目標→エロ雰囲気にオチつける(つけんな)
触れる熱
きしりと響くスプリング。ぴたりと閉められた窓の隙間から僅かに流れ込む夜気。
真っ暗な空間に、二人の異性。
それだけで、心臓はばくばくと暴れていた。
どちらからともなく、存在を求め合うように自然と抱き合っていた。
ひとつ、ふたつの言葉さえあれば、あとはもう何も要らない。
同じ空間で、同じ時を重ねることさえ出来るのならば、それだけで二人は最上の幸せを手に入れられた気がした。
「いぬやしゃ」
甘い声が、少年を呼ぶ。答えるように、少年は少女の髪を梳いて小さく笑いかけた。
お互い、鼓動はとても早くて、思考も纏まらないくらいに嬉しさを感じていて、しかし、この腕を離れることは考え付きもしなかった。
向かい合った顔。交じり合う視線。共有する温もり。
――――共感する、喜び。
きしり、と。少年の身動きに、もう一度ベッドのスプリングが鳴き声を上げる。
体重を膝で支えながら、少年はゆっくりと少女の顔に自分の顔を寄せて口付ける。
額。瞼。鼻の筋。頬、耳の後ろ。・・・・・唇。
「ん・・・・」
唇にそっと重ねると、少女は空気を求めるように小さく声をもらす。
啄ばむような可愛らしいそれに満足したような、とろんとした瞳に少年は余計に愛しさを感じて、口付けの合間にそっと少女の名を呼ぶ。
「かごめ」
呼ばれて少女は嬉しそうに少年の頬へ触れる。少年も愛しそうにその手を包み込む。
やがて少年はゆっくりと身を起こして少女へ覆い被さる様に、体重の負担はかけさせないように肘で上体を起こして重なる。
「犬夜叉?」
きょとん、と音がつきそうな、大きな瞳が少年を見返す。この体勢が、何を示すものか、わからないでもないだろうに。
その無垢な眼に少年は余計、情動を煽られる。
そっと、甘美な果物をつまみ食いするような気持ちで、少年が少女の首筋に軽く甘噛みを施すと、少女の体が怯えたように痙攣する。
どうせ最後まで行き着くことは少年は考えていない。少女を大切に想い、壊したくないと思う反面で何もかもを自分の前でだけ、曝け出させたいという欲求に駆られるけれど、それよりも大きく少年を押しとどめているのは、少女の意思だ。無理強いなど最初から望んではいないのだ。
だからこれは、つまみ食い。
「や、犬やしゃ・・・・・ッ」
怯えたように顔を背けて、少年に触れていた手は退けるが、その身体を押し返すようなことはしない。
少年が、好意ある者に、ひいては自分に拒まれることを恐れていたのを感じていたから、拒むようなことはできなかった。否、たとえそうでなくても少女が少年を拒むことなど出来なかったのだ。
少女の中にあるのは、好いた男に何をされても良いと願う心と、あらゆる倫理や概念、かの巫女に対する罪悪感に縛られ、そうしてはいけないと自制をかける心。それは相反しながらも両立されていた。
そのことも少年はよくよく理解しており、拒む理由の半分ほどが、己の所業にあることも理解していたからこそ、何も言えなかった。
困ったように笑うと、少年は祈るようにかたく閉じられた瞼の上にそっと口付けを送って、せめてとばかりに豊かな胸元にひとつ、紅い印をつけてやる。
ようやくとさりと身をベッドへ沈めると、再び少女の華奢な肩を熱が逃げ出さないよう抱きしめた。
「・・・?」
気配で異変にようやく気付いた少女はゆっくりと瞼を開けて、少年を向く。僅かに湿った瞳が余計に少年の情動を煽るが、そうとは気付かれないうちに少年はその情動を噛み殺してもう一度少女に、少女にしか分からないほど小さな笑いをこぼす。
片方の腕を取り、少年は恭しく少女の手の平に唇をつけて、悪戯っぽく笑った。
「忘れるな」
こうして、ここで少女の存在を求めている者がいるということを。
その枷がこれからの執着へ繋がる。自分という存在を忘れられなくする鎖になる。
空の広さを教えてくれた存在に、なんて仕打ち。口の中で笑いながら少年は自嘲した。
心のこもっていない美辞麗句を吐き出すなんて、到底自分には向いていない。
歩んでいく道の先が照らされていないとしても、確実に足を踏み外すことがないのは、この少女のお陰であり、なくすわけにはいかない。
(そう、どんなことをしても、絶対に)
あいしているひとに、あいしているといってはいけない業。
もう、その想いがどんなに狂って溢れ出そうか、分かっていないのは、お互いに同じ、なのだ。
オチつけれんかった・・・・(沈)
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