*続き物三話目










Give rise to complications V









上っ面でなら、何でも言える。

伊達に狸爺どもを相手に軍内部を渡り合っていない。

だが、逆に本音を言うのが苦手になっていた。

だから、違うんだよ、“鋼の”。





「あれ、大佐」
普段、余裕たっぷりに歩いていることはあっても、こんなに切羽詰って走ることなんて滅多にない。
ロイは、四方から受ける好奇の視線に晒されながらそんなことを考えつつ、また、その視線の先に探している少年はいないかどうか見ていた。
そんなときにふと、遠くに鎧の少年を見つけた。彼を見つければエドワードを見つけるのも容易い。期待して声を掛けると、見た目にそぐわない可愛らしい声がきょとんとロイを迎えてくれた。
「やあ、アルフォンス君、久しぶりだね。・・・ところで、君の兄に用があるんだが何処にいるか分かるかね?」
軽く息切れした呼吸を収めながらそう訊ねると、予想と違ってアルフォンスは困ったように唸る。
「教えたいのはやまやまなんですけど・・・実は僕も今、兄さんを探してる最中なんですよ。」
「そうか・・・・」
「あの、兄さんまた何かしたんですか?」
「いや」
言葉を濁す。言ってもいいものか少し悩んだが、真実は濁したまま、「今回は、私がやらかしたんだよ」と答えておいた。
「ええ!?大佐が!?」
大袈裟なくらいにアルフォンスは驚いたが無理もない。大体、エドワードとロイが喧嘩をした、と言えば9割の確率でエドワードから吹っかけた可能性が高いのだ。
「彼の行き先に心当たりはないのか?」
駄目で元々、いまだに驚き続けるアルフォンスに問いかけると、いいえと返事が返ってくる。
「此処に来ると、大体僕と兄さんは別行動が多くなるんで。とりあえず、僕が知ってる場所をあたって来たんですけどどこもハズレで・・・・でも、大佐も用事があるんだったら無理やり呼ぶしかないかなあ」
「無理やり?出来るのならば何故初めからそうしないんだ?」
「・・・・やったあと、下手したら暫く兄さん口利いてくれないんです」
そこでぴんと思い当たった。アルフォンスの言う、彼を呼び出す方法を。それならば彼の手を借りるまでもない。
「済まないが、彼と一回二人で話がしたいから、その方法は私が使わせてもらうよ。君は宿に戻っているといい。ちゃんと後でそっちに送るから」
「あ、はい。ありがとうございます、大佐」
ロイの申し出にあからさまに安堵したらしいアルフォンスはぺこりと丁寧に礼を言って、宿の方向へ駆けていった。

その後姿を見送った後、ロイは今度はゆっくりと街の裏路地の、人が来なさそうな場所へ潜り込む。人間の気配はおろか、動物の気配すらしない裏路地。そんなところにエドワードがいるとは思っていない。しかし、たった一言呟けば確実に『出てくる』ことをロイは知っていた。一度目の前で目撃して、変に関心したものだ。
「・・・豆の錬金術師」
ぼそりと、しかし独り言にしては少し大きめで呟く。
暫くは何も起きなかったので、そのまま近くのゴミ箱に腰を下ろした。馬鹿らしいし常人離れした話であるが、絶対にこの発言をエドワードは聞き逃さない。待ってものの15秒弱。小さな地鳴りがしたかと思えば、上から黒い物体が落下してくる。何か、は言うまでもない。
「だぁーれが世界最小の錬金術師かぁぁー!!!」
などと叫びながら見事なターンで着地を決め、ロイと目が合うとぎくりと身を強張らせて全速力で逃げようとする。
しかし、努力も空しく、首根を掴まれるとそのまま裏路地に引きずり込まれる。それでも往生際悪く抵抗していたが、結局抱え込まれる腕の意外な力強さに負けてエドワードはぜーぜーと息切れを起こしながらくたりとロイの腕の中でダレた。
「君の耳は本当に地獄耳とかいうレベルを超えているな。ピクシーか?」
「うっせ・・・・離せクソ大佐」
力なくどん、と押し返すと存外素直に解放してくれたロイに、思わずエドワードは振り返る。今度こそ、まともに視線がぶつかった。
それが何となく照れくさく、悔しかったので、ふいと視線をずらすと不意に声が振ってきた。
「少し、さっきの弁解をしたくてね。探してた」
ぴく、とエドの肩が揺れる。
「は・・・何の弁解だよ。あの話はあそこで終わったってのに、まだしつこく引き摺ってんのかよ大」
「言い方を間違えた。・・・君には嫌な思いをさせてしまったと思う。・・・すまない」
素直に謝られて、エドワードはたじろぐ。今度、ロイに会ったときには何事もなかったかのように振舞おうと決めていたというのに、その決意が早くも揺らいでしまった。
「大佐・・・・」
「・・・・逃げていたのは、私かもしれない」
ロイはゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「君が、他の人とは違うものを私に感じてくれているのは、知っていた。私も似たようなものを君に感じていたから」
「え」
と、エドワードは初めて戸惑ったような声を上げる。
「その感情が何なのか・・・私は分からなかった。誰にも感じたことはなかったから、比べられなかったんだ」
だから、とロイは言う。
「同じような感情を私に向けてくれている君なら、その答えを知っている気がした。だから・・・あんな言い方をしてしまった」
すまない、ともう一度頭を下げるロイ。しかし、それすらも目に入らないくらいにエドワードは動転していた。
(んなっ・・・だって、大佐は大佐で29歳だし男だし女にモテるのに俺のこと・・・・・って!?)

