あいつらが珍しく帰ってきたのが、少し寒くなる前くらい。



その時、あいつに約束したの。



“何が何でも、2月14日には二人とも絶対戻ってくること!”



ねぇもし覚えているなら帰ってきてよ、お願いだから。







 February 14












ちらりとカレンダーを見た。本日の日付は14日。
久々の快晴で、洗濯物もすぐ乾きそうだと、朝食を摂りつつ、そんな他愛もない話を祖母と交わしたのはついさっき。
機械オタクとの異名を取るウィンリィ・ロックベルは、仕事もないのをいい事に、先ほどからずっとその行動を繰り返している。
キッチンからは昨日、今更のように慌てて作ったものの名残の甘ったるい匂いが漂い、ウィンリィの鼻腔をくすぐった。

いつもなら、率先して行う家の手伝いも、今日だけはどうしてもする気になれずにいた。
何せ、さっきから彼女の頭を占めているのは、機械鎧が壊れた時くらいにしか顔を見せない兄弟のこと。
(覚えてるかなぁ・・・あれだってすっごい無理やり約束させたことだし)

思い返すのは年の瀬を挟んで去年の秋頃。
メンテナンスしてくれ、と珍しく姿を見せた兄弟と、暫しの日を過ごして。
来た時のように、出て行く時も本当に急だった兄弟に、出て行く直前、言い捨てるような約束を取り付けた。
2月14日には、何がなんでも帰って来い、と。

この日に帰って来いというのは、とても単純明快な事ながら、ウィンリィは一つ、確信していることがあった。
弟のアルフォンスは、意外とそういうイベントには敏感な為、すぐに悟ってくれたらしく、分かったという返事も即座に返ってきたけれど、兄のエドワードの方はというと、鈍い反応をしていた辺り、多分間違いなく分かっていないだろう、ということ。
(まぁ、後でアルがフォロー入れてくれただろうけど)

そういうものに頓着のない彼らしいといえば彼らしい。
さすがにバレンタインデー自体を知らないとまでは、学校時代にそこそこいろんな物を貰っていたし、自分も毎年贈っていたから、そんなことはないことはないのだろうが、何日がそうか、という認識は多分いまだにしていないのだろう。
証拠に小さい頃、エドワードはお菓子の交換に混ざる、というよりは専ら貰うの専門で、お返しはアルに促されるままホワイトデーに返すというのが毎年の恒例だったことは、記憶に古くない。
いくら覚えろと言っても、面倒くさいと一蹴して終わりだったり、いくらアルが事前に知らせても反応を示さなかったとか。
下手をすれば、兄弟共々その頃特に夢中だった錬金術書に釘付けで、完全に忘却の彼方へ消えていたとか。
そんなこともあって、このバレンタインデーという日は、ウィンリィにとってはなかなか曰く付きのものに思えていた。

贈り物は男性から、というのが一般の常識となりつつある今、女性からでも気兼ねなく男性にプレゼントを贈れる口実として、そのイベントは男性よりもむしろ女性の方が張り切る傾向が強いのはどこでも同じだ。
ウィンリィもご多分に漏れず、その一人だったりする。
それにこの年齢にまで達すると、すでに友達同士で、自作のお菓子の食べあいっこ、なんて可愛らしい事をする暇も余裕もなくなり、興味は俄然異性に向かうため、好きな人へ贈るものなのだからと作るお菓子の心の込め様も半端ではない。

(ち、違う違う!好きとかそんなんじゃなくて、いや好きだけど!そういう意味じゃなくて!ただ私はどうせ
あいつらがチョコなんて貰えないだろうな〜なんて思って可哀想だから仕方なく作ってあげただけで!!)

自分の思考を打ち消すように、心の中で誰にともつかない弁解を慌てて述べながら首をぶんぶん横に振った。
その割に、机の上に置かれているその作品は、ラッピングもやけに気合が入っていて全く説得力の欠片も感じさせない。
だがその矛盾に気付ける唯一の本人は生憎、思考回路がヒート寸前で冷静に物を考えられない状態に陥っていた。
まだ辛うじて冷静なのは、本当に彼等が自分の約束を守って来てくれるだろうか、という不安があったからだ。
(エドなら「面倒臭い」の一言で来なさそうだし)

思考がマイナスに傾くと、途端にさっきまでの挙動不審が嘘のようにしゅんとうな垂れてしまう。
かちかちと時を刻む振り子時計に目を遣ると、まだ9時前だということに気付く。
もし、来れたとしても汽車が動くのは11時なのだ。今来られる筈がない。

