外は土砂降り、アルは外。

やること読むものなんもナシ。

機械鎧の付け根もちょっと痛いし(中途半端な痛みだからこそ呻くことも身動きすることも出来ない。畜生)

そんなこんなで俺は現在、大変暇だ。





仕方がないから。

(本当、タイヘン遺憾ながらも)俺はベッドに頭から突っ込んで。

暫くしたら夢の中。







たり仲良く夢のなか













まず、夢の中では当たり前ながら俺一人だ。

たまには妙に突飛な世界だったり、妙に現実的過ぎる夢だったり、まあ色々な訳だけど。

たまに見る、“アレ”はさすがに俺もちょっとヤダ。


血を吐く“かあさん”だったもの。手足を“もっていかれる”熱くて痛い感覚。弟の血印。軍の狗の証の鎖。
黒。機械鎧。ニーナとアレキサンダーの笑顔の一瞬あとに絶対出てくる、合成獣。タッカー。真理。

その辺からずっと、誰とも分からない罵りの言葉が続くんだけど。

足が竦んでそんな自分が鬱陶しくて、耳も目も塞いでやる。

そうしたってどうせ俺が、自分がしでかしたことから逃げられる訳じゃないんだけどさ。

なあ、分かったよ、分かってるよ。

俺は馬鹿なことをしました。ただもう一度、かあさんの笑顔が見たかっただけなんです。
だから俺たちでかあさんを“つくれば”いいなんて考え付く俺の頭は本当にガキなのなんて、分かってるよ。
なのになまじ知識なんぞあったもんだから本当にやっちまうし。

分かってる。
だからアルを巻き込んだって言いたいんだろ。ああそうだよその通りだよ俺が巻き込んだんだ
アルをアルをアルを。
血が通って暖かい肌を、俺よりちょっと濃い金色の頭とか、俺より(本当にほんの)ちょっとだけ背が高いアルを。

笑顔だってほら、鮮明に思い出せるのに現実のアルは冷たくて灰色の鎧の中。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


くそ、だから雨の日に眠るのは嫌だったんだ。

俺の全部が自虐的だ。でも眠らなきゃ俺の体は俺として保てない。
何か食べなくちゃすぐに倒れる。
ああ面倒くさい。

でもそれらを怠ったらアルは普通に俺のことを叱るんだ。

『ちゃんと食べてちゃんと寝る!』って。

何だよお前、俺の弟だろ、母親にありがちな台詞吐くなよ。
でも。
それに嬉しくなるのは、俺、なんだよな。

ああ、嫌だ嫌だ。
やっぱり寝るのはやめよう。とっとと起きてアルの帰りを待とう。
ところで夢ってどうやったら覚めるんだっけ?


夢の中でまで悶々としている俺は何なんだろう。鬱病か、それとも何処まで行ってもリアリストなのか。

・・・・ああ、もう。
俺を取り巻く記憶から出来上がった夢をぶち壊すみたいに頭を振ると、近いところから消えていく。
怖いゆめ、楽しいゆめ、在りえないゆめ。

たまにその中によく知る人らが混じってて、でもダントツで多いのが弟とかあさんの笑顔で。
ああ、もう俺はどこまでブラコンのマザコンなんだと(認めたくはないけどそうなんだろう、多分)
変な所でちょっとへこむ。

その間にも着々減ってく俺の夢候補。

だんだん辺りは真っ暗(あくまでイメージの話だ)になっていく。
この夢の世界は俺のものなんだから、当たり前だけど俺しかいない。

その筈なんだけど。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

最後の夢が消えたとき、そこに残ってる“もの”に気付いて俺は顔を上げるとほぼ同時にすっげー嫌な顔をした。
意識するより何より条件反射的に顔を歪めると、“それ”は一瞬、ぽかんと間抜けに口を開いたまま俺を見て、
一瞬後に不本意だとばかりにわざとらしく咳払いして、嫌な笑いを浮かべやがった。
「やあ、鋼の。こんなところで奇遇だな」

奇遇じゃねっつーの。帰れよお前何でまだいるんだよ。
勿論、俺のこと鋼のなんて直接呼んでくるのは例のアレだけだ。
・・・・・アレって何か?言わなくても分かるだろ、アレだよあの某チャッカマン。

