一つ一つの想い









「何であたしは、犬夜叉のコト、好きになっちゃったのかなぁ・・・?」
好きにならなければ、こんなに悩む事もなかったのに。

かごめは、御神木に向かって、ぽつりと呟いた。

彼には到底、直接云えない事。

・・・否、誰にも、云えない事。

こんな事云っても、本人さえ判らない事なんて、誰も解らないのだから。

自分でも疑問に思うホド、彼が好きになったのだから。




――でも、彼女だって、愚痴の一つは言いたくなる。

桔梗の事。戦国時代と平成の事。『半妖』の事・・・・
―――――――。

彼が自分の事を大事にしてくれているのは、はっきりと解る。
自分だって、別に犬夜叉と寄りを戻したいなんて図々しい事、思っちゃいない。

でも・・・・・

「其処で、何をしている?」
「っ!!!」

突然、御神木の裏側から、聞き覚えのある声が聞こえ、かごめは肩を竦めた。
驚きを隠さず、勢いよく、そちらに振り向いた―・・ら。
「殺生・・丸・・・・・・・」

思いもよらぬ訪問者の登場に、かごめはぽかんと、彼の顔を見上げたまま、固まった。
「何だ。私が此の森に居ては可笑しいか?」
相変わらず、何を考えているのか良く判らない表情のまま、声だけは少し低くなった。
かごめは、彼の気を損ねたかと何か掛ける声を考えていたが、焦っていて、上手い言葉が浮かんでこない。
「うっううん!そんな事・・・ない、けど・・・ちょっと驚いただけ・・・」
俯き加減で申し訳なさそうにうなだれるかごめに、意識はないのだろう。
そんな態度が、彼女の想い人はおろか、眼の前の彼にさえ好感を湧かせる態度だという事は。

殺生丸は、そのままかごめとは反対側の木の根元に腰を下ろすと、無言で何処かを見詰めていた。
対するかごめは・・・
―――――

(どぉーしよぉぉぉ・・・掛ける言葉見つかんないよう〜っ!!)

・・・と。
最早半分パニック状態に陥っていた。
すると、彼女の挙動に不服を感じたか、殺生丸は、静かに問いだした。
「何を迷っていた・・・・?」

と。

「えっ・・・?!あっ・・・・。・・・ううん。何でも・・・」
突然掛けられた声が、自分への心配の台詞だった事に驚きを見せたが、寸でで言葉を呑み込んだ。
云っても仕方が無いと、決め込んだのはたった今だったではないか。かごめは、己の形のいい膝を抱え込んだ。
「・・・そう云う殺生丸は、此処に何しに来たの・・・?」
まさか、犬夜叉を狙って・・?と続けようとしたが、其処で言葉を切った。
彼を狙うならば、自分の近くに
――殺意も出さずに悠長に座っている訳もない・・・。
その推測は、間違ってはいないようだ。
「近くへ寄ったら貴様の匂いがしたから寄った。・・・それだけだ。」
暗に、「お前の顔を見に来ただけ」と云われ、不謹慎かとも思ったが、かごめは頬を薄く桃色に染めた。

「あたし、ね。」
無意識に、話し始めた。
「犬夜叉の重荷にばっかりなってる気がして・・・何か、辛くなって来たの。此処、落ち着くから・・・」

他人に話なぞしたところで、自分の辛い気分は少しくらい和らいだとしても、それは一時的なものでしかなくて。

しかも今、話し掛けているのは敵であった筈の、有無を言わぬ強さの妖怪であって。

かごめのような娘など、少しでも彼の気を損なわせたら何の言葉を発する暇さえなく殺される事の自覚もあったのに。

しかし、かごめは無意識に、根拠さえも無いのに、この人には話しても大丈夫。
そんな感覚を覚えたのだ。・・・・たとえ、今実は彼が自分の命を狙いに来たのであろうとも。

命の保障は無いけれど、でもきっと自分の中の蟠りを話しても、きちんと聞いてくれる。

何だか矛盾した自分の意見に、かごめは口の中で苦笑を禁じ得なかった、途端。
「・・・・・な。」
「え?」

それまで、黙ってかごめの言葉を聞いているようにも、眠ってしまっているようにも取れる態度を見せていた殺生丸は、半ば億劫そうに、言葉を発した。・・・かごめには、聞き取れなかったのだけれども。

きょとん、とした眼を彼に向けるが、御神木を挟んで、向かい合って座っている為、彼の表情は読み取れない。
しかし面倒臭そうに、すっ、と立ち上がると彼は繰り返し云った。
「重荷かどうかは、本人に訊くんだな。・・・結界の外でお前を捜している奴に」

結界って何のこと?と訊き返しかけてかごめは察しが云った。
ただ、あまりにも信じ難い事で、しかも間違えていたら、酷く自分が自惚れな回答になってしまう。

「私に会いに来るのに・・・わざわざ、結界まで張って・・・?」

意を決して尋ねたが、その答えが返って来る事は無かった。
ただ、返事変わりのように、今まで彼女が・・・否、きっと犬夜叉でさえ見たこともない程の穏和な微笑を浮かべていた。それが全ての返答の答えだ。

だがそれも直ぐに、いつもの無表情の顔に戻る。
「この前・・・今日のように此処で溜息を吐いていたお前が見えたから・・・気まぐれで来ただけだ」

だから大した理由は無い。
続ける彼の言葉に驚いた。見られていた事もそうだが、自分の事を少しは気にかけてくれていたのだ。

否、それとも、この殺生丸のことだから単なる暇潰しとか・・・・?

