たいしたことのない出来事は、ほんの些細な日常から。














Perfume  Panic

















「かごめ」


中間テストがあるからと、半ば開き直り、露骨に甘えてくる犬夜叉に絆されかける気持ちに鞭打ちながらこちらの時代へ帰ってきて二日目の夕方、友人の誘いも泣く泣く断り(期間中の授業時間短縮の日に遊ばずいつ遊べというのか)、急いで家路についたとき、かごめは丁度神社の階段先で出くわした母に手招きされて、小首を傾げながらもついていった。
そして、向き合って言われた第一声がこれだ。
「かごめ、香水とか興味ない?」
「香水?」

思わず鸚鵡返しに返した娘の不思議そうな顔に、楽しそうに笑いながら母は小さな小瓶を差し出した。かごめは驚いた後、反射的に受け取ってしまった小瓶を呆然と眺めた。
スカイブルーをもう少しだけ薄めたような蒼い、手のひらサイズの小瓶。蓋も本体も硝子製で、取っ手のように天使の羽をイメージしたような丸い羽がついている。母の視線に促され、蓋を開けると仄かに花の匂いがした。何のものかは忘れたが、何処かで嗅いだことのあるものだとかごめは暫くまじまじと瓶の口を見つめていた。
「貰い物なんだけど、ママにはちょっと合わないから、良かったらかごめが使わない?」
「え、でも・・・」

本来、全くとは言わないが、かごめが化粧品の類に手をつけることはあまりない。受験生がそんなものに気を使う暇などないと豪語する教師の言を律儀に守っているといえばそうだし、実際、身だしなみに気をつけるどころか、三日以上風呂に入れないという事態が、戦国時代での日常茶飯事で、そんな時代が日常の基盤となっているかごめにとっては無意味にも思えたのだ。
だからと言って、全く興味がないわけではない。人一倍どころか、何十倍も鼻の利く犬夜叉が傍にいるのに、必要以外でそんな嫌がらせじみたことしようとは思わないし、本人にも何かと文句を言われそうだと自粛していたが。
「やっぱり、要らない?」
「え!・・・え、っと、その・・・・い、要る!ありがとね、ママ!」
彼の不機嫌顔が目に浮かんだが、それよりも好奇心の方が競り勝った。
慌てて母に礼を言うと、かごめは訳もなく小走りで自室へ引っ込んだ。何だかひどく興奮していた。どきどきと早くなる鼓動を抑えるように、スカーフの端をきゅうと小瓶ごと握り締めた。

テストは明日一日で終わる。
きっと、明日の今頃には家に帰ればいつものように当たり前のように今に陣取っている犬夜叉と出くわす筈だ。あの匂いに敏感な少年がどんなリアクションを返してくれるか、今から楽しみだ。
いつもはもっと時間が過ぎるのが遅ければじっくり勉強できるのに!と泣き言をもらしながら机に噛り付いているさろうが、かごめ最大の敵とも言える数学は初日に片がついていたことも手伝い、早く明日にならないか、などとも思ってしまう。
らしくもなく浮き足立った気分を追い出すように、かごめは部屋の窓を全開した。





「あれ?姉ちゃん何かつけてる?」
夕飯のために降りてきたかごめとすれ違ったあと、草太は不思議そうに振り向きながら訊ねた。
「まあね。ママに貰ったやつ」
「あら、早速つけてみたのね?」
料理を盛り付けながら、母が嬉しそうに言った。
「うん。匂い全然きつくないし、この匂い、いいなって思ったし」
「懐かしいのぅ・・・」
「え?」
ひょこっと今から顔を出した祖父の言葉にかごめが口を開くよりも早く、
「さあ、用意出来たから早く食べましょう」
という母の一言ですっかり聞きそびれてしまった。
後で聞けばいいか、と思い直したかごめが、そうしてそのままずるずると聞き損ねたことを思い出したのは、ベッドの中へもぐりこんで暫く経ったあとだった。









 * * * 






「おっはよー、かごめー!」
「あ、おはよ」
テスト三日目とは思えぬハイテンションっぷりを発揮する友人たちにおざなりな返事を返しながらもかごめは教科書を放さない。たとえ今日が、かごめにとっては安全圏にある教科のテストであろうと、かごめにとっては気が抜けない。どうせ授業の出席日数はどう頑張ってもぎりぎりなのだから、せめてテストの点数くらいは、というのが本音だ。しかし、それを許してくれないのがやたらと「かごめの彼氏」が気になって仕方がないというか、やたらご執心な様子の友人たちだ。つつ、と寄って来たと思うと、本とにらめっこをしていたかごめから本を取り上げて、かごめの机の周りに陣取った。
「あ」と小さくもらした抗議の声も容赦なく無視してずいと顔を寄せるとさしもの少女も引きつった笑顔で後ずさる。
そこを見逃す由佳たちではない。
「で、何か進展は?」

昨日、おとといと聞きそびれた彼女たちのことだから、今日辺りがピークと覚悟はしていたが、予想以上にリアクションが凄まじい。気圧されて怒る気も失せた。
(何か、楽しんでない・・・・?)

