※パラレルです。苦手な人は回避の方向でお願いします。
悠久の最果て
Another Story
「かごめッ!」
呼ばれて、私は振り返った。
振り向くと、予想通り、とても心配そうに顔を歪めている七宝ちゃんが立っていた。
“なり損ない”の私をとても慕ってくれている、人で言うところの“天使”の子。
私のせいで悲しい顔はさせたくなかったけれど、私が今からしようとすることを止めるつもりはなかった。
七宝ちゃんが、何を言いたいのか分かっていたから、私はゆっくりと振り返ると、目線を合わるようにしゃがみこんで、出来るだけ無理がないように微笑んでみせた。
「大丈夫よ、別に、私は消える訳じゃない」
「じゃがっ・・・・・・“あれ”は死ぬのと同じことじゃろう!」
「それでも、よ。それに、私は後悔しないわ。そうしない方が、後悔しちゃう」
泣きそうに歪む七宝ちゃんの顔に私もつられて泣きそうになる。
どうしようもなくて、ぎゅっと小さな体を抱きしめると、七宝ちゃんも抱きしめ返してくれた。
「七宝ちゃん、それでも私は嬉しいのよ?皆がいるところに私もやっと行ける。・・・・・・お話は出来ないけど、たまに遊びに来てくれたら嬉しいな」
何度もこくこく頷いて、泣いてくれる七宝ちゃんに有難う、と返して私はそっと体を離す。
早く行かなくちゃ。
“こちらの世界”に馴染み過ぎた私が、溜めた力を使える時間はとても限られている。
―――犬夜叉が、私が見える、“唯一の人”が、あともう少ししか生きられないことは、分かっていた。
幸せは、押し付けるものじゃないけれど。不幸を退けることで、生物が自分で幸せを見つけることは手伝える。
そしてその手伝いはあくまで微弱であらねばならない。
人の命にまで関与することは赦されない。
誰か一人だけに固執して、力を使うことは赦されない。
全て承知の上で、私は今、犬夜叉の元へ行くのを決めた。
全て承知の上で、あんな嘘ついてまで、犬夜叉の元を離れた。
・・・・・・カミサマが、人間に恋なんて。
障害がある、どころじゃない。
それでも、想うことだけでも赦された私はきっと、誰よりも幸せなのだと思う。恵まれているのだろうと思う。
ねえ犬夜叉。
カミサマはね、人の願いを直接は叶えられないけれど手伝うことは出来るんだよ?
叶えられないけれど、願いを聞くことは出来るんだよ?
あなたが私の幸せを願ってくれて、それが聞こえてきたとき、私がどれだけ嬉しかったか。
あなたは神の力には縋らないと言っていたけれど、これは、カミサマの勝手な気紛れだから、赦してね。
「ねえ、七宝ちゃん」
まだ嗚咽の収まらない七宝ちゃんの涙を拭うと、まっすぐな瞳が見つめてきた。
「最後に悪いんだけど、お願いがあるの」
こくりと頷くのを見て、私は首から下げていたネックレスを外して、七宝ちゃんに渡した。
「これを、犬夜叉が元気になったあと・・・・何年後でもいいわ。
そのときにまだ、犬夜叉が私を覚えていてくれたら。これを、渡してくれない?」
多分、こんなことしなくても誰かが説明しに行くと思うけど。
神様や天使が、生きた人間に会いに行くなんて前代未聞だけれど、きっと、私がしなくちゃ、そうなるだろうから。
それだけ、ありえなかったことをする自覚はあるし。
それに―――誰か別の人の口から説明されるよりは、私がしたいと、思ったから。
言わなくても伝わったみたいで、七宝ちゃんは、一瞬、とても辛そうに顔を顰めた後で、ネックレスを受け取ってくれた。
「・・・・・・ありがとう」
七宝ちゃんを離すと、私はやっと立ち上がった。
この世界に未練がないなんて、嘘。
確かに、この世界には“私が見える人”はいなくなってしまったけれど、それでも綺麗だと、私は思うから。
だからこそ、犬夜叉に、生きて欲しいと、そう思う。
・・・・・・・自分勝手なカミサマでごめんね、って。心の中で謝って。
「じゃあね、七宝ちゃん。・・・・・・・さよなら」
誰かに言うのは二回目の言葉。
何回言ったって慣れる訳はない。
七宝ちゃんが、泣きそうな声で「さよなら」って小さく言ってくれて、私はもう一回、小さく笑って見せた。
どうか、元気でなんて、おかしいかな。
でも、元気でいてほしいから、やっぱり「元気で」。
犬夜叉は、その後元気になってくれたみたいだった。
ぬるま湯につかるような、不思議な気持ちのまま、そう報告してくれた、久しぶりに会った親友に、ありがとうって返せないのを申し訳なく思いながら、私は静かに喜んだ。
たとえ、他から不幸に見えたって、私は今、幸せだよ?
だって、今もまだ、幸せであるようにって、願ってくれてる声が聞こえる。
私は、その声だけで幸せだよ?犬夜叉。
これでも大分、無茶を赦された方なんだもの。
永遠に会えなくなる訳じゃない。
・・・・・そりゃあ、ちょっと、また会えるまで、長いかもしれないけれど。
だからね
私にまた会えるまで、幸せでいてください
そして、出来たら、思い出として、私を忘れないでください。
私を、一人ぼっちから救ってくれた、大好きなあなたへ。
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