ひとかけの幸せ









・・・ころん。


またひとつ、寝返りを打った。・・・・でもやはり、眠れない。









久々に帰ってきた我が家のベッドに潜り込み、かごめは固く目を瞑り、必死に眠ろうとしていた。

明後日は全国模試があるから、と云って、わざわざ皆の旅を中断させてまで戻ってきた。
なのに勉強は捗らず、仕方なく寝ようと床についたが、それも息苦しくて眠れない。
皆の旅を、自分1人の都合だけで遅らせているという負い目を感じながらも重い体を引きずってやっと帰ってきたというのに
勉強は捗らないわ、それなら疲れた体を癒しておこうかと思うも眠れないわで散々だと、かごめは思った。


だが、その理由はかごめ自身も知っていた。



極度に冷え込みの早い戦国時代。普段、現代の寒さ程度しか防げない防寒具で、しかも四魂の欠片もあと僅かしかないという精神的ストレスが・・・勿論、桔梗の事についても含め、溜まったもの。
加え寒さと、寝る間も惜しんで勤しんできた勉学で消費した睡眠の不足が祟ったのだ。















寝返りを打つと、かごめは薄っすらと目を明けた。

(犬夜叉・・・何だか辛そうな顔してたけど・・・どうしたんだろう・・・・?)

ふと、勉強が捗らない理由の大元である少年の顔が、脳裏を掠めた。

・・・直後。




からからから・・・・




不意に窓が開き、暖かい室内に刺す様な冷たさの風と、云うまでも無いが、ある人物がゆっくり、慎重に入ってきた。

普通の感覚ならば慌てて混乱してしまいそうな人間が大半な場面だが、今はあまりものを考えたく無い
という事も手伝って、かごめは
(そう云えば、窓開けたままだったんだ・・・・)
とだけ、心の中で呟き、無用心だなあ。と、人事のように付け足した。

そして、入ってきた人物・・・もとい犬夜叉は、ベッドの横に背を向けて座り込むと、何をするでもなく黙りこくって何処かを見つめていた。
大方、弥勒にでも締め出されたのだろう。

その様子を思い浮かべると何だか微笑ましくてかごめはふっと口元に笑みを零した。
まあ、その事は追々彼自身の口から訊くとして、問題は今の現状である。

ただ単に締め出されただけならば、七宝曰く、それこそしょっちゅうあるらしいが、それでもこちらの世界に来た事は無かった。
否、あったとしても彼の性格上、顔は出さずに御神木あたりで野宿でもしただろう。

だから今、此処に居るのが珍しいと、単純に思った。

何か用?と訊こうとかごめが微かに身じろいだ、時・・・

「お前・・・熱はいいのかよ」

(え・・・?)

犬夜叉の突然の言葉に、かごめはぴたりと動作を止めた。


一体、何時から自分が風邪だったのがバレていたのだろう・・・?
いや、そもそも彼は自分が起きているのに、いつ気付いたのだろう・・・・?

(このまま寝た振りしてたらどんな反応するかな・・・?)

やはりぼんやりと、はっきりしない思考の隅で、かごめにそんな悪戯心が芽生えた。
だが、勘でものを云っている訳ではないらしい犬夜叉。

「何、寝た振りしてんだよ」

部屋の隅を見つめたまま、犬夜叉が咎めるよう、云った。

「あ、はは・・・バレた?」

「当たり前ぇーだ。呼吸が起きてる時と一緒じゃねえか」

・・・流石、犬並の聴覚と嗅覚の持ち主・・・と云ったところか。
そんなこと云われたって、私には分からないわよ、と心の中で呟き、かごめは上半身を起こした。

「犬夜叉、知ってたんだ。私が風邪引いてたの」
大丈夫なのかよ?と表面上素っ気無く心配する彼に、本音、立つのも辛いくせに「平気」と短く返して、
犬夜叉の隣に、彼と同じようにベッドにもたれてちょこんと座った。

