桜乱舞 -後-
犬夜叉の顔に焦りの色が浮かぶ。
「ま…まさか桔梗、お前……」
(かごめの事…!!)
「……」
彼の心の内を知ってか知らずか、桔梗はふん…、と鼻で笑う。そしてようやく構えを解くと、こう言い放った。
「かごめは渡さん」
音も無く、風が通り過ぎる。だが誰も気にも止めない。
そしてそれは、その場に居る3人の髪を静かになびかせて去っていった。
当然だと言わんばかりの表情をして立っている桔梗を、ただただ呆然と見ている犬夜叉。驚きのあまり、その目には何も映っていないのかも知れないが。
そして、いまいち状況を飲み込めていないかごめ。
いきなり桔梗が犬夜叉に弓を向けた理由と、言い放たれた言葉の意味が判らない。
少々混乱している頭で一生懸命糸口を探していると、桔梗が此方に歩み寄ってきた。
瞬時に犬夜叉は、かごめを自分の後ろにやった。と同時に、鋭い目つきで桔梗を睨む。
「…何の真似だ」
「うるせぇ、花見の邪魔すんな」
先程までの呆けていた彼とはまるで別人のように見えたのは、おそらくかごめだけではないだろう。
それと同時に、何よ、とばかりに頬を膨らませ彼を軽く睨んだ。
どうして彼には「皆で花見を楽しもう」という発想ができないのか。もしくは、しても実行しないのか。
彼が突然花見をしようと意欲を見せたのは桔梗への対抗心からだと、いまいち状況の把握ができていない彼女から見ても充分理解できた。…その心理までは理解できなかったのだが。
(…いがみ合っても全然楽しくないのになぁ)
ふぅ、とかごめは密かに溜息を吐く。今日で何回目だろう。回数などいちいち覚えていない。
とにかく、この雰囲気を和ませようと、かごめは自ら話題を振った。
「ま、まず!お花見の続きをしようよ。…ね?」
少し間を置いて、犬夜叉が肯定の意を見せる。
「そうだな。…つー訳だ。さっさと失せろ、桔梗」
「ふざけるな。お前なんぞと花見をしても、時間の無駄にしかならん」
「…んだと?」
「こいつが花を見て楽しいと思うわけないだろう。なぁ?かごめ」
「え゛…ま、まぁ…そうかもしれないけど…」
それを聞いた桔梗が、にやりと笑みを見せる。
「う、うるせぇ!俺がかごめと花見してたんだ!!」
「あれが花見といえるか!!」
どうやら桔梗は、先程目撃した事を言っているらしい。
二人の間でバチバチと火花が飛び散る。当然、肉眼では確認することはできないのだが、かごめにははっきりとそれが見て取れたような気がした。
―――その場を和ませようとしたつもりだったのに…
かえって逆効果になってしまった事をかごめは悔いた。
「じゃ、じゃあさ、3人でお花見しよう?ね?」
少し苦笑がかった微笑だったが…犬夜叉と桔梗の心を動かすには充分過ぎるほどの出来だった。
「本当、綺麗よね〜っ」
そう言うとかごめは、気持ちよさそうにん〜っ、と軽く伸びをした。
桜並木を歩く人影、3つ。
真ん中にいるかごめを、瞳を細めてひどく優しげな顔で見つめる脇の2人。犬夜叉に至っては微笑んでこそいないけれども。
ふと、犬夜叉と桔梗の視線がかち合った。その瞬間、かごめの頭上で激しい火花が散る。それは簡潔に言うと、霊気と妖気のぶつかり合いのような物で、ひらりと舞っていた1枚の花弁が偶然その裂け目に触れた途端それは音も無く灰となり、風と共に消えていった。
先に視線を逸らしたのは桔梗。ふ…と視線を前に戻した。そして、先ほどまでの形相が幻だと思えるほど涼しい顔で独り言のように呟く。
「かごめも大変だろうな。こんな馬鹿犬と一緒に旅をするのは…」
「ん゛なっ!?」
犬夜叉の反応を他所に、淡々と桔梗は喋り続ける。彼女が半ば嘲笑うような表情をしているのを、彼は気付いていた。
「我が侭で子供っぽくて頑固な捻くれ者で…。犬夜叉、お前はかごめに何処まで甘えれば気が済むのだ」
「……うるせぇ」
「桔…梗?いきなり如何したの?」
「なんなら、私と一緒に旅をしてもいいんだぞ?」
「あははっ。も〜、さっきから冗談ばっかり…」
くすくすと楽しげに笑うかごめに対して、桔梗はそれとは異なる笑みを零していた。――そう。言うなれば、してやったりいうようなそれは、明らかに犬夜叉に向けられた物である。
それが酷く癇に障ったのか、犬夜叉はかごめに気付かれぬよう横目で桔梗を睨みながら低く唸り声を上げた。
心底面白くなさそうな顔の犬夜叉を見て、桔梗は更に嬉しそうに口元を歪ませる。
(…こっのぉ〜っ!!!)