それでもいい。ただ話をちゃんと聞いてくれた、それだけの事が嬉しくて。
「・・・有難う」

この場を去ろうとする後ろ姿に、こっそりと礼を述べた。
兄弟揃って耳もいい彼のことだ。間違い無く聞こえているだろうに、彼は何も気付かなかったように、その場を去った。

その姿が見えなくなると、かごめはゆっくりと腰を上げ、次いで辺りを見回した。

・・・成程。
さっきは気分が沈んでいて気付かなかったが、確かに御神木を中心に、空気が微妙に変わっていた。
それもすごく広範囲にだ。これならば幾ら鼻が良かろうと犬夜叉に自分が見つけられる筈がない。

しかし、それもたった少しの間の話であった。

消し飛んだように結界が、殺生丸の去った方角から綺麗に消えていったのだ。

それを確認すると、かごめはゆっくりと、でも此処に来る前まであった重苦しい気持ちは棄てて、村の方に歩き始めた。

「あ。」

忘れていた。
・・・いや、忘れたフリをしていたのかもしれない。

最初は覚えていたくせに、結局最後は忘れていた。自分と彼は敵だったということに。
そして、実は最初からそんな事どうでもいいと感じている自分が居たということに。

まあ、それはそうと・・・・・。

村がようやく見えて来たところで、かごめは走り始めた。仲間の所へと
――――









余談になるが、かごめは帰ってきたあと、何故かボロボロでやたら自分にくっついてくる犬夜叉を、不思議そうに見る事になるのだが・・・・それはまた、後のお話。



【終】


〜おまけ話〜 INUYASHA SIDE


「かごめーっ!」
森の中、必死にかごめを捜していた犬夜叉は、ある覚えのある匂いを感じて、その場に止まった。
彼に言わせてみれば『気に喰わない匂い』の一つであって、決して和やかに話せるような相手ではなくて・・・

「犬夜叉・・・・」
本人に名を呼ばれ、ふとその方角へと目をやると案の定、予想通りの顔が其処にあった。
ただ、予想外な事といえば、普段滅多と感情を表す事の無いその表情が、珍しくも明らかな怒りを表していて居る事と、つい今しがた存在に気付いたような彼のその怒りの矛先が間違い無く自分に向いている事であった。
・・・・そういえば、自分を呼んだ声も何処となく怒気を含んでいたようにも思う。

しかしながら生憎と、犬夜叉には、彼・・・殺生丸が、感情を剥き出しにする程の怒りを自分にぶつけてくるような事は此処最近のことでは全くもって思い浮かばなかった。それどころか、逢うのさえ久方ぶりなくらいなのだ。

とにかく、犬夜叉とて莫迦ではないのだから、自分と相手の力量位弁えられる(それを認められるかどうかは別として)。
だから、怒り剥き出しで、しかも殺気さえ漂わせるような、只ならぬ雰囲気を醸し出すこの異母兄に向かって行く程の無謀な事も最近になってからの話ではあるが、しなくなった。

しかし・・・・・・どうもそれを、この兄は許してくれそうも無い。

殺生丸は問答無用で闘鬼神を腰から抜くと、音もなく易々と犬夜叉の間合いに踏み込んできた。
一方の犬夜叉は、唐突の殺生丸の行動に判断が鈍り、間合いの踏み込みを許してしまったが、すぐにはっとなって急いでまた間合いを開けて対峙する。

今だ何故、此処まで殺生丸が自分に対して腸【はらわた】を煮え切らせているか判らず困惑する犬夜叉に、殺生丸は嘲笑し、剣を構えなおす。そして忌々しげに言葉を吐き出した。
「貴様・・・・まさか気付いておらぬなどとぬかしてみろ。私がこの場で貴様を滅ぼしてやろう」

「なっ・・・・?!」

冗談ではない。
とんと見当も尽かぬ事でいきなり殺すと言われても、心当たりが無いのだ。
そうではなくとも、先程から姿を見せない少女の姿を捜すべくあくせくと奔走している時分だと言うのに。

犬夜叉は、ふとそれを思い返し、対峙している相手に隙を見せないよう、警戒しながら、又、鉄砕牙に手を掛け、何時でも対応が可能な状態で、きょろきょろと視線だけを周りに馳せた。
もし万が一、殺生丸に打ち合いに持ち込まれた時、近くにかごめが居てみろ。必ず自身の身の危険の事なぞ忘れて自分の心配をして、この場に近寄ってくるだろう。だが、幸運というか何と云うか、かごめの匂いは感じられない。

(って、それって余計に可笑しいじゃねぇか!)

