気付けば眠っていた。 しかし眠っていたことに気付いたのは、目が醒めたと自覚してからだったので、今はいわゆる寝惚けの状態に近いのかもしれない。 「おはよ」 膝を貸してくれていた少女が、ひょこりと少年の顔を覗き込みながら微笑んだ。 (眩しい) 少女の後ろの木漏れ日から降る陽の光に、犬夜叉は目を細めた。 ―――本当に眩しいのは、陽の光だけではないのだけれど。 ごろりと、かごめに背を向けるように寝返りを打ってみた。 頭の下にある感触に、ごく当たり前のように柔らかいと感じた。 自分を護る為、鍛えられた自分の腹筋はこんなにも柔らかくない。 どうしたの、と髪を優しく撫でて来る細い指のように自分の指は繊細ではない。 けれど――だからこそ、惹かれるのだとも、分かっていた。 「かごめ」 「なに?」 すぐに返って来る返事に、暗く冷たい感情なんてない。 ただただ胸の底からほわりと暖かくなりそうな、穏やかな声だ。 いつだって明るく前向きな少女だからこそ、周りを、自分をこんな気持ちにさせることが出来るのだ。かごめ、だから。 もう一度寝返りを打って、今度はかごめの方を向いた。 だらんと伸ばしたままだった両腕でかごめに抱きつくと、わき腹のくすぐったいところに当たったのか、「きゃっ」と小さな悲鳴と共に身を捻らせたが、こちらに悪気はなかったのだと悟ると苦笑交じりの溜息で許容された。 「どうしたの?甘えんぼ。 七宝ちゃんのこと、これじゃあ犬夜叉もどうこう言えないわよ?」 「・・・・・・・・・・・・」 言い返す代わりに抱きしめた腕に力を込めると、犬夜叉?とかごめが首を傾げる。 護りたい、と思った。 かごめと、かごめを取り巻く自分を受け入れてくれた場所を、全部。 どれか一つが欠けたって駄目なのだ。 そして、その中でも一際大切な少女。 護り切れなかった、かの女性の代わりでは決してないけれど、それでも今度こそ、と思うのだ。 片腕でかごめを抱きしめたまま、もう片方の手を伸ばして、少女の頬に触れた。 桜色の頬に、僅かに赤味が増す。緊張しているのか、少年の動作に照れたのか。 どのみち、そんな少女が可愛らしくて愛おしくて、犬夜叉は口だけで笑った。 声に出してはいなくても、何となく自分が笑われたのだと気付いたかごめは拗ねるように首を竦め、それすらも可愛い、と感じてしまう自分は、この少女にとことん骨抜きにされているのだと思う。勘違いだと言ってやることもせず、頭を浮かせると、油断していたかごめの唇を掠め取る。 一瞬、固まってしまったあとで「な、な・・・!?」と何か言い返そうとする様が見えた(実際、それは単語にすらならなかったが)。 暫くは落ち着き無く視線を泳がせていたかごめも、犬夜叉がにやにやと嫌な笑いを浮かべているのを見て、一度深呼吸をすると紅くなった顔で少年を睨んだ。 効果などあるわけがないが、生憎とかごめはそのことに気付かない。 「何よ、いきなり」 「いきなりじゃなきゃいいのか?」 「そういう問題じゃ・・・・・っていうか、本当どうしたのよ?」 「何が?」 「何がって・・・・何か今日、すごい甘えて来るから・・・・」 ああ、『だから』かごめがいつも以上に自分の悪戯じみた行動を諌めないのかと、犬夜叉は内心納得する。 要するに、子供扱いされているということだが、気にはならなかった。 それまでかごめの頬を撫でていた手を下にずらし、唇、首、鎖骨と、そのまま下へずれていく手に撫でていくとさすがにかごめも慌てる。 「ちょっ・・・・どこ触って・・・・!」 子供へのガードが甘いことを利用するのもどうかと思うが、彼女は時々自分が男だということを忘れているのではないかと思ってしまう。 動揺しているうちにぐいとかごめの身体を引き倒して、自分の懐の中に入れて、そうして身体の上の柔らかな重みとかごめだけの甘い匂いを感じて、今、自分がとてつもなく幸せであることに気付いた。 何やら抗議をしているかごめを、唇を落として黙らせると、犬夜叉は満足そうに強くかごめの身体を抱きこんだ。 胸の上からは、呆れたような溜息は降っても、文句の言葉はもう出てこなかった。 腕に抱えた幸せ (07.09.10) 母性本能くすぐってセクハラ(うわぁ) 久々な上、1時間程度で書いたものなので(しかも片手間に)短い・・・・・。 |