冷静になるととことん沈殿していく気分のまま、とりあえずそっと、チョコの箱を握り締めて外に出た。
普段の格好だけでは肌寒くて、腰に巻いていた作業着を着直す。

ウィンリィが出てきた事に気付いて、愛犬のデンがウィンリィの足元にそっと擦り寄った。
賢いこの犬は、自分が寂しそうにしているのに気付いたらしいのと、自分がそんなに寂しそうだったのかと、両方を同時に自覚する。
一昨年、は行方が掴めなくて、結局連絡すら出来ないまま終わった。去年はその経験を教訓に、来た時に再三言ったら一日遅れだったけれど、来てくれた。だけど今年はどうなんだろう。
いつもいつも、そっけなく言ってしまうけれど、ウィンリィはずっと兄弟のことを心配していた。
12歳で国家資格を取り、故郷にはよほどのことがなければ帰ってこないという生活を繰り返して。
時には二人とも、その強固な筈の鋼を見る影もなくボロボロに破損させて戻って来たりもして。
その度に呆れという表情で誤魔化してはいたが、どれだけ心配をした事か。

ついて行く訳にも行かない。だから、此処で待つしかできない自分がどれほど歯痒いと感じたか。
いっそそれを、あの二人に全てぶつけてしまえばいいのかもしれない。少なくとも、自分の中の靄のような感情を少しは払拭できるかもしれない。
分かってはいるけれど、それをウィンリィはしない。したくない、といった方が正確か。
彼らの成し遂げたいことは、半端ではないというのは、錬金術をよく知らないウィンリィにも分かった。
それを成し遂げるまで、彼らのサポートをするというのは、エドワードが国家錬金術師の資格を取ると決めた時から自分で進んで決めた。それは今でもずっと思っている事だ。
軍属の身となった少年が、必要以上に傷を作っていることは随分前から知っていた。
エドが気を遣って、心配させまいと自分の前では全然平気なふりをしているのを、ウィンリィは知っていた。

此処に居て、とは幾度ともなくウィンリィが飲み込んで声に出さなかった叫びだ。
喩え口にしていたって、彼らが立ち止まる事がないのも理解している。
半端な夢ではない以上、覚悟だって半端でなんていられない。特に、エドワードに至っては、少しでも、一秒でも早くアルフォンスを元に戻してやりたいと願うあまり、自分の体調が崩れても無理をしようとするところがある。
彼等の絆は賞賛には値するが、だからといってそれは自分も祖母のピナコも、勿論アルフォンスだって望まぬ努力だ。
無茶でも、無理でも、彼らは絶対に立ち止まらないし振り向かない。

だから、自分にできる最大限のサポートだけでも彼等に施したい。
帰る場所をなくしたとは言う彼らだけれど、此処にだって帰る場所があるだろうと教えてやりたい。

それが傷だらけの機械鎧を見る度に切実に願う、ウィンリィの掛け値ない本音だ。




ふと、視線を上げるとピナコが洗濯物を干しているのが見えて、手伝おうという気がようやく起きた。
少し小走りに祖母の元へ行こうとすれば、デンも彼女の後を追いかけた。
「ばっちゃん!何か手伝うことない?」
「おや、ようやく来たかい。じゃあとりあえず、薪を家の中に運び込んどいとくれ」
「OK」

ポケットにチョコの箱を押し込むと、ウィンリィは裏庭に駆けて行った。
ピナコはようやく吹っ切れたような孫娘の後姿を眺め、ふと家の前のまっすぐな一本道を見た。

反応は、少しデンの方が早かったか。その存在に気付くとたたっと走り出した。
「どうやら、ウィンリィは心配損のようだねぇ」

楽しそうなピナコの声は、誰にも聞かれることはなかった。





















「とりあえず・・・これだけあればいっか」
一人ごちて、ウィンリィは薪の束を持ち上げた。
思いのほか重たかったそれを持ち上げるのは苦労したものの、持ち上げてしまえばいくらか楽だ。
小さく「よいっせっと」と掛け声を掛けて、少しばかり覚束ない足取りを進める。
「んっとに・・・こういう時、女手だけだと不便よねっ」
ぶつぶつと、誰にとも知れない文句を呟きながらも、思い出すのはやはり今日来る、かもしれない兄弟のことだった。
エドワードはともかく、アルフォンスは鎧になる前も今も、どちらかといえば肉体労働に向いた体格をしていたから。
頼めば軽々とやってくれるんだろうなぁ、などと、無い物強請り感覚でぼんやりと思た。