本来、他人の匂いよりもまず真っ先に優先する事がすっかり習慣付いてしまった犬夜叉が、例え規模は小さくないとはいえ、たかが森一つの区域に居る筈の少女の匂いを感じられないのは明らかに可笑しい。
人が本来持っている匂いよりもキツイ血の匂いがしないので、かごめが危ない目に逢っている事は無いと判っていても、それどころかかごめの匂い自体がしないのは可笑しいなんて事、直ぐに気付けた筈ではないか。

殺生丸に視線を戻し、犬夜叉は小さく舌打ちした。
「てめぇが何の話してるかは知らねぇけどなぁっ!とにかく其処を退きやがれ!!」

吠える犬夜叉に、殺生丸はやや感情が収まってきた、半分何時もの表情で、呟いた。
「解【げ】せぬ・・・」と。

益々、犬夜叉には意味が判らない。
しかし彼は、犬夜叉の態度には目もくれず、続ける。
「何故、あの女は
――貴様なぞと一緒に居たがる。泣く程に辛いのならば、生国に帰れば良かろうに」

殆ど呟きにも近い、小さな声だったが、犬夜叉の耳にはしっかりと届いていた。
『あの女』と云うのが、今しがたからずっと捜しているかごめであると悟ると、同時に犬夜叉は肝が冷える思いだった。

まさか、自分が知らぬ間に、この男は彼女に出逢ったのだろうか・・・・?
「てめっ・・・・・・・!かごめに何かしたんじゃ・・・・!」
「虚【うつ】け者。勘違いを起こすな。・・・・先程まで、かごめとかいう女が泣いていた。」
「!!」

ちゃき、と殺生丸は、闘鬼神の刃先を、犬夜叉の首筋に定める。

「しかも、犬夜叉・・・お前のことでだ。もう結界は解いた。かごめは、妖怪には遭わずに無事村へ戻ったようだ。」
彼の言葉に不本意ながら、犬夜叉は安堵の溜息を洩らした。
とはいえ、この状況が変わる訳でもなし、寧ろ疑問が出てきてしまった。

「殺生丸・・・・てめぇ・・・・・まさかとは思うが・・・・」
本当はこれ以上云いたくない。云って肯定されると何かと厄介なのはある人物で既に痛いくらい知っている。
しかし殺生丸は、相変わらず冷淡な表情のままだった、が。

「・・・・・抜け。一応、殺すまではその心意気に免じて勘弁してやる。」

でも、彼女を泣かせた事実は変わらないのだから・・・・




――――――――――・・・・・・




やっと殺生丸が立ち去った後、犬夜叉はズタボロになった体を大の字に寝そべらせて息切れしている呼吸を整えた。

一抹の不安を残して去った異母兄は、どこをどう考えても、どう控えめに見ても、己の愛しい少女に対して向けられた感情が恋愛の其れであると、気付いた風ではなかった。
ただ、気になる女を泣かされたという事実に、腹が立った。その辺なのだろう。
しかし犬夜叉にとっては、また新たにあらゆる意味で厄介な敵が出来てしまったという事ではないか。

鋼牙に疾風に、とどめに桔梗(笑)と殺生丸とまで来たものだ。
しかしかごめ本人が気付いている想いで、一番許されているのは自分だと・・・自惚れなんかじゃなく、
犬夜叉は本気で確信している。
シツコイと何度おすわりを喰らったか知れない程、本人を問い詰めて、その度に頬を染めて応えてくれた少女の顔が不意に思い出され、犬夜叉は優越感と同時に、くすぐったいものを感じて、ふっと笑った。
そんな事を考えながら笑っている事なんて、恋敵等に知られたらそれこそ本気で殺されるかもしれないが、それでもいいなんて思える程に、今の犬夜叉には妙な優越感があった。


「―
いぬやしゃ―・・・

遠くから聞こえる、さっきまで記憶の中でしか存在しなかった少女の声に現実に引き戻され、犬夜叉はむくっ、と体を起こし、そして今後暫くの、かごめに対する扱いをそっと胸内で決心した。


(今度から、もう少し優しくすっかな。・・・・あと、悪い虫が寄って来ないように傍に居なきゃ・・・)


そんな、必死とも取れる決意を少年が心に固く誓った事など、当の少女が知る筈もなく
―――

今度こそ【終】


初、殺かご小説★
でもやっぱ私今は殺りん派だから何となく複雑・・・。いや、楽しかったけれどもね。すごーく。
最後は例の如く犬かごオチ。ってかオチ長いよ。しかも犬夜叉ノロけてるよ(笑)。
しかも恋敵認識されてる人物に桔梗さんとか居るし(大笑)。あと『かごめの戦国日記』シリーズ持ってない人は疾風って誰さ?って思うかも・・・・いや、絶対思うわ。何でもそうなんだけど、特にほのぼので好きなカップリングが殺かごなので、とりあえずほのぼのっぽかったら嬉しいです。・・・犬夜叉との戦いがかなり必死だったけれどもさ(笑)。


邪道御伽草子へ