時は大晦日の昼下がり。
一年を締めくくるこの日は犬夜叉達も楓の村に戻っていた。
元日に向けて準備をしている楓の手伝い等も終え、女子(楓も含む)達が腕によりをかけて作った御節を皆で摘みながら、のんびりまったりと過ごしていた。
吐く息は白く、外は木枯らしが吹いていたが雪は降っていない。
「…なんか、こんなにのんびりしてると奈落の事とか忘れちゃいそう」
「そうだね。忘れちゃいけないんだけど…ついね」
囲炉裏にあたりながら幸せそうに呟くかごめに、珊瑚が相槌を打った。
そんな彼女等を微笑ましそうに眺めている弥勒は、この呪いが解けるまで己は忘れる事ないのだろうな、と心の中で呟いたが周りに感じさせる事はない。
犬夜叉は興味なさそうに、ただに黙々と御節を口に運んでいた。七宝も、彼が全て平らげて、折角のご馳走を食べ損ねてしまうのを恐れ必死に箸と口を動かす。両者とも箸の動きは速い。
「そんなに急がんでも、まだあるから安心せい」
楓の言葉に生返事を返すがその速度が落ちる様子はない。
楓は苦笑いを浮かべやれやれと言いながら茶を啜り、それがなくなると徐に立ち上がった。箸は既に置かれている。どうやら御節はもう十分なようだ。
「わしは家々のお祓いに行ってくる」
留守は頼んだぞ、と付けたす。返ってきた返事を聞き満足そうに頷き、小屋を後にした。


