ご要望があったので次回はテーマエロで(おい)


※犬かご桔梗。苦手な方はブラウザをチェック・アウト☆(雨の日はノーサンキュー聴いてたらしい)





好きでしたただ純粋に好きでしたでも今はそんな気持ちにグッドバイ。










綺麗事を抜きにして、自分が色んな輩に狙われていることへの自覚は十分にある。

曰く、半妖の肉は珍味だとか、食らえば美容にいいだとか、そんな理由だったり、今まで闘ってきた妖怪たちの恨みが原因だったり。
だからこそ、朔の夜はずっと寝ずに朝を迎えたり、常時の夜でも深い眠りにつかないようにしたりと、その習性がしっかりと体に染み付いていたりする。

しかし、かごめという少女と出会い、知り、共に過ごしてきた中で生まれた淡い感情は、かつて想い合っていたかの巫女との逢引よりも色気に欠けているかもしれない日々でも、少年の中で確実に大きくなる幸せを増長することにしか繋がらない。

要は、たとえ焔の川の中を泳ごうが、瘴気の海を突っ切ろうが最終地点にかごめという存在さえあれば何処でも幸せになれるのだ。
いやはや、まったくもって安い男・・・・・・いや、もとい、幸せな少年なのである。

しかし、しかしだ。

かの出来事も、今回ばかりは少しマイナス方面に傾いてしまったのかもしれない。
少女の匂いが傍にあるというだけで、安心して熟睡してしまうようになってしまった。

普通の人間としてはそれは単純に喜ばしいことなのかもしれない。
しかし、この戦乱の世を、しかも先陣切って走り抜けるような真似をしている一行の切り込み隊長的存在の少年がそれではどうだろう。
周りは、かごめを含めて全員が、「少しはのんびりという言葉を覚えろ」と苦笑交じりで言ってくれるので、それに甘えていた部分もあるかもしれない。
そして少しだけ言い訳をするならば、明日は朔夜なので、妖力が普段より弱まっている部分もあるのだろう、と。

まあ、多少言い訳したところでこの状況がどうなるとは到底思えないのだが。


「・・・・・・・で、理由訊いてもいいか。俺はなんでお前に襲われてるんだ?」
「・・・・・・分からぬか?察しの悪いことだ」
犬夜叉の上にのしかかり、妖艶な笑いを浮かべる巫女。かつては想い合い、しかし浅ましい野盗の邪念により憎みあうことになった、そんな関係だった女性。
目を細めながら、緩慢な動作でそっと少年の頬の線をなぞる姿は、見る者が見れば、想いを遂げられない憐れな身の上の巫女が意中の相手と添い遂げたいが為に自ら身を委ねに来たという光景に見えなくもない。

ただし、女性の手に持たれた小刀と、それを片手で取り押さえる少年、ついでは常人には見えぬようなどす黒いオーラを女性が漂わせていなければ、という大きな注釈が設けられる話ではあるが。
第一、一見冷静に見えるがよくよく耳を凝らせばぎりぎりと静かな攻防戦が繰り広げられている、何かが締め付けられる音が聞こえてくる。

万が一、事情を知らぬ誰かがこの様子を“近くで”見ていたら、それこそ三角関係のもつれから愛憎劇に変化して、元彼女が元彼氏を殺しに来たという今時流行りもしない昼ドラマ的な展開を連想させるのは想像に難くない。実際、あながち間違いでもないことだし。
「少なくとも、ここ最近お前とは接触取ってないからお前の怒りに触れるようなことはないと思うが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・今朝」
「ああ?」

彼女の笑みが深まる。それはもう、綺麗に。
周りの仲間たちが狸寝入りなのか本気で寝ているかどうかは定かではないが、いい加減誰か起きてこの状況を助けてくれと犬夜叉は思う。
「かごめが腰を痛めていたみたいだが、何故だろうな?」

うわ、絶対すごい疑われてるこれ。

何故彼女が・・・・桔梗がここまで怒っているのか嫌なくらいに理解した犬夜叉は思わずひくりと引き攣った笑いを浮かべた。
「・・・・待て、多分お前が想像してるのと事実は確実に噛み合ってないと俺は思う」
「誰もお前の意見なんぞ訊いていない」

