光ト闇ノオト
所詮・・・・・光と闇は、相対するものであり、一つにはなれない。
それらが出来る事は、間に伴った調和を乱さぬようにする事のみ。
それでも・・・・闇は光を欲するか?
何の為に?誰の為に?
己の御心のみぞ、それを知る。
「あたしに一体・・・何の用なの・・・・?!」
対峙する目の前の相手に、いつもの殺気が全く感じられず、かごめは不審そうに・・・でも、警戒を解くことなく話し掛けた。
とかく、かごめは眠れないからと、わざわざ半妖の少年が付き添うと云う申し出を丁重に断ってまで此処まで来た事に、今更ながら自分が愚かしく思えた。一人で歩きたいなどと身勝手にも程があったのだろうか。
一応、弓矢は持って来ていたが、相手が余りに至近距離に居て、弓矢を構える前に殺される事は目に見えていた。
目の前の宿敵である――――奈落には。
・・・そう、思っていた、のに・・・・
目の前の敵、である奈落は、傀儡でない上、殺気もない。
近くには最猛勝さえも居ない・・・全身凶器に出来るような彼にこのニュアンスは間違っているだろうが・・・所謂、丸腰の状態だったのだ。自分にとって、一番厄介な力を持つ娘が目の前に居るというのに。
挑発か、それとも自信なのか?
かごめが思案しているとふと、奈落が、
「別に・・・貴様を殺しに来たのではない。少し訊きたい事がある。弓を引け」
云って、かごめに手を翳した瞬間、かごめのつがえていた弓矢を除き、後ろに置いてあった矢が、矢筒ごと瘴気を浴びた時のように溶けて消えた。
「っ・・・・・!」
殺意はないが、抵抗させる気も無いということか。
かごめは息を呑み、奈落を睨み上げると、悔しそうに弓をつがえる手の力を緩めた。
そして明らかに怒気を含んだ動作で近場の岩に腰をおろすと、言った。
「それで・・・訊きたい事って何よ」
「何故・・・・お前は犬夜叉の傍に居る?」
未だ警戒を解かずにこちらの様子を窺うかごめに、そう問うたのは奈落の方。
・・・気丈な態度を崩さず、黙り込むかごめは、よく見ていなければ心を乱している事さえ気付けない。
だが目敏い彼の口元は、可笑しそうに歪んだ。
「表情【カオ】まで桔梗に似てきたか・・・」
「っ違うっ!」
ようやく感情的に反応する。
「私は・・・・・私、は・・・・」
何を訴えたいのか、頭では理解【わか】っていても、言葉には出来ない自分がもどかしい。
かごめは俯いて、その華奢な肩を小刻みに震わせた。
奈落は暫くその様を表面上、淡々と眺めていた。しかし少し俯くと躊躇いの混じる声音で言葉を吐き出した。
「・・・・・・・・・・・・わしの元へ来い」
「!?」
かごめが驚いて顔を上げると、何時の間にか奈落の顔がほんの数寸程の距離まで近付いていた。
ぎょっとして、急いでかごめは間を開けた。そして先程の台詞の真意を計りかね、言葉の代わりに視線で・・・訝しそうな表情で、問うた。
しかし奈落はその表情に気付いてないかのように、尚もかごめに問い質す。
「犬夜叉の元に居て、何になる・・・?お前は何の為に『あれ』に執着する?」
「何が云いたいのよ・・・・」
かごめの声が、半ば無意識のうちに震える。
「『もし』・・・わしが、四魂の欠片が玉に戻った時、貴様に譲ってやっても良いと・・・
そう云っても、お前はまだ、犬夜叉の元に居るのか?」
奈落の言わんとする事を悟り、かごめははっ、と息を呑んだ。
「勧誘のつもり、なの・・・?」
奈落は何も答えない。
しかし、その無言の間にも、かごめの心は僅かに動いていた。それに比例して、心音も早まってゆく。
――もし・・・『もし』・・・本当にそうしてくれるなら・・・私は・・・・
「っ信じられる訳、無いでしょ。人を傷付けるのを苦にも思わないような奴の事なんて」
迷い、揺れる心を必死で抑え、かごめは苛立った声でそう答えた。
・・・馬鹿馬鹿しい。もしも奈落の側に付く事を承諾すれば、それはつまり己の今まで苦労も苦痛も分かち合った筈の仲間達に敵対しなければならないということだ。引いては、勿論犬夜叉とも。
好き好んで誰がそんな事態を望むだろう。たとえ玉が今は奈落の手中にほぼ全て集まっていようが、そんなのこと承諾できる筈がない。こと、かごめに関してはその手の正義感というものが人一倍強いのだ。
まさか、かの陰謀を張り巡らせる事に長けた奈落が、かごめがどう返事をするか考えない筈はないのに・・・。
困惑するかごめの表情を見やりつつ、奈落が再び言葉を投げかけてくる。
「四魂の欠片を集めることは、何もお前だけが出来ることではない」
考えていたことを見透かされたように感じ、かごめは僅かに肩を強張らせる。
「あんな所を見ても、お前はまだ犬夜叉を諦められていないのか?」
『あんな所』・・・・・?
