――キミヲモトメ、ココマデ、タドリツク――















<5>




「・・・あ〜何か疲れたなぁ」

「そりゃそうだよ、いきなり攫われるし」

「そうそう。いきなり殺されそうになるわ」

「最後には突然、吸血鬼のロイさんが現れてきて僕たちを助けてくれたけどね?」




二人は屋根裏部屋のエドワードの部屋で語らっていた。アルフォンスの部屋は隣にあるが、屋根裏ではない。

こちらへ住むと決まった時にエドワードはこの部屋と既に決められていた。


だが、確実に自分たちの生活に色づき始めていた・・・・・・。




「あ゛〜、もう言うなアル。思い出したくもねぇ!!」

「あ、あれは・・・しょ、しょうがなかったんじゃないの?」




そう、兄弟を助けてくれたロイは、夜行性のくせに真昼間に現れ、危機に直面した兄弟の命を救ったのだ。

ただ、その“代償”は高く、ロイはすぐに力尽き、エドワードの精気を求めてきたのだった。

追っ手が来る可能性も考えられたので、エドワードは何も考えずに差し出した。



が、こうして孤児院へ戻りながら、自分の精気が奪われる感触を思い出してしまっていたのだ。






―気持ち悪いのかと、思っていた。―






「で、何でオレはあいつに腰元で抱っこされなきゃならねぇ!!」

「だって、兄さん。あのあと、立ち上がれなかったじゃない、しょうがないよ」




精気を奪われたあと、人にもよるが、少しの間、自分の体の自由が効かないのだった。

現にエドワードはそれで、仕方なくロイに腰に荷物のように抱かれ、空中を飛んでいるような感じを味わいながら。


エドワードはそれを不服に感じていた。無理もない、ロイに横抱きされようなら、自分はこれがいいと提案したからだ。





「ぜーったい、あいつはオレのことを玩具かなんかだと思ってる」

「ないない。そんなことないと思うよ?あんなに親切なのに」

「いーや、絶対裏で何か企んでるぜ?」

「もう、本当に人を疑い易いんだから、とりあえず兄さんも元の通り動けるようになったし、部屋に戻るね」


「あ、ああ」





アルファオンスはエドワードの部屋の扉を開け、外を出ようとすると階下から、院長―ヒューズ―が二人を呼んでいた。



「おーい、エドーアルー。降りて来い!」


「なんだろ?」

「さあ?」



二人は階下へ行き、ヒューズの部屋へと行った。そこには先客にロイもいた。












**











「どーいうことだ!!全部、ロイから聞かせて貰った!」




いつも温和なヒューズが声を荒げている。

いつもであれば孤児院の輪から抜け出しても、そんなに怒られることはなかった。

さすがの二人もびくびくとしていた。ロイは第三者として、それを傍観していた。




「いや、それは・・・なぁアル?」

「今回は僕があんな所へ行っちゃったし・・・その、」


「あれほど裏路地その他危険な所へは行くなといったはずだろう?」




ヒューズの怒る理由はただ一つ。危険な目に遭わせたくなかったから。

その表情は父親のそれで。

ロイはただ、一人腕を組み変わった友人を寂しく感じながらも傍らで黙っていた。



「・・・ごめんなさい」

「ごめんなさい・・・もう二度とあんな所には行かねぇから・・・」



「本当だな?本当にそうだな?その言葉信じるぞ?、」



「ヒューズ、兄弟が頻繁に抜けるのは色々なものに興味を持っているからだ。それを我々が邪魔してはいけない」



無垢な子供は様々な物を発見し、知識を付け、大きくなる。

冒険心というか好奇心旺盛とも言える。子供が“外”へ出ない限り自立することは容易ではない。

ロイは吸血鬼という間柄、様々な人間を見てきた。子供から大人まで、多種様々。

そのロイが言うのだ。納得がいく。大人が子供に依存していれば、それも叶わぬことになりかねない。



「だが、ロイ。こいつらは人一倍好奇心があって、それだけに危険も!」