一刀両断ですか。


容赦ない桔梗の言い様にさすがの犬夜叉も黙り込む。
「まあ、たとえだ」
頬に触れていた指先を少年の頚動脈まで移動させて、少し体を離す。
「お前がかごめとそういうことを致した関係であればこの場で息の根を止めるなり何なり出来る訳だが、そうでなくてもみすみすかごめに怪我をさせたということに対して、お前にそれなりに罰が必要だな?」

そこで違うと首を横に振れないのが悲しいかな、犬夜叉である。

「というわけで、自己申告するならたとえ致していても半殺し、怪我させていたら右で許してやるから早く言え?」


そう、笑顔で言われて、少年に否定すべき要素は何も存在しないのだと宣告されたも同然で。







翌朝、「そういえば昨夜はすごかったですな。女性とはいえやはり鍛えた女子の右すとれーとはすごく綺麗に決まるもんですなあ」などとのたまった法師に、綺麗な右ストレートをプレゼントしたため、かごめにおすわり5連打というおしおきを頂いた犬夜叉は内心で固く誓うのだった。

(もう絶対かごめに怪我させねえ・・・・・・・!)

決意を改める理由がかなり情けないことは、当面少年と巫女、寝たふりしていた弥勒だけしか知らない。






他の皆は素で寝てました。
まあほら・・・・犬に右ストレートアッパーかましてる桔梗様を想像してほくそ笑んでください(笑)

















※パラレルです。苦手な人は回避の方向でお願いします。
尚、捏造ばかりですので宗教の類とは一切関係ありません。



悠久の最果て










思えば、初めて会ったときからずっと、“あいつ”の笑顔しか見たことが無いんじゃないかと、初めて気がついた。








「ねえ、あなた名前なんていうの?」

にこにこと。
何がそんなに楽しいのかは知らないが、このくそ寒いご時勢に、随分と薄着の少女は俺にそう尋ねてきて。
「・・・・・・なんだよ、お前」
と、俺は至極まともな疑問を口に出してしまったあと、しまった、と思った。
今は誰とも喋りたくないと思っていたのに、何を会話を促すようなことを言ってしまったんだろう。
しかし、そんな俺の様子に気付いていないのか、無視しているのか、少女は勝手に俺の隣に腰掛けると膝を抱えて、嬉しそうに俺の顔を覗き込んできた。
「私ね、かごめっていうの。あなたは?どうしてこんなところにいるの?」
「・・・・・・・お前こそ」

こんなところ。

・・・・・・・そう。こんな冷たい時期に、町からも外れた陽のない川原に出てくるなんてよほどの酔狂か、訳ありのヤツしかいないだろうに。自分のことを棚上げしたいわけではなかったけど、俺はかごめと名乗ったそいつがここにいることの方が不自然に思えて仕方が無かった。
こいつくらいの年のころなら、色気づいて化粧したり髪を染めたりが当たり前だろうに、かごめは素のままの黒髪を背までゆっくりと垂らして、化粧とかの類もなくて、香水のキツイ匂いすらさせない。どこまでも飾らない少女だと思った。
それなのに、寒さでか、僅かに染まった頬や唇は、“その手の話題”に興味のない俺ですら魅力的だと感じるほどに綺麗で、座り込むとドレスみたいにふわりと足元を隠すロングスカートとか、繊細と言えるレースを散りばめたキャミソールを覆うように肩に掛けているショールが、『何処かから抜け出してきた深層のご令嬢』というイメージをそのまま固定化させたような感じで、ここにいるのがとても似合わないと思った。

それに、警戒心も皆無で俺に声を掛けてきた無防備さには感心を通り越して呆れる。
もし俺じゃなくて見境のない性質の悪い男に声を掛けていたらどうするつもりだったのだろうと。

他人事ながら、俺は少しだけむっとした。
しかし相変わらず“かごめ”は、俺の態度に気付いていないのか、無視しているのか、構わずに笑顔を振りまいて、マイペースに自分のことを話し始める。
「私は、暇だったからお散歩に出てきただけ。あなた、たまにここに来てるでしょ?いつかお話したいなって思ってたの」
そう言って“かごめ”は笑う。
俺は、暗に大分前から俺のことを知っていたと言う少女に僅かに驚いて、ほんの少しだけ
――それこそ、自分で気付けないくらいに、少しだけ、“かごめ”に興味を持った。