と、同時だったか。
「!」
「リィ!」
がくん、と何かに足が引っかかり、そのまま自分が体のバランスを失うのに気がついた。
こける、と思いぎゅっと反射的に目を瞑ったが、来る筈の痛みもなければ、衝撃も来ない。
と、いうかこける寸前、非常に聞きなれた声がした気がする。しかも今なんか誰かに支えられてる気がする。
まさかあり得ない、と思いつつも期待を込めて、勢いよく後ろを振り向いた。
するとウィンリィの耳に届いたのは、聞きなれた無遠慮な科白。
「お前本ッ当ベタな事すんなよ、こっちの寿命が縮む!」
「エ・・・エド・・・・・」

ウィンリィの期待は見事に当たった。
本当ならば居ない筈の人の唐突な登場に暫くぼんやりとその状態のまま見つめあうが、ふとエドワードが気まずそうに
「とりあえず、そろそろ手ぇ放してもいいか?」
と尋ねたきた。その言葉でようやく自覚するのだが、要するに、今自分はエドに左腕で抱えられている状態で。
服越しとはいえ体は殆ど密着している状態だったりする訳で。
「っきゃぁぁぁ!放してー!!」
「っっだから放してもいいかって聞いてるのに・・・・・」

耳元でいきなり大声で叫ばれたせいで痛そうにするエドワードが腕の力を緩めると少しフラフラしながらもウィンリィは即座に彼から2メートルほど離れた。
「ちょっとウィンリィさーん。その反応傷付くんですけどー」
がりがりと後ろの金糸を乱暴に掻くと、編み込まれていたそれが乱れた。
「ななななな・・・・なんで・・・ていうか今どこ触ってたのよ!」
「あぁ?!お前なぁ!助けてもらってそれかよ!しかももしあのまま普通に倒れてたら普通に前頭部強打だぞ!」
そう言ってびっとエドワードが指した先には3段だけの階段。
・・・確かに、あのままだったら階段の角に頭を直撃は免れなかっただろう。だろうけど。
「でもさっきあんた絶対胸触ったー!」
「触ってねぇ!!」

タイミングを思いっきりはずして普通に謝るとかができず、結局口喧嘩の応酬に発展してしまった。
エドワードは今回に限り、自分の沽券にも関わる問題を提示されてかなり赤い顔で必死に返していたが、二人とも懐かしくなり、最終的には耐えられなくなって同時に笑い出して、そのちょっとした騒動は幕を降ろした。


「お帰り、エド!」
「おう」

いつも恒例行事のような短いやりとりの後、ふとエドワードはウィンリィの両腕に抱えられていた薪の束をひったくった。
「あ!それ結構おも・・・・」
「おも?」
い、という言葉を飲み込んだのは、自分がさっきまで苦戦していたその薪の束を、エドワードが軽々片手で持ち上げてしまったから。
片手と言っても、機械鎧の方だ。普通よりかは幾分重労働作業には向いているだろうから、驚かなくてもいい筈だ。
だけど、ウィンリィには彼が常にしている手袋のせいもあってか、それを普通の体で苦もなく運んでいる錯覚を覚えた。
首を傾げたまま、自分を見つめるエドワードに軽く首を横に振るとなんでもない、と返した。
「ありがと、エド。ついでに明日の分もやってもらおっかなぁ」
「調子乗んな ばーか」

相変わらずの調子にウィンリィは少し頬を膨らまして、ポケットにそっと手を伸ばして、その存在を確かめると小さく微笑んだ。




湯気立つコーヒーの香りが、室内を満たしていた。
部屋の中にはエドワードとウィンリィだけだ。ピナコは洗濯物に掛かったままで、アルフォンスはその手伝いをしているのが
開け放した窓から見えた。デンがその近くで嬉しそうに尾を振っているのも見えて微笑ましい光景だとウィンリィは思う。

「いつ、帰ったの?」
「ついさっき。一駅前で、此処までの線路でトラブルがあったっていうから歩いて来た」
「ああ。だから始発より帰ってくるの早かったんだ」
「そういう事」

エドワードはカップに息を吹きかけて、少しだけ啜った。
「今回はいつまで居られるの?」
「・・・あー、とりあえず今日中には東部に戻りたいんだよな。情報も無くなったし、報告書とか出しに行かなきゃいけねぇし」

今回だってたまたま戻って来れただけだし、そんなにゆっくりは出来ない。
それがエドの答えだった。判ってはいるつもりでも、ウィンリィは少し目頭が熱くなった気がした。
だけれど、それを彼ら・・・とりわけ、エドワードに悟られてはいけない。
彼は自分よりもまず、他人を尊重する人間だと知っているから。ここで要らぬ心配を増やしてはいけないと。
それは、毎回毎回の、ウィンリィが彼らに会う度に気をつけていたことでもあった。
(そりゃ、もうちょっと一緒に居てとか、早く帰ってきてとか、言いたい事はいっぱいあるけどさ)

