ただ枯れ果てた荒野であろうとも君が在るなら。 「う〜〜〜〜〜・・・・・」 「・・・・・何唸ってんだお前」 なにやら分厚い紙面とひたすら睨めっこしていたかごめの観察に飽きたというか。 シャワー上がりで濡れそぼった髪をがしがしとおざなりに拭いながら、犬夜叉はひょいと彼女が見ていたものを隣から覗き込む。 何のことはない、学生の彼女からしてみれば少々値の張るといった、シンプルなものが多いアクセサリーのページ。 「欲しいのか?」 「うぅん全然ッ!?」 何気なく訊ねただけなのに酷く動揺して、半ばひっくり返った声音で返ってきた否定の言葉に犬夜叉は露骨に眉を顰めた後、問答無用でかごめを抱きかかえると、さっきまで自分が椅子代わりにしていたベッドにぽすんと放り投げる。 「きゃぅッ?!」 と小さく悲鳴が聞こえてきたが無視して、かごめが体勢を立て直すよりも早く、その体にのしかかって両腕を捕まえた。 「何だよそのあからさまに疑ってくださいって言ってるような声はっ」 「そ、んなことないわよ!犬夜叉考えすぎ!」 と、弁解のその言葉すら僅かに早口でまくし立てるように言っていては説得力も何もない。しかし大方、少女の弁は本人から聞かずとも犬夜叉には分かっている。 「・・・・そんなに嫌なのか、お前」 「嫌、じゃないけど・・・・」 一応。 犬夜叉にも社会的立場があり、つまるところ、独立出来ている“社会人”と見なされる立場にいる訳で。勿論、収入云々の話をしだすと、未だ学生のかごめとではかけ離れているくらいには財政的潤いがあるのだ。 そしてとても厄介なことに、出逢い方が正直宜しくなかった二人だが、一度素直に向き合ってしまえば、相当に少女に執着していた犬夜叉が、彼女の願いを叶えようと思わない訳がなくて。 「犬夜叉に頼るみたいな真似したくないの。甘えたくないとかそんなんじゃないけど、なんていうか・・・・・あんたに依存はしたくないの」 「別に、依存なんて・・・・」 「してる。ていうか、しちゃう。結局犬夜叉、私にめちゃくちゃ甘すぎるのよ」 例えばかごめが何かとても高価なものを欲しがるとすると、間違いなくこの青年は、翌日辺りにはその品物を探し出してきて何とも無い風に渡してくるくらい、平気でするのだ。 これは別に犬夜叉が世間ずれした金銭感覚の持ち主という訳でもなければ、彼女の欲しいものを買い与えて優越感に浸る為のものという訳でなく、ただ純粋に、些細なことでもいいから、彼女の喜ぶ顔が見たいという、いたってシンプルな理由から来るものであり、しかも性質の悪いことに限りなく本気で且つ、本当に純粋な気持ちから来る行動なので、かごめとしても断りにくいのだ。 一度、相談のつもりで新しく買いたい靴の話をした翌日に、かごめが言っていた靴を本当に買ってくるということをされてから、極力彼の前で何かを欲しがるのはやめようとかごめが心に誓ったのはそのときだった。 「・・・・・・いいじゃねえか、それくらい」 「良くない。私、犬夜叉の傍にいたいとは言ったけど何か欲しいなんて言ってない。本当に欲しかったらバイトなり何なりして自分のお金で買うから」 きっぱりとかごめが言い切ると犬夜叉もさすがに引かざるを得ない。 つまらなさそうに、口元をへの字に曲げる様がどうもその感情をそのままに表現する様が子供っぽくてかごめはくすくす笑った。 「犬夜叉の気持ちは嬉しいけどね。やっぱり、頼ってばっかりは嫌なの」 「頼るも何も、お前いつだって一人でなんでもこなすじゃねえか」 「頼ってるよ。・・・・・・・・いつも」 「嘘つけ・・・・」 こつりと額がぶつかって、口付けをかわして。 捕まった手を離されて、腕が自然に向かうのは犬夜叉の背。 