“かごめ”は、こちらが質問したら、大抵なんでも答えてくれた。

俺は、質問されても適当に誤魔化したり、お茶を濁したりしていたのに、それも気にしないというように、始終にこにこしながら、俺と会話するのを楽しそうにしていた。
ただ、「何処から来た?」と、「どうして俺に声をかけた?」という質問に対してだけは
―――口に人差し指を添えて、悪戯をしたあとのような笑みで「内緒」と、言おうとしなかったが。
でも、圧倒的に自分のことは喋ろうとしない俺が、それを無理に聞き出すのはフェアじゃないと、俺もあえて深く追求するのはやめた。

初対面のヤツで、しかも、俺は落ち込んでたとき。

普通だったら、無視するか、下手したら悪態をついて無理やり追い払うか。

それくらいはしただろうけど、“かごめ”と話していると、不思議とそんな気分は起こらなかった。
それこそ、辺りが暗くなって、そろそろこいつを帰してやらなきゃ、と思うのを惜しいと感じるくらいには。
そう感じる俺に自分自身で驚くくらいには、気付かないうちに無防備に気持ちを見せてしまっていたらしい。

でも、「暗くなったからそろそろ帰れ」と俺が言うより早く、まるでそのタイミングを知っていたように、かごめは今更のように大きな声で驚いた声を上げて、「もう帰らなきゃ」と、スカートについた草を払いながら立ち上がった。
それにつられるように、俺も腰を上げる。

ここに来た当初よりもずっと軽くなった気持ちに内心驚きながらも、座りっぱなしで曲がりきった背をうんと伸ばして“かごめ”を見ると、かごめは何かを言いたそうにじっとこちらを見ていた。
「・・・・なんだよ?」
「あっ、あのね」

目線が合うと、途端に“かごめ”は僅かにうつむいて、少しするとまた顔を上げて、訊ねてきた。
「また、会えるかな、ここで」
「・・・・・・・・・・・・」

会えるかどうかはともかく、ここじゃなくてもいいんじゃないか。
そう言い掛けて、思わず口を噤んだ。自分で今、何を言おうとしたかを自覚して、驚く。

俺は、また会いたい、のだろうか。こいつに。
戸惑っていた俺の気配をどう受け取ったのか、小首を傾げつつ、「だめ?」と訊いてくるかごめに慌てて首を横に振ると、思わず俺は「明日も来れる」と返していた。
そしてまた、自分の言葉に自分で驚く。初対面の筈のこいつの要望に応えようとしている俺の言葉にも、また、笑顔を見せてほしい、なんてどっかで願ってる俺の気持ちにも。

「本当ッ!?」

でも、そんな俺の気持ちを汲んだように、ぱあ、と明るく笑う“かごめ”に俺は思わず無意識で弁解しようとしていた口と閉じて、諦めたように「ああ」と答えた。
「じゃあ、明日も私、来るね!」

言うが早いか、かごめは嬉しそうに手を合わせたあと、土手の方に駆けて行く。
その後姿をぼんやりと目線で追いかけているうちに、俺はふと、思い出して、「かごめ」と呼び止めた。
そしたら、妙に“かごめ”が驚いているので、俺もつられて口ごもった。
「・・・・・んだよ」
「あ・・・・いや、名前、初めて呼ばれたから」
そうだったか?とふと記憶を辿ると、なるほど、話しながらも精々「お前」くらいしか呼ばなかった気がする。
思わず苦笑をこぼすと、「そうか」と言って、「なあに?」と話を促すかごめに、言ってやる。
「犬夜叉」
「え?」
「俺の名前」
「・・・・・!」

言ってやると、一瞬だけひどく驚いたように、元々大きな眼を更に大きくさせて、その後すぐに顔を綻ばせた。
「犬夜叉!」
嬉しそうに名前を反芻する“かごめ”に俺がわざと機嫌悪く「何だよ」と返すと、“かごめ”は嬉しそうにくすくすと笑いながら、
「呼んでみただけ!」
と返した。

「じゃあ、また明日ね、犬夜叉」
「・・・・・・・・・おぅ」



それが、初めて“かごめ”と出逢った日。







見た目年齢二人とも16〜17くらいイメージで。















※パラレルです。苦手な人は回避の方向でお願いします。
尚、捏造ばかりですので宗教の類とは一切関係ありません。



悠久の最果て










たとえば誤魔化さないで素直に吐露していれば、と後悔することくらいは赦されるだろうか。








「私、カミサマなんだよ。それでね、私が見える人の不幸を退かせるのが仕事なの」

その、えらく非現実じみた言葉に俺が思わず失笑すると、かごめは「ひどーい!」と、大して怒ってもいない声音で文句を垂れた。それに俺が、笑い混じりに「わりぃわりぃ」と謝罪すると、「心こもってない!」と返事を返すのが、俺たちの常套句っていうか、まあ、挨拶みたいなものになっていた。