俺は片手で顔を覆うとわざとらしく世界の終わりだとばかりの声で「帰れよ」と呻いてやる。
そしたら奴はしれっと肩を竦めて、「生憎と帰り方が分からんのでね」とかのたまいやがった。

ムカつく。

盛大なジト目で見てやると、奴も偉そうに「ふむ」とか何とか言いながら顎に手ぇ当ててきょろきょろと辺りを見回し始めた。
「・・・・・然るに、ここは私の夢の中だと思ったんだがどうしてこんな豆しか残ってないんだろうねぇ」
「だっれっがっこの暗闇の中ですぐに埋没しちまいそうなマイクロサイズドチビかあぁぁぁ!!!」

つか、ここは俺の夢ン中だよ!
何だコイツ、人の夢の中でまで横柄なヤローだなチクショー!

とか、俺がぶちぶち文句言ってたら、奴はもう一回ぽかんと俺の方を見て、その後、こともあろうか盛大に噴出した後、しきりに「成程」と言う。
オメ、そりゃどういう意味だよ!?
「確かにその反応はまごうことなき鋼ののリアクションだな」
「さっきまで何だと思ってたんだよ!!」

チクショー。こんな腐れ大佐の夢見るくらいならさっきまでの夢の方がマシ・・・・・・・でもないか。
それにしても何で俺、ここ数ヶ月、全然会ってなかったし今の今まで思い出さなかった奴の夢見てんだか。
そう思ってふと大佐に目をやったら、奴も俺と同じような顔してた。

「・・・・・・おい」
「何かな」
「ここは、俺の夢ん中だぞ!あんたが勝手に俺の夢ん中に入ってきたんだ。さっさと出てけテメェ」
「・・・・・・・何も夢の中でまでそんな可愛くないこと言わずとも」
呆れたような溜息。俺の方が溜息つきてーっての馬鹿野郎。
でも早速気を取り直したらしい大佐は(ていうか、どうもこの夢大佐は俺と同じく夢の中でも普通に物考えるタイプらしい。どうせ俺の夢の中だからどうでもいいけど)唐突に俺の方につかつか寄ってくると、反射的に後ずさろうとした俺の肩を問答無用で掴むと、例のすげえ胡散臭い笑みを俺に向けてくる。
果てしなく嫌な予感するから俺にそれを向けんな!
街の綺麗なねーちゃんだけにしとけ!寒気する!

とか。

内心で色々考えてたけど、それは何一つ言葉にならない。
だってさ、奴にあの胡散臭い笑いを浮かべられたまま、
「まあ、どうせ私も小休憩のつもりの睡眠だからな。一時間足らずくらいの二人きりなのだから精々仲良くしようではないか」
とか言われてみろよ?
何であんなのが好きなのか俺にはさっぱり分かんねえけど、あーゆー顔が好きなねーちゃんだったら多分黄色い声上げて頷いてそうな言葉だけど、
俺はそうはいかない。(当たり前だ)
盛大に脱力しちまったものの、思い切り肩に乗っかった手を跳ね除けてやるとぷいと体ごとそっぽ向いてやった。

背中越しで笑ってる奴の気配が伝わってきて、これ、本当に夢なのかと疑いたくなる。

「・・・・・これが、君の夢だとして」
「ああ?」
「随分と、殺伐としているな。どうせなら夢の一つや二つくらい、見たまえよ」
「・・・・・・煩ぇな、俺がどんな夢見ようと勝手だろ」
「まあな」

これ、本当に夢なのかな。
あまりにもはっきりしすぎてて、わかんなくなってきた。
今まで、現実じみた夢、ってのは、結構見てきた(ここ数年、リアルなのは主に悪夢だけだったけど)けど、
ここまで普通に会話成り立ってて、鮮明なのって初めてだ。
だから、とりあえずは後ろのチャッカマンに倣って俺もこいつの言い分を、一応事実として認めることにする。
「あんたこそ、夢のこと言うなら随分と味気ないんじゃねえの?」
「・・・・・ここは君の夢の中だろう?」
「あんたの夢ン中でもあるんだろ?」

