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救いのない日々を嘆くことはない
むしろ、赦しを請うことすらも恐怖の日々に、自分に罰を与える傲慢な男が現れて
それでひどく安心してしまった、浅ましい自分を
この手で切り刻んでころしてやりたいけれど、それはまだ駄目だ
この体の在る限り、最愛の弟の肉体を取り返すことを達成しない限り
“俺”は死さえも棄ててしまわなければならない。
どんなことがあっても、何をされても。
NO SWEET NO SUGAR
~別バージョン~
かちゃ、
こちらを気遣ったような静かに回されるノブの音に、エドワードは気だるい躯を起き上がらせようとして、じくじくと内部を蝕む痛みにそっと眉をしかめると金の目を開くことしかできなかった。呼吸さえも億劫で、掠れる声を出すことも面倒だ。
「――いま、なんじ?」
誰にともつかない問い掛けに、ドアノブを回していた人物は呆れたように溜息をついて、そして少しの間をあけて、「6時5分」と短く彼に答えた。呂律が怪しい。こちらの気配に起き上がる様子もない。相当、辛いのは分かっていたが、どうすることもできない。
人物――ロイは、半乾きの黒髪をがしがしと掻き毟って、苛立たしげな視線をエドワードに向けた。
視線はまともに一度も合わないのに、エドワードは天井を見つめたまま、喉の奥で楽しそうに笑う。
「何が不満なんだよ。あんたから襲っておいて」
「合意だろう」
「普通、それでも男でこんな五体不満足のガキを抱くかっての。バァカ」
「じゃあ、どうして――」
君は、と続けかけて、
「大佐さぁ?酒で酔ってすごいことやったあと、何であんなことしたのって聞かれてそのときの心境、正確に答えられる?」
と、逆に質問し返されて、しかもその内容が、現在の状況にまったく関係ないことに不思議に思った。
とりあえず、いや、と返すと、エドワードはくるりとロイとは逆の方向を向いてくくくと笑った。
半ば、腹を押さえるような笑いだったので、下腹部が相当痛むのではないかと推測されたが、指摘したら最後、どんなことを言われるか分かったものではないので黙っていることにした。
暫く、本当に楽しそうに笑って、いきなりぐるりとこちらに向き直ってきた。
凄まじい笑顔で、裏に激しい怒りを隠していることは明らか。ロイは思わず半歩引いて、体が部屋から半分出た。
「うん。じゃあそういう答えられないような質問するんじゃねえぞ?あえて言うならノリでしかねえんだから」
言外に、思い出させるなといわれて、彼も彼なりに恥ずかしいのだということに気付く。
よくよく見れば、怒りで頬を染めているものだとばかり思っていた(実際半分はそうだ)が、その中に羞恥で赤くなっている部分があるということに、言われてようやく気付いた。
そう考えると何だかまたこの少年がえらく可愛く見える。
思わずまじまじと見つめてしまったようで、暫くするとエドワードは、肩まで見せていた肌を隠すようにシーツを首まで上げて被った。
「減る」
「何がだい」
思わずつっこんで、ようやくふっと微笑むことができた。
エドワードの反対側、つまりは数十分前まで自分が眠っていた側に回って腰掛けて、エドワードの金糸に触れた。
最初は煩わしそうに、しかし抵抗する気力もないのか口で「やめろ触んな」と言っているだけだったが、次第にその声もなくなり、されるがままになる。頬を指の裏で撫でられると、くすぐったさで眼を細める様は形容するまでもなく猫のようだ。
「・・・・・さっき」
「うん?」
「何処、行ってた?」
エドワードの左腕が、ひやりと冷えた、ロイの座っているサイドの枕を撫でる。
「朝食を作りに、とシャワーを浴びに。君を誘いに来たんだが」
「無理。誰かさんのせいで今動くのもやだ。しんどい」
拗ねたような、投げやりなような口調できっぱり拒否するとエドワードはゆっくりとシーツの中でうつ伏せになる。
途中でぴくりと体を痙攣させたのは、きっと痛んだからだろう。何処が、とは言わないが。
「・・・・・・すまないね」
「やめろ。あんたに謝られたら気持ち悪いし、俺被害者みたいじゃん」
「しかし」
「あーもう煩ぇー。これ以上ぐだぐだぬかしたら本当に被害者面して中尉と少尉に泣きついてやる」
そう言われると、ようやくロイの顔に苦渋が浮かんだ。