かごめと初めて会ってから、もう半年。

別に毎日会っていた訳じゃないけど。
俺が暇なときにだけ、口約束でそっと約束してて。それが反故になるのは雨と雪の日だけだった。
元々、体調を崩すことは滅多になかったけど、かごめと会ってからはそれが顕著になっていた。
だから、体調を崩したら会わない、という約束は、今のところ一度もしていない。
そして、よっぽど暇なのか、かごめの方が用事があって来られない、という日は、全く無かった。

初めて会った日は、雪が降った翌々日だったけれど、今ではもうそろそろ半袖にでもしないと暑くて仕方が無い。
相変わらず俺とかごめは、例の川原でしか、顔を合わせない。

他の、屋根がある場所で会った方がいいんじゃないか、と一度提案したけれど、そう言うと、かごめは一瞬、神妙な顔になったあと、冗談の色合いを含ませて、例の「カミサマ」の話をして、「だから、人のいるところに一緒に行くと、犬夜叉が変な人って思われちゃうよ?」と、にやりと人の悪い笑みを浮かべていた。
俺が、それを笑い飛ばして
「どうせ、知ってるヤツに見つかったらヤバイからだろ?」
と、わざと呆れて言ってみせると、かごめは悪びれた風もなく「ばれたか」と舌を出して笑った。

結局。
こいつが、何処に住んでいるかとか、どういう暮らしをしているか、は、俺も多くを語ろうとしないこともあって、相子かと聞き出そうとしないから、「何処かの屋敷からこっそり抜け出して来た深層のご令嬢」という設定は未だに健在らしい。
実際に、かごめもそれらしい格好をしているし、物腰や言葉遣いを見ていると、どうもそれがハズレとは思えないから、俺もそれを肯定することにした。・・・・・もっとも、最近は俺の口調やら、笑い方やらが移ってきている気がしないでもないけど。

「・・・・・・犬夜叉、もしかして神様とか信じてないクチ?」
「信じるっつーか・・・・・・信じてる奴探す方が大変だろ、今のご時世」
「じゃなくて、犬夜叉が、よ。信じてないの?」

今日はやけに突っかかってくる。
こいつ、そんなに信心深かったか?と僅かに疑問に思いながらも、どう返そうかと少し悩む。
「・・・・まあ、仮に。神サマとやらがいるとしても、だ。信じるのは多分、存在までだな」
「?」
「だから、まあ神も一人や二人はいるんじゃねえかとは思うけど、宗教とか信仰してる奴等の言う、『カミサマの御力』とやらは信じてねぇってことだ」
「・・・・・・・また罰当たりなこと言って・・・・・」

一瞬、かごめが何かを信仰しているタイプの人間だったらどうしようと思ったけど、杞憂に終わったようだった。
咎めるような台詞には、実際に苦笑と、僅かな同調の空気しか見えなかった。
俺がほっとしたのが伝わったのか、かごめは膝を抱えると正面を向いて川の流れを目線で追いかけながら口を開いた。日差しも強くなってきたのに、日除けもしていないのに、相変わらず白い肌が妙に眩しく思えた。
「神様ってね。祈った人のお願いを叶えてくれるような、都合のいい存在じゃないものね。精々出来るのは、自分の足で進んでいく人たちの背中を後押しするくらい。直接のお願いごとなんて叶えられないわ。・・・・叶えちゃったらそれこそ、世界なんてすぐに滅んじゃうもの」
「・・・・・・・・・かごめ?」

いつも、同じ話題ばかりを話している訳ではないけれど。
ここまでこんなに宗教色の強い話題なんてしたことなかったのに。
どうして今日に限って、この話題でこんなに饒舌なのだろうと、不思議に思った。

すると、静かな微笑みを浮かべていたかごめはいきなり顔を上げると、lこっちに満面の笑顔を向けてきた。
「なんてね。この前、暇だったから聖書の本読んだの。驚いた?」
そこには、悪戯が成功した子供みたいな、わくわくとした笑顔が浮かんでいて、さっきのは見間違いだったんじゃないかとさえ思えて、俺はわざとらしく溜息をつくと、かごめの頭をぐりぐりと撫でた。
「わきゃッ!?ちょっ・・・・・何するのよ犬夜叉ッ!」
「意趣返し」
にんまりと笑ってやると、かごめも頬を膨らませて、仕返そうとしているのか、躍起になって俺の頭に触ろうとするから、俺もわざと触らせないように、避けながら笑った。