くす、と口の中で笑うと少しだけ唇が離れて、 「何、笑ってんだよ」 と返される。 かごめの意識が自分以外のところへ飛んでいったのがお気に召さなかったらしい。拗ねたような声が甘さを含んでかごめの耳朶に降りる。 情事のときと同じトーンの声に反射的に反応する自分の躯に少しだけ恥を感じながらも、わざとやっているんじゃないだろうかと疑いたくもなるけれど、これが彼の精一杯の愛情表現だということは分かっているので文句の言いようもない。 ただ、ぞくりと粟立ち、それだけで熱が上がりそうな肌を悟られまいと、わざと余裕があるような笑みを形作って自分から犬夜叉へ口付ける。 「別に。・・・・・・・・・・・犬夜叉、肝心なこと全然分かってないんだもん」 「肝心なこと?」 思わずかごめの髪を撫でていた手を止めて犬夜叉が尋ねる。欲求より好奇心が勝つなんて、二人にはいつも当たり前のこと。 「私は、犬夜叉から貰った物なんて要らないわ。犬夜叉が傍に居てくれるから、それだけで満たされてるもの。これ以上なんて要らない」 「・・・・俺もだ」 まっすぐな告白に僅かに照れながらも、意趣返し、とばかりに真剣な目で返して、そのあと二人してくすくすと笑った。 たとえ、どれだけ高価なものを引き合いに出されたって、貴方の傍にいることと引き換えれば全て色褪せてしまう、なんて。 そんなことを考えてしまうくらいには、好きなのだろう、“お互いに”。 吐息が甘さを含みだし、かごめはそっと、そう思った。 出来ることなら、これからもこうであるようにと、その願いこそがどんなものよりも素敵な宝物。 ********** 精神的に犬に寄りかかってばかりだからせめて行動でくらいは一人でちゃんとしたいかごめ嬢と、やっぱり惚れた相手には苦労させたくないし男として頼ってもらいたいなーって思っている犬。お互い、想いすぎてすれすれのところですれ違い。 本編から大体3ヵ月後。二人は・・・・ただのバカップルになりました。 というか、こっちの方が本編よりエロいてどうよ? |
色褪せた風景でも君がそこにいればそれでいい。 自分が今、不機嫌なのかどうかも分からないまま、かごめは黙々と、齧ると香ばしい音のするクロワッサンを消化していた。 周りに薄っすらと砂糖が塗られていて、その味が気に入っていた筈なのだけれど、何故かあまり美味しくないと感じていた。というよりも、味を感じないと言った方が正しいだろうか。 目の前の、空いたスペースをちらりと見る。 そこにも、自分の目の前に置かれているのと同じ朝食メニュー。 ただ、冷え切って湯気も出ないスープと中途半端に腰掛けられた形跡がとても寂しく映った。 たまの日曜なのだから一緒に過ごそうと、拉致同然(家族の許可はあったが)で連れて来られて、実はかごめが、“彼”に抱きしめられて眠るのがとても好きだということをちゃんと分かっている“彼”は特に何をするでもなく、「おやすみ」と頬に口付けを落とすと抱きしめて眠ってくれた。 連日の考査ですっかり疲れきっていたことすら見抜かれたようでかごめはひどく恥ずかしかったが、でも悪い気分はしなかった。 明日は、起きたら“彼”が隣にいる。起きたら何をしよう。 まず、おはようと言って、顔を洗ったら朝食を作ろうか。 此処へ来るまでに、明日の分の食料まで買い込んだ。 結局、あからさまに喜んだ素振りなんて見せなかったけれど、かごめだって、“彼”の傍にいられるのが嬉しいのだ。考査中、ということもあって、裕に2週間は“彼”とまともに顔を合わせなかった。 “彼”にも、自分の仕事や生活があるのだから仕方が無いとは思いつつも過ごした後だ、ずっと欲していた腕が傍にあることに喜ばないなんて訳が無い。 筈だけれど。 起きて、おはようと言い合って、顔を洗って、朝食を用意して。 