エドワードの言う『中尉と少尉』とは、まさにロイの部下に当たる二人のことなのだが、あの二人は自分の信頼しえる貴重で優秀な部下であると同時に、エルリック兄弟の半擬似親なのだ。
曲がりなりにもこちらが上司である以上、軽口は叩いてもロイを本気で貶そうとすることはまずない。
が、もしこの兄弟の片割れが上司に襲われました、などと自己申告してみろ。
(間違いなく蜂の巣にされるな)
二人に限らず、エルリック兄弟は東方司令部のマスコットキャラ的扱いを受けている存在である。
相手が誰であろうと、エドワードに手を出したなどということが露見すればあの二人ならば間違いなく本気で撃ってくる。
下手をすれば、司令部全員の人間が敵に回りかねない。
「分かった。もう謝らない。」
両手をあげて降参ポーズを見せると、エドワードはようやく悪戯完了した子供のような笑みでロイを見上げた。
この顔だけを見ていれば無邪気なものだが、と口の中でぼやきながらロイは人差し指でエドの唇を辿る。
怪訝そうに、さすがにこればかりは払い除けようと手を動かしかけて、やがてかぷ、と指に噛み付く。
さすがに食い千切るつもりでもないので、血液が止まるくらいの手加減はして、だ。
最初は、このリアクションを予測していなかったロイが眼を見開いた様子を満足げに見ていたが、それだけ見たらさっさと離した。
この万年発情期男(エド命名)からしてみれば、こちらのどんな動きも誘っているようにしか見えないとのこと。
こんな悪戯をいつまでもかましていては、また襲われるという危機感がどこかにあったから、程々でやめておいたのだが。
「・・・・・・・・・・・・・・何」
ぎし、とベッドのスプリングが軋み、ロイの体がエドワードの上にのしかかる。
両膝、肘で支えているから物理的な重みはないが、精神的圧迫はひとしおだ。
嫌な予感がして、反射的にうつ伏せから仰向けの状態に戻って、ロイの胸を押し返したが、素肌に触れてこちらが逆にどきどきする羽目になった(ロイは今、上はシャツを羽織っているだけの、ボタンを止めていない状態だったのだ)。
ロイの左手が、エドワードの解けて散らばっていた金糸を一房取って口付ける。
「や、マジで俺女じゃないしそんなことされても喜ばないし!」
何となく、このまま流されると朝から事に及びそうな予感がして必死で抵抗を試みるものの、無駄に元気な現役軍人の体力と、若さと勢いはあってもただいま現在、余力が殆ど残っていない上に身動きを取るのも正直嫌な少年との組み合いでは勝敗など最初から決まっている。
「大丈夫だよ」
殊更優しそうな笑顔で、ロイは言う。
これが女性だったら間違いなく一発アウトだなこのタラシ、などと心の中で呟きながらもエドワードは最後の抵抗と、片足を折り曲げて自分とロイとの間に挟んだ。痛いを通り越して何が何だか分からなくなるが、アルフォンスの元へ帰るのが遅れるのだけは勘弁して欲しいと思い、ふとその発想で、弟のことを思い出す。
「アル!やっべえ連絡してねえよこの万年発情期のせいで・・・・・・!」
「気絶してしまったし?」
「言うな!」
あまりにもあっさりと事実を口にするので、耳まで真っ赤になった顔で、それでもエドワードは焦ってロイの腕から抜け出そうとした。
が、片手で機械鎧と生身の腕、両方を押さえ込まれて動くことができない。
「・・・・・・・・オイ、おっさん」
「今すぐ2R開始してまだ若いこと証明してあげようか?」
「スイマセンゴメンナサイそれは俺が悪かったんでなんでもいいから電話貸せ!アルに」
「連絡なら、しておいたよ昨日のうちに」
「へ・・・・?」
一瞬、ぽかんとするエドワードに、ロイは笑った。
「だから、君がうちの蔵書の虫になってるときに、宿に『君のお兄さんは一晩こちらで預からせてもらうよ』とね。そうでなければ、お互い極度のブラコンの君らの片割れが今の今までなんのモーションもないのがおかしいだろう」
「・・・・・・・二言くらい余計だが、一応ありがとよ」
釈然としないながらも礼を言ってそっぽを向くと、ロイはまた楽しそうに笑った。
「感謝しているのならキスくらいしても構わないだろう?」
「やだ。俺の唇はアルと・・・もう一人専門だからしない」
言ったあと、いきなり慈しむような表情になったエドにロイはむっとする。
「目の前に私がいるのに、別の人間に想いを寄せるなんていい度胸しているね?鋼の」
大体、キスマークとか、体の関係だとか、そんなものはうっかり持ってしまったのに口キスが駄目なのは矛盾がありはしないか?