言い返してやると途端に詰まる。
よし今回は俺の勝ち。

わざとらしくふふん、と鼻で笑ってやったら、大佐の口が微妙に引き攣ってて俺は笑った。
「まあ、真実がどうであれ、これが夢の中なのは確かだろうな、私は今仮眠室にいるわけだし」
「俺だって、西部の片田舎にいる筈だし」
「まあ、夢が繋がるなんて体験、滅多にないんだから精々貴重がっておくか」
「げー、あんたと繋がるとかヤだよ。何でよりによって大佐と」
「無意識で私を求めるほど君は私が好きかね」
「寝言は寝て言えー・・・・って、ああそっか。寝てんだっけ?じゃあ全部寝言だ」
「そうなるな」
どうでも良さそうに俺が言うと、大佐が妙に楽しそうに笑うもんだから、俺までどうでも良くなった。
実際、ここがどこなのかとか、何で大佐の夢見なきゃなんねーんだとか、本当は本当に夢の中で繋がってんのか、とか。
気にならない訳じゃないけど、たとえそれが本当のことでも、あんまり意味はない気がした。
「鋼の」
「ん?」
「・・・・今、雨は降ってるか?」
「おー、土砂降り。すげーぜ?水溜りが湖みたいになってる」
「はまり込むなよ」
「誰が道端の水溜りでも溺れそうな規格外サイズか!!!」
「はは、そうだな。そこまでは小さくないか」
「あんた本気でムカつく!せめて夢の中でくらいいい性格してろよな!」
「何を言う、これ以上ないくらいいい性格だろう?私は。それに全力で優しいだけの私なんて気持ち悪がるだろう、君」
「・・・・・・・・・言えてる」
想像して即行頭の中の精神汚染物に等しい画像を消去するように頭を振った。

「鋼の」
「・・・んだよ」
「雨の日は湿度が高い所為かな、妙な夢を見ることが多いんだ」
「・・・・大佐?」
「こちらでも降っていたよ。ああ、ついでに寝言でも言ってみようか」

何が言いたいのか、分からなかったけど。

「今、実は結構気が滅入っていてね、もう大分顔を見せない誰かに会いたいんだよ。私だけでなく、“皆”ね。
だから、予定が空いたら司令部においで。待ってるから」
「・・・・夢の中で行っても、俺、聞いてないかもよ。夢の中だから、俺が信じないかも」
「いいさ、だから寝言なんだろう?・・・・・あ」
「?」
すう、と。
隣から気配が消えていく。驚いて振り向いたときには、もう大佐はいなかった。

全く、何のために俺の夢ン中ぐちゃぐちゃにかき回してったんだか知らないけど、あっちもあっちで煮詰まってたみたいだし。
俺は珍しく寛大な心で、大佐の所業を赦してやることにした。

・・・・・・ま、どうせ夢なんだしな










 * * * * 




「おはようございます。そろそろ時間ですので、申し訳ありませんが」
「ああ・・・・・・おはよう」

起きたと同時に見えたのは見慣れた部下の顔。
軽く首を回すとこきりと音がする。寝違えたわけでもないし、大丈夫かと思い直して、ホークアイの差し出す書類を受け取った後、
やたらと気が晴れていることに気付いてロイは僅かに首を傾げた。
ここのところ嫌なこと続きで残業も立て込んでいて、暫くぶりの睡眠だったのだが。


夢の内容はよく覚えていない。
ただ、最近名前すら忘れていたようなかの少年が出て来て、延々喋っているだけの夢だった気がする。
妙に現実的だったことは覚えているが、会話までは覚えていない。
そんな夢なのに、どうしてここまで気が晴れているのだろう、と思ったけれど。

「大佐」

呼ばれて、頭の中が仕事に切り替わると、ロイは襟元を直して立ち上がった。


外の雨はやみかかっていた。















「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、兄さんおはよう。気持ちいいくらい寝てたね」
「・・・・・・俺、寝てたのか?」
「兄さん?」