そこまでは、思い描いていた通りだったのだけれど。 さあ食べようか、というところで唐突に鳴り出す“彼”の携帯の着信音。 それを聞くなり“彼”がとても嫌そうに眉を顰めた。 するとそれが、仕事に関することなのだと分かって、「早く取ってきなよ」とかごめは自分でその背を押した。 義務を果たさなければならないのは社会人としては当たり前、と心の中で言い聞かせて、送ったのだけれど。 とても申し訳なさそうな表情で、 「すまねえ、急に仕事が入った」 と云われたとき、ちゃんと笑えていたのだろうかとかごめは思う。 「仕方ないわよ。仕事だもんね」 と、声が寂しそうにならないように言うことが精一杯だったから。 (あーあ) かしゃりとフォークを落とす。 なるべく早く戻るから、此処にいろと言われたので、これはもう朝食が終わる頃には戻るとか、そんな早く片付く問題ではないのだろうと分かってしまって一気に寂しくなる。 此処まで誰かに依存してしまっているのは初めてで、少し苦しい。 味気ない朝食を片付けるのもいい加減飽きてしまい、だらしなく椅子の背にだらんと背中を預けて反転した世界の時計をぼんやりと眺めた。 「もう1時間も経ってるんだ・・・・」 “彼”が出て行ってから、すぐに食べるのを再開したつもりだたのに。 サラダのレタスがしんなりとしていたし、“彼”の皿の朝食のラップにも露が浮いている。無為な時間を過ごしていたものだと自分のことながら苦笑した。 「仕方ないもんね、犬夜叉、忙しいし」 そう呟いて、ふと、自分が、プライベートのことは別としても、彼が何の仕事をしているのかを詳しく知らないことに気が付いた。 さすがに、そんなところまで根掘り葉掘り聞かなくてもいいとあえてスルーしてしまったのは紛れもなく自分なのだけれど。急に気になりだしたら止まらなかった。 (休日に呼び出し喰らうくらいには高い役職にいるのかな・・・・でも犬夜叉まだ20代前半だし、・・・・あ、でも自分でもそれとなくそんなことちらって言ってたっけ) そこまで考えて、何だか仕事にかこつけて家庭を顧みない夫の浮気を心配している妻のような思考に陥りかけていることに気付いてかごめは少しおかしくなった。 浮気だとか、仕事だとか、そんなものを心配したことはなかった。 あれだけ馬鹿みたいに真っ正直に生きているひとだから、仕事だってヘマはしないだろうし、浮気だって絶対と言い切っていい程しないだろう。 でも。 (やっぱり・・・・・一緒にいた筈の時間まで仕事に取られちゃうとなぁ) 悲しくならない筈、ないではないか。 そうなる理由を、彼にぶつけられたらとても楽なのは分かっていたけれど、仕事だから仕方ないということも分かっている。それに、こうして甘やかされているのだと理解出来る分、これ以上甘えてはいけないのだと自分に言い聞かせた。 間違っても、頑張っている彼の足を止めるような真似、してはいけない。 「はぁ」 思わず大きな溜息が出た。 そしてやっと、サラダだけでも食べきろうとフォークを握ったとき。 いきなりぎゅっと、背後から抱きしめられて本当に心臓が止まるかとかごめは思った。 「い、いいい犬夜叉!?どうしたの、仕事は」 「俺がいなくても出来そうなとこまでやって、あとは任せてきた」 「任せてきたって・・・・」 「元々俺のするべきことじゃねえんだからいいんだよ」 苛々とした風を隠さずにそう言うと一層抱きしめる力を込める。 かごめの肩に顔を埋められたせいで表情は見えないけれど、相当いらついているのは気配で分かる。 とりあえず、お疲れ様と声を掛けるべきだろうかとかごめが一瞬迷っていると、先に犬夜叉がゆっくりと顔を上げて、まっすぐにかごめを見ながら 「お前、物分り良すぎだ」 と拗ねた口調で言われて思わず言葉を失った。 