かごめに会ってからずっと、自然と笑えるようになっていた自分に違和感を感じることはもう、なかった。

かごめと一緒に笑うことが当たり前になっていて
――――こいつの傍にいることが、“幸せ”だと、感じることに違和感はもう、大分前からなかったんだ。






「ねえ」

そろそろ帰るか、と背を向けたところで、珍しくかごめに呼び止められた。
大体、別れ際に呼び止められることなんて、滅多になかった俺は純粋に驚いて、足を止めるとかごめを振り返った。
そして、何気なくかごめの表情を見て、俺は一瞬息を呑んだ。

いつも、笑顔を浮かべているかごめが、振り返ったそのとき、俯いて、辛そう、とまではいかないけど、笑顔の消えた顔で、俺を見ていたからだ。
どうした、と訊ねようとしたけど、それより早く、かごめが口を開いた。
「あのね。・・・・・・神様は、
――私たちのお願いを直接叶えてくれないけど、後押ししてくれる、んだって。
犬夜叉は、神様のこと、本当に・・・・・・・・信じてる?」

どこか、願うような口調だった。
かごめが、何が言いたいのか分からないなんてことは初めてで、少し驚いたけど、どこか緊張しているのは分かったから。
「・・・・・俺は、カミサマの力に縋ろうとは思ってないけど、別に存在を信じてない訳じゃない。って、言ったろ?」

緊張が少しでも解してやれるように、出来るだけ優しく言ってやると、かごめがほっと息をついたようで、俺も安心した。

「うん・・・・・そうだったね。ありがと。じゃあね、犬夜叉。大好きだよっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へッ?!」

思わず、素っ頓狂な声を上げてしまったのは、僅かに頬を染めたかごめが、こっちも見ずに走り去ったあとだった。

不覚にも、思い切り赤くなった顔を隠すように手で覆うと、無意識で口の端が持ち上がっているのに気付いて、自分に悪態をついた。


―――次に会ったとき、意趣返しのつもりで、本音を言ってやってもいいかな、なんて。


うっかりと浮かれてしまって、どうしてかごめがあそこまで『カミサマの話』に拘っていたのかを聞くことを、俺はすっかり忘れてしまっていた。






















※パラレルです。苦手な人は回避の方向でお願いします。
尚、捏造ばかりですので宗教の類とは一切関係ありません。



悠久の最果て










たとえば、「行くな」と縋ればたとえ不幸になったって、失うことはなかったんだろうか。









「私ね、もうここにはいられないから、さよなら言いに来たの」

かごめにそう切り出されて、俺は一瞬、何を言われたか、分からなかった。
だって、今まで一度だって、そんなことをにおわせたことなんて無かったのに、いきなり言われたって。

納得できる筈がない。


「え・・・・・」

間抜けな声だったと思う。
かごめは、少しだけ泣きそうな笑顔を浮かべて、「ごめんね」と謝った。
うそだ、と唇の動きだけで、言ったけど。かごめはいつものように、悪戯っぽい笑顔は浮かべずに、静かに首を横に振るだけだった。

大体、かごめに説明されたことをまとめると、こうだった。
今まで、かごめがいた場所は、親の転勤でついてきていた場所で。
だから今回も、その転勤についていくことになったのと。

親に、無断外出を見咎められて、もう此処に来てはいけないのだと言われたと。

最後に、また「ごめんね」と謝られて、それが、『ここに来てはいけない』ことが、事実なのだと、知った。

「そ、か・・・・・」
気が動転して、どう返せばいいのか、俺には分からなかった。
思わずそんな間抜けな答えを返すと、かごめは無理やり作った笑顔を向けて、「何て顔してんのよ」と言った。
だけど、そんなことを言ってるかごめの方が、何て顔してんだ、って言いたくなるような辛そうな顔で、俺は思わず口をついて出そうだった雑言を咄嗟に引っ込めた。
かごめに言っても仕方ない。言った所で、どうにもならないのは分かっていた。
「ありがとね、こっちに来てずっと暇だったけど、犬夜叉とお話出来たお陰でずっと楽しかった」