その時だ。ヒューズの愛娘のエリシアが眠い目を擦りながら、クマのぬいぐるみを抱き、部屋へと来た。



「?!」



その場にいる一同が唖然として、立ち尽くした。一人だけ、表情を変え、エリシアを抱っこした。




「パパァ、大きな声出してどーしたのー?」

「ん〜?エリシアには関係ないよー?さぁパパと寝んねしようねー」

「う・・・ん」



部屋を出ながら、エドワードたちを見つめながら、



「そうだ。ロイがこいつらの保護者になってやればいい。ロイは不服じゃないだろ?」

「ああ。それは、まあ。彼らといると飽きが来ないと言うか、」

「ということだ。じゃあ、これからはロイとも一緒に行動しろ。いいな?」



「え、ちょ、院長!」

「すっごく、今サラっと決められたよね」

「拒否権なんてないよ?宜しく頼むよ、二人とも」

「こ、こんなやつと一緒に行動したくねぇー!!」




エドワードの叫びも虚しく部屋に木霊した。







**





その日の夜中、一人ベットの中で、エドワードは何度も寝返りながら、一人で今日の出来事を振り返っていた。


―アルが猫を追っかけて行って、それを追ってたらいつのまにか殺されそうになって―

―突然現れた吸血鬼に助けられて、バカな吸血鬼はその場で力尽きて挙句の果てに、―




「・・・なんでオレだったんだろ?アルでも良かったはずだ」





夜の闇に溶け込むように呟き、天上を見つめる。枕元の窓から月の光が差し込んでいた。





「有無を言わさず、というか・・・気持ち悪いって思ってたんだけど、案外そうじゃなかったんだな」




本だけの知識では、追いつかない。ましてや人間外の魔物のことなど。

だが、それだけじゃない気がする。前にもこんなことがあったような気がするのだ。

思い出そうとすると、頭が痛くなる。通常の頭痛じゃない。別のイタミが。



「とにかく、今日は本当に助かったかな。何て言ったっけ、あいつ・・・確か“ロイ”だったかな」







「呼んだかい?」

「へ?」






ロイは静かに、だが確実にエドワードの部屋へと侵入してきた。扉の音も立てずに。

侵入ではない。現れたのだ。




「何であんたが、ここにいるんだよ。帰ったんじゃねーのか」

「生憎、帰る家などないよ?しばらく、ここで厄介になることになったと、先程言ったはずだが?」


「そんなこと聞いてねーし、ちょっと待て、あんた前にオレと会ったことない?」




ベットから起き上がり、そのまま腰掛、ロイを見上げる。

相変わらずの文句の付け所もない顔立ち。その体から発される気は魔物のそれ。しかも高等の。




「それは新手の誘い文句かな?エドワード。何度も言ったようだが私にも一応ロイという名がある」

「だぁれが誘ってるかー!!で、あるのかないのかって聞いてんの」



コロコロと変わる表情にロイは微かに微笑ましく思いながらも、エドワードを見つめる。





あの頃から少しも変わっていない。性格も、弟思いな所も。

少しばかり、物の捕らえ方が変わった、かな。と、少しは恋愛もしたのだろうかなどと、そんなことばかりが彼といると考えてしまう。





「・・・あるよ。昔にね、雨の日に初めて会ったが・・・」

「で、あんたはその時のオレになんかした?オレ、あんたにあんなことされたの初めてじゃなかった、気がして」





ロイと話している内に、忘れていた記憶がどんどん甦ってきて・・・。




「弟君が熱を出して、死にそうな君に、ね」

「それは・・・ここへ来る前、だな」

「ああ。私に救いを求めてきてな。それで、まあ、最終的に、」



「そうだ、思い出してきた・・・あんた、オレのファーストキスを!!」

「いや、さすがにディープまでは」

「とにかく、どーしてくれんだよ。オレのファーストキス!!!」










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