夜の帳と乙女の寝室
ぎいぃぃ・・・
世間で云う所の、「草木も眠る丑三つ時」の時間帯。
一部の酔狂野郎とモンスター達を除いて、皆ぐっすりと眠り込んでいる時間帯です。
さて、この壊滅した筈なのに何故か復活しているニブルヘイムの宿屋の一室も同じく、皆ぐっすりと眠っていました。
え?じゃあ、さっきの木製の軋んだような音は何って?
はい。実は前者の酔狂野郎・・・いえ、失礼。
此処、ニブルヘイムを故郷に持つソルジャー、クラウド・ストライフ氏(21)の出した音です。
何分あまり手入れの行き届いてない安物宿なものですから、床の板も古いのでしょう。
ちなみに当のクラウドは、床が思いの外、大きく鳴いたものですから、驚いて扉を後ろ手で閉じたポーズのまま、固まってしまっていました。
そして此処は、勘の鋭い方ならもう察したでしょうが、乙女達の寝室です。
だから一応はクールで通っている、ウブを絵に描いたような性格だった事も災いして、クラウドはこの所謂『夜這』に等しい行為が気恥ずかしくってたまらないようです。
普段の彼からは想像も付かないくらい、顔を真っ赤にして、硬直していました。
・・・まあ、そんなヤツだったら夜這なんぞしないだろうとは思われるでしょうが、それじゃあ余りにも彼が不憫になるのでつっこまないであげましょう。
ともあれ、クラウドは、乙女達・・・要するに、ティファとエアリスの様子をそっと窺いました。
ティファが少し寝返りを打ちましたが、二人とも特に気付いたようではなく、昏々と眠りについています。
今日もハードな一日でしたし、明日はニブルヘイムの険しい山脈を登る予定なので、体力回復と温存の為に、深く眠り込んでいるのでしょう。
ほっとして、クラウドはゆっくり、二人のベッドに近付いて行きました。
窓の外で静かに輝き続ける月が、二人の安らかな寝顔を優しく照らしています。
部屋の中ほどまで来ると、闇でぼんやりとしていた輪郭もはっきりとしてきて、クラウドは思わず立ち止まって、二人の寝顔を見ました。
同郷の幼馴染で、黒髪が良く映えるティファ。スラムで花売りをしていた、まさに花のようなエアリス。
どちらも、掛け値なしの美人です。
クラウドは、口の中で小さく溜息を吐きました。
半分は、こんな黙っていてもあちらから声を掛けてきそうな美女二人が、こんな殺伐とした戦いの毎日の中に巻き込まれてもいいのかという心配と、もう半分は寝顔は可愛いのに、『中』の強さときたら、クラウドと肩を並べられる程なのですから・・・本当に、見た目と強さは比例しないのいい例を見せられたという、呆れの意味です。
そうならざるを得なかった環境を考えれば仕方のない事かもしれませんが、クラウドは何となく勿体無い、と思いました。
別に弱い方がいいだなんて思ってはいませんが、時には頼られたいという男心でも働いているんじゃないでしょうか。
そこまで考えて、クラウドは自分の思考が横道逸れている事に気付き、頭を振りました。
(そうだ、こんな所で余計な事考えて立ち尽くしてる間に二人が起きたらそれこそ恥ずかしい!)
