理性と自制の理由








解って・・・・いるんだ。




彼女は何時も、アイツを見ている。




傷付いても。




振り向いてもらえなくても。




――ただ、『見ている』相手の幸せだけを願って。













貴女はそれでも構わないと云うが、それはとてもズルいと思う。




貴女は俺の想いに決して気付かないのに。




『俺』は貴女に想いを伝えぬと決めたのに。




なのに・・・・
―――――




























「何をしていらっしゃるんです?かごめ様」


・・俺に声を掛けられて、彼女はびくり、と身を一瞬強張らせた後、振り返り様に何時もと同じ、暖かい笑みを零して応じてきた。
「何も。・・・やだなぁ、弥勒様ってば。人の真後ろにイキナリ立つんだもん」

「・・これは失礼。先程から貴女が熱心に薬草集めに勤しんでいるのが見えたものですから、一応これでも成るべく驚かさぬよう、声を掛けようと努力したんですが・・・返って逆効果でしたね」

苦笑・・・と云うよりは、可笑しな物を見た後の、必死に笑いを噛み殺したような表情で云う俺の態度が気に喰わなかったか、かごめ様は少し眉根を寄せ、頬を膨らませた。
ご本人としては普通の反応なのだろう。
その、怒ったような顔も、次第に笑みにに変わる。

その様は例えるならば飽く事も無くコロコロと鳴る鈴の音のように。

全ての表情が魅力的で、女にはてんで興味なさそうな犬夜叉が惚れたと云うのも頷ける。

その様は、男女を問わず魅せ、あるいは狂わせる。

現に、俺も同じ。彼女に魅せられてしまった1人だ。

ただ、仮面を被って、その事を表に出さぬようにしているだけ。


きっと、自分がそう思われているとは微塵も思っていないのだろう。だからこそ・・・


――知られては、悟られてはいけないのだ。感情を。



「で?弥勒様こそ、何してたの?こんな所で」
さっきまで、脇目も振らずに摘んでいた痛み止めの薬草を篭の中に放り込み、かごめ様は面白そうに問うた。

大きく、好奇心に満ちた瞳に薄っすらと疑問にも似たものを浮かべて。

俺は首を竦めると、作り笑いで誤魔化した。
「特に、用はありません。ただ、かごめ様を捜しに・・・」

少々、不服そうではあったが、どうやらそれで納得したようだ。

「ふーん・・・」

小さく返されると、森の出口へ向かいだした。









分かって、いらっしゃらないんだろうなぁ、と、暗に仄めかして云った必要以上の安否の言葉を受け流され、溜息混じりに心の中だけで呟いた。
きっと、これからも、はっきりとした言い回しでもしない限り、『俺』の気持ちになんて、見向きもしないんだろうな。

犬夜叉だけを見ているかごめ様には・・・・


でも、ま。
アイツからかごめ様を掻っ攫う度胸も安い命も、生憎と持ち合わせちゃいない。
ただでさえ短い寿命、これ以上縮ませる気なんて毛頭ない。と、云う事で諦めた気になっている。

諦めきれてないくせに・・・・

「弥勒様・・・?」

かごめ様の心配そうな声に、俺は、はっと我に返った。
彼女の、覗き込んだ上目がちな瞳と、ぱっと目が合う。

一瞬、鼓動が早まったが、次の瞬間には何時もと同じ、穏やかな顔の『法師』に戻った。
「何です?」

笑顔でそう返すと、かごめ様は困ったように何でも無い、と明後日の方を向いた。
その様子が可愛らしくて、俺は思わず素のままで微笑んだ。
「あ・・・あのね」
黙ったままではいけないとでも思ったか、かごめ様が少し早口に話し掛けてきた。

「前から訊いてみたかったんだけど・・・何で、弥勒様って、私のこと『様』付けにするの?」




―――――――――・・・・。




本人に、悪意など全くない。
でも、俺の心を乱すには十分過ぎる程の質問だった。

「どうして、です?」

極力、平静を装う。

「だって・・・私、別に様付けされる程凄い人なんかじゃないよ?」

いいえ。

「ならば、かごめ様こそ、どうして私を様付けにするんです?私は『不良法師』ですよ?」

我ながら、よくそんな自爆しそうな質問が出来たものだ。

案の定、かごめ様は困り果てた表情で、暫く考え、ようやく答えた。
「色々あるけど・・・まあ、一番は弥勒様も法師なんだから。・・・一応」
「『一応』、とはまた心外ですなぁ」

かごめ様の、正直な返答に、俺は本気で苦笑した。

そして・・・・同じく、彼女が次にするであろう質問に、どう答えようかと頭の隅で思案してみた。

「で?弥勒様は?」

ほら、来た。



かごめ様、そう云う意地悪な質問はしないで下さいよ。


この侭
――――――気持ちを伝えて、貴女を苦しめてしまいますよ?


折角保っている、この居心地のいい場所を・・・壊してしまいますよ?



――・・弥勒・・・様?」

「自制の為・・・・ですよ」


随分と間を置いてしまったが、それでもそう答え・・・「それって、どういう意味?」とでも訊きたそうな顔で―『私』を見つめるかごめ様に微笑みで返し、彼女の頭を撫でた。


「いつか・・・・ご自分から、気付いて下さるまで、私が云った事は誰にも云わないで下さいね?」


何を?と返すかごめ様に背を向けると、私は云った。

「さぁ、早い所 帰りましょう。・・・皆、待っていますよ」









私は、出来る事ならば貴女の悲しみ、苦しむ顔はもう見たくありません。

だから・・・もう少しだけ、私の気持ちは黙っておくことにしましょうか。




――――空は今日も、貴女のココロのように澄み切っています・・・―――――







                                               【終】

とどのつまりは弥勒様の片思い話(泣)。
こんなんが弥かご話の最初でいいのかとか思いつつ。でも私悲恋が好きな割に、明るい恋愛も大好きなのです。
でも何か・・・最初は弥かご好きでしたが最近に至っては弥勒様の珊瑚ちゃんへのプロポーズがあって以来、すっかり弥珊、犬かご支持に戻り・・・。まあ元から弥珊も好きでしたがね。
ただ犬かごに対する愛が凄まじくて弥珊の愛が見えなくなっちゃってるだけであって(笑)。
マイナーのCPでは桔梗×かごめがダントツなのを異常と感じる(当たり前)今日この頃・・・・・。
かごめちゃんは犬夜叉に愛されて、愛し返して、他の方々の愛に気付かない・・・そんな人だと信じてます(信じるな)
恋は盲目ってね☆

邪道御伽草子へ。