※パラレルです。苦手な人は回避の方向でお願いします。
尚、捏造ばかりですので宗教の類とは一切関係ありません。














悠久の最果て










たとえば誤魔化さないで素直に吐露していれば、と後悔することくらいは赦されるだろうか。








「私、カミサマなんだよ。それでね、私が見える人の不幸を退かせるのが仕事なの」

その、えらく非現実じみた言葉に俺が思わず失笑すると、かごめは「ひどーい!」と、大して怒ってもいない声音で文句を垂れた。それに俺が、笑い混じりに「わりぃわりぃ」と謝罪すると、「心こもってない!」と返事を返すのが、俺たちの常套句っていうか、まあ、挨拶みたいなものになっていた。

かごめと初めて会ってから、もう半年。

別に毎日会っていた訳じゃないけど。
俺が暇なときにだけ、口約束でそっと約束してて。それが反故になるのは雨と雪の日だけだった。
元々、体調を崩すことは滅多になかったけど、かごめと会ってからはそれが顕著になっていた。
だから、体調を崩したら会わない、という約束は、今のところ一度もしていない。
そして、よっぽど暇なのか、かごめの方が用事があって来られない、という日は、全く無かった。

初めて会った日は、雪が降った翌々日だったけれど、今ではもうそろそろ半袖にでもしないと暑くて仕方が無い。
相変わらず俺とかごめは、例の川原でしか、顔を合わせない。

他の、屋根がある場所で会った方がいいんじゃないか、と一度提案したけれど、そう言うと、かごめは一瞬、神妙な顔になったあと、冗談の色合いを含ませて、例の「カミサマ」の話をして、「だから、人のいるところに一緒に行くと、犬夜叉が変な人って思われちゃうよ?」と、にやりと人の悪い笑みを浮かべていた。
俺が、それを笑い飛ばして
「どうせ、知ってるヤツに見つかったらヤバイからだろ?」
と、わざと呆れて言ってみせると、かごめは悪びれた風もなく「ばれたか」と舌を出して笑った。

結局。
こいつが、何処に住んでいるかとか、どういう暮らしをしているか、は、俺も多くを語ろうとしないこともあって、相子かと聞き出そうとしないから、「何処かの屋敷からこっそり抜け出して来た深層のご令嬢」という設定は未だに健在らしい。
実際に、かごめもそれらしい格好をしているし、物腰や言葉遣いを見ていると、どうもそれがハズレとは思えないから、俺もそれを肯定することにした。・・・・・もっとも、最近は俺の口調やら、笑い方やらが移ってきている気がしないでもないけど。

「・・・・・・犬夜叉、もしかして神様とか信じてないクチ?」
「信じるっつーか・・・・・・信じてる奴探す方が大変だろ、今のご時世」
「じゃなくて、犬夜叉が、よ。信じてないの?」

今日はやけに突っかかってくる。
こいつ、そんなに信心深かったか?と僅かに疑問に思いながらも、どう返そうかと少し悩む。
「・・・・まあ、仮に。神サマとやらがいるとしても、だ。信じるのは多分、存在までだな」
「?」
「だから、まあ神も一人や二人はいるんじゃねえかとは思うけど、宗教とか信仰してる奴等の言う、『カミサマの御力』とやらは信じてねぇってことだ」
「・・・・・・・また罰当たりなこと言って・・・・・」

一瞬、かごめが何かを信仰しているタイプの人間だったらどうしようと思ったけど、杞憂に終わったようだった。
咎めるような台詞には、実際に苦笑と、僅かな同調の空気しか見えなかった。
俺がほっとしたのが伝わったのか、かごめは膝を抱えると正面を向いて川の流れを目線で追いかけながら口を開いた。日差しも強くなってきたのに、日除けもしていないのに、相変わらず白い肌が妙に眩しく思えた。
「神様ってね。祈った人のお願いを叶えてくれるような、都合のいい存在じゃないものね。精々出来るのは、自分の足で進んでいく人たちの背中を後押しするくらい。直接のお願いごとなんて叶えられないわ。・・・・叶えちゃったらそれこそ、世界なんてすぐに滅んじゃうもの」
「・・・・・・・・・かごめ?」

いつも、同じ話題ばかりを話している訳ではないけれど。
ここまでこんなに宗教色の強い話題なんてしたことなかったのに。
どうして今日に限って、この話題でこんなに饒舌なのだろうと、不思議に思った。

すると、静かな微笑みを浮かべていたかごめはいきなり顔を上げると、lこっちに満面の笑顔を向けてきた。
「なんてね。この前、暇だったから聖書の本読んだの。驚いた?」
そこには、悪戯が成功した子供みたいな、わくわくとした笑顔が浮かんでいて、さっきのは見間違いだったんじゃないかとさえ思えて、俺はわざとらしく溜息をつくと、かごめの頭をぐりぐりと撫でた。
「わきゃッ!?ちょっ・・・・・何するのよ犬夜叉ッ!」
「意趣返し」
にんまりと笑ってやると、かごめも頬を膨らませて、仕返そうとしているのか、躍起になって俺の頭に触ろうとするから、俺もわざと触らせないように、避けながら笑った。


かごめに会ってからずっと、自然と笑えるようになっていた自分に違和感を感じることはもう、なかった。

かごめと一緒に笑うことが当たり前になっていて
――――こいつの傍にいることが、“幸せ”だと、感じることに違和感はもう、大分前からなかったんだ。






「ねえ」

そろそろ帰るか、と背を向けたところで、珍しくかごめに呼び止められた。
大体、別れ際に呼び止められることなんて、滅多になかった俺は純粋に驚いて、足を止めるとかごめを振り返った。
そして、何気なくかごめの表情を見て、俺は一瞬息を呑んだ。

いつも、笑顔を浮かべているかごめが、振り返ったそのとき、俯いて、辛そう、とまではいかないけど、笑顔の消えた顔で、俺を見ていたからだ。
どうした、と訊ねようとしたけど、それより早く、かごめが口を開いた。
「あのね。・・・・・・神様は、
――私たちのお願いを直接叶えてくれないけど、後押ししてくれる、んだって。
犬夜叉は、神様のこと、本当に・・・・・・・・信じてる?」

どこか、願うような口調だった。
かごめが、何が言いたいのか分からないなんてことは初めてで、少し驚いたけど、どこか緊張しているのは分かったから。
「・・・・・俺は、カミサマの力に縋ろうとは思ってないけど、別に存在を信じてない訳じゃない。って、言ったろ?」

緊張が少しでも解してやれるように、出来るだけ優しく言ってやると、かごめがほっと息をついたようで、俺も安心した。

「うん・・・・・そうだったね。ありがと。じゃあね、犬夜叉。大好きだよっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へッ?!」

思わず、素っ頓狂な声を上げてしまったのは、僅かに頬を染めたかごめが、こっちも見ずに走り去ったあとだった。

不覚にも、思い切り赤くなった顔を隠すように手で覆うと、無意識で口の端が持ち上がっているのに気付いて、自分に悪態をついた。


―――次に会ったとき、意趣返しのつもりで、本音を言ってやってもいいかな、なんて。


うっかりと浮かれてしまって、どうしてかごめがあそこまで『カミサマの話』に拘っていたのかを聞くことを、俺はすっかり忘れてしまっていた。