言えないよね。

「ウィンリィ?」
いきなり俯いた幼馴染に不審を感じたエドワードの声が掛かったので、ウィンリィは慌てて顔を上げた。
「どうした?」
「ううん、何でも!・・・それより、エド、一応覚えててくれたみたいね」
にやり、とウィンリィは人の悪い笑みを浮かべて見せた。
エドワードが一瞬固まったのを見て、ここぞとばかりに彼女は続けてやった。
「本ッ当、去年みたいに一日遅れで来られたらスパナの一本だけじゃこっちの気がすまないわよ」
「こっちがもたねぇよ!・・・しょうがねぇだろ!アルが帰るぞって言って聞かなかったんだから!」

ふい、とそっぽを向いて言うとエドワードはまた少しだけコーヒーを啜った。
・・・やっぱり猫舌は健在のようだ。
「兄さん、それ言い掛かり」
「アッアルっ・・・?!」
言い合いに突如参加したのはアルフォンス。その巨体を揺らしてのっそりとピナコの後に続いて入って来たのだ。
アルフォンスの不穏・・・というか楽しそうな響きが混じる声に、エドワードは何かを感じ取ったらしく、たじろいだ。
「何が?」
きょとんと首を傾げて、ウィンリィは一度エドの顔色を窺い、次にアルの顔を見上げた。
だがアルフォンスの方はやれやれ、とでも言いたそうに肩を竦ませると
「なんでもないよ、こっちの話」
と答えてキッチンに消えたピナコの手伝いに消えた。
随分と無責任な展開を放置して消えた弟を少しだけ恨みがましそうな、困ったような視線で追い掛けていたエドワードだったが、アルフォンスが完全に戻ってくる気配がないと悟るとふぅ、と溜息をついてコーヒーの波紋を見つめた。
「ね、さっきのどういう意味?」
「知るか」

あれだけ挙動不審という醜態を晒しておきながら知らないはないだろう。
口に出かけた言葉を飲み込んで、ウィンリィは再びポケットの中に手を入れた。
でも今度は触るだけではない。

暴れ出しそうな心臓を必死に抑えて、ウィンリィはゆるゆるとした動作で手の中の“それ”を取り出して、ことりと机の上に置いた。
「また忘れてるかもしんないけど」

「ハッピー、バレンタイン。エド」

でもそれは、去年とは少し違った。
去年はただ、驚いて呆然と受け取っているだけだったけれど。
「・・・・どぉも」

硬い表情を真っ赤にしながらそっぽを向いて、ぎこちなくそれを受け取るエドワード。
それには逆にウィンリィが驚いてしまった。
(驚いてない・・・てことは、今年はちゃんと覚えてたってこと?)

それだけのことが無性に嬉しくて、ウィンリィは今日になって初めて、心から微笑んだ。










「それじゃ、そろそろ行くぞ、アル」
「うん。本当に短い間だけだったけどお世話様」
律儀にぺこりとお辞儀するアルフォンスを促すようにせかす兄は、先に外に出た。
馴染み深い風がエドワードの頬を撫でていき、久方ぶりの安堵を感じていた。
「たまにはたぁ言ったけどね、せめて今度はもう少しゆっくり出来る時間くらい作ってきな」
何時の間にか隣に来ていたピナコに云われてエドワードは苦笑する。
「しょーがねぇじゃん。結構急いでたんだし。・・・今度は時間作ってくるさ」
「そんときゃついでにもうちっと成長しとくべきだね」
数十分前についでだからと機械鎧をチェックした時、身長が殆ど伸びていなかったことを指しているのだろう。
「ほっとけ!俺はまだこれからなんだよマイクロばば!!」
「云ったねミジンコちび!」
「超ウルトラミクロばば!!!」

それこそ「あ」という間に言い合いに発展したその様子を見て、アルフォンスとウィンリィは同時に呆れる。
「・・・ま、手のかかる兄貴だろうけどアルも頑張って」
「うん。ウィンリィもわざわざオイル有難う」

チョコレート、というか食べ物全てを食べることが出来ないアルフォンスには、ウィンリィからチョコの代わりにオイルを渡されていた。
実用的且つ彼の体には必需品であろうとの彼女なりの選択だったが、どうやらそれは見事あたりだったようで。
アルフォンスは改めてそれに礼を告げた。
「元の体に戻ったらエドと一緒に作ってあげるね」
「あはは、楽しみにしておくね」