目を開けたら、ここ数日ですっかり見慣れた宿の天井、と、いつの間にか戻ってきていた弟の姿。
でも俺は、実はさっきまで起きてたんじゃないかってくらいはっきり記憶に残ってるどこぞの大佐の姿に首を傾げた。
でもそれが夢なのは俺が一番よく分かってる。
夢の中で大佐にも言ったけど、俺は東部から随分離れた西部の片田舎の村に滞在中で、間違ってもこんなところで大佐と会う筈がないし、
そもそも大佐と俺がかち合ってあそこまで敵意も何もなく会話できるなんてありえない。

うん、やっぱり夢だ。

軽く伸びをして窓の外を見たら、すっかり雨が止んでた。
・・・・湿度ともなってる雨って、あんまり好きじゃないけど、止んだ後の綺麗な空気は好きだ。
“あっち”はまだ降ってんのかな。

そう考えるとうずうずする。

「どうしたの兄さん。嬉しそうな顔して」
「んなこたねえよ」
確かに、嫌な夢見なくて済んだのは嬉しいけど、出てきた奴が奴だから俺は反射的に否定した。

「よし!」
ぱん、と手を叩いて、アルの鎧を軽く小突くと唐突に「東方司令部行くぞ」と言ってやる。
勿論、脈絡のない俺の言葉にアルは「えぇ!?」と驚いてた。
「本当どうしたの兄さん!何の前触れ!」
「・・・どういう意味だよ。ちょっと用事出来たからあの火種男の顔拝みに行くって言ってるだけだろ」
「火種男・・・・って、大佐のこと?」
「他に誰がいるんだよ」
「いいけど・・・・・・用事って兄さんさっきまで寝てたじゃん。」
「ああ」

だからさ。

きょとんと首をかしげるアルに、にやって笑ってやって。

「夢の中にまで出てくんじゃねえ!って、殴ってやる用事」

顔を抑えて肩を竦めるアルが見えたけどそんなん構ってらんねー。
その辺の荷物をまとめだした俺に、本気を見出してかアルも黙々手伝ってくれた。

テレパシー、とか薄ら寒いことは信じるつもりはないけど。
とりあえず、会って奴が湿気てる顔したまんまだったら、問答無用で殴ってやろうと本気で思いながら。

俺は、久しぶりのイーストシティを思い描いていた。
・・・・・・・・断じて、あのチャッカマンと会うのにわくわくしてる訳じゃないからな!(ある意味そうだけどさ)









FIN

ロイエド未満のロイエドなのに何故かほの甘い。
ギャグ描きたいのかシリアス描きたいのか悩んでたらほのラブになったというミラクル。何これ(本当に)

本人はロイ+エドのつもりだったんです・・・・・(過去形)
「夢だけど、夢じゃなかったー!」を素で実行する二人。そんな自分達に薄ら寒がってる二人(笑)
あーまあ愛の力なんじゃないっすかねー(あぐらかいてそっぽ向きつつ耳掃除しながら)














おまけ

エルリック兄弟、無事イーストシティに到着。
その後抜き打ちで司令部に行って出会い頭に大佐に殴りかかったにも関わらず避けられ、挙句捕獲されたエド、in執務室。

「全く、暫く顔を見ないと思ったらいきなり出て来て攻撃とは・・・・・君は私に何か恨みでもあるのかね」
「無いとは言わせねえぞくそ大佐殿?」
「・・・・・・・まあ、いいがね。ところで今日は何の用事だ。生憎資料はないぞ」
「いいって、ここには大佐殴りに来ただけだから」
「(一瞬呆けて溜息ついたあと)・・・まさか本当にそれだけの為にか?」
「うん。まあ適当に報告書まとめたからチェックよろしくー」
「また私の仕事を増やして・・・・」
「ゴシューショーサマ」
「ところで何故殴りに来たのかな君は・・・・」
「んー?あー、まあ、夢の中にまで出てくんなって感じで?(何かを窺うように)」
「夢?(あのことか?と思いつつも)そういう訳の分からんことまで私に責任押し付けようとするな(デコピン)」
「あだっ!何すんだよ!」
「濡れ衣の仕返しだよ。軽いものだと思いたまえ」
「押し付けがましいでやんのー(べーっと舌出しつつ)」


「(・・・あれー?あれやっぱただの夢か?)」
「(あれ、夢じゃなかったのか・・・・?)」

変なところですれ違い。