ヂリリリリ・・・・ヂリリリリ・・・・・
「はいはーい」
けたたましく鳴り響く電話に、ウィンリィはぱたぱたと電話の元へ駆けて行く。
ちん、と小さな音を残し、電話の通話口を当てて、事務的に言う。
「はい、義肢装具のロックベルでございます」
『あ、ウィンリィ?』
「・・・エド?」
意外な人物からの電話に、ウィンリィは見えていないと分かっていても小首を傾げた。
「どうしたの?」
電話での会話が苦手の、彼からの連絡は実に珍しい。
そんな時、大抵は機械鎧の整備か、気紛れで帰ってくる時、数時間前になって入る電話くらいだ。
帰ってくるのなら全然構わない。だがもし、出張整備を頼まれたら、それは彼自身も動けない程重症である場合のみだ。
彼・・・・エドワードが、国家錬金術師となって、弟のアルフォンスと共に一部の界隈を騒がせるようになってから、二年。
騒がせると言っても、アルフォンスの方は、余程の事態にならない限り、兄の無鉄砲が行き過ぎないように
ストップを掛けるポジションに居るだけだ。
エドワードの無鉄砲振りは今に始まったことではない。
しかし、別に力がないのに無鉄砲な訳ではない。ある程度の相手との実力を見極めていての無鉄砲振りなのだ。
余計に性質が悪いとは彼女の言であるが、それで止められるのならば、彼はとっくに止まっている。
そう、こちらの心配なんて御構い無しに、無茶をするから・・・心配だらけで。
『ん・・・・いや、別に』
妙に歯切れの悪い返答をするエドワードに、ウィンリィは眉根に皺を寄せた。
「何かあったの?」
帰郷の連絡では、どうやらなさそうなエドワードの声音に、ウィンリィは不安が煽られた。
また無茶をやらかしたのかと、心配になって。
『・・・だから、何でもねぇって!』
『あれ?兄さん誰に掛けてるの?』
気まずそうな返答しか返さないエドワードの後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アル、そこに居るの?」
『〜・・・あぁ。今セントラルの駅。』
「ふーん・・・」
『・・・・元気、そうだな』
「へ?」
唐突な話題の切り替わりに、ウィンリィは目を丸くするが、やがてそれが自分への安否と分かると緩く微笑んでうん、と返した。
「あたしもばっちゃんもデンも元気やってる。・・・あんた達は?」
『まぁ、こっちもそこそこ。て、いうか変わりなくやってる』
「そっか・・・・」
元気なんだ。
ざわざわと喧しい雑音が聞こえ始めて、もうすぐ列車が来るのを知らせていた。
恐らく彼の後ろの方に待機していたらしいアルフォンスが、『兄さん』と声を掛けるのが聞こえた。
エドワードがそれに応じて、ウィンリィに告げた。
『あ・・・もうちょっとで列車来るから切るな』
「うん・・・・」
急に名残惜しくなる。何せ、彼らの声を聞いたのは実に、3ヶ月振りなのだから。
(小さい頃は、ずっと一緒に居れたのにな)
エドワードは自分達を『咎人』と云うが、実際彼は間違いなく思っているだろう。
自分“だけ”が、咎人なのだと。
それが分かるから余計に願う。無茶はしてくれるなと。
(帰ってきて、なんて言わないから)
いきなりそんな思いに捕らわれて、ウィンリィは思わず零れそうになった涙を気付かれない様に明るく云った。
「アル・・・特にエド、怪我しないでね?」
『・・・・・ん』
そして間を空けてふと、ウィンリィは思い出す。
「そう言えば、エド何の用で掛けてきたの?」
表情は見えないが、ウィンリィは確かに、エドワードがその場で硬直したのを見た気がした。
知らないうちに地雷でも踏んでしまったかと逡巡するが、どうもそんなもの見当たらないし。
いきなり無言になった電話から聞こえるのは、遠くからの汽笛音。
『っ用もないのに電話掛けちゃ悪いかよっっ!!』
ガタン、と何かが動く音と共に足音が遠のいていく。
ついでに『え、兄さん?!』というアルフォンスの途方に暮れた声も。
どうしよう、とウィンリィは一瞬考えて、『アル?』と声を掛けてみた。
『もしかしてウィンリィ?』
「うん。エドどうしたの?」
『あはは・・・顔赤くして逃げちゃったよ』
「へ?何で?」
素っ頓狂な声を上げると、またアルフォンスの苦笑が電話口から零れた。
兄も兄だが、幼馴染も幼馴染だと、この時アルフォンスが思ったのは後日、日々お世話になっている
東部の司令官の部下であるリザに語られるがそれはあくまで後日談。
ただ、この時は。
『ウィンリィの声、聞きたくなったみたいだね、兄さん』
とりあえず、そんなフォローを入れて電話を切ったアルフォンスだった。
チン。
切れた電話を元の場所に置いて、ウィンリィは片手で顔を覆った。
それを、丁度横を通り過ぎた祖母が目撃したのだが、彼女は何も言わずに外に出て行った。
「・・・随分、遠まわしにダイレクトな事言ってくれるじゃない・・・」
あの兄貴あって、弟ありね、と。
耳まで赤くなってしまった顔を伏せたまま、ウィンリィは毒づくように呟いた。
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