俺がそのとき思ったのは。
このどうしようもない大人を何とかしてくれ、だった。
何となく、話をきりだしたときから、余裕なさそうな顔してたけどまさか。
その直後にいきなり抱きつかれるとはさすがの俺も思ってなかった。
俺は勿論、すぐさまそのボケた頭を蹴り飛ばして離そうと思ったんだけど。
腰にしがみついてくる、俺よりずっと長生きしている筈の大人が鼻をすすったのを聞いて、どうにも居た堪れなくなって、結局されるがままというかなり情けない状態を維持するハメになっている。
何かすげー理不尽。
きっかけは、あれだ。
俺が、街でよく行く店の(多分同い年の)子に告白されたことを何の間違いかこの大人に話してしまったことだ。
俺はあんまり見た目の違いとかわかんねえけど、結構可愛い子だったと思う。
ふわふわした、背中まであるライトブラウンの髪とか、緊張して赤くなってるほっぺたとか、好奇心旺盛そうな真ん丸の、髪と同じ目の色した子。会計を済ますときに何回か会話したことはあるけど所詮それだけ。特にプライベートで会ったとか、そんなことは一度もない。
だから、何でそれなのに俺のことを好きだなんて言えるんだろう、と思ったこともあるけど。
俺は一応、その場で、本当、俺にしてはすごい丁重に断りを入れた。
色恋沙汰の話は苦手だ。なんつーか、嫌いじゃないけど、むず痒くなる。
自分がする側だとしたらもっと苦手だろうな。
その子のこと、嫌いじゃなかったけど、だからって好きでもない。
ていうか、あんまり知らない子のこと好きになれるって感覚もよく分かんねえ。
第一に、俺にはそんなことしてる暇はなかったから。
好きって言ってもらえたことは、純粋に嬉しかった。嫌われるより全然いいだろ?
でも、それだけ。
そんなこと思ってるから、アルに「兄さんって乙女心が分かんないよね」って言われる自覚はあるけど、仕方ねえだろ。本気で分かんねえんだから。
最初、その子はちょっとだけ痛そうな顔してて、すげー悪い気になった。
でも、すぐに立ち直ったみたいに、いつも店に立ってるときみたいな笑顔に戻って、「ありがとう」って言った。
・・・・・強いな、って思う。
何で女ってのはこう、強い奴が多いんだろう。
勿論力が、じゃなくて、気持ちっつーか、精神的な強さっつーか。
ああいうのは、男じゃ絶対歯が立たないって気持ちになる。
でも、立ち直ったからって、すぐに何でもないことに出来る筈ないのはよく分かってる。
ちょっと前まで、ずっと一緒にいた奴がモロにそのパターンだったから。
俺がいなくなったら、この子も泣いちまうのかなって思うと、すげー申し訳なくなったけど。
結局、俺に出来ることなんてないんだ。むしろ、半端な情は余計にこの子のこと傷つける。
何だかもどかしい気持ちになりながら、俺はその場を後にして。
何となく。
そう、本当、何となくで、うっかり某大佐に喋ってしまった。
そしたらこいつ、告白されたくだりまではにやにやと嫌な笑い浮かべながら聞いてたくせに、申し訳なくなったっていう俺の主観を喋りだした瞬間、いきなり勢いよく椅子引いたと思ったら、その無駄にでかい体でアタック食らわせてきたもんだから、咄嗟に受身も取れずに座っていたソファに前倒しにされた。
そんで、冒頭に戻る訳だが。
「・・・・・・オイコラ馬鹿大佐」
離れろ、と俺が目の前にある黒髪を一房引っ掴んで引っ張ると、呻くようにくぐもった声が「痛い・・・」と文句を洩らす。
おーおーそうかよじゃあ離れろよ、って何余計力込めてんだ離せ馬鹿野郎!
「〜何だよ俺が悪いってのかよ!何か文句あるならとっとと言えよ!」
「・・・・・別に、悪くはないが」
やけに口ごもる大佐に俺の方は本気でキレそうだった。
ただでさえちょっとへこんでるのに何でコイツの方がへこんでんだとか理不尽になる。
俺がいい加減、本気でコイツを蹴倒して離そうかと本気で思い始めたとき。
「きみが」
「あぁ?」
「君も、そのうち、そうやって異性に興味を持っていくのかなあ、と思うと、無性に寂しくなった」
「・・・・・・・・・・・何ソレ」
俺的には、何でそこまで話が飛躍すんのかが全然分かんねぇ。
つか、寂しいって・・・・・
「何、じゃあ大佐は俺にどうして欲しい訳?俺のこと好きとか言い出すなよ?」
「いや確かに好きだけどそういう意味では皆目」
即答するくらいだったら最初から言うなよとか内心で思いながら。
俺はあからさまに疲れてます、とばかりに溜息をついた。
「じゃあ、何か。俺はアンタ生きてる間ずーーーっと好きな子見つけんなってことかそれ」
「・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
「あれじゃねえよ」
思わず右でつむじの中心に肘鉄を入れてやったらさすがに痛かったんだろう、やっと手を離して、代わりに打った頭のてっぺんを押さえながら少し涙目で俺を睨んできた。
・・・・いや、さすがにさっきのは痛かったかなって思ったけど今のはあんたも悪いんだからな!?
無言で睨み合って約10秒くらい。
やっと痛みが治まってきたらしい大佐が頭から手を外して、少しだけばつが悪そうに目線をそらすと、多分照れてるんだろう、「すまん」と小さく謝罪して頬をかいていた。
「いや、なんていうかだな。実際子供はいないんだが多分あれだ、結婚式に娘を送り出すのを惜しむ父親の気分というかだな」
「とりあえず突っ込みどころ満載だけどな。まず俺はあんたの子でもないし『娘』じゃねえぞ?」
「分かってる。だから不思議だ・・・・」
本当、心の底から心底不思議がってます、とばかりに首かしげる大佐に俺は思わず噴出した。
自分でやっといてそれはねえだろオッサン。
だからじゃないとは思いたいんだけどさ。
「・・・まあ、俺も今はやることあるから、暫くはそんな相手見つけるつもりねーから」
なんて、この大人にリップサービスしてやったのは、絆されたから、なんかじゃ断じてねえからな!
・・・・・・多分。
* * *
30突入のいい大人が子供に泣きつく図なんて、と思って半分にゃんぐ設定で書いてやろうかと思った一品(笑)
・・・・・・一応擬似親子感情だと言い張ってみる。大佐は娘に対する感情(笑)をエドに抱いてるがエドは大佐に母性抱き始めてるといとんでもないオチでした(うわー)副題はエドだってモテるんだぞ!という主張(笑
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