そろそろ駅に汽車が着く頃。急がなくては間に合わない時間になってきた。
「元気でね、アル。エドの無茶止められるのあんただけなんだからね!」
「うん。覚悟してるよ。・・・・あ、ウィンリィ」

踏み出しかけた足を止めて、アルは再びウィンリィに向き直って言った。

「本当はね、リゼンブールに帰りたいって言い出したの兄さんなんだよ」
「へ?」
「そういうイベントにやたらうるさい人がいるから、いくらそっち方面疎い兄さんでもいい加減理解してくれたみたい。」

ぽかんと口をあけたまま、放心しきった表情でアルフォンスを見つめるウィンリィは一瞬、その鋼にはない筈の笑顔の表情を見た気がした。
「お礼の代わりに等価交換。・・・でも兄さんには内緒にしててね。あ、あとウィンリィの部屋の前チェックしといて」


それだけ言うと、アルフォンスはがしゃがしゃとようやく言い合いが終着を迎えそうな兄と祖母の元に駆けて行く。
だがウィンリィの頭の中はそれすらも半ば人事の域に入っていた。
先ほどの彼の言葉を噛み砕くのと、それを真実として理解するのに暫し時間が掛かった。
(えっと。つまり)

彼・・・エドワードは、今まではともあれ、今回の自分の行動の意図を、少しは察してくれたという事で。
(少しは、あたしの苦労も報われたってことかな)

小さくなってゆく兄弟の背中に、ウィンリィは息をめいいっぱい吸い込むと、叫んでやった。
「エドー、アルー!今度はのんびり居られるくらいの時間作って来てよ!」

エドワードが振り向いて、そんだけ言われりゃ分かってる!と返すのが微かに聞こえる。
「行ってらっしゃい!」


あたしが・・・ばっちゃんが、あんた達を送り出す時、『行ってらっしゃい』しか云わない意味、ちゃんと分かってる?


きっと帰ってきてね。あんた達の『帰るべき家』に。






彼等を送り出してすぐ、ウィンリィは自室の前に戻った。
そしてそこに、小さなメッセージカードの添えられた小さな箱を見つけて、ウィンリィはずっと抑えていた涙が零れるのに気がついたけれど、止める気にも、拭う気も起きずにそのまま頬を伝わせた。

彼女の手からそっと翻すように落ちたそれに書かれたのはたった一言で、ウィンリィは「いつの間に置いたのよ馬鹿エド」、ともう今は去っていったその人に毒づいた。と共に、彼らの次の帰郷を早くと焦がれて
―――――――


『For Winry To Edward』






FIN

可愛らしいエドリィが書きたかったの。アルリィ入ったっぽいけど。
それにしても私はやっぱりノーマルカップリングの方が向いているのだと今更自覚。楽しかったですv
てか初エドリィってことですっごい気合入れて書いちゃった(汗)。予定狂ったー!ロイエド書く時間ないよー!(泣)

エドもリィも意地っ張りだと思うのです。だから渡し方もちょっぴり苦し紛れ。
ちなみに苦し紛れなのでエドも可愛いことやってくれそう(笑)。
ちなみにこーゆーイベントにうるさい知り合いというのは多分ロイさんとかヒューズさんとかだと思われます(笑)
(2/13記)


つっこみどころに気付いてくれないとヤなのでこんなところに裏話交えつつ。
・鋼の世界観のイメージはイギリス辺りの100年前らしいのですが、イギリスってぶっちゃけ男性が女性に
プレゼント贈るんだよね(笑)。でもいいじゃないか!女の子が張り切ったって!というわけでエドリィでは
プレゼント交換こという形取ってみました。こういうの可愛いと思うんです。
・一駅前でレールにトラブルが起きたエドは最初色々考えましたがとりあえず東部には今日中に戻りたかったし、
ウィンリィのとこにも今日中に行きたかったという訳で歩いてリゼンブールまで戻りましたとさ。
・ちなみにエド、バレンタインデーでお菓子貰う意味は、はっきり誰にも教わらなかったので本気で分かってなかったということで(実際そういう子いるし)。
・はっきり意味分かったので前日急いで買いに走ったエドです(笑)。
・アルにはウィンリィに渡して、リゼンブール発った後の列車の中でチョコの代わりにウィンリィに貰ったオイルで拭いてやると約束。
・そしてエドのポケットにはウィンリィの家に置いてきたものより少し小さいチョコ6個。
・誰に渡すつもりなのかは見当付きますね。







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