※表記の関係上、闇→ユウギ・表→遊戯となっております。※













同じ体を共有していているのに、何故だかユウギの方が背も高く、男らしく見える。

全体的に小柄で、筋肉の付きも芳しくない為、格好良い、よりも可愛いといった言葉を掛けられることの方が圧倒的に多い多感な年頃の遊戯にとって、それはある種のコンプレックスにも似ていた。


顔つきが違っても、身長までは変わっていない筈なのに、ずるい。

そう心の部屋の中で、半分冗談交じりでユウギに告げてみると、彼は顎に手を当てながら僅かに逡巡するそぶりを見せたあとで、ふと顔を上げた。

おもむろに立ち上がったかと思えば、遊戯の腕を引き、立たせてくる。
何だというのか、と思ったところで、ユウギの手が遊戯の腰に回り、ぐっと前へと押される。
意図が読めず、何だというのだろうともう一度疑問を覚えたところで、
「真っ直ぐ」
そう、言われた。

「前々から思っていたんだが、相棒は猫背気味なんだ。姿勢が悪いから、そう感じるんだろ」
「・・・・・・そう、なのかなぁ」

言われて見ればそうかもしれないと遊戯は納得した。いじめられっこゆえの体質とでも言うべきか、以前の遊戯は、無意識の内に腰が引けた言動を繰り返していた。自分が弱い存在であることを痛いほどに理解していたため、面倒事を忌避するかの如く、人の目を窺いながら振舞うことが『普通』になっていたのだ。暴力を振るわれるのは嫌いだし、振るうのも嫌いだ。
どうしても衝突してしまわなければならないのならば、自分の嫌な気持ちを押し込めて我慢すればいい。
何もずっと続くわけではないのだ。自分さえ我慢していれば、と。
姿勢を低くして、暴風雨の如く理不尽に一人で耐え続けていた。“彼”と、出会うまで。

今でこそ、ずっと意識せずにはいたが、思い当たる節はある。
言われて、ユウギに押されていた背中にすっと意識的に力を入れて、真っ直ぐ立ってみる。
見本は勿論、目の前の『もう一人のボク』だ。

どんな強敵が目の前に立ちはだかろうと、一歩も臆さずに果敢に挑むときの、威風堂々とした振舞い。
すっかり癖になってしまっている姿勢を意識的に直すことは可能だが、それでもずっとこうしているだなんて、自分には到底無理だなあ、と遊戯は感じた。同じ体を共有している筈なのににじみ出てしまう『違い』というのは、この辺の差なのだろう。

彼は何者にも臆さない強さを持っている。

だから、あんなにも勇ましく見えるのだろう。

僅かに劣等心を煽られたが、そんな内心を知る筈もないユウギは、遊戯の立ち姿をまじまじと眺めた後、「ばっちりだぜ!」と親指を立てて太鼓判をくれた。妙にむず痒い気分を一緒に飲み込みながら、「ありがとう」と遊戯は苦笑を溢した。

「いつか、君みたいに堂々としているのが普通になれたらいいんだけどなあ」
「そうだな・・・・相棒は、もう少し自分に自信を持ったっていいと思うぜ。
 決闘者としても、一人の人間としても、相棒に物怖じすべき点なんて一つもないんだからな」
「ちょっとそれは言いすぎなんじゃないかな・・・・・」
「そうか?」

真顔できょとん、と首を傾げられて、照れて頬が熱いやらくすぐったいやらで、遊戯はへにゃりと笑った。

いつか。いつか、彼の背中に追いつけたら。
彼の半身として、堂々と胸を張って誇れる自分になれたら。

―――彼という存在を、丸ごと背負える人間になれたら。





「ねえ、『もう一人のボク』。ボクは、ちゃんと“君”を背負えてるかな?」

独白に答える声は、もうない。
彼を宿していたパズルも、もうない。

あるのは、“彼”と過ごした、人の一生にしてみればほんの僅かの間だけの、それでも忘れがたく、鮮烈に残る記憶くらいだ。悲しいこともたくさんあった。辛いことも、それと同じくらい、楽しくて、大切だと思える時間を、たくさん共有した。

“彼”との別れから、もう数年。
当時“彼”が勝ち得た様々な称号は、“彼”のものであって、遊戯のものではない。

だから、それらの称号を一時は辞退しようかと思ったが、思いも寄らない場所からの言葉によって、結局その称号は未だ遊戯の手元にあり、これまで誰にも奪われずに来た。
結果的には、その言葉に救われたからこそ、今の自分があるのだろう。感謝している。

それにしても、『経過はどうであれ、“奴”から決闘王の称号を勝ち取ったのはお前自身だ。それは紛れもない事実。いくら貴様が否定したところで称号の返上など認めん。お前からその称号を奪うのはこの俺だ。それまで精々他の決闘者からその称号を奪われないようにしていろ』だなどと、実に彼らしい言い分を聞いたときは苦笑を通り越して感心してしまったものだ。



あれから、遊戯は背筋をぴんと張って、決闘をするようになった。
気付けば、それが当たり前になっていた。少しでも“彼”に近付きたいがゆえの、不純な動機が最初だったかもしれない。それでも、“彼”が遊戯に与えてくれた一つ一つが消えることなく自分の中に灯っているからこそ、そうしていられるのだと、遊戯は信じたかった。
自分自身にも、相手にも、誰に羞じることも無く、自分の信じた道を進んでいく。

“彼”から一番に教わったことだ。

“彼”の称号を預かった以上、己に、そして『もう一人のボク』に恥じる決闘など、してはならない。
“彼”の影を背負うのではない。あるがままの自分自身として、遊戯は、“彼”を含めた今まで遊戯が闘って来た人々の誇りを背負っている。

・・・・勿論、『もう一人のボク』が築き上げた称号を穢されたくないという思惑は、あるけれど。
何よりも、“彼”に胸を張って自慢できる自分でありたいと、遊戯は思うのだ。



「ちゃんと見ててね、『もう一人のボク』。もうボクは、誰にも怖じたりしないよ」


頬に心地よく当たる風が吹く。
『もう一人のボク』が、いつもの調子で少し笑って「そうだな」と言ってくれた気がした。









ボクもう大丈夫だよ



*アニメは頭一個分間違いなく違うんですが(笑)一応これは身長は一緒ってことで。
AIBOは、王様と別れたあとは暫く王様の為に決闘王としていようと思ったんだけど、どうしても自分と“彼”との違いみたいなものを感じちゃって(端からしたら些細なんだけど)称号が重くなって来るんだけど、社長に怒られて立ち直ったみたいな流れがあります。
結局最終的には“彼”の為に自分がどうするかばっかり考えてて、“自分がどうしたいのか”っていうのを忘れてたのに気付いて吹っ切ります。“彼”がどうこうじゃない。称号とか築いたのは確かに“彼”なんだけど、義理で背負うのも失礼なのであくまで自分を貫き通そうと。
全体的に、初代AIBO→DMAIBOの間でのAIBOの成長みたいなイメージです。 (08.05.30ブログ掲載分)*





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