妙に力みながらも、ようやく決心がついたようで(そんなの部屋入る前にやれよ)正面を見ました。
・・・・ついでにエアリスとも目が合って、クラウドは一瞬呆けてしまいました。見た目あまり驚いているように見えませんが、しかし明らかに内心、挙動不審です。
そして、その挙動不審の原因であるエアリスは、まだ眠たげに目をこすっています。
「・・・・クラウド?」
見詰め合って幾数分。エアリスが、恐る恐るといった感じで話し掛けてきました。
でもまだ頭ははっきりしていないようで、『コイツ、もしかして夜這に来たのでは?』的考えまでには至っていないようです。
クラウドもクラウドで、もう既にどうリアクションしたらいいのか図りかねているようです。
しかし、見詰め合っていても埒があかないと悟ったのか、ようやくクラウドの方に動きがありました。
「い、いや、エアリス・・・違うんだ!」
何が。とエアリスは思いましたが、彼が混乱している事に気付き、聞き流しました。
「ほら!俺、何かどうしても寝付けなくってさ。
しょうがないから暇潰しがてらモンスター退治行こうかと思ったんだが、ついでにマテリアも成長させとこうって思ったけど、どうやらティファに預けっぱなしだったみたいで・・・」
「あぁ!」
そこまで聞いて、エアリスはようやく合点が行ったようにぽん、と手を叩きました。(余談ですが、二人ともティファの事を考えて小声です)
そしてにっこりと、花のような無邪気な笑顔をクラウドに向けました。
クラウドは、何とか誤魔化せたかと焦りながらも苦笑混じりに、ティファのグローブから『てきのわざ』マテリアを取ると、ロクに確認もせず、後退りでドアに向かいました。
扉を、人一人分が通れる程度開けると、クラウドはようやくまともにエアリスを直視して、少しだけ微笑んで見せました。
「それじゃ、おやすみ。邪魔して悪かったな」
「ううん。クラウドも、熱心なのはいいけど、明日に備えて程々にしておいてね」
・・・・・あぁ、優しいエアリスの言葉も、今は何か辛辣な嫌味にしか聞こえない・・・
考え過ぎなのは分かっていましたが、クラウドは半ば落涙したい心持で曖昧に返事をすると、入ってきた時のように、そっと部屋を出て行きました。
「・・・・・・『てきのわざ』マテリアのレベルなんて、どうやって上げる気なんだろ。本当、ベタな事するわね、クラウドって」
静寂が訪れた部屋に、エアリスの、苦笑の混じったその高めの声は、よく響いて消えました。
「・・・そうね」
意外にも返ってきた返事に、エアリスは驚き、目をぱちくりさせて、隣のベッドで自分に背を向けているティファを見ました。
「・・・起きてたの」
「あれだけ気配隠さずにわたわたしてたら、ね」
言って、ティファはエアリスの方に向き直りました。その顔には、悪戯っ子が悪戯成功した時のような表情がありありと浮かんでいます。
どうやら、割と最初の方から起きていたようです。ティファとエアリスは同時にふふふ、と笑いました。
ど・・ぉぉん・・・・
外から、とても大きな爆音が聞こえてきて、二人は顔を見合わせました。
「・・・冗談かと思ったら本当にやってる・・・・」
「明日、起きたらクラウドぼろぼろで戻ってきたりして・・・」
その状態を想像して、乙女二人は思わず『かいふく』マテリアやポーションの確認をしてしまいました。
いやもう、準備がいいというべきか、健気というべきか、そんなにクラウドは母性本能くすぐりますかというべきか。(笑)
「・・・ねえ、ティファ」
とりあえずアイテムを確認して、落ち着いて布団をかぶると、エアリスは静かに口を開きました。
「・・・・何?」
「クラウドね、どっちを誘いに来たんだと思う?」
一瞬、ティファは呆気に取られて絶句してしまいました。
どうやら、薄々思っていたのは自分だけではないのだと思うとなんだか可笑しくも感じましたが。
「さあ。それはクラウド本人しか分からないわ」
「・・・それもそうね」
どぉぉ・・・ん・・・・
さっきよりも遠くの・・・今度はニブルヘイムの山中から聞こえてきました。
「ねぇねぇ、冗談抜きで明日、無傷でニブルヘイム越えられるんじゃない?」
「う〜ん・・・・クラウドには悪いけど、そうなったら随分楽よね」
「最近戦ってばっかりだし。たまにはのんびり行きたいよねぇ」
「そうよね」
そんな乙女の願いを知ってか知らずか、とある青年の、半ばやけくそ気味な叫びは明朝頃になるまで続いたそうです。
そして、暫くの間はクラウドが一緒のメンバーだと敵の方が自ら逃げていくというRPGにあるまじき事態が起こっていたそうです。
その全てに於ける真相を知り得るのは、クラウド本人だけなのですが・・・(怖くて)誰も訊けなかったそうです・・・・・。
***************************
何やったんすか クラウド(笑)
お粗末様でした。初☆FF7小説。とりあえずカップリングはどっちでも取れるのでお好きなよーにどうぞ。
う〜ん・・・初の小説でいきなり夜這ネタってどうよ?
とりあえず、私はどっちかというとクラティの方が好き・・・かな?クラエアはちょっと微妙・・・。
プレイ中も、デート誘いに来たのティファだったからクラエアのイメージってよくわかんない。好きだけど。
戻る