混乱して考えがまとまらない。自分で自分の感情がありえないと思っていた。
自分の常識と照らし合わせても異常な感情だ。捨てなければと今まで努めてきた。それなのに、こうもあっさりと、「実は私も」と言われてしまい、エドワードの中の常識という文字が崩れかけていた。
「赦してくれるか?」
「あ、ぅ・・・・・・・・・・・・・・・うん」
赦すも何も、よく聞かずに早とちりしたこちらの方にも負はある。
こくこく頷きながらもエドワードは不思議な気分を味わっていた。
(なんか変な感じ。今まで、俺と大佐って会ったらしょっちゅう言い合いみたいな感じだったのに、真剣に謝られたり、逆に告白されたり・・・・・・)


告白。


自分で思って自覚すると同時に、頭のネジが三本ほど抜けた気がした。
よくよく考えなくてもそうだが、今少年は一回り近く違う大人の男に本気の愛の告白をされているのだ。そして、自分もそういう感情を彼に感じていて。これはつまり。
(両想いってやつ・・・・・!?)
数時間前まではそんなものになるつもりもなく接してきたというのに。
展開のあまりの速さにエドワードは眩暈を覚える。
「鋼の?」
どうした、と訊ねるロイにエドワードは明らかに狼狽して後ずさる。今更とても恥ずかしい。
「な、んでもない!」
早くこの場から逃げたかった。負け犬のように言われるのは癪だが今はそんなプライドを持ち続けても意味はないのだ。
さりげなく後ろの方へ寄り、あとは全力疾走で逃げればなんとかなる。そう決めてさりげなく、ロイから遠ざかろうと試みたが。
一度、大きく露骨に足を踏み出すと、にこやかな表情で発火布をちらつかせてきたのだ。逃げれば間違いなく指ぱっちんだ。
(一応俺のこと好きならそーゆー脅しかけんじゃねぇよ!!)
内心で叫びながらも、ロイが今、エドワードに求めているものは理解していた。
「君は、どうなんだ?」
(またそうやって・・・)
正直、困るのだ。確かにロイのことを、他人とは明らかに違う目で見るのは確かだ。それが恋愛からなっている感情だということも意識している。しかし、自分自身が最初から諦めて受け入れた感情だったので、今更成就しても他人事のような印象しか受けないのだ。それに、いきなり好きだ嫌いだと言われても実感がない。

「・・・・正直、困る」
「・・・迷惑だったか?」
「違くて!」
どう言えば正しく伝わるだろう。困惑が強まり、余計に口ごもってしまう。
(だから嫌だったんだ。あの関係を崩すのは)
知らない振りで通していればまだあの距離でいられたのに。
(ああもう!通り過ぎたこといつまでもうじうじ考えんのは性に合わねぇ!)