明らかに、何に対してかは知らないが期待に満ちた目でかごめの答えを待つ友人たち。普段はテスト前の予習を欠かさない真面目なあゆみさえもそうだ。思わずテストはいいのか、とつっこみたくなったかごめだが、こんな時の彼女らは、不機嫌な犬夜叉よりもたちが悪いことを、短くもない付き合いで知っていた。
それでも、無意味と分かりつつも不条理な問題に抗いたくなるのは人の性【さが】か。
「し、進展って何のこと?」
精一杯のかごめの一言もあえなく絵里の「何しらばくれちゃってんのよっ」の一言で散った。
「例の彼氏。あれからどうなったわけ?」
「どうもなってないわよ」
とうとう諦めてそう返すと、友人たちは今回ばかりは何故か不思議そうに顔を見合わせ、同時にかごめを向いた。
「なぁんだ。珍しく香水つけてるみたいだから彼氏に貰ったのかと思ってたのに」
(あー、それはないわね)
心中で断言すると少し虚しくなったが仕方がない。
何せ、かごめの想い人たる少年は戦国を生き抜く半妖である。着飾ることさえ金持ちの道楽とされる時代には当然、香水のようなものはない。あったとしても非常に高価だったりする。一行の懐役でもある弥勒ならばともかく、犬夜叉にそんなものが買える甲斐性も金もあるとは思えない。
それに、天然の温泉や風呂のある宿へ頻繁に寄っている一行は、あの時代からしてみれば大変に身奇麗といえるのだ。
それだけでもまだいい方だ、という考えがすっかり板についてしまったかごめとしては、時々何の気まぐれか、そっぽを向きながら照れ隠しして花や石英をくれる犬夜叉の気持ちそのものの方が嬉しい。
だから不満を感じたことがないし、当たり前なのは分かっている。しかしながら、指摘されてみてよくよく考えると、かごめはこの年頃でそんなものを異性から贈られたことがないということに気付いてしまった。
北条が稀にプレゼントを持って来たりするが、あおれはあまりにも特異なのであえてカウントはすまい。
彼には気の毒だが、“あれら”は根本的に何かを間違えている気がする。
「買ったの?」
「ううん、貰ったのよ、使わないからって親に。」
言うと、友人たちはあからさまに肩を落として「なぁーんだ」と口を揃えた。
かごめはあはは、と乾いた笑いを浮かべながら、由佳から教科書をひったくって会話を強制終了させた。
これだけ友人たちが反応してくれるのならば、犬夜叉はどう言ってくれるのだろう、と少しの期待に胸膨らませながら。








「ただいまー」
テスト終了後の、少し晴れ晴れとした気分でかごめは鳥居をくぐった。
「おう、帰ったか、かごめ。“奴”は居間におるぞ」
竹箒を片手に神主姿の祖父がかごめを出迎えた。前回、悪気はなかったにしろ、散々犬夜叉に蔵を引っ掻き回されたことを根に持っているらしく、今朝は「そろそろ来るじゃろう」と、壊されたくないものを蔵に押し込む作業をしていた。物を壊されるのが嫌なだけで、犬夜叉自体を嫌っているわけではないだろうが、このままこちらへ来る度に犬夜叉が何かを破壊していたら本当に仲が悪くなりそうだと、祖父の顔を見た瞬間、かごめは唐突に思った。
「ただいま、有難う。じいちゃん」
急いで踵を返し、家に入ると何やら騒がしい物音がするので草太とでも遊んでいるのかと思い、先に着替えようと居間の横を通ると、草太が「お帰り」と言い、次に犬夜叉が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