とぶつぶつと半ば呪詛のように呟き続けるロイにエドワードは乾いた笑いを浮かべる。
「貞操観念っていうの?俺、そういうの疎いんだよ」
「それは・・・・疎いとかそういうレベルじゃないと思うのだが?」
「正直、体弄られてもまあいいやみたいに諦めつくんだけど・・・・口だけは駄目。まだ、ここだけは特別でいたいから」
知らず、ロイの口元が引き結ばれる。少年に体の関係を赦されたたった一人である自分よりも、唇で柔らかくキスしてあげたいと彼に思われている二人の方が羨ましいと感じてしまう。
「欲張り、かな」
「誰が?」
「お互い」
「・・・・・・・・・・かもな」
唯一赦されている頬にキスしてロイはゆっくりと身を起こす。
「鍵は君に預けておこう。起き上がれるようになったら、昼御飯を用意しているから食べて・・・シャワー室も勝手に使ってくれ。
鍵は、司令部に持ってきてくれたらいい。その頃にはアルフォンス君も司令部に来ているだろうからな」
「・・・・・てかさ、一個訊いていい?」
「何かな?」
「飯、用意してくれてるのはいいんだけど。なんで朝じゃなくて昼?」
「どうせ朝のうちに起き上がれるなんて思っていないよ。・・・・ゆっくり休んでから来なさい」
「・・・ああ。そーゆーコトな」
げんなりと肩を落としながらも、そうするしかないんだろうなという予感があったエドワードは、ようやく解放された手首を回しながらも了解と返してもう一度シーツを被る。
「服はリビングに置いておこう。暇をもて余すようなら蔵書から何冊か引っ張り出して来て読んでも構わないよ」
「・・・・・そうする」
ありがたい申し出に素直に応じておいて、エドワードは肩越しに着替えて出て行こうとする大人を見つめる。
「・・・・・いいカラダしてんのな」
今更まじまじと見つめて、そんな感想がぽんと口をついた。
この大人と、こんな関係になるとかそれ以前に、こんなに近くで観察するようなことがあるなんて、思っても見なかった。
最中は逆に、「機械鎧に興味があって」と観察されて散々暴れたりしたが、逆はこれが初めてで。
「何?」
こちらを振り返り、呆然とするロイに小首をかしげて返すと、さめざめと(嘘)泣きしながら「鋼のに逆セクハラ発言された」と言われて、エドワードは一気に朱を上らせる。勢いに任せて枕を投げつけると軽々と避けられたので余計に腹が立った。
「そーゆーつもりじゃねえっつうか、他意はねえよ馬鹿!!」
「はいはい、分かっているよ。全く、鋼のには冗談も通じない」
軽く笑いながら裾のボタンを閉めると、いつもの見慣れた“大佐”の面持ちになる。
「じゃあ、行ってくるから。司令部で待っているよ。・・・・夜までいい子にしていてもいいけどね?」
「歩きながら寝言言ってねえでさっさと行って来い」
酷いなあ、などと軽口を叩きながらロイは出て行った。
(馬鹿じゃねえの)
それは、誰に向けての言葉なのだろう。
「行ってらっしゃい。ばか大佐」
小さく呟かれた声はとてもとても掠れていて、本人の耳にしか届かなかったけれど。
それだけでとても満ち足りた気分になって、エドワードは今度こそ、シーツを頭まで被って眼を閉じた。
FIN
ばかっぷるバージョン(笑)ノリ軽くしたバージョンでこの話やると↑なった。
こっちの方が後味良さ毛だ(懐かしいネタ引っ張り出してこない)。でも雰囲気的にはシリアスの方が書いてて好きでした。
ギャルゲーも人生も、奇しくも一緒なんですよ。選択によって友達のままだったり恋人になったりと。ただゲームと違って現実はリセットできないのですよ。だから楽しいし、辛いし。分からないからこそあきないんじゃないかなあと。
貞操観念・・・・私はすごい敏感ですが(聞いてない)エドは変なとこ疎そう。
触られるのも、すごいとこにすごいもの突っ込まれる(生々しい言い方しない)のも気持ち悪いくらいで平気なんだけど口でのキスはアルとリィ以外はヤダ(ロイエドのときはエドがリィに片思い設定)
体の関係許した、たった一人の人物になるのと、自分からキスしたいと思える二人だけの人物だと、どちらがいいんだろうねって話。
・・・・でもね。
やっぱりロイエドは体の関係なしで精神的に繋がってて欲しいからあくまでパラレル扱いですこの話(逃げた!!)
(05.7.15)