花の香さえも煩わしくて








「犬夜叉ぁっ!見てみて こんなに大きな花冠出来たよーっ」

そう云って、かごめはさっきまで熱心に編んでいた花冠を片手に、俺の方まで駆けて来て、目の前まで来ると、嬉しそうに俺の頭の上にそれを乗せてきた。

「・・・んだよ・・・・」

「あはっ!やっぱり!犬夜叉だと犬耳に引っ掛かってちゃんとかぶれる!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのなぁ・・・・」

やけにはしゃぎまくるかごめを他所に、俺は呆れたように息を吐き出す。
そして、おもむろにその花冠を頭の上から取り上げて・・・かごめの頭に乗せようとしたが・・・思い直してそのまま手を下ろした。
背もたれにしていた大木の木の根のまたにそれを置いて、軽く眼を閉じた。

「もう〜っ折角作ったのにっ!」

かごめの不服そうな声が聞こえたが、それでも無視して放っておくと、かごめはまた、花畑の方に走っていった。

いい匂いが遠ざかっていくのを、少し名残惜しく思ったが、それでも眼は伏せたままだった。
























この、女が好きそうな一面花畑、なんて所に来たのは半刻前。

始めに七宝が見つけて、かごめも一緒になって遊びたいなんぞと主張しだして・・・
云っとくが、俺は最初断ったぞ!?
かごめが半泣き上目遣いで頼み込んでくるまでは!!(←弱)

とにかく色々あって、何時の間にか丸め込まれた俺は結局、甘ったるい匂いの立ち込める場所にわざわざ留まる事になった。

しかも弥勒と珊瑚と七宝は気付けば何処か行っちまってるし・・・・
捜しに行くにもかごめを放って行く訳にもいかねえし、一緒に連いてくるとは思えねえし・・・。

・・・ったく・・・。
そんなにこんなトコ居て、匂いがついたらどーすんだよ。


かごめなら、別にいいとでも云いそうだけど、俺は・・・
――――



「犬夜叉っ」

っびくっ!

「なっ・・・なんでいっ」

気付けば一寸そこらまで顔を近付けて覗き込まれていたらしく、我に返って眼の前にあったかごめの顔に俺は思わずたじろぐと同時に恥ずかしくなって、顔を背けて応えた。

・・・こーゆー事を素でやるのがかごめなのは知ってる。
知ってるし、可愛いと本気で思ってるのは俺だ。でも反面、んなことされても本人に誘っている自覚がない分、衝動のまま動けないのははっきり言って辛い。

「どうしたの?さっきからぼ〜っとして。」



―――――やっぱり・・・。




案の定、半刻も花畑の中に居た所為で、花の匂いが染み付いてるかごめに、俺は僅かに眉を顰めた。

「・・・・別に」

やっぱり顔を背けたまま応えた。
何か釈然としない、ムカムカするモノを抑えて。

「別にって・・・。
・・・・・・・・・・・・・・桔梗の事・・・考えてた?」

「な゛っ?!」

思いもよらない名前が出て来て、俺は思わずかごめを心外だ、とでもでも云わんような目で見た。
だがかごめは全く動じず、
「私の目、見ようとしなかったじゃない」

と、ジト目で云うかごめに、俺は呆れと、完全に言い切るには不十分なまでの今までの自分の態度を頭の隅で思い出し、言葉に詰まった。


その態度を、肯定の意とでも取ったか、かごめは俺に背を向けて続けた。

「別に、誤魔化さなくてもいいわよ。私、そんな事で何か云ったりしないから」

無理に声だけ明るく言うかごめが、放っておいたらそのまま消え入りそうで・・・。



・・・きゅっ・・・・



気付けば俺は、かごめを後ろから抱きしめていた。

小さく痙攣するかごめ。

「・・・ゃ・・・・・」

そんなに本気でもない抵抗を少ししたあと、かごめは口を開いた。
「どう、して・・・?」
「お前が変な勘違いしてるからだろ?」
云って、かごめの体を反転させて、俺の方へ向けさせた。

「誰がいつ、桔梗の話したんだよ」

自然と口調が厳しくなった。

「だって・・・犬夜叉は・・・・」

言葉が続かない。



そりゃあ、そうだろう。どう考えたって、思い込みで疑われた方が悪い訳はない。

黙り込んでしまって、俺はようやく自分で今の状態に気付いた。

「・・・・・・・っ何でもねぇ!」

「へ?」


急いでかごめの体を離すと、上の木の枝に飛び移った。
かごめは暫く、頭の上に疑問符を浮かべてポカーンとこっちを見てたけど、俺が、
「とにかくっ!桔梗は関係ねーからなっ!」
そう付け足して明後日の方を見ると、本当に可笑しそうにくすくす笑った。

・・・・・・ちっ。
墓穴掘ってどーすんだよ、俺・・・・・・。












――俺は、まだかごめを抱きしめた時に熱が残る両手をじっと見つめて、そしてまた花畑で新しい花冠を作り始めたかごめをちらっと覗き見て、口の中で小さく笑った。



――――――――絶対、教えてなんてやらねえよ・・・



強く、むせかえりそうな花の香が、かごめを抱くように包んでいて、かごめの甘くていい匂いが微かにしか感じられなかった事が妙に腹立たしかった事なんて・・・

桔梗の事を考える暇さえなく俺を夢中にさせているのは誰か、なんて・・・







素直にそのまま云ったら癪だから、教えてやらねぇよ。




・・・・・・もう暫くは、な。


                                        【終】

キリリク1000hit祝いで、朱華さんに捧げます。リク内容は『犬かごなら何でも!』との事でこんなもの。
かごめちゃんと違って犬夜叉視点で話書くのって難しいんだね。半分挫折しかけたよ(をひ・・・)。
話のネタは、アドバンスから来ました。パートナー珊瑚ちゃんでプレイ中、『花は好き?』と訊かれました。
かごめちゃんなら好き!って云いそうだけど、じゃあ犬夜叉は?鼻がいいから逆に嫌いなんじゃ?
そんな感じで連想して書き上げました。・・・ええ、かごめちゃんは素で色んな輩に襲われかねない動作ばっかしますから・・・。
もう花にさえ奪って行かれん勢いで!!!!(爆)

・・・・そんなこんなで、とにかくリク有難うでしたー☆



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