「息荒い。顔赤い。フラフラしてる。いくら何でも気付くに決まってんだろ」

無茶ばっかしやがって、と、咎めるというより怒っているに近い調子で言う犬夜叉に、かごめは苦笑して、

「そっか。・・・じゃあ、みんなとっくに知ってるか・・・・」
云った。

心配をかけたくない。
ただそれあけだったが、かえって心配させたんだろうとすまなく思う反面、だから昨日、やけにあっさりと帰宅を承諾してくれた訳だと納得した。



不意に、かごめの額に犬夜叉の、男の人特有の大きな、でも優しそうな手が触れた。

やはり、先程まで外に居たからなのだろう。冷たくて気持ちいい手だと、正直にそれだけ思った。

「莫迦ヤロウ・・・・まだこんなに熱あるじゃねぇか」

今度は明らかに、心配の入り混じる声で云った。

「えへへ・・・。犬夜叉は冷たいね。外にずっと居たもんね。平気?・・・皆も・・・」

かごめの、本人にとっては何気ない言葉に、犬夜叉は眉根を寄せた。

「俺より・・・皆より、自分の心配しろよ」

「・・そうだね。・・・・でも大丈夫よ」

云って、かごめは自分の体を彼の肩に預けた。途端、赤くなる犬夜叉。
予想通りのリアクションに含み笑いを洩らし、彼女は「それに・・・」と続けた。

「折角、犬夜叉が来てくれたんだもん・・・・」

そう、笑顔で云われれば、犬夜叉に彼女を強く咎める事など出来る筈がない。だが、


「・・しょーがねぇなぁ・・・・」

面倒と照れ隠しの入り混じる声で云って、犬夜叉は不意に立ち上がった。

「犬夜叉・・・・?」
突然と犬夜叉の行動に、かごめは不審そうに彼の顔を窺おうとして・・・


ひょいっ・・・


「ひゃっ?!」
次の瞬間にはその彼にお姫様抱っこされて変な声を上げてしまった。

「いっ・・・犬夜叉っ?!」

「・・・・・・・・・・・・・・」

彼女の声に構わず、かごめをまたベッドに寝かせ、布団をかけてやると犬夜叉は再び定位置に戻って云った。

「今日は此処に居てやるから・・・・・文句無ぇだろっ!」

「・・・本当に居てくれる?」

「約束は破らねぇっ!」

その答えを聞くと、かごめは嬉しそうにそうだねっ、と返した。




















「・・・ねぇ、犬夜叉・・・・」
暫くして、かごめが話し掛けた。

「・・・んだよ。まだ何か不満あるのかよ?」

「ううん。そうじゃなくて・・・・・・・・・あの・・・・えっと・・・・・・・・や・・・・・・・・やっぱ何でもないっ!」

「はぁっ?!」

自分で話を振っておきながら、いきなり恥ずかしくなって、かごめは深く布団をかぶり、赤くなってしまったであろう自分の顔を隠して、誤魔化した。
しかし納得いかないのは彼の方。

何、云おうとしたんだよっ。と問うても布団をかぶったまま出てこないかごめに業を煮やして、負担が掛からないよう、
腕で自分の体重を支えて、犬夜叉は彼女を上から覗き込んだ。

かごめの方は、といえば、予期し得なかった犬夜叉の大胆な行動に一瞬、体を強張らせたが、

「もう〜っ私寝るんだから邪魔しないでっ」

と、出来る限りの平常心でそう云い返した。
・・・勿論、一度追求しだしたら納得するまで追及する彼には無意味であろう事は知っていたが・・・

「おーおー、邪魔はしねぇよ。お前がさっき何云おうとしたか教えてくれたらとっとと寝かしてやらぁ」


普段なら問答無用でおすわりだろうが、この体勢でそれは自爆行為であるし、そもそも普段より頭が回らない今、
かごめの思考の中に言霊の念珠の存在は僅かにも無かった。

だから余計
――――かごめは混乱していた。

「もぉぉーっだから何も無いって・・・・・
云ってるのに・・・・・・・」

尻すぼみになるかごめの言葉に、それでも彼の優れた聴覚は、かごめの言葉をちゃんと聞き取っていた。

「あー?聞こえねぇよ。何だって?」

だから勿論、この台詞も単なる嫌がらせに過ぎない。

「〜っだからぁっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・」

小さく、ぼそぼそと言うと、かごめは布団を引っかぶって無理矢理犬夜叉を振り払った。



でも・・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・」

所詮、男女の力の差は歴然としているのだ。

その上、彼に至っては半妖という事もあり、バカが付くほど力強いのに、対するかごめは女な上、風邪でまともに力が入らない。
だから犬夜叉は、いともあっさりと片方の腕だけで、かごめの両手の自由を奪った。

「なっ・・・何よっ・・・・・・」

捕らえられた両腕を何とか解こうと必死にもがいたが無駄だった。

ならばせめて、とばかりに目線をそらしたが、それも余った片方の腕で正面に向けさせられた。


何する気?


訊こうとしたがそれは適わなかった。





気付けば犬夜叉の唇が、かごめのそれを塞いでいた・・・






















暫く名残惜しげに二、三度繰り返した後、ようやくかごめは解放された。

直後は放心状態に陥っていたがはっ、とようやく気付いたように素早く布団の中に潜り込むと、
既に羞恥のためか風邪のためかよくわからなくなってしまった熱を帯びた体を抱いた。


「・・・して欲しかったんだろ?」


・・・嫌味。

やけに楽しそうな声が、静かになった部屋に響いて消えた。


「・・・・・・・・厭だったか?」

「・・・・意地悪。」

今度はすぐ、返ってきた。

「風邪・・・今ので移ってても知らないからね」

「・・・はっ。俺はそんなヤワじゃねぇよ」

云って犬夜叉はかごめの頭を一撫でして、満足そうに腰を落ち着けた。


「おやすみ。かごめ・・・」



かごめの額に当たった、暖かな感触は、やはり犬夜叉からの口付けだったのだろうか?



しかしそれが分かる、本人以外の唯一のその人は、既に眠りについていた。



やけに恥ずかしそうな顔で。



でも、とても安心しきって・・・・・




                                    【終】


・・・・・よく考えたら前、リク頼んで頂いた小説も風邪引きネタだった・・・(汗)
ともあれ、100hit踏んでくださったえっこさんに捧げます。リク内容は『現代話で犬かご』。
なんか書いていくうちに伸びる伸びる。バーが一cmに・・・・・(汗)しかも「人様に献上するものなんだからシンプルイズベストで大人しいの書こう♪」なーんて云ってたくせに・・・最後既にバカップルぢゃん!!!!(泣)

ごめんなさい〜!!!これでもめちゃくちゃ推敲したんです〜!気に入らないトコあったけど面倒とかって放っておいたのもありますが(それ推敲してるって云えないし。)
現代という設定を本当に無駄に書いた気がします。現代の設定活かされてないYo・・・(泣)
それにしても・・・久々にキスあり小説書くと前は平然と書けた表現が恥ずかしくてなかなか書けませんでした。
そして昨日(本日バレンタインデー前日)何か色々やってて三時まで寝てないので眠いです。
もしかしたら意識朦朧として、画面はっきし見えてなかったんで誤字脱字があるかもしれませんが(おい)。

ともあれ!
えっこさん、本当に有難うございました&待たせてすみません!
そして更新単位遅くても見捨てないで下さい。マジで(切実)。



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