きっと、すごい一生分の度胸を使い切るつもりで言ったこと。
「好き、なんだ。大佐のこと」
・・・・めちゃめちゃ恥ずかしかったんだぞ?
俺は男だし、ガキだし。相手は形式上は上司だし、女たらしで有名な超がつくほどフェミニストだし。
なのに。
なのに。
「知っているよ」
返ってきたのはあっさりしたほどの言葉で。
「・・・・はあ!?」
思わず、変な声を上げていた。
そしたら、大佐はそんな俺の様子がおかしかったのか、いきなりペンを机の上に置くと顔を手で覆って肩で笑い始めた。
・・・・何だか悔しくなって、わけもなく俺はそっぽを向いた。
「いや、別に君の事を笑っているわけではないよ」
肩で息しながら言われても説得力がねえよ。
そういう意味の眼差しを半眼で向けると、大佐は両手を上げてホールドアップの体勢を取る。
「へーへー、どうせ俺はわかりやすいですよー、だ」
半ばやけくそになって言うと俺は片膝抱えてうずくまった。
なんでもないフリはしていても、実は内心ですごくびくびくしているなんて、間違っても大佐にだけはバレたくなかった。
「そうでもあるし、そういうわけでもない」
「は?」
ぎし、と大佐が椅子から腰を上げた。窓から入る光のせいで表情が読めなかったけど、俺は反射的に不穏なものを感じ取って、思わずいつでも逃げられる態勢になった。
「そう、固くならなくてもいい」
やんわりと笑いかける大佐の笑顔は、対女性用のそれだ。
・・・・・・・・・・・・・って、俺にそんな顔向けられてもしょうがないっていうか、まさかとは思うけど。
「たい、さ・・・?」
ああ、チクショウ。思ったよりも声が掠れてる。
悔しくて舌打ちする。
ゆっくりと、それこそ野生の動物に近寄るみたいなスピードで大佐が俺に近付く。
一瞬、腰を浮かせかけて、大佐の目がそれを許してくれそうにない、ということに気付いた。
「案外、君はポーカーフェイスが上手だからね、何せ私仕込みだ。」
「・・・・サイですか」
「ふとした瞬間に、気が緩んでそんな感情を持っている、というのをちらつかせてくれることはあったけれどね」
「・・・・・・・・・・・」
大佐の指が、俺の顎を引き上げて、視線がぶつかる。
いつのまにか俺が俯いていたということには、そのときようやく気付いた。
「何よりも、一番の理由は―――君が、蜘蛛の巣に掛かった獲物だからだよ」
「は?」
訳が分からずに呆然とすると、大佐はまた面白そうに笑った。
そして、「まだ気付かないかね?」と、あの人を試すみたいな(いや、実際試してるな)眼でじっと俺を見つめてくる。
余計に意味が分かんねぇよ。・・・・この人が、一体何考えてこんなことやってるのかも、何が言いたいのかもさっぱり。
やっぱり、言うんじゃなかったかなー、と思い始めたのはこのとき。
でも、それはもう遅いんだということが分かったのも、このとき。
無駄に形のいい唇が、ゆっくりと動いた。
「君が私を好きになるように仕向けたのは私だからね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
一瞬、本気で時が止まった。
こんな感覚、本の中だけでの話だと思っていたからそれはそれで貴重な体験・・・・・とか思ってる場合じゃねぇ!
「は、えと、何?それ、だっ・・・・・・えぇ!?」
ちゃんと冷静に、何を言いたいのか分かってて、言いたい自分がいるにも関わらず、俺の口から出てくるのはそんな意味もない文字の羅列。
じゃあ何か?
俺は、大佐の思惑にまんまと引っ掛かって、迂闊にもこの人なんか好きになってしまったお馬鹿なお子様ってことデスカ。
しかもハメられたことに、言われるまで気付かなかったとんでもない馬鹿だと。
そう思うと突然腹が立って、半分無意識に左手を振りかぶってたけど、それは大佐の顔面引っ叩く前に、大佐の手で阻止された。
「最悪ッ・・・・」
踊らされている自分が滑稽に感じて、どちらかというと大佐にっていうより自分に対してそう言い捨ててやった。
そしたら、大佐はそれが自分のことだと思ったのか、一瞬傷ついた眼をした。
すぐに戻ったけど、それを俺が見落とす筈がない。
「実に楽しませてもらったよ。君が、こちらの思惑通りに動いてくれる様は、見ていてとても気分が良かった」
・・・・わざと、だな。
嘘くさい笑顔を、冷静な気持ちで見つめながら俺は確信した。
このひと、逃げてるんだ。最初から。しかも、最後まで逃げようとしてる。
どこまで臆病なんだよ。ていうか、そんな大佐、俺の知ってる大佐じゃねえ!
