だんッ





耳傍で鳴った大きな音に、かごめは反射的に身を竦めた。
自分を囲うように顔の傍に両腕を置いた少年は、微動だにしない。

それでも、かごめはその視線の中に含まれる多少の驚きから、彼自身も自分の行為に疑問を抱いているようだということが伺えた。それはそうだ。彼と会って今まで、こんなにも意思表示をした少年を見るのはかごめも初めてだったのだから。

こうなる一瞬前、わずかに見えた苛立ちの表情にかごめは何となく、自分の言動のどれかが彼の癪に障ってしまったのだろうとあたりをつけた。
それがどれなのか、は分からないが、それにしても突然の彼の行動に驚いたのは確かだったので、
かごめは何故彼が苛立ちを覚えたのかを訊ねるのも兼ねて口を開こうとした。
しかしそれよりも先に、少年の首がうな垂れる。
この場を離れる気配はなくても、今の現状が居た堪れないのは少年も同じらしい。

「・・・・・・かごめ」

謝罪の言葉でも出てきそうな雰囲気の中、静かに名前を呼ばれる。
なに、と返そうとしたけれど、咄嗟に喉の奥が引っ掛かる錯覚に教われて、
声に出せないまま、それでも首を傾げて見せた。

こちらを向いていないとはいえ、気配で伝わったのだろう。
ゆっくりと少年の首が持ち上がった。
そのときにはすでに、少年の目には先ほどの動揺は見られなかった。
何かを決意したような、そんな眼にかごめはぎくりと体を強張らせる。
雰囲気そのものに飲み込まれそうな引力と、それと同時にすぐに消えてなくなりそうな頼りのない視線に、
次の瞬間、自分は何かを選択させられるという予感がした。

「俺、だめなんだ。何でもないフリしてたって、無理だったんだ」

お前が、誰かのものになると考えることすら。

「だからッ」
「・・・・・・・・」

彼の言っていることを理解して、かごめは一瞬、本気であきれた。
とても稚拙で、我侭な了見であることの自覚はあるからこそ、いい辛そうにはしていても、彼が自分の言葉を撤回する意思がないことは明白であり、それは要するにこちらに全面的に、しかも彼の勝手な都合だけで折れろと言っているようなものだった。

馬鹿言わないで、何で私があんたの言いなりにならなきゃいけないの、
そんな言葉は頭をよぎったけれど、頑とした態度の裏にある真逆の心理すら理解してしまった自分には到底言える言葉でないことも、同時に分かっていた。

「我侭。私はあんたの玩具でも何でもないんだけど?」
「ッ・・・・・」

ばつが悪そうに顔をそむける少年に、かごめはふわりと笑って、無防備な胸に抱きついて、
わざと偉そうに言ってやった。

「でも仕方ないから、ずっと一緒にいてあげる」

自分も少年も、結局は臆病でしかないのだと、
たった一言の言葉を言えない自分たちにかごめは苦笑するしかなかった。
















本当にれたのはどちら?
*多分幼馴染でお姫が1〜2歳年上。
わんこはものすごい大人しい子だけどいざとなったら頼れる子。原作わんこは有言実行だけどこのわんこは無言実行タイプ。ありがちお姫告られてあわや今の居心地いい関係に他人が介入するかという危機にわんこが駄々こねたって話。
お互い相手のこと好きって思ってるけど今更言うに言えなくて、姉を取られるのが嫌な弟と、弟を宥める姉みたいなポジションに意図的に甘んじてるけど、たった一言「好き」って言えばいいだけの話なのにねみたいな。
幼馴染設定はおいしいけど、進展は難しい設定だと思う。(初出:07.06.07)*