「月が綺麗だな」 「へ?」 思ってもみない言葉にかごめは夜空から勢いよく視線を外して、青年の方を見た。 見慣れた銀髪と獣の耳はなりを潜め、代わりに漆黒の髪を覗かせていた。 金と黒のコントラストは、銀よりも映えると思うのはかごめの贔屓目なのだろうか。 「月って・・・・」 綺麗も何も、今夜は朔の日だ。 月など出ている筈がないことを誰よりも彼自身が知っているだろうに、よりにもよってどうしてこんな真っ暗闇の夜にそんなことを言い出すのだろうか。他へ話を振ろうにも、こんなときに限って傍には青年以外の誰もいないのだからどうしようもない。 明らかに戸惑いを見せるかごめのことなど気付いていないかのように、意地悪く笑う犬夜叉に、もしかしてこれは何かの比喩か隠語なのだろうかと思ったが、該当するような単語は浮かばない。 どういう意味なのだろう。 訝しげに首を傾げると、犬夜叉は僅かに意外そうな表情になった。 「お前でも知らないことってあるんだな」 「私を勝手に万能にしないで。・・・・ってことは、意味やっぱりあるんだ?」 「ああ、あるけど・・・・・・」 「けど?」 僅かに考えるそぶりをしたあとで、犬夜叉は笑った。やはり、何処か意地悪な笑みで。 「教えない」 「なっ、何よそれ!気になるから最後まで言いなさい!」 「何か勿体無いから自分で調べればいいだろ」 今度はぷいと拗ねたように顔を逸らしてしまう。一体何なのだろう。 そんなにもころころと表情を変えられてしまうと、こちらとしても対応に困ってしまう。 うぅう、と小さく唸ると、犬夜叉は苦笑して両腕をかごめに伸ばしてきた。 彼の要求していることはわかるのだが、何やら誤魔化されているような気もする。 5秒ほど悩んだが、結局ぽすん、と腕の中に納まることにした。撫でられて、 「月、綺麗だな・・・・・」 「だから、訳分かんないってば・・・・」 こちらが分からない、と言っているのにそれでもしつこく繰り返す犬夜叉に、呆れにも似た溜息をついた。 でもまぁそれでもいいか、と思いながら、かごめは犬夜叉の首筋に擦り寄って目を瞑る。 ただこうしてじっと時間が流れるのを感じているだけの時間も苦痛ではないと思っていた。 ―――後日、意味を知り、かごめが逆襲したのは余談である。 言うまでもなく愛しているよ *「I Love You」を、初めて翻訳した方の和訳は、「月が綺麗ですね」だったそうです。 洒落た言い回しなんてわんこに出来るとは到底思えないのだけれど(笑)無理やりやってみた。 うん。わんこ絶対そんなこといわないし言えないのは分かってる。 でもうちのわんこの(特に初期の)ノリなら普通に言えると信じてる。 やー、何かあれだね。キモいねこのわんk(殴) 基本的にこのシリーズのお姫は夜になるとデレる。(?)ていうか、多分これもうわんこのが力関係も上になったあとだな。 やはし基本へたれなので無理強いはしませんが。(初出:08.06.26)* |