気分、悪い。
「なんで、こんなことした?」
「何で、とは?」
まだ逃げるつもりかよ。
だったら・・・・遠慮なんかしねぇ。
「他にも、俺をあんたの手の中で躍らせたいなら手はあった筈だ。何でわざわざ俺にあんたを好きにならせた?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「任務なり何なり、あんた今まで散々俺のこと引きずりまわしてたじゃねえか。それじゃ足りないのか?あんたは俺に、何を求めている?」
“逃げるな。”
無言の訴えにようやく気付いた大佐は、少しだけ眉を動かした。
こんな至近距離じゃなきゃ絶対気付けないくらいに、小さな反応。だけど、それが俺にとっては大きな反応だ。
予想、的中。
「責任取れよ。俺のことハメた責任!」
「・・・・・・責任?」
「そう、俺があんたのこと好きになるようにした責任」
にやり、と笑ってやる。
いつもと違った逆の立場に少し優越感を感じたということもある。
「・・・・責任持って、あんた俺を貰うか貰われるかしろ」
呆然としてる大佐・・・・ロイの首に腕を回して引き寄せる。
ロイの体が驚いたようにぴくっと痙攣したけど、そんなこと俺は知ったこっちゃない。
「あんたさぁ、実は俺のことめちゃくちゃ好きだろ?だったら、簡単な筈だ」
「君、ねえ・・・・」
はあぁ、と大きな溜息が漏れるのを聞きながら、俺は笑ってやる。ようやく強張りの解けた体がゆっくりと俺を抱きしめ返してきた。
「いつから気付いてた?」
ようやく逃げるのを諦めたロイは、観念したのかそう訊ねた。
「あんたが、俺の気持ちは仕向けたもんだって言ったとき。いくら何でも男の、しかも厄介な禁忌付きの子供相手にそんな回りくどい物好きなことする馬鹿いねえよ。
苦し紛れにしてもあれは頂けない。俺じゃなくてもバレるよ普通に」
「・・・・いっぱいいっぱいだったからね、あれでも」
「そうは見えなかったけど」
正直に返すと、ロイは笑った。俺が今まで聞いたことのある声の中では、ダントツで穏やかな笑い声。
「君には勝てる気がしないよ」
「・・・・そりゃ、どうも」
その勝てるが、気持ちのやりとりに限定していることは分かってる。どーせ、俺じゃ他に勝てるもんなんかねぇよ。
「それじゃあ、君のお言葉を有難く頂戴して、―――君を貰うよ。」
「・・・・アリガトーゴザイマス」
くっそ。自分で言って今頃恥ずかしくなった。
顔見えない体勢にして良かったとか何とか思いながらも、俺はやっとこの人の気持ちを貰えた気がして、嬉しさがこみ上げてきた。
ハメられていようが、なんだろうが。
俺の気持ちは俺だけのものだから。
ムカつくし、悔しいけど。
大好きだよ、ロイ。
FIN
最後恥ずかし!!羞恥プレイ!?(プレイ言うなって)乙女エド初めて書いたよ(笑)ありえない。
うちのエドだと乙女きもいよー(泣)いや、一応そういう関係でもストイックな会話が出来るところはうちの二人らしいっちゃらしいんだけど。
て い う か も う 憤 死 し て い い で す か 。 ( 真 顔 )
うちのエド聡いから天然反応を望んではいけません。精神的エドロイ(笑)肉体的(!?)ロイエドの方向で。恋愛限定でね。
今回、全体的に凱さん宅のエドに合わせたんですが、やっぱり書いてる本人がダメージ大きいものは控えたほうがいいですね。
この小説はSSを脅迫して頂いた提供してくれた凱さんにプレゼンツ☆返品可です。むしろ貰ってくれるなこんな羞恥プレイ駄文・・・!(涙)
以下反転↓(おまけ)
「・・・・・つうか、さ?」
「何かな?」
「なんで俺、今押し倒されてる訳?むしろいつ押し倒した!?」
「おや、そんなことにも気付けない程私の抱擁に夢中だったのかい?」
「むッ・・・・(真っ赤)んなわけあるか!」
「君が貰えというから有難く貰ってあげようかと」
「違ッ!そっちの貰えじゃねぇよ!つーか、り、両思いになって何でいきなり体に関係発展させようとしてんだこの色魔!!」
「・・・・顔、真っ赤だよ」
「うるせぇ!あんたのせいだ!!」
「というか、君の言う体の関係とは具体的にどこからかな?」
「んなのッ・・・・・・・・・・・・・・・・キスからに決まってんだろっ」(そっぽ向く)
(溜息)「・・・・・・・・・なんだろう、この可愛い生き物」
「生き物言うな!つーか、可愛くねえよ脳味噌沸いてんじゃねぇの大佐!?」
「健康値も血糖値も、ついでに血圧も良好だよ、生憎とね」
「んじゃ精神科と眼科行け!絶対アンタおかしいから」
「それを言うなら、君も行かなければね。眼科はともかく精神科は」
「はあ?俺はどこもおかしいとこないもん」
「いくらハメられたからとはいえ、私を好きだと言ったのはどの口だ?」
「うっ・・・・!?」
「んん?(胡散臭い笑顔爆発)」
「ううううっせぇ!あーもうどうせ俺も十分狂ってるよちくしょー!!!」
「ほらほら、暴れない暴れない」
「迫るなー!!!!!」
うちのロイエドに色気求めちゃいけませんって話ね(笑)
互いに信頼しあってるけど、中尉みたく隣に立つわけでもなく、ましてしょっちゅう会ってる訳でもなく。
でも、遠くからでも応援できることがあればするという微妙な位置関係が好きなのですから。