何も言わずに、じっとかごめを見つめていた。

突然硬直した犬夜叉の膝の上で遊ばれていたブヨが窮屈そうに鳴く。
先に着替えを、と思っていたのに、その視線が気になりかごめも完全に静止する。
妙な沈黙がその場を支配し、何となく、誰一人として動けなくなったが、その空気を破ったのはお玉片手に台所から顔だけ見せた母だった。
「あらかごめ、帰ってたの」
その一言がきっかけで全員がようやく動きを取り戻した。
「あ、うん。ただいま」
「お、遅かったな、かごめ・・・?」
「・・・なんで疑問形なのよ」
妙にそわそわと他人行儀な犬夜叉につっこんだあと、ふと香水が原因だということに気付いた。匂いに敏感なことはずいぶん前から分かっていたことだが、ここまで影響を及ぼすとは思わなかったかごめは少し驚いた。
「今日、ずっと変なんだよ、犬夜叉の兄ちゃん。姉ちゃんの部屋が『何か違う』とか言い出してずーっと落ち着きな・・・」
「わーっバカ言うなっつっただろーがっ!
慌てて草太の口を塞ぐ犬夜叉だが、すでにほとんど言い切ったあとでは意味がない。何だかその様子がおかしくて、犬夜叉には悪いが風呂から出てもまだ香水をつけていようかな、とかごめはこっそり思った。







 * * * 





「お帰り、かごめちゃん」
「お帰りなさいませ、かごめ様」
「かごめっ今日は早かったのぉ!」
口々にかごめを迎えてくれる仲間たちに返しながら、かごめはすっかり仏頂面の犬夜叉を振り向いて苦笑した。

結局、あのあと「暫くつける機会ないし」と風呂上りにもうっすらと香水をつけたのだが、それがあまり気に入らないらしく、犬夜叉は不機嫌を直さなかった。そのあまりの機嫌悪さに、匂いを落とし直しに行こうとも考えたが、洗い立て、乾かしたての髪を洗いなおすのが勿体無くて、結局そのままで帰ってきていた。
(そんなに変かしら・・・)
くん、と髪の匂いをかぐが、いい匂いという認識しかかごめには出来ない。
しかし、鼻の利く犬夜叉にしか感じられないものがあるのかもしれないと思い直し、明日には匂いを落とそうと決めた。
「おや?」
ふと弥勒はかごめに近付くと、失礼、とかごめの髪を撫でた。それでさりげなく犬夜叉が邪魔に入ったが、珊瑚と七宝も気付いた。
「かごめちゃん、何かつけてる?いい匂い・・・」
「花の匂いか?」
「あー、うん。香水・・・びんつけ油、だっけ?みたいなもの、をつけてるのよ」
「へぇ、邪魔の匂いのするのなんてあるんだね」
「うん。ママ・・・・お母さんに貰ったの」
「ほう、それはそれは・・・かごめ様の母君は大変ご趣味が良いんでしょうなぁ」

母のことながら、自分が褒められたようでかごめも思わず嬉しくなる。少し照れ笑うと犬夜叉が「けっ」とつまらなさそうに悪態をつき、弥勒とかごめの間をすり抜けると、かごめの荷を持ったまま、先に村の方へ歩いていってしまった。
「?・・・犬夜叉っ」
訳が分からないながらも慌てていぬ夜叉の後を追うかごめの後ろ姿を見つめながら、七宝がぼそりと言った。
「・・・・・なんで犬夜叉はあんなに機嫌が悪いんじゃ?」
「そりゃあ、やっぱりあれでしょうなぁ・・・」
「あれ?」
訝しんだように珊瑚が訊ねると、さも当然のように頷いて弥勒が続けた。
「犬夜叉は、かごめ様本来の匂いが大好きですから。自分でかごめ様に言ってましたし」
「じゃあ、かごめちゃんわざとやってるの?」
「違う。言ったとき、丁度かごめは寝てて聞いとらんかったんじゃ」
七宝の注釈に、少しの間、全員が沈黙していたが、やがて珊瑚は雲母を抱えてため息混じりに結論を出した。
「・・・・・・・・・難儀だね、両方」
誰に、とは言わないが、同情を禁じえない一行だった。














「おや、かごめ様、花畑にでも行ったんですかい?いい匂いですね」

「帰ってたんかい、かごめちゃん。今日はずいぶんと変わった匂いをしとるね」

「かごめさま、今日はなんか違うねぇ!」

等々の言葉を数十回。ここまで反応が顕著なことへの驚きと、すれ違い様にこの言葉を言われるたびに隣で明らかに機嫌が悪くなっていくのが目に見えて分かる犬夜叉へのフォローの言葉がかごめの頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
しかし実際には駆け巡っているだけである。とても言える雰囲気ではないのだ。

