過去話










中学の間、何故かずっと同じクラスだった。

特に気にしてはいなかったけれど、“クラスメイト”としての腐れ縁なんて珍しいことではないだろうと思っていた。どうせ、高校に入ったら別れるだろうくらい。

嬉しくはないが、俺の持つものは全て異端視される。そういうことは、ガキの頃からよく理解していた。どうにかしたくてもどうにもならないことなのだと、もうこの年になればよく分かっている。
目の色、髪の色、人とは違う、獣の耳。

それは、普通の人間からしてみれば、在り得ないものなのは十分分かっている。
でも、仕方が無いからって諦めることを俺は良しとしなかった。だって俺は、何もしていないんだ。どうしてわけなく迫害紛いの暴力を受けなければならないんだ。

髪は染めれば何とかなるだろう。眼だって、カラコン入れたらどうにかなるだろう。
でも、獣の耳だけはどうすることも出来ない。結局、一部しか変えられないならと俺はそうするのをやめた。本当は、少しだけでもいいから、周りに合わせようかと悩んだ時期もあったけど、とあるヤツの言葉を聞いていると本気で馬鹿らしくなって、やめた。

“そいつ”は、初めて俺と目があったとき、畏怖するでもなく軽蔑するでもなく、ただまじまじとこちらを見たあと、興味なさそうに(本当になかったんだろう)「ふーん」と呟くとさっさと目をそらした。
あまりにもぞんざい過ぎる扱いだったけど、“そいつ”は元々、誰に対してもというか、こと男に対してそういうところがあった。だからちょっとした自尊心は傷付いたものの、後になって『特別視されていない』事実に気付いて物凄く驚いたものだ。

昨今、差別をなくそういじめ反対なんかを掲げたポスターだの標語だのを見かけても、ピンと来ない。そういうものにあってるのが弱者だけじゃないのはもう当たり前の世間を生きてきたし、下手をすれば虐めとかいう言葉では済まないようなことをされかけたことだってあった。
結局、人間という生き物はテメェの自尊心を保つ為に他人を蹴落として優越感に浸りたい生き物で、半妖ってのはそんな人間の為に体よく差し出された格好の餌食なんだと、ずっと思っていた。
ある意味、他人を信じることは俺にとって、恐怖以外の何ものでもなかった。

いつ蹴落とされてもおかしくないからだ。
・・・・ある意味で言えば、真っ直ぐに殺意とか悪意とか、そんなもんをぶつけてくるやつらの方がずっとマシだった。圧倒的な力の差を見せ付けてやれば、少なくとも暫くは手を出してこない。
それよりも、影に隠れてこそこそ突いてくる奴らの方が余程性質が悪い。
そんでもって、そういう奴らに限って隠れるのだけは馬鹿みたいに巧い。
もっと別の場所に頭使えよ馬鹿野郎と思ったことはもう数えるのも面倒くさい。

そんな訳で、誰彼構わず信用するわけにはいかなかったわけだ。
これは誰にも否定出来ないことだ。教師に何度か、『仲間の輪に入ろうという気持ちがないと駄目よ』と教育書の模範のような言葉を吐かれたことはあるが、冗談じゃないと思った。
ああ、仲間意識は大切なんだろうよ。けどそれは互いに歩み寄って初めて成立するものだろう。最初から俺を異端の目でしか見ない相手にそれをどうやって実行しろっていうんだ。
こっちが歩み寄れば向こうも分かってくれる?そりゃあご大層なことだ。
そんな理想の世界が本当にあればいいな。世界中平和だらけで戦争だって起きねぇだろうよ。

でも実際は違う。

生まれたときから異端と決め付けられた俺は、異端以外の何ものにもなれないんだ。
半妖なんて、人間っていう数でしか勝負出来ない生き物に屠られる為に生まれてきた、貧相な生贄でしかないんだ。

だからといって自分の生に絶望したりはしない。
精一杯、生きてやるさ。血反吐吐いたって倒れてなんかやるものか。
負けを認めたらそこから先になんて二度と進めないことを、俺は分かっている。

だからこそ、負けない為にも、俺は他人を信用したりなんてしない。


そう、確かに思っていた筈なのに。
気が着いたら、“アイツ”が。かごめが隣にいるのが、当たり前になっていた。


最初は、そう。
あいつが学級委員って肩書き持ってたことに反発してたんだっけか。
妙な義務感で引っ張られるなんて面倒以外の何ものでもない。
だからあいつが、義務的に俺の世話を焼こうとする前に俺はあいつを突っぱねた。

大体、そんなことをされれば腹が立って放って置くのが定例だからだ。
半妖で、厄介な問題児なんて担任でもなければ構いたいとなんて思わないだろう。

その思惑は、確かに当たった。ただし、半分だけだったけど。
俺が突っぱねて、「余計なことすんな」と云うと、かごめは一瞬だけ目を丸くさせたあと、呆れたような半目になり溜息をついて「馬鹿みたい」と俺に背中を向けた。

「構って欲しいならわざわざ突っぱねなきゃいいのに。子供じゃないんだからもうちょっとマシな方法取りなさいよね」
「な、」

云いたいことだけ言って、かごめは去ったさ。ああ、綺麗に後味悪いものだけを俺に残してな!

