「ボクは、君と友達になりたい」


ほんの僅かの間とはいえ、ぽかんと呆気に取られた表情の海馬を見て、そんなにも自分は変なことを言ったのだろうかと遊戯は小さく首を傾げた。確かに、短いが非常に濃い時間を共有して来た今更になってこの言葉は見当違いにも思えたが、それでも遊戯はきちんと言葉として彼に告げたいと思っていたのだ。

「・・・・・・・どういう意味だ」
「言葉の通りだよ」

訝しまれているのだろう。眉間に深い皺を寄せて問う彼に寸分の間もなく返すと、海馬はますます皺を深めてしまった。『もう一人のボク』もそうだったが、遊戯自身には海馬のように眉間に皺を寄せたまま、表情を保つという芸当など到底無理だったので、あとで額に皺が残ってしまうのではないだろうかと場違いな心配すらした。
時間にすれば、ほんの5秒足らず。はっ、と鼻で一笑した海馬に、遊戯はへにゃ、と苦笑交じりに笑った。
予想していたリアクションではあったので、全く傷付いたりはしない。だろうな、とすら思った。

「まさか貴様が、俺にまで友情ごっこを押し付けてくるとはな」
「別に、押し付けたいとは思っていないよ。ボクが勝手にそう思っているだけ」
「願望を口にしたということは、こちらに強いろうとしているのと同義ではないか」
「ん〜、まあ結果的にそうなっちゃうかもしれないけど、決めるのはボクじゃないし」

新作デュエルディスクのモニターという名目で呼ばれたが、モニターにわざわざ外部の人間を呼ぶ必要などない。第三者の意見という意味では必要かもしれないが、すでに製作は最終段階までやって来ていた。最終調整に自分を立ち会わせる理由。それは別のところにあるのかもしれない。
しかし、遊戯にとってそれはどうでもいいことだった。海馬にとって、少なくとも自分は“彼”のもう一人の意識ではなくなった。『もう一人のボク』である、アテムを倒してから、ようやく彼の視界に入ったのだ。

一人の、武藤遊戯というデュエリストとして。




誤作動が起こらなかったことを報告して、帰り際に海馬の元を訪れ、開口一番の言葉がそれだった。
自分でも、唐突過ぎたとは思ったが、出た言葉を取り消すわけにもいかないし、取り消すつもりもなかった。

「何かね、気付いちゃったんだ。ボクは、今まで本当に努力出来てたのかなぁって」
「・・・・・・何だ、いきなり」
「城之内君達と友達になる前にね。ずっとボクは、友達が欲しいなって思ってたんだ」

ぴくりと意外そうな風に、海馬の眉が跳ねた。そういえば、彼とまともに関わりだした頃には、遊戯の傍には常に城之内や本田、杏子がいることが当たり前になっていた。杏子は幼馴染ということもあって、気弱な遊戯を気遣って傍にいてくれることが多かったが、年齢を重ねるにつれて、ずっと一緒にいるというわけにはいかなくなった。
だから、遊戯の感覚からすれば、以前は友達と呼べる存在が、いなかったも同然だった。

「ボク、こんなだからさ。コンプレックスたくさん持ってて。
本当は、望んで手を伸ばしたら、友達なんてすぐ手に入ったんだと思う。でも、結局ボクは望むばっかりで手を伸ばすことすらしてなかった。パズルを手に入れて、もう一人のボクと、アテムと一緒にいるようになって、ボクはそのときになって初めて、誰かに手を伸ばせたんだ」

海馬は珍しく一言も口を挟むことも一笑することも無く、ただ黙って遊戯の言葉を聞いていた。

「君だったら、くだらないって言い捨てられちゃうかなって思ったんだけど、それでもいい。
 ボクは、君と友達になりたいんだ。アテムやデュエリストってことも関係なく、ボクとして、君と」