やめてくれと。
別れの言葉を言うかごめの口を塞ぎたくなった。
いつものように笑って、「また会えるわよ」と気軽く言って欲しかった。
でも、気持ちとは裏腹に。最後まで、こいつが泣かないでいてほしいと、願っている自分も、自覚していて。
結局、俺の口から出た言葉は、当たり障りの無い、謙遜のような言葉だけだった。

そして、自覚せざるを得ない気持ちを抑えるように、無意識で拳を握り締めた。

ああ、俺、こいつのこと、好きだったんだ、なんて。

別れることを知った後になんて、知りたくなかった。



いつものように、約束して、会って、話して
―――別れるのが辛い。

最後の時間は、いつもより早く流れた気がした。このまま時間が止まればいいなんて、恋愛小説の常套句を吐きたい訳でもないのに、今はその言葉がどれだけ重くて、どれだけ切実か、嫌という程に理解できた。

「じゃあね」

いつもと同じように、別れる。
唯一違うのは、次にいつ会うか、約束していないことくらいに、いつもどおりの別れ。

「あ・・・・・・」

思わず、自分の気持ちを言ってしまいたくなる。
言って、「行くな」とみっともなく、かごめを抱きしめたくなる。

俺の声に、かごめが振り返って、何を思ったのか、小さく、笑った。

「犬夜叉、私ね、実はカミサマなの。そして、私が見える人の不幸を退かせるのが仕事なの」

だからね、と、かごめは言う。
この期に及んで、まだその話を続けるのかと、俺はかえって、かごめに心配されるほどに頼りない顔をしているのかと、鏡が欲しくなった。魂胆は丸見えだったけど、俺はいつもの通り、乗ってやる。
「前から思ってたけど、カミサマは人を幸せに、とか言わないんだな、お前」
「・・・・幸せの定義は人それぞれだもの。それに、押し付けられた幸せなんて、本当の幸せだっていえる?」
「違いねえな」
力なくだったけど、今度はちゃんと笑えた、大丈夫だと、自分に言い聞かせる。

「後押しするしか出来ない無力なカミサマだけど、いつだって犬夜叉の傍にいるよ」
「ッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふわりと笑って、かごめはそっと俺に近付くと、俺の片耳に触れた。
そこには、かごめと会う少し前に、たまにしか会わない悪友に、半ば無理やり付けらされた黒いピアスがあった。
「ね、これ、貰っちゃ駄目かな?」
「え」
「お守りっていうか、記念に。」
「別に、いーけど・・・・・」
天然石のものとはいえ、いつも目立たない程度にかごめがつけている小さな十字架が施されたネックレスみたいに、明らかに高価なものでもない。
そんなものでいいのか、と訊ねようとすると、それを予想していたように、「これがいいの」と笑った。

外して、その手に渡してやると、その日初めての、心からの笑顔で「ありがとう」と云われた。
そして、するりと手が離れる。これを逃したら、もう多分二度と会えないだろうことは分かっていた。
お互い、知られたくない素性は絶対に話さなかったから、お互い、何処に住んでいるか、分からない。

離れたくないと、そんな稚拙な感情だけが巡る。
けど、それをどうにかする力を俺は持っていない。

「さよなら」

寂しそうな笑顔で、かごめはそう言って、いつも別れる方へ、歩き始める。

最後に「好き」だなんて伝えたら。
お互い、辛いのは分かっていた。

―――だったら辛いのは、俺だけでいい。

さっき俺は、ちゃんと笑えただろうか。


そして、嘘のように、かごめは俺の日常から消えた。






やば、泣きそうになった・・・・・・














※パラレルです。苦手な人は回避の方向でお願いします。
尚、捏造ばかりですので宗教の類とは一切関係ありません。



悠久の最果て










ただ幸せであることを、願ってる
―――――






けほ、

乾燥した部屋に、喉がやられたのか、やけに堰が酷い。
換気するのも億劫で、俺はふいと窓から目を逸らした。


―――もうすぐ、かごめと会った日。
女々しくそんなことを考えている自分に自嘲しながら、俺は無機質なカレンダーを見つめていた。

かごめと別れてから、俺は、あいつを意識しているつもりはなかったつもりだったけど、随分と日常の中への侵食を許していたようだったということに気付いた。

普段、生活している中には、お互い一歩も足を踏み入れてない筈なのに。

どうでもいい些細なことですぐにかごめを思い出してしまう。
一度は、思わず耐え切れなくなって、かごめが帰っていく方向だけを頼りに、せめてあいつが何処へ引っ越したかくらいは知りたくて、近所と思える場所に行ったことはある。
俺がたまに、あそこにいることを知っているのだから、そんなに遠くには住んでいない筈だと思っていたけど。
実際に、近所だろうと見切りをつけた地区で、それとなく訊ねてみて俺は愕然とした。
あの辺で、最近引っ越した人間は一人もいないと。それどころか、ここ数年、この辺りに入ってきた人間すらいないのだと。
じゃあ、かごめは何処にいたんだろう。