最初は、何を知った風な口をなんて思ったりもした。けど、それが転機になった。
俺は、周りを信用しないことを念頭に置きすぎていて、本来の目的っていうか、趣旨から思い切り反れていたことに、かごめに云われてやっと気付いたんだ。
悔しかったさ、そりゃあ。何でクラスメイトってだけの女にいきなりそんなこと云われなきゃなんねぇんだって。でも、かごめの態度で、俺に対して冷たさを持っていたものなんて一度もなかったことに、暫く後になってようやく気付いた。

いつだったか、また妙な因縁つけられたときだったか。
何ともベタなことに、川原で6人がかりで囲まれた。二人ほど見覚えがあったから、ああ仕返しに烏合の衆を作ったのかと鼻で笑ってやった。
テメェらが馬鹿にしてる半妖様の力、舐めすぎてんじゃねぇか?
本気で6人程度で勝てると思ってんのかよ。馬鹿にするのも大概にしろ。

そう思って、さっさと片付けてしまおうと思ったとき。右から来た拳を叩き落したのが、俺の手でも足でもなく、拳を握る手よりも細くて頼りない腕だった。
「3組8番鈴木、4組18番佐藤。・・・・そっちは・・・・他校ね。隣の市に確かそんな制服の学校あったわよね?馬鹿ねぇ、喧嘩売るならせめて身元が割れないように私服で売りなさいよ」
「なん・・・・」
「ばっ」

飄々と言ってのける突然の闖入者に大分驚いたけど、何より驚いたのは、一回りくらい違う体格の男の拳を受け止めて平然としているかごめだ。つーか、もしかしてこいつ結構強い・・・・・?
云ったら何だが、大人しく学校で教師の言うこと守ってるタイプの人間にしか見えなかったかごめがここにいることがものすごく不自然に感じられた。何ていうか、学校のとある空間を丸ごと切り抜いて川原に貼り付けてるみたいな、そんな違和感だ。
ああ、でも下の、何処にでもありそうな制服のスカートは変わらないのに上が私服で、普段は掛けてもいないビン底眼鏡に(ていうか、裸眼でもめちゃくちゃ目がいい筈なのになんで持ってんだこんなもの)髪も一つに三つ編みしている姿はまさにこいつの言う『身元の割れにくい』格好だ。
現に、俺は一瞬で分かったけど同じ学校の生徒である二人はかごめが誰だか分かってない。

「さてと」

にこりと、かごめがものすごくいい笑顔で笑った。


「身元もめでたく分かりそうだし、この辺でやめておこうか?やめないなら止めないわよ。ただしあたしも無勢の方にに加勢するけど」



まあ、云ってみれば本格的にこいつとの腐れ縁が始まったのはこの瞬間からだ。
結局、最近の根性ない不良崩れは結局、かごめの言葉に負けて文字通り負け犬のように退散した。
でも腹の虫が収まらない俺は、かごめに突っかかった。結果、面白いくらいに俺のボロ負け。
『6人相手でもどうにかなっていた、余計なことしやがって』に対して『どうにかなってたかもしれないけど学校にバレてたかもしれないでしょ、この猪突猛進!』と返されて俺はあっさりと口ごもった。
情けないとは思うがこれ以上云えば確実に言い訳にしかならない。

実際、助かったことは助かったんだ。さすがに今まで何とかかわしてきたけど暴力沙汰だけは勘弁願いたかったからだ。これならまだ中学生やってた方が楽だったかもしれない。高校になるや否やだ、本気で性質悪ィ。

そんな俺の思惑が分かったでもないだろうが、かごめは仕方ないみたいに溜息をつくと、軽く変装と言えなくもない装備を取った。

「それで?」
「・・・何が?」
「何かふっきれたみたいな顔してるけど、やっと思い出した?」
「だから、何が」
「アンタはアンタ以外の何物でもないってこと。他人の価値観に振り回されてガチガチに自分守ってるより、そういう顔してた方が私は好きだけど」

どんな顔だと思ったけど、生憎と自分の顔は分からない。

「・・・・は、お前に言われたくねぇよ」

悪態をついたときに、ちょっとだけ、自然と口の端が持ち上がった。


それが、始まり。









太陽と蒲公英






(06.11.19)

この設定の犬かごは順調に、ちょっと古い男の友情系の話の過程をベタッベタに踏んで友情育んでいきます・・・・・・ってだからお姫は花も恥じらう乙女だっつの。笑
お姫、基本的に学校内では乙女?キャラを通しているので軽く変装してたら絶対バレません。はにかみ笑い浮かべると糾弾する前に相手が弱ります。お姫マジック。ビバギャグ設定(お前)

中学生での犬かご出会い編。どんどんお姫男前になっていきますタスケテー笑

将来キャリアウーマンなお姫様の現在最も得意とするスキルは『正論で相手を論破』。
あと『無言で威圧』も使えます。今は外に向いてますけどだんだんこれが・・・・笑
あと別に差別撤廃運動に暴言吐いてるわけじゃないよ。多分一応。(おい