腸を煮え繰り返しながら、ちっ、と犬夜叉は舌打ちして下に視線を向けた。
足元を、散り落ちた花びらが滑って行くのが目に入った。
「さて…。私はそろそろ行く」
ピクリ、と犬耳が動く。が、その不貞腐れた表情は全く動かない。
「え?…もう?」
表情に寂しそうな影を落とすかごめを、桔梗は優しく見詰め返した。
「何、また会えるさ」
「…けっ。調子いい事言いやがって…」
それを見て、犬夜叉は小さな声でぶちぶちとぼやく。
「ほら、犬夜叉も何か言ってあげなさいよ」
そして、最後の最後まで悪態を付く犬夜叉をかごめが軽く叱った。
「…気をつけてな」
「ああ。…お前もな」
お互い目も合わせずに、ぼそっと呟く。
それを見て、かごめは胸の奥に僅かな痛みを覚えた。と同時に不謹慎な自分に少しの苛立ちを覚える。
言葉数少ない会話を交わすと桔梗はくるりと身を翻し、何処からともなく現れた死魂虫と共に桜吹雪の中に消えていった。
「…いいのかよ」
彼女が見えなくなって…暫く経って犬夜叉が口を開いた。
「…何が?」
「…桔梗と一緒に行かなくてよかったのかよ」
「…はい?」
思いもよらない質問を投げかけられ、かごめは素っ頓狂な声を上げる。
が、彼からすればはふざけてるつもりは微塵もない。拗ねてはいるが。
面白くない。かごめが自分を差し置いて誰かと仲良くする姿など見たくなんぞない。しかもよりによって、その相手が自分の惚れた女だとは…。
桔梗は桔梗で自分なぞ眼中になく、女の性を持つ癖にかごめに「ほ」の字と来た。かごめにはその気はないようだが…それでも直ぐに納得のいく筈がない。
(…どいつもこいつもふざけやがって…)
別に誰もふざけてなぞいないのは判っている。だが余りにも予想外の出来事が一遍に起こったので、頭の中で整理仕切れていないだけ。だが、その予想外の出来事から受けた衝撃は大きい。
「ねぇ、もしかして桔梗の言ったこと気にしてるの?」
「…わりぃかよ」
この少女には何の罪もない。それも判っている。なのに不貞腐れてつい、当たってしまう。言い方を変えてしまえば単なる「甘え」。それだって判っている。
【お前はかごめに何処まで甘えれば気が済むのだ】
何処まで―――
「犬夜叉」
彼女の声で、はっと我に返る。
「そりゃ、犬夜叉は我が侭で子供っぽくて頑固な捻くれ者で、おまけに2股だけど…」
…桔梗が言ったのより1つ多い。
そんな細かい事を気にしながらも、かごめの話に耳を傾ける。
「でも、あたしはそんな犬夜叉の傍に居たい」
その言葉に、犬夜叉の背がぴくりと震えた。
「あたしは、今のままの犬夜叉が好き。大好き」
そんな嬉しい言葉を言われるとは思っていなかった犬夜叉は、目を軽く見開いてかごめを見る。
そんな犬夜叉を、優しげに、そして何処か嬉しそうに微笑みながら見詰め返すかごめ。
「今のままで…いいのか?」
こんなに迷惑を掛けているのに。傷つけてるのに。
「今のままがいいの。今の…優しい犬夜叉が。ちゃんと人間の心を持ってる犬夜叉が好き」
そう言うとかごめはまた、やんわりと笑った。嬉しそうに後ろに手を組んで。
ああ―――そうだ。こういう奴だった。
いつもいつも、自分が言って欲しい言葉をくれる。いつもいつも、ありのままの自分を受け入れてくれる。
こいつはそういう奴なんだ。同情ではない本当の優しさ。それをかごめは持っている。俺は…その優しさに救われた。
ぼぉっと、でも朧気に…とかではなくちゃんと思考を巡らせて、犬夜叉はそんな事を考えた。やはり足元を滑る花弁を見ながら。
「行こう?」
そう言ってかごめは犬夜叉の手を引くが、一行に動く気配がない。
「…犬夜叉?」
ほんの少しだけ不安になり彼の顔を覗き込もうとしたところで、逆に手を引かれ彼の胸へ倒れこんでしまった。そしてそのまま抱き締められる。
あっという間の出来事で、かごめは絶句するしかなかった。
「…花見の」
彼の小さなくぐもった声はかごめだけに届く。
「花見の続き、しようぜ?」
それは少女の心にすっと染み入ってゆく、仄かに甘い声。
「…うん」
その返答も甘い声色。
その言葉をありがとう。
受け入れてくれてありがとう。
優しさいつもをありがとう。
――それを伝えるのは続きに。
終
-----後書き-----
初・続き物小説です。わ〜いっ☆
…が、まさかそれが犬かご←桔だとは!自分でもちょっと驚き(ちょっとか)
犬、ようやく桔梗のかごめに対する思いに気付きましたね〜。気付くの遅いよ(笑)
それにしてもラヴってますね、犬かご。犬攻めですvv甘い…ですかね?(聞くな)
そうです、私が楽しんでますvだってキャラ壊すの素晴らしく楽しいんですよ!!
あ…また犬かご←桔考えたら献上しそうな勢いなのでその時はどうかよろしくです。
(またまた蛇足コメント)
朔夜さん、どうも有難うございましたv
やっぱ楽しいですよねっっvvキャラ壊しvv(をひ。)特に存在自体がシリアスキャラはvvv
よろしければまた投稿お願いしますvv(図々し!)
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