――何となくから当たり前に変わる瞬間――
「また、来たのか――――・・・」
喜びを噛み殺すようにも、呆れたようにも聞こえる台詞を吐いたのは巫女の方。
異国の服を纏った少女は、子供っぽく舌を出すと、微笑んだ。
「だぁーって。眠れないんだもん。それに、桔梗だって来ていいって言ったじゃない」
半ば、言い訳のような口調で、少女は言った。
すると、もう何を云っても無駄と悟ったのか、巫女は死魂虫を何処かへやると、自分はその場に腰を下ろした。
かごめも嬉しそうにその隣に腰を下ろす。
「・・別に私がお前を眠らせていない原因という訳でも無いのに、お前ときたら・・・」
「さぁ?どーでしょうねぇ〜?」
彼女の吐き棄てるような台詞に、少女はくすり、と意地悪げに返す。
桔梗は、不思議そうに彼女の顔を覗き込んだ。すると・・・
「だって、私が此処に来ても皆起きないのって、桔梗がやってるんでしょ?」
当然、とでも云いたそうな瞳で、さらりと言ってのけるかごめ。
桔梗は暫し、彼女にしては珍しく呆然とし・・・やがて、何処ぞの口だけ乱暴な少年がするように、
ふいっと明後日の方角を向いて無言になった。無言は肯定の意味なのを、かごめは知っている。
ただ、こう云うときは大概顔が赤くなっているのを隠そうとしているだけ。
「・・・やーっぱり。そうなんだぁっ!」
自分の予想が当たって、かごめは嬉しそうにくすくすと笑った。
依然、桔梗はそっぽを向いたままである。
(何だか犬夜叉に似てるー。)
普段、近寄りがたい雰囲気を醸し出している桔梗が、そんな事だけで妙に近親感が湧く。
でも、まぁ此の侭彼女を犬夜叉のノリでからかっていたら無言状態で夜が明けるのを待つか、
彼女の方が何処かへ去っていくかの何れかになる。
かごめは話題を逸らそうと、何を云おうかと考え始め・・・
「知っているなら・・・何故、来る・・・?」
と、云う彼女の言葉に、顔を上げた。
「何故って?」
「前に、云ったろう?私は何時、お前の命を狙うかも知れぬのに・・・」
「桔梗と話がしたいから。」
桔梗の台詞を皆まで聞く前に、かごめは即答した。
驚いたように、少女を見詰める、桔梗。
「そりゃぁ、ね。犬夜叉が絡んだ話になるとそうかも知れない。でもそんなの抜きじゃない。夜は・・・
それに、桔梗意外とそう云うことに関しては口だけだもん」
呆れた・・・としか云いようの無い表情で、桔梗は重い溜息を一つ吐き出した。
「だからといって、死人と一緒にいて、気味が悪いとか感じないのか?お前は・・・」
少々砕けた感じで、問うた。
かごめはん〜と・・・、と少し間を置き、答えた。
「何で、気味悪いなんて思うの?」
と。
「人間の心理だろう?・・・体温を持たぬ、紛い物の身体(イレモノ)なぞ・・・。
誰が何の抵抗も無く、今存在しない命を受け入れられると云う・・・?そんな者・・・」
「私は・・・?」
少し、寂しそうに、呟くように云う、かごめ。
微かに、桔梗の身体が痙攣した。
「私は・・・桔梗が、私の前世だから、なんて思って、桔梗と話したいなんて云ってるんじゃないよ?