「まどろっこしいのは嫌いだから本音だけでいく。俺は、確かにあんたのこと・・・・好き、だけど、それって非常識だろ?俺も大佐も男で、年離れ過ぎてるし、社会的な立場も違い過ぎるし・・・・・・不毛だ」
思わず自嘲が混じってしまうが、言葉は止めない。じっと真剣にエドワードの言葉に耳を傾けるロイの目を、今度こそまっすぐに見た。
ちゃんと気持ちを理解してほしい、ということと、こんなことで怖じたりしたくないという気持ちが、今のエドワードを支えていた。
「何ていうかな・・・大佐は気持ちはっきりさせたいって言ってたけど、俺は最初からはっきりするつもりも、させたいとも思ってなかった。あんたに拒絶されることが・・・怖かったし、今まであんたとぎゃあぎゃあやってたの、結構好きだったんだぜ?それが壊れんの・・・・嫌なんだ」
ゆっくりと吐き出していく気持ち。言葉にする度に思い知らされる。同性だからとか、年齢差がありすぎるだとか言って言い訳しているが、結局、エドワードが惚れ込んだのはロイ・マスタングという軍人ではなくて、一人の人間だということ。
よく、博愛主義の人間の唱える「恋愛に性別も年齢もない」という言葉が、いつもの自分なら、笑い飛ばせるくらいの余裕はあるのにこの瞬間ばかりはしっくりきた。本当に、今の自分にとっては、そうなのだ。年齢だとか、性別だとか、そんなものは正直、どうでもいい。“中”の強さに惹かれたから、この男に好感を感じている。単純に、それだけなのだ。そこには常識だとか、モラルだとかは関係ない。
「それにさ。もし万が一、両想い、だとしても、俺はどうすりゃいいんだよ?俺には・・・」
「目指すものがある?」
それまで沈黙を守っていたロイが唐突にエドワードの言葉を続けた。
そして、息を吐き出す。
「そう言われるとなんともな・・・私も、正直どうしたらいいのか分からんよ。今まで男と付き合いたいなんて思ったことは一度もないからな。だが・・・君に対してそう思ってしまった。それは紛れもない事実だ。だが、それを可笑しいとは、私は思わんよ。世間がどうこう言おうと、誰かを嫌いになるのと一緒で、誰かを好きになるのに理由や資格は要らない。言わせたい奴には言わせればいい。・・・・それだけの話だ」
「・・・俺、あんたのそういうとこは尊敬するよ」

自分よりも、社会という網に雁字搦めにされている筈の大人は、それでも自由に笑えている。
それが今のエドワードにはとても眩しく感じた。ロイの言葉に動かされるものがあった。



今はまだ、そういう風に、割り切るようなことは出来ないけれど。

「俺、多分今までと何も変わんないよ?あんたに何か要求されても答えらんないかもしれない」
「・・・構わないよ。君の気持ちが追いつくまで、待っていよう」
差し伸べられた手に触れる。そっと包み込んでくれる暖かさが優しくて、エドワードは俯いた。
あれだけ嫌味な上司、と思っていたロイが、とても優しく見えて、死ぬほど嬉しかった。
(俺のすべきことが終わるまで、この関係は崩したくないけど)
初めて他人に自分から渡した愛に、少しの優越感を感じて、そっと目を瞑った。