でも、今更すぎるかな、と苦笑した。
自分の中での気持ちはまとまっていたのに、それを言葉にしては、きっと半分も伝えられなかった。
それがひどくもどかしかった。海馬が、メリットの有無で人間関係を決定付けてしまう性質の人間だということは重々承知だった。自分達が友情の大切さを説いたところで、鼻で笑われてしまうのがオチだろうとも思っていた。

しかし、海馬の目が、ようやく遊戯自身を見てくれたのだと思えたときから、決めていたのだ。
もう自分を守ってくれていたアテムはいない。彼のあるべき場所へと送ったのは、他でもない自分だ。

諦めて、最初から手を伸ばさない頃にはもう戻らないと、決めたのも、自分自身だ。


「それで、貴様の言い分は全てか」
「うん、大体ね」
「そうか」

言葉は短かった。抑揚もなく、表情に変化も見られなかったので、彼が遊戯の言葉にどう感じたかは、遊戯自身は分からなかった。ただ思いのほか、強く否定されなかったことには安堵した。

「ではまず手始めに、明日の今頃に、来い。最近全くブルーアイズが日の目を見れなくてな」
「え?」
「貴様自身の実力で、俺に掛かって来い。神を倒すと豪語したときのようにな」

にやりと笑みを浮かべる海馬の顔を驚いて見た。
デスクに肘をついて、挑発するかのような視線を向ける相手に、遊戯はようやく言われた言葉を飲み込めた。

「ただし、本番は大会だ。貴様の決闘王の称号は、公衆の面前で貴様を叩き潰したのちに頂く。」
「・・・・・!うん!」








伸ばされた手が払われることは、なかった。















ボクはと友達になりたい



*でも案外社長はすごく最初の方(王国編辺りとか)にとっくにAIBOのこと認めて、無自覚ながらも多少の信頼してたので社長としては割と見当違いなこと言われた感じ。どうでもいいですが社長が丸い・・・多分AIBOの前だと社長が妙に大人しいイメージがそのまま出てきてる。
・・・・・どうしてかな、AIBOと王様が一緒にいる姿が好きなのに思い浮かぶのは王様が還っちゃった後ばっかりです。
やっぱ今後AIBOが王様のいない日常をどう感じてどう過ごしていったのかなとか気になる。(08.06.18)*


蛇足なんですが、AIBOって色々コンプレックスもあったと思うんですよ、初期設定とか見てたら。
だからこそ、誰かに親切にしても親切にしっぱなしというか、人が良すぎて恋人もとい友達出来ない状態だったんじゃないでしょうか。
見返りを求めないからこそ、周囲が手を伸ばしても、AIBOから手を伸ばすって手段が彼自身の中に無くて、なのにAIBOが求めてる友人のハードルがすげー高くて(笑)そのギャップゆえに友達いないって思い込んでただけだと思うんですね。もしくは、自分が好きなことに付き合ってくれるのが友達って思い込んでた感じ。でもそれって遊び相手が欲しいだけじゃん?みたいな。
そういうのも、結局全部王様が肩代わりしてたと思うんですよね。手を伸ばして求める勇気というか。AIBOは与える愛情なんだけど王様は与えられる愛情というか、(まあファラオですから与えられるのが当然みたいな)だからこそ、王様が還っちゃったあと、そのこと改めて考えて、今度は自分一人の力で歩こう、手を伸ばそうって思ってくれてたらいいなーと思います。って言ってももう本編中で城之内君達がAIBOの精神安定させてくれたので、自然と手を伸ばすことに躊躇いとか消えてるみたいでしたけどね。
社長は、最初の頃こそ『遊戯』を見てたけど最終的に王様しか見てなかったみたいにAIBOからは見えるんじゃないかな。
社長は社長でAIBOのこと珍しく普通に認めてたぽいんですけど、でも少なくともAIBOにとって社長との繋がりって王様を通してなんで、改めてお友達になって下さいっていうのを口にする話が書きたかったんですね。何か変なフラグ立ってるくさいですが(笑)友情です。
王様ばっかりずるいよ!AIBOもデュエルじゃなくてゲームとして、社長と戦えば良いよという欲求も混ざっ(略)





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