(だからなんでこんなに怒ってんのよ〜!)
匂いがきついのかと訊ねても、「そんなことはない」としか返ってこない。匂いに関しての堪え性のない少年なので、嘘をついているようにも思えないが、それ以外に不機嫌になる理由の検討がつかない。
どうすればいいのかと考えあぐねいていたかごめに、また「おや」と声がかかる。顔を上げれば、今しがたまで薬草の畑にいたらしく、篭の中に血止めや毒消しの薬草を入れた楓がこちらに気付き、近付いてきているところだった。
「ただいま、楓おばあちゃん」
「お帰り、かごめ。何やら村の若い衆が騒いでおったから何事かと思ったが・・・成る程、“これ”が原因か」
「言いたいことがあるならはっきり言え楓ばばあ」
それまで、不気味なくらい沈黙を守っていた犬夜叉が不意に口をついた。ひどく低い、威嚇するような声だったが楓は動じることなく肩を竦め、かごめに向き直った。
「さて、どうせすぐ旅立つんだろう?いくらか薬草を分けよう。おいで」
「はーい」
「な゛・・・」
思わず絶句して立ち尽くす犬夜叉を完全に無視してかごめが楓のあとに続くと、癇癪玉の弾けたらしい犬夜叉の怒鳴り声の文句が追いかけてきて、二人して笑った。
「許しておやり。村の若い男たちがいつもにもましてかごめに注目して面白くないんじゃよ、あ奴は」
「そう・・・なの?でも私、特に変わったところは・・・」
「匂いが変われば人の印象も多少なり変わる。かごめは元々、この村の連中に好かれているが、どうやら拍車がかかってしまったようだね」

なるほど。
理由がわかればいたって単純だ。ついでに少しだけ恥ずかしくて、嬉しい。
(犬夜叉、一応やきもち焼いてくれてる・・・のかな?)
小屋の中で、楓の説明を聞きながら、少しくすぐったい気持ちになった。







 * * * 









「犬夜叉っ」

ぴくっ

暗闇の中で少年の獣耳が動いた。振り向くような気配はないが、明らかにこっちらへ注意が向けられていることが知れる様子に思わず口元を抑えて笑うと、
「何笑ってんだよ」
と、照れと怒りが混じったような声音で返すものの、犬夜叉は少しもこちらを見ようとしない。
自分から振り向くまで黙っていようかとも考えたが、短気のくせに負けず嫌いの少年とそんな勝負をしているといつ決着がつくか分からないと諦めた。というより、口で動かした方が早い。
「いつまですねてるつもり?」
「・・・拗ねてねえよ」
「ずーっと仏頂面じゃない」
「こりゃ元々だっつただろうが」
(うーん、結構しぶとい)
いつもならばこの辺で犬夜叉の方が痺れを切らして降りてくるのだが、今回ばかりはやたらとしつこい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・降りてきたらキスくらいしてあげるのに」

ぴくり。
その瞬間、犬夜叉は思いっきりうろたえたように体を震わせたが、何とかそのまま持ちこたえたようだ。あと少しだったのに、とかごめは指を弾いた。
「・・・・・・・おい」
「なによ」
「・・・・・・・・・・・どこに?」
「は?」
「だからっ」
焦れたように叫ぶ犬夜叉。相変わらずかごめの方を見ようとしない。
「どこに、すんだよ?」
駄目だこの人。

何を置いてもまず崩れ落ちたい衝動に駆られたかごめは無言で思った。自分でしておいて何だが引っ掛かるなバカなどと内心で叫びつつ。
「かごめ?」
「・・・っ」
俯きから脱したかごめが顔を上げると、目の前にはいつのまにか下りてきた犬夜叉の顔があり、反射的にのけぞった。
するとそれにつられて犬夜叉も僅かに体をのけぞらせた。その状態で互いに硬直し続けているのもバカらしい、と最初に動いたのはかごめだ。ふう、と顔をそらして木の根元にぺたんと座り込んで、犬夜叉の衣の裾を掴んだ。
つられて隣に座った犬夜叉に笑いかけると少年は今更照れくさそうに俯いた。