もしかして、彼が今苛々しているのは仕事のことではなくて自分の態度が原因なんだろうかとそのとき初めてかごめはその考えに行き着いた。 「こっちばっかり逢いたいみたいで馬鹿みてぇ。お前は変に真面目だからテスト期間中ずっと忙しそうにしてるし、遠慮して会いに行かなかったらこっちが迎えに行くまでこっちに来ることすら思いつかねえみてーだし。今日だって朝から邪魔が入ったってのになんでもないような顔して送り出すし」 そんなことない、と反射的に言い返しかけて唇に落ちてきた感触に邪魔される。 外から帰ってきたばかりだからか、僅かにかさかさした、冷たい唇が、重なるだけの触れあいをしたあとゆっくりと退く。 「いぬや、」 「でも」 拗ねた言い様が一気に消えて、真剣な表情がかごめを射抜く。 「折角手に入れたお前を手放す気は、俺にはねぇから。覚悟しとけよ」 宣戦布告のような宣言にかごめは一瞬呆気に取られた。 こっちだって、と返そうとするけれど、何かを言おうものならその瞬間に口を押さえられそうな雰囲気で、実は彼は自分の返事が否なのを恐れているのではないかという考えに行き当たって思わず笑った。 そんな筈、ないのに。 だから、口を封じようとするその手を止めるために、自分から伸びをして頬にキスして、呆然とする犬夜叉に「こっちだってそのつもりよ」と返してやって、ようやく気が済んだ。 再開した朝食。 出来立てのときみたいに香ばしい音のない甘いクロワッサン。 暖めなおした湯気のたったスープ。 ケチャップがすっかり乾ききった半月状のオムレツ。 すっかりしんなりとしてしまった野菜サラダ。 出来立てのときみたいに、食欲をそそるようなものではないのだけれど。 目の前で一緒に食べている人がいるというだけで美味しい、と感じる。 味気ない朝食が嘘のように、あっという間に残りを片付けて、こうして隣に並んで片づけをしながら、どちらの方が、相手に惚れ込んでいるか、なんてこのひとは全然分かっていないんだろうな、とかごめは口の中でだけ、ひっそり笑った。 そんな、ちょっとした休日の午前。 ************ 設定が、現代版犬かごと被ってきました(笑) でも雰囲気的にどのシリーズより一番夫婦っぽい気がする・・・・・ 「かごめちゃんが冷たく見える」と云われたので、冷たく見えるのは必死で自分の感情優先させないようにしてるからだよっていうフォローのつもりで書いたんだけどとても楽しかった一品。 |
感情の齟齬すらも絆を深めるきっかけでしかない。 喧嘩をした。 きっかけはあまりにも些細過ぎるので割愛する。 たまにしか会えないのだから、そんなときにどうでもいいことで背中合わせになんてなりたくない。出て行かれないだけマシなのかもしれないが。 「・・・・・・おい」 「・・・・・・・・」 反応はない。 いつもなら「何よ」くらいは言ってくれるだろうにそれすらないとはどれだけご立腹なのだろうと少しだけ及び腰になりそうな思考を犬夜叉は負けん気だけで何とか前に立たせた。 「さすがに言い過ぎた。機嫌直せ馬鹿」 「ちょっと黙ってて」 何だそれは。 少し(いやかなり)むっとして犬夜叉はぐるりとかごめを向いた。 今、何気に一言余計な語尾をつけてしまったがとりあえずこちらから謝罪して折れようとしているというのに一蹴するかのような言い草。 ただでさえいつだって負けず嫌いの自分からの謝罪を簡単に跳ね返してくる少女にむっとしたの半分と、まだ怒っているのだろうかという半ば機嫌を窺うような心境半分。どちらにしても複雑だ。 「かごめ」 「・・・・」 「オイ」 結局焦れた犬夜叉の方が無理やりにかごめの腕を取って自分の方を向かせた。