本当に白昼夢でも見てたのか、それとも
―――本当に、かごめは“カミサマ”だったのか。
天使、くらいだったら丁度良かったかもしれない。そうしたら、きっとすぐにでもまた、会えるだろうに。

自棄になって、俺はそう思いながら目を閉じた。




治ったと思っていた先天的な病気が、後になっていきなり再発、なんて話は良くある。
俺はモロにそのタイプに当てはまってしまっていたようで、かごめと別れて暫くして、あっという間に病人の仲間入りを果たしてしまった。

何でも、小さいときに患ったものが再発した、とか。
病名は聞いてない。聞く気もなかった。そんなものはどうでも良かった。
どうせ、心配してくれるだろうおふくろは、かごめと会う“4ヶ月前”に、死んでしまった。

主治医のおっさんが、妙に鎮痛な面持ちで、気休めにもならないのに、半分自分に言い聞かせるように「大丈夫だ」と言っていた辺りから、大分ひどい有様なんだろうという予測はつく。時々、義務のように来る親父も、そこそこ偉い地位にいる人間だから、そんなに長い間はいられない。
お袋のときのことを思い出しているのか、俺を見る度にやけに辛そうな顔をする。

やめろよ。

俺は、同情なんていらない。

生きることに意地汚くなることは、俺には無理だろうと思った。
別に、かごめにもう会えないから、という訳じゃなくて(確かにそれもあるけど、それだけって訳じゃない)。
なんていうか、色々と、疲れたんだと思う。
時々やって来る悪友が、俺を元気付けたいんだろう。気の抜けるような馬鹿な話を見つけ出しては笑っていた。
実際、つられるように笑っちまう辺り、その思惑は見事に成功させられてるんだろう。
乗せられているようで正直嬉しくも無いけど、心配されていることは分かっていたから、文句も言えない。
「・・・・なあ、お前、諦めるの早すぎじゃねえか?」
「・・・・何をだよ」

唐突にそう言われて、俺はむっと眉間に皺を寄せる。
「生きることも。いや、それより先に、幸せになることか?元々そういう欲、少ない奴だとは思ったけど、お前」
「弥勒」
それ以上言うなと、名前を呼ぶと、煩わしそうな溜息つきで“弥勒”は後ろ頭を掻いていた。
「・・・・・・・・・・例の、『かごめ』さんのことか?」
「ッ」
思わず詰まった俺に、それを肯定と取ったんだろう。
余計なことに首を突っ込むのが好きなのと同時に、すげーお節介なヤツは、大袈裟に溜息をついた。
「お前は、馬鹿正直なくせに頭が回りすぎるのがいけないんだ。後のことなんざ考えずに言えばよかったんだよ、好きですって」
「な、んで」
「顔が馬鹿正直。どうせ、自覚したけど言えなかったんだろ?」
10言わなくても3くらいで納得してくれるこいつは、こういう時だけは心底憎たらしい。
「・・・・・・・・言えるかよ」
「偽善だろ」
「それでもだ!」

もう、誰とも話したくなかった。
全身で『帰れ』と訴えていると、弥勒は小さく息を吐いて、がたりと椅子を引くと荷物を持って、部屋を出ようとする。

「今更、何言っても仕方ないだろうけど・・・・少なくとも、『かごめ』さんは、お前がそんなになることを望んでいないと思うぞ」


分かっている。そんなこと。だけど。

ぱたんと音がして、一人になる部屋で、俺は一体、何をしているんだろうと思う。
探しに行きたかった。“かごめ”を。
なのに、探しに行けずに、ましてまともに動くことさえ儘ならずにこんなところで足踏みしか出来ないなんて。

―――そうだ。
生き意地汚く生きようとしないのは、怖いからだ。
また会えたとして、本当に本人が言うように、かごめがカミサマだったら?
そうじゃなくても、会うことを駄目と云われた少女を攫うことなど出来ない。