「・・・・香」
「え?」
「香、落としたのか?」
くん、と犬夜叉の鼻先が動いた。視線がかごめの髪に向かっているのに気付き、慌てて頷く。
「さっき、川に行って落としてきたの。犬夜叉、この匂いあんまり好きじゃなさそうだし」
「いや、別に、嫌いってわけじゃ」
「そうなの?」
今までずっと仏頂面を崩していなかったので、そんなことはないという犬夜叉の言葉は本当はやせ我慢で、この匂い自体を嫌っていると思っていたのだ。聞き返すように返すと「ああ」と返って来たので、かごめは意外そうに目を見開いた。
「・・・まだ、匂い残ってる?」
「いや・・・少しだけだ。もうほとんど残ってねえ」
「ひゃぅっ!?」
不意に髪に暖かいものがかかり飛び上がる。顔を髪に埋められているのだと気付き、次いで肩を引かれる。
「い、ぬやしゃ・・・!?どうしたの?」
「やっと、戻った」
「んうっ・・・!?

唐突に唇へおりた熱にかごめは目を白黒させる。
温かいものが半開きだった唇から入り込み、歯列をなぞる。どうすればいいのかと困惑でおとなしくなったのをいいことに、犬夜叉はぐいとかごめの腰を引き寄せて、深く口付けた。
行き場のない吐息が喘ぎに混じってこぼれる。―――どうにかなりそうな自分の気持ちを抑えることで精一杯だった。
「は、ふ・・・」
離れた唇から飲み込みきれなかった唾液が口の端からこぼれた。慌てて拭おうとするかごめの手をおさえて、犬夜叉は唾液ごと頬の線を舐め取り、ついでに耳元に音を立てて口付けた。
「きゃっ!?」
「・・・いい加減慣れろ」
「なっ・・・?!慣れる訳ないじゃないの!すけべ!」
いつのまにか抱えられた腕の中から抜け出そうと躍起になっているかごめに、犬夜叉は思いきり悪戯心をくすぐられた。
「かごめ」
「な、なな何?」
「その気になったってのは大歓迎・・・」
「おすわ」
り、と言いかけた口のままかごめがじっと睨むと犬夜叉はあっさりと降参した。こんなやりとりは今に始まったことではないし、互いに納得した上ではないと独りよがりの相手を傷つけることにしかならないからしないとは彼の言なのだ。
「・・・ねえ、不機嫌、直った?」
「ん?」
もじもじと腕の中で言霊の念珠をいじりながらかごめが訊ねた。
「どっちにしても、この香水のせいで犬夜叉の機嫌、悪かったんでしょ?・・・今は?直った?」
「・・・そーだな」
実を言うと、かごめの笑顔を見た時点でそんなこと、どうでもよくなっていた。が、さすがにそんなことを言ってしまうと後が怖いということは十分に承知しているので口に出して言うほど馬鹿ではない。
「直った・・・・ってことにしておく」
「もう!いい加減!」
「放っとけ。・・・・ついでに」
「?」

わざと、耳元で言う。
「香をつけるなら、俺か家族の前だけにしとけ。余計に収拾つかなくなる」
「っ?・・・・・・・うん」
意味がわからないながらも、存外素直に首肯したかごめの頭に顎を乗せると、犬夜叉は満足そうに笑った。












たいしたことのない些細な出来事は、ほんの小さな日常から。



ほんの些細な幸福感も、ほんの小さな日常から。




【終】

今回ちゅーさせないつもりだったのにちゅーさせちゃったのは犬のせいだ。しかも微妙に卑猥な表現になったのも犬のせいだ。うちの犬がエロいからいけないんだ(責任転嫁)。どうでもいいですが犬夜叉系で初の英語タイトル。ちなみにやっぱ直訳(笑)
犬は姫に弱く、姫も犬に弱いのがうちの犬かご。・・・あー、でも黒かごめは下克上くらい狙ってそうだな。むしろ今そう?(何の話だ)

犬はこの匂い嫌いなんじゃないのです。どっちかっていうと好きだけど姫が他の男に取られそうでずっと苛々してただけなのです。





余談↓

弥勒(以下弥):・・・・匂い移ってるぞ

犬夜叉(以下犬):!!

弥:・・・・やれやれ、お盛んなこって

犬:なんだその言い方!俺は発情期のオス犬か!(怒)

弥:それならまだ良かったんだがな。人間は万年発情期っていうし。まぁ・・・冗談抜きで、かごめ様は泣かせるなよ?(目が笑ってない)

犬:分ぁってる!んなこたぁ、俺が一番、な!

弥:・・・・ならいいです。移り香も目を瞑りましょう

犬:・・・・・おう(汗




姫愛主義ですから!!!(笑顔)




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