しかしかごめの方も中々強敵で、それでも往生際悪くふいと俯いてそっぽを向く。 さすがの犬夜叉もそこでぷつりと、辛うじてもっていた堪忍袋の尾が切れた。 「こっち向けって言ってんだろ!」 ぐい、と無理やりかごめの顎を取って上を向かせて。 ようやく視線が合うと思っていた犬夜叉は、かごめの顔を見た瞬間、盛大に脱力した。 「・・・・何、目ぇ瞑ってんだよ」 そこまで俺に目を合わせたくないかと思うと正直立ち直れなくなりそうだ。 何となくムキになってじっと、目を瞑ったままのかごめと向き合って。 おもむろに ちゅ。 「!!!???」 唐突に唇に降りてきた感触と音に、さすがのかごめも唇を押さえてその場から飛び退った。 「な、」 「いや、悪いつい条件反射で」 悪びれもなく犬夜叉はしれっと謝った。 実際に本気で条件反射だったのだ。 しかしかごめはあまりの彼の言い様やらいきなりのキスやらで頭の中が混乱しているのか、意味もなくぱくぱくと酸欠の魚のように口を開閉しているだけだった。 耳が赤いのでとりあえず照れていることは確実なのだが、それ以上に言葉として何かを発するのが難しい心境らしい。 「あー」 自分でやったことだが急に居た堪れなくなった犬夜叉は、頭をかきながら僅かに上向きながら、言葉を探すように「とりあえず、悪かった」と言った。 すると、暫く沈黙していたかごめも、青年の謝罪に毒気が抜けたように肩から力を抜いた。 「別に・・・・あたしも、悪かった訳だし」 「誘ったのが?」 「違うそっちじゃなくて!!」 また赤くなった。からかうべきでないのは彼とて重々承知しているのだが、これだけ打てば響いてしかも何倍にも返って来る楽しく可愛らしい反応を知っていればからかわずにはいられない。 再び慌てたあと、「ていうか誘ってない!」と、ようやく遅いつっこみを入れたかごめは、盛大に息を吐き出した。 「・・・・私も、意地になっちゃったから、ごめん。ちょっと自己嫌悪しただけ」 そう言ってふにゃ、と少し気の抜けた笑顔を見せてくれて。 ようやく犬夜叉の望み通り、かごめを腕の中に戻すことに成功した。 言い合うことすら楽しいと思える相手との、そんなとあるひととき。 * * * ハッ(鼻で笑うな) |
独占するのは物じゃなくてお互いの方が素敵でしょう? 「えっと、毛糸が思いのほか余っちゃって」 「ほーう?」 頷きながらも、その言葉は固い。 「あの、えっと夢中になってたらいつのまにかこんなになっちゃって」 「このくそ忙しい受験シーズンに、わざわざ?」 自分を心配しての言葉だと分かっていたけれど、かごめはむっとする。 言外に、そんなくだらないことに時間を費やしてと言われた気がしたから。 そりゃあ、くだらないことなのかもしれない。 きょうび、わざわざ1から作り出さなくても世の中物に溢れたこのご時世に、懐古的すぎる発想かとも思ったが、気持ちが大切だと思って、受験勉強の合間を縫って、細々と作っていた、マフラー。 やっと完成してみれば、伸ばせば余裕で彼の身長を追い抜いてしまう長さになってしまい、解いて途中からやり直そうかと考えたけれど、結局目標の日である今日までには間に合わなかった。 いつもお世話になっていて、大切にしてもらっていて、尊重してくれていることも知っている。 だから、久々に会う約束をしていた今日くらい、自分の普段の感謝の少しくらいを、お返しできたらいいと思っていた。 ・・・・・結局、空回りだったけど。 「・・・・分かってたわよ。別に、こんなの無くたっていいのくらい」 俯いてぽつりとそう溢すと、かごめ?と彼が自分の様子を不審に思って、顔を覗き込んでくる。 けれどかごめはそのままくるりと体ごと彼から顔をそらして「何でもない!」と答えた。 