私は私。桔梗は桔梗。だから・・・私には桔梗の背負ってきた物とか、考えてることなんて解んない。
でも、だから・・・」
「だから、もっと、桔梗の事知りたいって思う。話したいって思う。そんなものの間に、『生きてる』も『死んでる』も関係なんて無いじゃない。」
言い切ると、かごめは桔梗を抱き締めた。
彼女が動揺したのは、明らかに解った。でも、かごめは気にせずに抱く力をまた少し込めた。
温もりの無い、女性特有の柔らかさだけが残った体は、何時か彼が云ったように、哀しそうに思えた。
「かご・・め・・・」
「私は・・・今の桔梗も、好きだよ・・・?」
どきり、と桔梗の心が揺れる。今は無い筈の心臓が、鳴った気がした。
「・・・・かごめ・・・・」
それまで、ただ重力のまま垂れていた彼女の腕は、そっとかごめの背に回された。
桔梗の行動に、かごめははっとして、抱いていた腕を離した。
「ごっ・・・ごめんっ!桔梗、こんな事されるの厭だよねっ・・・つい・・・――え・・・?」
そのまま、身体も離そうとした途端、逆に桔梗に抱き締められてしまった。
「きっ・・・桔梗っ?!」
「・・・『つい』・・・?」
「え・・・・?」
動揺でまともに頭の回らないかごめに、存外冷静―――と云うより、寧ろ冷え切ったと言った方が適切な程の桔梗の声が降る。・・・どちらかと言うと、怒りにも似た声。
「『つい』・・・犬夜叉に普段からしているモノだから反射的に・・・か?」
「え゛?う・・・・・う・・ん・・・」
かごめにしてみれば、桔梗の怒りの原因が解らず戸惑ったまま、曖昧な返事を返したまでだったが・・・。
桔梗は、更に彼女をきつく抱き締めて、かごめの髪にそっと、唇を落とした。
「桔梗・・・?」
かごめは、桔梗にきょとんとした瞳を向ける。
それは、限りなく純粋で、限りなく残酷な、何も知らない瞳。
桔梗が抱いている思いに、かごめが気付く事は無い。寧ろ、その方が好都合でもある。
知らないから、こうやって何も疑いを持たず、会いに来る。
すっと、桔梗はかごめの熱を持つ身体を、名残惜しげに離した。
「・・何でも、ない。」
そう、微笑んだ桔梗は、何処と無く寂しそうに、かごめには見えた。
気になって、問おうとした、時。
「かごめ・・・。もうそろそろ陽も昇る。帰らなくては不味いんじゃないか?」
そう、桔梗に先手を打たれ、否応無く促される事となった。
でも。
何歩か進んだ後、かごめは不意にくるりと体を反転させて、桔梗に微笑んで言った。
「また、来るからねっ!厭って云ってもっ。」
「・・!・・・懲りぬヤツだな、お前も・・・」
聞き様によっては迷惑がっているようにも聞こえないでもない科白を吐くと、桔梗は再び舞い戻ってきた死魂虫を連れてかごめとはまた、反対の方角へ足を進めた。
「桔梗っ・・・・・」
かごめの呼びかけに、少し歩調を緩め・・・顔だけ彼女に向けた。
「良い、とは云わぬ。だが厭だ、とも云わぬ。・・・お前次第だ。」
慣れていないような微笑を返すと、桔梗は其の侭、まるで空気に溶け込んだかのように、ふわりと姿を消した。
・・・遠くで、以前のようにまるで見計らったかのように丁度良く、犬夜叉の声が聞こえる。
また、何処に行っていたのか。そう訊かれるかな・・・?
そんな事を考えながら、かごめはその声の方にゆっくり、歩き出した。
桔梗は、どうして突然あんな事を言い出したんだろう・・・?
そんなことと、これから犬夜叉にどうやって言い訳しようか?と、いう事も考えながら。
眩しく光る朝日を全身一杯に受けて、一つ背伸びをした。
「そんなに、心配しなくてもいいのに・・・」
その言葉の割に、存外嬉しそうに微笑んでいたかごめは、彼の姿を見つけ、その胸に自分から飛び込んだ。
【終】
何か・・・桔梗さん最終的に犬夜叉に負けてるよ・・・?(汗)本当に桔かご好きなんか自分って感じで。
うちの犬、過保護つーか独占欲高過ぎっつーか・・・。うん。例え桔梗でも犬夜叉からかごめちゃん掻っ攫おうとするなら犬夜叉に宣戦布告して真昼間からでも争わん勢いがなきゃ・・・(煽るな)。
うーみゅ・・・あの、何て云うか、かごめちゃんはlike。桔梗はloveって事でしょうか・・・。
まあでも少なくともかごめちゃんが懐いてるのは確かだけどね。ってかあの・・・何となく、桔梗に愛されてるってのは解るんだけど、でもレズが実際あり得ないと思ってるらしいってのが実際。・・・まあな。
と、云うか。実はこの小説かなり一発なんすよ(爆)。
元のプロットとか全くなしで思いついた事を直でパソコンに打ち込んでいたという・・・(おい)。
計画性無いにも程があらぁ!!とかいう以前にこれ自体続編書く予定なかったですが。
・・・と、い・う・か!桔梗の性格が犬夜叉になってるし!!!!!
・・・前回って事になる夜闇の月見ますか?
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