 * * * * 









「大佐ー、昨日言ってた報告、だ けど・・・・・・・」
おざなりなノックのあと、返事も聞かずに入室した途端、エドワードは言葉尻を消すことになる。
そこにロイがいるのであろうということを想定して声を掛けたが、実際にエドワードの目に飛び込んできたのは、灰皿の上で原型もなく炭になっていた、元数枚の紙片らしきものと、発火布を付けて息切れしているロイと、それを羽交い絞めにして必死に押さえ込むハボック。そして、あきれ返っているリザの姿だったのだ。
状況がいまいち掴めず、「あら、おはよう、エドワード君」と声を掛けてくれたリザの傍に寄って、「これってどういう状況?」と訊ねると、リザは本当に複雑そうな表情で首を横に振る。
「知らない方がいいわ。汚い大人っていうのはいくらでもいるのよ」
「はぁ・・・・・?」
「やあ、来ていたか、鋼の」
エドワードの存在に気付いたロイが、先ほどの余裕のない顔を微塵も感じさせない笑顔でエドワードに笑いかける。
その際に、必死で羽交い絞めにしていたハボックはいきなり態度の変わったロイがするりと腕を抜けたものだから、勢い余って後ろへつんのめった。
ばたーん、と豪快に倒れこむ姿がいっそ哀れである。しかし、すかさずリザの安否を貰っているので本人としては役得だ。
「昨日言っていた報告かい?」
「あ、うん。ていうか、今大丈夫なのか?」
「問題ない・・・と、言いたいところだがね、少し今厄介なことになっている」
鎮痛な面持ちでロイが言うと、自然とエドワードも表情が固まる。
「厄介なこと?」
「ああ・・・・昨日、仕事を押し付けてきたニューオプティン支部の阿呆が今度は君を貸せと言ってきてね」
「俺ぇ?!」
何の脈絡もなくいきなり当事者にされてしまったエドワードはあからさまに驚いて怪訝な表情でロイを見た。
「ニューオプティンって言ったらあれだろ?・・・・・列車ジャックのハクロとかいうおっさんの」
「そこだ」
「それが何で?」
「ほぼ嫌がらせだ。国家錬金術師は基本的に大総統府直属になるが、鋼のの場合、私が後見人を務めているからね。君は東方司令部の国家錬金術師と思われているらしい。だからもし、君が任務先で些細な失敗をするだろう。すると、「やはり子供には荷が重過ぎる」だのなんだの勝手なことをぬかして、東方司令部はたいしたことないと認識しなおして優越感に浸る。・・・・・大方、そんなところだろう」
「・・・つまり、自己満足をするために俺に失敗させようとしてる、と?」
「可能性は極めて高いな」
頷くロイの言葉に、エドワードは沸々と怒りを感じる。元々、誰かに「こんなの出来るわけない」と言われると、凄まじい対抗意識を持って本当に難題をクリアしてしまうという恐るべき負けず嫌いの少年にとって、その言葉は屈辱以外のなんでもない。やってやる!と意気込んでいると、「駄目だ」とロイが止めた。
「何で!?これは明らかに俺への挑戦状と見た!逃げるみたいな卑怯な真似できるか!」
「熱くなるな。それこそあちらの思うツボだ」
ぐっ、と言葉に詰まる。確かに、冷静さを欠いた自分ではロイの言うとおり、あちら側の思うつぼなのだ。
しかし、理屈は分かっていても、自尊心を傷つけられたエドワードの勢いはとまらない。
「絶対失敗しないって誓う!だから行かせてくれよ、大佐」
「駄目だ」
頭ごなしに、こちらの意見をまるで聞かずに・・・というか、聞くつもりもないのだろう。少しも躊躇わずにNOと返って来た。
納得がいかずに唸っていると、ロイは苦笑した。そしてぽんとエドワードの頭に手を置く。リザが目で忠告したが、ロイは首を振った。
「君は軍という場所をよく分かっていないだろう?表向きは民間人の味方面しているが、そんなのとんだフェイクだ。裏では散々汚い取引がされているのが常だぞ」
「そんなの分かってる!」
「絶対分かっていない。断言しよう。分かっていれば、この申し出は確実に断る筈だ」
「はあ?」
「・・・・大佐」
やはり、リザがその先は言うなと言いたげに呼び掛ける。ロイは一度そちらを向き、そして一体何のことか分からず首を傾げるエドワードに向き直った。
「・・・・・どういう意味か、知りたいか?」
「?どういう意味だよ。そりゃ、知りたいけどさ」
「軍には極端に男性が多いんでね。人間の三大欲求の一つの解消にされかねないぞ、女子供は」
一瞬、本気で意味が分からなかった。
人間の三大欲求?っていうと、睡眠欲、食欲、性欲・・・・・と、そこまで考えて一気に体中の血液が沸騰した気がした。
傍では、だから言ったのにとばかりに呆れた表情のリザとハボックが。その予想通りな反応にロイが、面白そうにエドワードを見つめていた。
やがて、エドワードが硬直を脱するのを待ってから、ロイはにこやかなまでの笑顔を浮かべる。
「行かないな?」
「・・・・うん」
もはや、同意を求めている訊ね方だったがそれに突っ込む気力さえ失せたとばかりにエドワードは素直に頷いた。
そもそも、色事に関心を持ってもおかしくない年代だというのに、別のことに忙しくてそんなものにかまけていられないと、一般的に教育内容として知られている程度の知識しかないエドワードにいきなりそんな話を吹っかける方が意地悪なのだ。つい最近まで、男女間でしか恋愛は発生しないと思っていた少年なので尚更である。
そうしてようやく、先ほどロイがあからさまに怒って、その旨が記されていたであろう紙片を燃やしたのも、それが自分より地位が上だからやめておけとハボックが止めていたのも、リザが、ロイの行動を止めず、尚且つ言葉を濁していた理由なのだと気付いた。