八つ当たりだと分かっていたけれど、これを編んでいる間の気持ちを思い返すと、とてもみじめに感じた。 喜んでくれるだなんて、何で無条件で信じていたんだろう。 馬鹿みたいだ。 情けなくなって、涙がこみあげそうになった。 こんなことで泣き出せば、もっとみっともない。結局彼に渡せず仕舞いで、未だ自分の手の中にあるマフラーに顔を埋めて誤魔化した。並びたいと思っても、ずっと子供のままの自分が情けない。 はぁ、と溜息が聞こえて、かごめはぴくりと肩を揺らした。 子供っぽい、と呆れられただろうか。 それは自業自得だから仕方が無いが、せめて八つ当たりじみた態度だけは謝罪しておかなければとかごめは熱っぽい瞼をぐいぐいと無理やり擦って、彼の方を向こうとした――ところで、彼に抱きこまれて、振り向けなくなる。 「いぬやしゃ?」 「〜・・・・・悪い」 自分が謝るならともかく、どうして自分が謝られるのか分からず、かごめはきょとんと首を傾げる。 ぎゅう、と抱きしめられた腕が強くなる。 「八つ当たりだ」 「え?」 「それに」 それ、と指差されたのは、手の中のマフラーだ。 これにどう八つ当たりをするというのだろう。ますますわけがわからない。 しかしかごめの疑問に気付いてか気付かずか、彼は続けた。 「お前が大事なシーズン迎えてるから、俺は余計なことしないで黙って見守ってようって思ってた。 やっと今日逢えて、馬鹿みたいに喜んでるのに、お前がそんなの編んでるなんて言うから」 「・・・・・・・迷惑だったってことでしょ?」 「違う!・・・・・・・・・嬉しい。俺の為だってんだから、決まってる」 でも、何でか嫌だったんだ。 お前がそれを編む時間の余裕を、俺にくれなかったことに、俺が勝手に怒ってるだけだ。 勿論、むちゃくちゃなことを言っている自覚は、彼にはあったのかもしれない。 そもそも、大丈夫だと言うかごめを拒んで、逢わない、と決めたのは彼自身だ。 以前から、模試の前になると、一切会わないようにしようと言い出す彼の律儀さは知っていた。 自分を優先して言ってくれていることだとも分かっていた。 長いようで短いその期間を終えて、伸ばしてくれる腕の中で過ごすたった一日が何よりも好きだった。 だから、暫く会わなくても平気だと、たとえ強がりでもかごめは思えた。 ―――自分だけ、そう思っているわけではないことに、彼には悪いが安心してしまった。 「犬夜叉」 自分の前で組まれた手にそっと、自分の手を重ねて、言う。 「今度ね、犬夜叉の隣で、ちゃんとした長さのマフラー、編んでいい?」 「・・・・・・おぅ・・・・」 「このマフラー、ちゃんと出来たら、貰ってくれる?」 「・・・・・・・」 こくり、とはっきりと頷いてくれたことが嬉しくて嬉しくて、さっきまでの悲しい気分なんて吹き飛んだ。 「ねえ、犬夜叉」 でも、これは犬夜叉も分かっていないのだから、はっきりさせておかなければ。 「私だって、寂しかったんだよ。犬夜叉に会えなかったの」 でも、また暫く一緒にいられる時間が欲しかったから、喜んで欲しかったから、頑張ったのだ。 ちょっとしたご褒美くらい、かごめだって強請りたい。 「また一緒にいてね」 「・・・・当たり前だ」 今更、照れたみたいにぶっきらぼうな答えを返す彼がたまらなく愛おしくて、かごめは首を少し捻ると、赤くなっていた頬に軽くキスで返した。 **** 大きいマフラーを二人で一緒に、とかやりたかったんだけど、断念。 30メートルは流石にないけど(笑)わんこに喜んで欲しくて(←寒がり)頑張ったお姫と、お姫の為にかごめ断ちして大人〜な態度に心掛けたけど結局最後はそんなもんより俺のそばにいろよーと駄々こねたわんこでした。 ブログ掲載物、再録。 |