ふと、犬夜叉が立ち上がった。その顔は幾分険しいように、かごめには見える。何かと思い、彼の名を呼ぶ。
すると彼はおもむろに彼女の手を引き、自分の方に抱き寄せた。それを目にした周りは、おぉ、と声を上げる。
「な、え…っ!?」
かごめは突然の事にただただ驚いて反応できないでいる。丁度肩を抱いている状態の犬夜叉は俺の傍から離れるなよ、と呟き小屋の出入り口を睨みつけた。つられて其方に視線を向けるが、誰か居るわけでもないしこれと言って妖気も感じない。
四魂の欠片の気配もしないから、彼の恋敵の鋼牙でもないだろう。
「…犬夜叉?一体どうしたのよ。って…あれ…」
見間違いではない。小屋の外にちらりと見えたのは死魂虫だ。
犬夜叉はちっ、と舌打ちをすると大声で怒鳴り散らした。
「こらぁ桔梗!!居るんだろ?!隠れてないで出てきやがれっ!!」
「…隠れてるつもりなんてないがな」
彼の罵声に些か顔をしかめながら、彼女、桔梗は小屋の中に入ってきた。犬夜叉には目もくれず、すっとかごめの方へ向き直る動作は、余りにも自然で音もなく流れるよう。
「桔梗!久しぶり…」
かごめが彼女の許へ駆け寄ろうとしたが、その動きは犬夜叉の腕に阻まれる。不思議に思って彼の顔を見たが、いいから離れるな、と告げられた。
「今日はかごめに用がある。席を外してくれないか」
「用件があるならここで言いな」
「…犬夜叉、いい加減その手を離せ。目障りだ」
「うるせぇ。素直に離す俺じゃねぇって事はお前も重々承知だろ」
「黙れ。私はお前ではなくかごめと話に来たのだ」
マシンガントークとはこの事を言うのだろう。これが恋人同士の会話なのだろうか、とかごめは一瞬自分の耳を疑った。もし、過去に何度かあった彼と彼女の逢引もこんな調子だったのなら一人不安がっていた自分が馬鹿のように思える。
その逢引は今現在行われていないという事も、かごめにとって不思議で仕方がなかった。勿論安堵もしているのだが。
「あの、桔梗。話って…?」
場の空気に押されつつも、かごめは恐る恐る尋ねる。
「…ああ。かごめ、年越しの時は私と一緒に過ごさないか?」
「…え?」
それはまるで恋人にでも言うような口調だったので一瞬かごめは混乱してしまうが、すぐに我に帰る。そして、そのように聞き取ってしまった自分を恥じた。
実際、本人はそのつもりで言ったので恥じる事はないのだが、そう教えてやれる者はこの場には居ないのだ。
「えーと…」
かごめはちらりと犬夜叉を覗き見るが、今の彼が彼女の申し出を承諾してくれるとは思えなかった。
(…唸ってるし)
あの犬夜叉があの桔梗相手に。彼女もそれを平然と受け止め、ついにはギロリと睨み返すほどだ。
自分に問い掛けられている筈なのに、自分の発言権はないのではないだろうか。もしそうなら、虚しい気がする。
「けっ、かごめは俺達と一緒に年越すんだ。諦めてさっさと帰りな」
「お前になど聞いていない。かごめに、年越しの瞬間を共に味あわないか、と誘っているのだ。…お前には関係ない事だろう?」
何度言わせるつもりだ、と馬鹿にした調子の声が彼の癇に障った。
「…てめ、言ってくれるじゃねぇか」
青筋を浮かべ口元を引き攣らす犬夜叉に一瞥くれると、桔梗はふんと鼻で笑う。
この険悪な雰囲気の根源となる二人に挟まれているかごめは、額に冷や汗を浮かべながらもこの場を取り繕うと思案する。…健気だ。
当事者以外の者はお茶を啜って見物している。助け舟を出してくれる人はいない。正確に言うと、誰も出せないのだ。
「い、犬夜叉、怒らないで。ほら、偶には友情で飾る年末年始もいいんじゃないかな?」
「…そうだよなぁ。友情、だもんな」
にやりと笑い、友情の部分をわざと強調して、かごめに気づかれなく、且つ効果覿面の嫌がらせをする犬夜叉。
それを聞いて彼女は、舐めるな、と作り笑顔で対抗する。
「…お前も言うようになったな。友情、なのだからお前の出る幕ではない。くれぐれも首を突っ込むなよ?邪魔、なだけだし。私はかごめと共に過ごす」
桔梗の機転の速さは人一倍だ。彼の言葉を逆手に取り、あっという間に形勢を逆転させる。
「桔梗…いくらてめぇでも、かごめ相手に変な気起こしたら容赦しねぇぜ」
かごめは、彼の言葉の意味を察して驚きながらも頬を薄く色付けてしまう。しかし、ふつふつと殺気を漂わせ始めた犬夜叉を見て、その顔は一気に青ざめた。
「ちょ、犬夜叉!?何訳わからない事言ってんの!そんな事あるわけないじゃない!それに桔梗も、喧嘩売るような言い方しなくても…」
「かごめ…これは喧嘩等ではない。決裂だ、争いだ!」
「その通りだ。でも安心しろ、かごめ。お前は俺が守り抜く!」
当のかごめを差し置いて、二人はやる気満々と言った様子で誰も聞いちゃいない意気込みを語る。
先程まで続いていた平穏な時に戻ってほしいと、切に願うかごめ。
そんな彼女に同情を覚えつつ、この状況を楽しんでいると言っても過言ではない様子の旅の仲間達。
そして、譲る事を知らない両者。

「…っ、桔梗てめぇ表に出やがれ!!!」
「望むところだ。今一度封印してやる!!」
「やれるもんならやってみやがれ!俺とかごめはそんなもんじゃ引き裂かれねぇ!!」
「黙れ五月蝿いほえるな馬鹿犬!!!」

白熱し続けている両者。
このままじゃ本当に殺し合いになりかねないのではと心配させるほどの勢いだ。
「…なんか、最近二人とも変…」
ぽつりと呟いた言葉は怒鳴り声に掻き消され届く筈もなく。
「桔梗と蛇骨は、案外似通ってるのかもしれんな」
「「……」」
同じように、ぽつりと呟いた七宝の言葉は、傍に居た弥勒と珊瑚のみに聞こえ、彼等に無言の肯定を示させた。
そして、ここに楓が居なくてよかった、と心底思うのだった。




「煮るなり焼くなりお好きにどうぞv」って言われたんで本当に好きにしちゃいましたv(最低)
・・・・・すいません。
「吠えるな馬鹿犬!!!」ってマジギレしながら言う桔梗さんを想像したら言い知れない愛しさが懇々と込み上げて・・・(何で)
なんか犬かご桔を書いたら絶対に犬夜叉が自己主張のため、普段なら絶対言わないだろう問題発言をさらりとかましてくれそうです。
いや、それがある意味での醍醐味だけどね★(馬鹿)

かなり前にこのお話貰ってもいいって言ってもらっておいてUPするのが恐ろしく遅れたことをお詫び申し上げます。