もう二度と、離しはしないと誓っても


分かっている。


人の心は決して、不変などではないのだと。











囁き










それは、睦言のように甘いものではないのだけれど。





「犬夜叉は、すぐ私のことなんて忘れられるよ」

告げたのは少女。訝しんだのは少年。今はもうすっかり陽が落ちた周りは暗黒。
だが不思議と、少女の肌がはっきりと見えていて少年は安堵していた。
「何、言ってんだ?お前」

少女の言葉を打ち消したくて、少年はそっけなく言った。

「もう、時間がないの」
「あ?」

話が噛み合わず、少年は更に少女のことを不思議に思った。
いつもならば、たとえこちらが支離滅裂なことを言っても、無理やり話を合わせてくれる少女なのに。

「私、もうあんたの傍に居られない」
「え・・・・」

「奈落はもう死んだ。桔梗だって・・・・・」

「っ・・・・だけど」

心臓が、鷲づかみにされた錯覚を覚えて、少年は言葉を考えあぐねる。
嫌な予感が胸を掠めて、少女を必死で止めたいと願う自分を少し滑稽に思った。

「弥勒様と珊瑚ちゃんは、もう動いてる。七宝ちゃんだって動き始めてるの。次に向かって」

半月前、弥勒と珊瑚は祝言を挙げ、めでたく夫婦の関係になった。
七宝は、楓の傍で色んな田畑の手伝いをしてそれなりに生活に馴染んでいる。

完全な玉となった四魂の玉は今、かごめの手中に。

琥珀は自ら欠片を差し出し、繋ぎ止めていた生命を絶った。

その時の珊瑚の落胆振りは酷かったが、それも弥勒によって、少しづつではあるが癒されている。

本当は玉の力を持って、弟を生き返らせる事も出来たが、それを良しと考えるものは誰もいなかった。
無理に、無くなった命を蘇らせる事は邪な事。彼らはもう、玉を汚すことが嫌だったのだ。



犬夜叉は、時折思い出したように桔梗の遺骨が改めて納められた場所に行ってみる以外の時は、ずっとかごめの傍を離れない。
弥勒に、「もういい加減かごめ様離れしたらどうだ」と冗談交じりで言われるが離れる気配がなかったとは傍観者全員の言だ。

少し―――いや、かなり自分たちはお互いに依存してしまっている。

旅をしていた頃に比べるとそれは、偶にしか会っていなかった筈の楓の目からも明らかで、
互いが互いの命でもあるかのようにずっと片時も離れようとしない。

それだのに、体の関係がないのは二人ともがどこかで、この関係を崩すのを厭うていたからに他ならない。

だが、もう潮時だ。
「私、この前あっちに戻ってからずっと半月も、戻ってないの。戻りたくなくなってきてる・・・・」

かごめの華奢な肩が涙で震える。
「私は、此処にいちゃいけないの。もう戻らなきゃ・・・私も犬夜叉も、前に進めない」

どうして、は愚問だ。

「俺は・・・お前無しじゃ前になんて進めない」

胸の中の、身を切るような痛みは錯覚ではない。
目頭が熱くなり、雫が零れ落ちそうになるのを必死で止め、かごめは首を横に振る。

「もう、一緒にはいられない。犬夜叉のこと、愛してるけど、だからこそ、もう一緒には居られない」

時代の壁は、越えられない。絶対に。

「かごっ・・・・・」



「 
さようなら 」





井戸に身を落とした少女を追おうとしたが、その時にはすでに少年の体は時代を越えられなかった。









もう、傍を離れたくねぇんだよ、かごめ。

触れられなくなってもいいから、傍で笑顔を見ていたいだけなんだ。

それすらも、赦されないことだったのか?



どうして、別れを告げたお前の方が、悲しそうに懇願する目で俺を見る?

どうして、俺はそのあと、涙も出なかったんだ?


総ての喪失感。

体から魂を引き剥がされたみたいな切なさ、どうすればいい?







もう、5年も前の話なのに割り切れずに其処に留まり続ける俺を救えるのは、お前だけなのに。


















やっば・・・・書いてて自分で泣きかけた(感情移入しすぎです)。大抵のことは文脈から推理して下さい。
好きだからこそ、一緒にいられないんです。依存するのは楽だけれど、空しいと知っているから。

犬夜叉の最終回、こんなになったら私は速攻身投げするぞ(限りなく本気)。

でも留美子さんが犬夜叉のエンディングはあんまハッピーエンドじゃないとか仰ってたって聞いたし(汗)。
いいじゃんかー!犬夜叉の元ネタファイヤー・トリッパーなんだったら最終回は祝言で終わろうよー!
好きな人の為には全部を捨てるような覚悟ないと!涼子ちゃんみたいに!!





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