうことは遊戯も分かっていた。遊戯としては、海馬には既に遊戯に対する悪意もないし、会話も一方的なものではなくなった現状を喜ばしいものと思っているので、「もうしないって言ってたんだからいいんじゃない?」と一言で済ませてしまいたいのだが、アテムにとってはそうではないらしい。 『その』海馬が自分達の方へ、しかも遊戯を目当てに近付いてくることなど、自他共に認める『遊戯馬鹿』のアテムが反応しないわけがない。本来ならば、用事があろうとも近付けさせたくないとまで思っているのだ。 「遊戯」 「ん?どうしたの海馬君」 何処と無く割って入れない雰囲気に、アテム以外が遊戯から1歩距離を開けてしまった。 「貴様、今週の金曜の放課後に予定はあるか?」 「え?・・・・・・ううん、特にないかなぁ」 「そうか。ならば今週の金曜の放課後、貴様に決闘を申し込む!」 『ハアァ?!』 「・・・えぇ?」 「何だその不満そうな返事は!」 「や、別に不満ってわけじゃ」 「残念だったな海馬!相棒はお前に付き合うほど暇じゃないんだ!」 「ええい喧しい!今は貴様と話しているんではない!遊戯に用があるのだ!」 「はっ、俺が大人しく譲ると思うのか?相棒と決闘したけりゃまず俺を倒すんだな!」 「なんだと!?」 当人を放って、ますますヒートアップしていく様子にさすがに城之内が遊戯の肩をつつきながら「これ、放っといていいのか?」と訊ねた。教室に残る何人かの生徒が、『日常としては』珍しく声を荒げる二人の様子を驚いたように傍観していたが、遊戯はデッキをホルダーの中にしまいながら「いいんじゃない?」と呑気に返した。 「アテムもさぁ、もうちょっとスマートに誘えばいいのにねぇ。決闘してくれーってさ」 「いや、それはちょっと違うんじゃねぇか・・・・・?」 どうやら遊戯の中では、アテムの過剰防衛とも言える言動は全てもしくは半分が建前で、本心は単純に海馬と決闘をしたいのだと変換されているようだ。端から見ればアテムのそれは願いでも何でもなく完全に挑発だ。 公式の場以外で、中途半端に決着がつくことも、黒星を塗る真似も良しとしない彼等にとって、あくまで決闘の場というのは、勝利の証言者を多く集められる観衆の中。つまり、大会の決勝戦を指す。 要約すれば、少なくとも次に行われる公式大会の日までは遊戯に手出しをするなという話だ。 更に付け加えると、以後もアテムが現在の地位を守り続けていられる限り、海馬に、遊戯に近付く権利すらないと叩きつけている。ここまで分かりやすい警戒もなかなかないだろう。 存外頭に血が上りやすい海馬が丸々無視などする筈がないからこその言い合いだ。 暫くの間、無言の膠着が続いていたが、ぼんやりと斜め上を眺めながら考え事をしていた遊戯が、唐突に爆弾を投下したことで場の空気が一気に氷点下まで落ちることとなった。 「・・・・でも、ボク一回海馬君と決闘、やってみたいなぁ」 「あい・・・・・ぼう・・・・・・!?」 「え、何、何でそんなすごく絶望した顔するの?」 「ふっ・・・・・はっはっはっはっは!どうやら貴様の杞憂は余計な世話のようだな、アテム!」 「くっ」 たった二人で、まるで蜂の巣を突いたかのような騒がしさを見せる様子に、当事者である遊戯は、教室にある時計をちらりと見て、「もうそろそろお昼休み終わるからアテムは教室戻りなよ」と言ってやる。 当然、アテムは不服そうな表情を見せたが、特に文句を言うこともなく、海馬を睨みつけると遊戯に「海馬の誘いに軽々しく乗るんじゃないぜ、相棒!」と言い残して足早に去っていった。海馬は、アテムが姿を消すと呆れたように鼻をならし、遊戯に向き直った。 「遊戯、この話はまた後でさせてもらおう」 「あ、うん。分かったよ、あとでね」 約束を取り付けると、彼もさっさと自分の机の方へと戻ってしまった。 他の面々も、各自本鈴が鳴る前に机へと戻っていく。 ただ遊戯の真後ろの席の城之内だけが残り、遊戯を不思議そうに眺めていた。 「なぁ、遊戯」 「なぁに、城之内君」 「お前、何かやけに冷静じゃねぇ?海馬に喧嘩売られてんだぞ?ちょっとは警戒とか・・・・」 「やだなぁ、君までアテムと同じこと言うの?」 おかしそうに遊戯はくすくすと笑っているが、その心配も当時の混乱を知っていれば、されて当然なのだ。 平然としている遊戯の方がむしろ不自然に皆の目には映っているのだろう。 「大丈夫だよ、海馬君はもう変な勝負し掛けてきたりしないよ。それに今回のだって、いつも彼とすごく互角の戦いをしてるアテムがやたら騒いでたから、ボクの実力が気になっただけだろうし」 そう、根本はそうなのだろう。 彼等が公式大会に出場する度に、必ず二人は頂点まで上りつめて来た。今まで、僅差で常にアテムが勝利を収めてきたものの、そもそもアテムが公に姿を現す前までは、常に海馬がM&Wの頂点に君臨して来ていた。 何の因果か、何の変哲もない普通の高等学校の、同じ学年、時には同じクラスという非常に近しい場所にいるにも関わらず、仲が良さそうに見えて実のところ、仲が悪いとまではいかないが、人間的に馬が合わないのか、互いを見れば対抗意識を燃やしているのが現状だ。 助長させているのは遊戯という存在と、双方が負けず嫌いであること、拮抗しうる実力の持ち主であることなど様々だが、とにかく互いの実力は認め合っていることは確かだ。その片方であるアテムの口から「自分と互角か、それ以上の実力の持ち主」という言葉を聞き、カードの貴公子の異名まで取っていた海馬が気にならない筈がないのだ。 「しっかしよぉ、遊戯ィ・・・・・」 「大丈夫だって。それに、目立つところに出るのは嫌だけど、ボクだって決闘者だもん。 海馬君みたいな強い人と決闘出来るんだったら、一度くらいやってみたいよ」 にっこりと、笑顔で言われてしまえば誰も言い返せる筈がない。城之内も例外ではない。 おそらく、遊戯が「決闘をしたい」と言い出したときからアテムは悟っていたのだろう。 去り際の彼はすでに海馬の言葉が了承されたも同然だといわんばかりの表情だった。 教師が教室に入ってきたことで、会話はそこで終了となった。 アテムに同情すべきか、のほほんとした顔でさりげなく場を制した遊戯に舌を巻くべきか。 ともあれ、すでに決定したも同然であろう金曜の放課後の出来事に、当日は何も予定はなかったかと頭の中でバイトのシフトのことを考え始めた時点で、城之内もある意味彼等と同類なのだった。 空回りする人々と当事者 *AIBOが実質実力的に言えばどの辺なのか、正確に周りが知らない理由編。目立つの好きなアテムや社長と違って目立つの苦手だし、皆で楽しくゲームできたらそれでいい子なので本気出して闘うことは滅多にありません。その為実力はアンノウン。 ・・・・でも本気出したらAIBOに勝てるデュエリストとかいないと思うんだぜ。チートドローを得意とする王様の更に上を行くといい。 過去色々あったって多分DEATH-T並の事件があったのだと思って下さい深く考えてないです(なんという行き当たりばったり) 王様の態度はちょっとやりすぎたかなあと思いましたがうちの王様の性格はベースがアニメなのでまぁいっかと思いました(08.07.20)* |