かたく息も止まりそうなほどに強く抱き締められて、そうと背に手を回す。 少年の骨ばった手がそうと少女の桜色の頬を撫でる。 反射的に目を瞑れば、少年の顔が近付く気配がして、 嗚呼もうすぐ唇に彼のそれが触れるのだという期待感と少しの寂寥を感じる。 (だってこの人は私のものには決してならないもの) 自分ばかりが、囚われる。 触れるだけの口吸いはやがて少女の中を暴くようにと激しくなってゆく。 薄く目を開くと、金眼とかち合い、ずっと見つめられていたのだと気付く。 かぁ、と頬が赤らむ自覚があった。 三日月のように意地悪く弧を描く眸を見ていられずに少女は目を瞑り、全てを遮った。 舌を引き摺りだされ、少年の歯の上で甘噛みされる。全て、持っていかれそうだ。 熱くて堪らない。 逃げて逃げて、この人の手の平から逃げてしまいたいのに、逃げ出せずにいる。 弱々しく掴まれた拘束などないに等しいというのに、無様だ。 好い様に翻弄されて甘い声を出してしまう自分に腹が立つ。 どうせ自分一人を選択出来もしないのに、愛を囁くことも出来ないくせに、 こうして行為だけで愛を伝え、全て奪う彼が疎ましかった。 ――――疎ましい以上に、愛しいと思うなんて、どうかしている。 いつからこんなにも自分は弱くなってしまったのだろう。 唇が離れる間際、混ざり合った唾液が糸引く。 息切れて、短く浅い呼吸を繰り返す少女の唇を伝う唾液を拭うように少年の指がつぅと滑る。 猛禽類のような獰猛な色を宿した眸が哂う。 色付いた唇を舐めて、もう一度少年の顔が近付き、嗚呼と溜息のような吐息を少女は洩らした。 首筋に噛み付かれて、彼に喰われる自分を妄想する。 血も、肉も、骨も、全てを彼だけに喰い尽される、そんな馬鹿な妄想。 酷く滑稽だ。 それなのに、とても魅力的に思えた。 (だって、私の血肉が、彼のものになって、彼と一つになって、彼を生かす。 喩えこの先彼が何を択ぼうと、誰を愛そうと、決して私と彼は離れられなくなるのだもの) いっそ、喰らいつくしてくれたら良いのに。 それでも彼の口唇は少女の柔肌を傷付けぬようにと、痕だけを付けて行く。 血の一滴たりとも啜ってはくれないのだ。 まるで自分達は一つになれないのだと言われるようで哀しみを覚える。 性感をもどかしいほどの優しさで刺激されて、声を引き摺りだされる。 ただ一時だけを良しとは出来ないのに、良いように翻弄されて、そして残るものなどないというのに。 きゅう、 彼の背に回した手に力を込めて、彼の衣服を引っ張る。 強請るように、拒むように。 悲しむように、悦ぶように。 娼婦のようによがれば彼は喜ぶだろうか。 処女のように恥じらえば彼は楽しむだろうか。 (欲しいのは、一時じゃないの、全てが欲しいの) 強請れば彼は与えてくれるだろうか。 口にすることすら出来ない願いを抱きながら、ただ一時の愛情を与えられ、そうして次にまた彼に愛されるまで“次”を渇望して生きて、そうしていくことを自分が厭っているのか、悦んでいるのか、分からない。 袂に隠した鋭い刃を抜くことは簡単だ。 彼の首を掻き切って、そうして愛しい亡骸をこの手に抱いて永遠を手に入れることだって出来る。 そう、してしまいたい衝動があるのに、結局少女の手はその背に刃を突き立てることも出来ずに かえって慈しむように抱きとめてしまうのだ。 「かごめ」 うわごとのように名を呼ばれて少女は涙を溢しそうになる。 獣のように、言葉にすらならない愉悦の啼き声を溢す自分の唇は、 満足に彼の名を呼び返すことすら出来ない。 嗚呼、この熱から逃れてしまいたい。 永遠を手に入れられないのなら、いっそのこと全てなくなってしまえばいいと思うのに、 少女の手はそれすらも出来ないのだ。 (愛なんて、最初からなかったら良かったのに) 宥めるような口付けを受けながら、涙を溢した。 どうか、どうか彼には生理的な涙だと思われますように。 私には終焉すらも 創り出せない *雰囲気と勢いだけで書いた。パラレルだけど特に『何』とかは考えていない。何せ勢いだから。 ・・・・・耽美なEROってムズカチーね!(殴)(初出:09.03.15)* |