知らないところで、自分はこの大人たちに護られているのだと、思い知らされる。

申し訳なさと嬉しさに挟まれて、エドワードが俯いていると、ロイが唐突に考え込み始めた。
「しかし・・・・仮にも正式な場での申し出だ。よほどの理由がない限りは・・・・・そうだな」
ぽん、と手をたたき、「中尉、例の方へ連絡の手続きを。ハボックは車を出す準備を」と指示を出した。
すると、それだけで彼が何を言いたいのか察したらしい二人は、敬礼を返して即座に部屋を出て行く。一人状況についていけずにぽかんとしていたエドワードだが、ふとロイが投げて寄越した資料の束を反射的に受け取った。
「・・・・何これ?」
「急で悪いんだが、君にはこれから四日ほど、行方不明になってもらう」
「はあ!?」
にやり、と笑い、机の引き出しから写真を出す。恰幅の良い、人の良さそうな中年の男が写されていた。
「・・・誰?」
「君と弟の身柄を預ける予定の人だよ。ルーランド・ハイツ氏。植物練成を応用して人間の治療に役立てている第一人者。生体練成は生憎と専門外だが、何か学べるものがあるんじゃないか?どうせいつも忙しく各地を渡り歩いている君たちのことだ。申し出期間である四日くらい、当然この場にいなくても不自然ではない。列車での移動は足がつくので、ハボックに送らせる。・・・・・四日後に帰ってきてから、纏めて報告してくれ。いいな?」
「・・・・・了解」
あまりの手際の良さに、エドワードは半ば圧倒されながらも、頷いた。
彼らが好意で動いてくれていることを無碍にはしたくない。
「でも、俺が昨日の列車でここに来てることって分かってんじゃないの?どうすんだよ、そこんとこ」
「そんなもの、こちらに利がある地域なのを利用して情報を書き換えてしまえばいいだろうが。他の地域では不可能だが、ここでなら私の権限の赦す限りは出来る」
「・・・・あー、そうですか」
軍が裏で汚い取引をしているというが、人望という名の職権乱用も十分に汚い取引の中に含まれるのではないだろうかとエドワードは肩を落とす。
「じゃあ、ま。とりあえず俺は荷物まとめに一回宿に帰るわ」
「ああ、なるべく早く済ませてくれ。・・・・と、鋼の」
「な」
に、と返そうとして、それは出来なかった。一瞬にして、思考がストップしてしまったからだ。
振り向きざまに頬に触れた暖かい感触。抵抗する間どころか、驚く暇すらなかった。
「○×△□!?」
驚いてすっかりパニックに陥ったエドワードに笑いかけながら、ロイは気障ったらしくウィンクを一つ返した。
「よく考えたら、あのときはっきりと私の気持ちを言っていなかったと思ってな。」
これで伝わったかな?と笑うロイに、赤くなったまま、「分かるか馬鹿野郎!」と叫び返すとエドワードは脱兎のごとく執務室を去っていた。






「馬っ鹿じゃねえの!?あのノーミソの中、常春大佐め!」

ぶちぶちと文句を募らせて気を紛らわせているが、それでも誤魔化せない顔の火照り。迂闊にも本気でときめいてしまった自分を、その時間まで戻って引っ叩いて正気に戻らせたいなどと思いながら足早に宿へ向かう。
(本気かよ。大佐)

こんなガキの気持ちに答えるなんて。

「・・・・・・・・・あーっクソッ」
どれだけ愚痴っても自覚するしかないのは、あの大人への慕情。

もういい加減、年貢の納め時ってやつか、などと呟きながらエドワードは空を見上げる。




うっかり手に入れてしまった感情は、それでも少年を嬉しくさせたことは間違いなくて。

悔しかったけれど、少年は少しだけ空に微笑んで見せた。











FIN



このシリーズ書いてる最中ずっとエドウィン書きたいと呟いていたのは内緒です(内緒じゃない)ここまでつっこんだロイエドを今まで書いたことがあるだろうかいや、ない(反語)。エドリィだけだったほっぺちゅーがついにロイエドにも・・・!?とはいうけれど、エドリィとロイエドは基本別物なのでいっか・・・・。とか思う今日この頃。ある友人とロイエドトークしてたらロイエド熱が復活してしまい、ちょっと大変です脳内。(05.6.22記)