「かごめ・・・・・」

どうしたらいいか分からなくて、燻ったままの自分を認めることが。
事実が途方も無い大きさの気がして、気後れしていることを認めることが。

怖い、んだ。



ぱたん

俯いたままでいると、ノックもなしに、誰かが入ってくるのに気がついた。
大方、弥勒が何か忘れ物をしたのだろうと思いながら、顔を上げようとすると、弥勒とは程遠い、繊細な“少女の”手がそっと、俺の目を覆った。誰か、と考えるよりも早く、直感で気付く。

「かごっ・・・・!」
「ごめんね、遅くなっちゃった」

本物、なのかと、一瞬、信じられなかった。
顔を見ようと、重ねられた手を退けようとかごめの腕を取ると、もう一方の手でやんわりと拒まれた。

「ねえ犬夜叉、もう一回だけ、訊いていい?」
「何 を」
「カミサマのこと。信じてる?」
「・・・・・・・・・・・・・」

このとき。

俺は、あれだけ冗談だと思っていた、かごめが自分を『カミサマ』なのだと言ってくる言葉を、不思議なくらいにすんなりと、真実のことなのだと、受け入れていた。
頷いて肯定すると、ほぅ、と安堵の息が洩れた。
「ありがとう、信じてくれて」

そして。言葉を区切って。

「私、カミサマなんだよ。それでね、私が見える人の不幸を退かせるのが仕事なの」

何度も聞かされた言葉を、吐く。

「カミサマってね、人を不幸から守ることは出来ても、幸せにしてあげることは、誰か一人だけに固執することは、いけないんだって。・・・・・・酷いよね、私が見える人なんて、もう犬夜叉しかいないのに」
「どういう・・・・」

ことだ、と続ける筈だった言葉は消える。
急激に眠気が襲ってきて、抗えないくらい、体の力が抜ける。



“嫌だ”と思った。

かごめが何をするつもりなのか分からなかったけど、ここで俺が眠ってしまったら、何もかも終わってしまう気がした。

「かご・・・・」

「一人ぼっちだった私を救ってくれてありがとう。大丈夫、犬夜叉の不幸は、私が全部退けてあげる。でも」



幸せには出来ないから、それはあなたの力で、と。



その言葉を最後に、俺の意識は完全に夢の中に落ちた。
かごめの手で遮られていた視界は、最後に、かごめにやったピアスを映して、闇に呑まれた。

かごめの笑顔も見えた気がするけど、そのときの俺には分からなかった。





それから数日後。
案の定、というか。絶望的だったらしい俺の病気は“奇跡”としか言い様のない勢いで回復、復帰を果たした。
主治医や親、弥勒に、他の数少ない友って呼べる人間たちは喜んでくれたけど、俺は心の中に穴が開いた思いで毎日を過ごしていた。

それが、“カミサマが起こした奇跡”だと知っているからこそ、俺には手放しで喜べずに居た。


きっと。


俺はあのとき。この先かごめと会えなくなることを代償に、生きながらえたんだと思う。
“カミサマ”の力が、“カミサマ”本人にどういう影響を与えるかなんて、俺には想像もつかない。

“カミサマ”だって、俺には一生縁がないものだと思っていた。

だから、かごめがどんな“無茶”をやらかして、俺を救おうとしたかは、俺には分からない。
全ては、俺が全く想像もつかないような、遠いところで終結を迎えて、それでも世界は勝手に時間を進めていた。


それに、なんとも思わない筈、ない。
死ねばせめて、あいつに近い場所にいけるだろうかと、思わないでもないけれど。

あいつが、“何か”の代償を払ってまで、俺を永らえさせたことを、俺が無駄にする訳には行かないから。


せめて、今あいつが幸せであるようにと、願うしか、俺にはない。

『後押しするしか出来ない無力なカミサマだけど、いつだって犬夜叉の傍にいるよ』

不意に、かごめの言葉が耳傍を通った気がして、思わず振り返る。
でも、そこには誰も居ない。

でも。

「生きること、放り出したりしねえよ、心配しなくても」
かごめに、心配されている気がして、そう呟くと、小さく風が撫でて行った。


「お前のこと、信じてる」


だからどうか幸せに、と。

“カミサマ”にじゃなくて、俺だけの気持ちに。


願うように、目を閉じた。