云われて何のことかと一瞬思案してみて、ふと桔梗と犬夜叉との逢瀬の事かと思い当たる。
そして、奈落も大方何処かからその場を見ていたのだ、という事を察する。
今だ揺るぎそうもないかごめの意志を悟り、奈落は付け加える。
「では、お前が来れば、珊瑚に琥珀を返そう」
突然の、願ってもいない言葉にかごめは慌てて面【おもて】を上げる。
しかし。
「!・・・・・云ったでしょ?あんたなんて、信じ・・・・」
「嘘は吐かん。貴様の返答次第だ」
即答されてしまい、かごめはますます困惑し、黙り込む。
私は・・・犬夜叉が、桔梗を選んだ事、認めて、諦めて・・・・でも、砕いちゃった責任で一緒に玉を捜している。
それならもう・・・確実に欠片が集まる奈落に付いて、琥珀君も返してもらうのも・・・
そんなことがふと脳裏を過り、かごめは振り払うように頭【かぶり】を振った。
違う・・・・
そんな、簡単なものじゃないの・・・・
私が今まで大切にしてきた事って、そんなすぐに切り替えられるような軽いものじゃない・・・・
「私は・・・・あんたには手を貸さない。あんたに殺されもしない」
先程とは違い、強い光りが宿った瞳が、今度は真っ直ぐ、迷いなく奈落を見つめた。
すると奈落はふ・・・、と静かに笑い、「そうか」とあっさり納得した。
あっさり引き下がった奈落の態度に逆に拍子抜けしてしまったのはかごめだ。
元より宿敵である彼の誘いに乗るつもりは毛頭無かった。だが・・・一つだけ、気になることがあった。
「奈落・・・・今度は、私から訊いておく。」
云ってかごめは目を伏せた。そして間を置いて続ける。
「どうして、そこまで私にこだわるの?
あんたの云う通り、四魂の欠片を集められるのは私だけじゃない。・・・桔梗だと、強すぎるから?」
「・・・・・わしにも、良く解らん。」
やけにあっさりと返ってきた返答に含まれた感情は見えなかった。
あえて、見えたとすれば――――躊躇いと、口惜しさの気持ち。
だがそれも束の間のこと。
彼女に背を向けると、奈落は闇に歩き始め・・・途中で少し立ち止まった。
「わしは、何時でも待っているぞ。気が向けば来るがいい」
それはまるで、戦力を欲している輩の言葉なんかではなく、何かを求める者の言葉のような・・・
彼の性格上、驚きものではあるが・・・・想って待つような、そんな言葉。
言い残し、ふっと消えてしまった奈落が居た場所には、闇夜よりも、もっと深い闇が、余韻のように残っていた。
その場所を半ば呆然と眺めていたまま、かごめは初めて彼が見せた
去り際の物悲しそうな目を思い出していた。
それはともすればすぐに砕けそうに繊細な、人間らしい眼。
眼に焼きついてしまったそれを思い出すと、今更ながらかごめは、少しだけの後悔を感じた。
―誰かに依存することなぞ、当に捨て置き。
誰かの為に必死になることなぞ、ありえない筈だというのに。
(わしも随分ヤキが回ったものだ)
自嘲気味に、くつくつと'闇'は笑った。魅せられた光は既に'夜叉'に心奪われているというのに。
所詮・・・・・光と闇は、相対するものであり、一つにはなれない。
それらが出来る事は、間に伴った調和を乱さぬようにする事のみ。
それでも・・・・闇は光を欲するか?
何の為に?誰の為に?
己の御心のみぞ、それを知る。
『捕えて離せなく出来れば、どれだけいいか・・・?』
それは、一時だけの幻惑・・・・・?
【終】
初★奈→かごめ小説。
途中で何書きたいのか分かんなくなってしまったとゆー本末転倒お粗末小説(泣)
もういいや・・・・私は犬かごが好きなんだもん・・・・むしろ生粋の犬かご目指してもいいわー!!(ヤケ)
・・・・あ、でも桔かごはまた書く・・・・(撲殺)
とりあえず奈かごは奈落もかごめちゃんも両方天然ボケ希望(?)。
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